第57話 双聖の姫
「お久し振りですな、プライス殿。……! これはこれは! ダリア様もご一緒でしたか」
「お久し振りね、ホセ。気にしなくて良いわ。ここは王宮じゃないのだから」
爺様の案内でウェアホワイトの領主、ホセ・ムーディンの家に俺達は来ていた。
年は、爺様の三つ下だったかな。
目の前にいる領主は、王国騎士団の副団長として爺様と共に、イーグリット王国を支えた人でもある。
「ダリア様達が来るということで準備させて頂きましたよ。推薦状」
早速、ホセさんは推薦状をダリアへ渡す。
爺様が根回ししていたのか、ロクに話す事なく推薦状を渡された為、ダリアが驚くのは無理も無いだろう。
「これで、ダリア様はラウンドフォレスト、スパンズン、ボーンプラント、ソルトクライブ、ストーンロール、そしてウェアホワイトからの領主から、推薦状を貰ったので、六つの街の領主から推薦状を貰うという、王の剣の儀式を行う権利が与えられる為の条件を満たした事になります。お願いします。 イーグリット王国の未来はダリア様に掛かっています」
ホセさんは、ボーンプラントの領主バゼルさんから、話を聞いてダリアを支持する事を決めたようだ。
更に、自分の情報網と爺様からの情報で、早急に俺達に協力しなければいけないと思ったらしい。
「これで、私に儀式の権利が与えられる訳ね……。でもビックリだわ。四つの街が第一王子派だったから、過半数の街の領主から、推薦状を集めるのは難しいと思っていたのに。……それに、第一王子派の背後にマリンズ王国が、いるという話も聞いてしまったし」
「そうだよな。第一王子派の背後にマリンズ王国がいるとは確かな情報なのか? 爺様、そしてホセさん」
俺達が困惑するのは無理もない。
そういった表情を浮かべる、爺様とホセさん。
「そりゃそうじゃろうな。奴らがやっとる事はただの売国行為じゃからな」
「全くです。……ですが、マリンズ王国に聖剣が、九本も存在していると言われれば、マリンズ王国の機嫌は損ねない方が良い、と考える臆病者が出てくるのも、分からなくはないですな」
「ワシも、エリーナからマリンズ王国が聖剣を九本も持っている、と聞いた時は驚いたのう」
「!?」
いや、どういうことだよ。
マリンズ王国が聖剣を九本も持っているって。
「ん? なんじゃ? そんなに驚いて。ワシはお前に伝えとらんかったか?」
「……初耳だよ。本当なのかステフ?」
マリンズ王国の内情は、マリンズ王国に住んでた奴に聞いた方がより正確だ。
そう思いステフへ聞く。
「私を含めれば、マリンズ王国が保有している聖剣の数が九本なのは本当。でも、ビビり過ぎ。その内の四本は大した性能の聖剣じゃ無いって。私の雷の聖剣より下だから」
「……いや、それ。少なくともお前より上の勇者が四人もマリンズ王国にいるって事じゃねえか……」
軽々しくステフは話すが、これは大問題だ。
ステフより強い奴が四人もいるって。
マリーナやエリーナクラスの力を持った人間が、四人もいるって事だろ?
