第56話 ウェアホワイトへ
「うーん……聖剣を貰いに行くのは分かるけど……推薦状ねえ……まだ必要なの?」
ウェアホワイトへ行く目的を聞いたステフは、不思議そうな顔をする。
いや、本当その通りだよな。
ステフは何ら間違った事は言ってない。
「……仕方ねえだろ。まだ第一王子を次の王にって推す勢力が残っているんだから」
「そんなの、サクッと私達の力で黙らせれば良くない? こっちには現時点で、使える聖剣が二本あるんだしさ? まあ、ウェアホワイト?
だっけ? そこで、聖剣を貰ってから潰すってのも悪くないと思うけど 」
「それいい考えですね! ……僕の勇者の地位を剥奪したのも、僕を勇者に戻すのを反対しているのも第一王子派だからね。それに散々バカにされたり、殺されかけた借りもあるし」
「そうだよね! 私も借りがあるんだから! 何もやってないのに、イーグリット内で悪評流されたり、第一王子派の悪行を私のせいにされたりもしたんだから!」
周りに人がいる宿屋の食堂にいるという事を忘れてヒートアップする二人。
……でも本当、二人の言うようにさっさとぶっ潰したいよ。
第一王子派の連中なんてな。
「……ステファニー、そしてアザレンカ。プライスも私も出来ればそうしたいと思っているのだけれど、困った事に四つの街の領主が、第一王子を次の王にする事を支持しているのよ」
俺達の話を黙って聞いていたダリアが、呆れながら二人へ話す。
二人はダリアの話を聞いて驚いていた。
そりゃそうだ。
俺だってこの話を聞いたときは、耳を疑ったね。
第一王子派が、あれだけの事をしでかしたのに、何故第一王子を次の王に、と支持する領主が未だに残っているんだ? と。
しかもまさか四人だぞ。
王の剣の儀式を受ける為には推薦状を六つの街の領主から貰う事が条件なのに、あと二つの街の領主が第一王子派を表明したら、儀式を行う権利が第一王子の手に渡るっていうんだからバカげているよな。
「そ、そんな……何で?」
「おかしいじゃないですか! ボーンプラントでの第一王子派の暴挙や第一王子の無責任さは、領主達は耳にしているはずですよね?」
何故そんなに第一王子が、次の王に推されているのか、理由を二人が聞きたくなるのは分かる。
だが、ダリアはただ首を振るだけだった。
「……分からないのよ。どうして、その四つの街の領主が第一王子を次の王に推薦する理由が。そして、第一王子派の貴族や騎士や魔法使い達に何故協力的なのか……」
「そんな……」
アザレンカは露骨に肩を落とした。
第一王子派の人間に狙われていた上に、殺されかけたアザレンカにとっては、納得いかないだろう。
裁きを受けなければいけない連中が、普通に自分達の意見を以前のように言えている現状を。
「……プライスは、どう思ってるの? 今の現状に納得してる訳なんて無いよね?」
「納得どうこう以前に、第一王子派の連中が何故未だに強気なのかが分からない。マリーナが残した魔剣を返そうとしない事と、何か関係があるのかもしれん」
ダリアと同じように俺も分からなかった。
何故、第一王子派は未だに強気で、あわよくばベッツ家が計画したあのおぞましい計画を、続けようと試みているのか。
そして、四つの街の領主が、何故第一王子派に協力的なのか。
魔剣を保有しているからなのか、引くに引けなくなっているだけなのか、あるいは強大な勢力が第一王子派の背後にいるのか。
「まあ、考えたって分からないことは分からないんだ。出来る事からやるしかないだろ。まずは、ウェアホワイトに行って、推薦状と聖剣を貰いに行こう。戦力はいくらあってもいい」
「だね」
「そうするしかないね」
ステフとアザレンカは納得していなかったようだが、しぶしぶ了承した。
「なら、早く食べてウェアホワイトに行きましょう?」
いつの間にかダリアは、昼食を食べ終わって準備万端の状態だった。
◇
昼食を食べ終わって、俺達四人はウェアホワイトに行くため、宿屋を出て人気の無い宿屋の裏側へと来ていた。
「何でダリアがプライスの正面で、私は腕なの!?」
「早い者勝ちよ。それに、貴女は昨日プライスとお楽しみだったじゃない。このくらい譲りなさい」
「あのー……どうでもいいから早く行きたいんですけど」
アザレンカの言う通りだ。
どっちが俺の腕で、どっちが俺の正面から抱きつくのか、なんてどうでも良いから早く行きたい。
それに、人気の無い宿屋の裏側とはいえ、こんな大声で女性同士が言い争っていたら、人来ちゃうだろ。
嫌だぞ、只でさえベッツ家の人間だったってだけでも評価低くなってるのに、こんな美女三人に抱きつかれている所を見られて、女たらしとまで勘違いされるのは。
「ていうか、堂々と浮気しないでよ!」
「浮気……? 残念ねステファニー! プライスは、私の事も貴女の事も本気で愛しているから二股よ!」
「……は?」
「薄々気付いてたけどさ、プライスも中々酷いことしてるよね?」
「よし、準備はいいな?
そうだ。
俺はステフと結婚したものの、ダリアを諦めた訳じゃないんだなこれが。
だけど、今それを説明すると長くなるので、無視して魔法を詠唱する。
「よし、着いたぞ。ここがウェアホワイトだ。さあ離れろ」
ラウンドフォレストから、西へ約百キロ。
森の西側を進み、洞窟を抜けて、山を超えて。
更に、険しい道を進むと着く街。
ウェアホワイトだ。
正直、今は夏で良かった。
ウェアホワイトは、豪雪地帯だからな。
冬になんて瞬間移動で来たら、雪の中に転移するハメになってたぞ。
「いや、まず説明してよ! さっきの事につい……嫌あああああ!!!!! 虫! 虫が一杯いる!」
山に囲まれた街でもあるからな。
ウェアホワイトは。
この時期、毎年のように害虫が、大量発生するらしい。
だから何とかしてくれって、領民達が言ってたから、少し前に来たときに聖火で、結構な数の害虫を駆除したんだけどな。
しかし、相変わらずステフは虫がダメだな。
大パニックじゃないか。
「プライス! 焼き払って! 灰にして!」
「気持ち悪い! ねえ! 凍らせて良い!?」
……ダリアもアザレンカも虫ダメなのか。
俺もあんまり虫得意じゃないけど。
「
とりあえず、目に見える害虫達を、片っ端から聖火で焼き払って灰にする。
「ほっほっほ。相変わらず、派手に聖火を使っとるのう」
「!?」
聞き覚えのある口調と声が