「なんじゃと!? ステファニーですら五番目!?」
「え!? そもそもこの方も聖剣使えるんですか!?」
ステフの言葉に違う意味ではあるが、それぞれ驚く爺様とホセさん。
しかし、ステフはそんな事も知らないのかといった呆れた表情で、話を続ける。
「情報の共有くらいしなさいよ……。イーグリットは。マリンズ王国に攻められた事あるんでしょ?」
……う。
全くその通りだ。
ステフの言葉は何も間違っていない。
イーグリットは派閥争いや、貴族間での足の引っ張り合いが多すぎる。
「……だから、お姉様はマリンズ王国に嫁がされたのね。マリンズ王国から攻められないようにする為に」
ステフの言葉に納得するダリア。
第一王女がコネ作りとして嫁がされ、マリンズ王国で酷い目に遭っているという話を、マリーナから聞かされてから、ずっと気にしていたからな。
「もしかしてあの銀髪の人ってダリアのお姉さん? ああ……見た事ある。確か、マリンズ王国の第二王子と結婚してたな……」
「そうなのか?」
「ええ、醜悪な面の上に性格は最悪だけど、何故か聖剣を使えるのよ。だから、第二王子としてしばらくマリンズ王国の重役に居座るんじゃない?」
「……そう。そんな人とお姉様は結婚させられた挙句、そんな人の子供を身籠った訳ね」
ダリアは悲しそうに目を伏せる。
マリンズ王国の人間だったステフに、ここまで言われるんだ。
第一王女の相手は、ロクな奴では無いのは確かだろう。
……聖剣を使えるってのはビビったが。
「それと、マリンズ王国で強いのは第一王女、第一王子、そして第二王子。 後の、マリンズ王国内にいる聖剣使いなんか有象無象だって。プライスと私より余裕で下だから、心配しなくて良いよ? おじいちゃん達?」
「そうなのか……知らなかったのう」
「ん? この方より上の聖剣使いは四人のはずでは? 三人しか名前が挙がっていませんが?」
確かにそうだ。
ステフが挙げたのはマリンズ王国の第一王女と第一王子と第二王子だけだ。
三人しかいない。
しかし、そんな俺達の言葉に更に呆れながら、ステフは話を続ける。
「……嘘でしょ? マリンズ王国の次の王になると言われている、テレサ・マリンズを知らないの?」
「テレサ・マリンズ?」
「ええ……プライスも知らないの? マリンズ王国の第一王女よ? 聖剣を二本使える、双聖の姫って割と有名なはずだけど?」
「「「「!?」」」」
俺達はステフの言葉に驚く。
聖剣を二本使えるだと?
どんな化物だよ?
「ハッキリ言って、テレサは強いよ。第一王子も、第二王子も、まあまあ強いけど、比べ物にならない。……分かりやすく言えばエリーナクラスね」
「マジかよ……エリーナクラスって事はお前をあっさり倒せるレベルって事か」
「あっさり? 生温いよ、瞬殺されるかな」
ステフが瞬殺って……。
そんな奴に攻め込まれたら、イーグリットは終わりだぞ。
「ま、まさか……第一王子派の背後にいる、マリンズ王国の関係者って……」
「あ、大丈夫。テレサは他国に全く興味無いから。怪しいのは、ダリアのお姉さんと結婚した第二王子か、もしくは四人の雑魚聖剣使いね」
雑魚聖剣使いとかいう、パワーワードを言いだすステフ。
聖剣使えるのに雑魚って何なんだよ。
色々と突っ込みたかったが、黙って話を聞くとしよう。
「まあ、勇者の称号を与えられている第一王子は、マリンズ王国を守るのに必死だろうし、第一王女は切り札であって、次の王。そう簡単に戦いに出てくる事は無いよ」
だから、安心してくれってか?
だが、これはマズイぞ。
第一王子派の連中が強気なのがマリンズ王国の聖剣使い達と繋がっている為だとすれば、厄介な事この上ない。
「やっぱり、ウェアホワイトに聖剣を貰いに来て正解だったな。仮に一人一人が雑魚だとしても、四人全員で来られたら面倒な事になるし」
「そうね。それに第一王子派は、魔剣も数本持っている。これ以上街を破壊されたり、イーグリットの人間を殺されたら困るわ」
ダリアも同じ考えだったようだ。
爺様とホセさんも頷く。
「……ところで、アザレンカはまだ聖剣抜けないの? いつまで時間掛かってるの? あの子本当に勇者の孫?」
「……」
ステフの言葉にダリアや爺様やホセさんはまた黙ってしまう。
……聖剣を持っている、ステフには分からん感覚だからな。
軽々しく言ってしまうのもしょうがない。
それに、勇者ってのはそういうものだと勝手に周りが期待するのも悪い。
……仮に、アザレンカが聖剣に選ばれなかったらマジで困るけど。
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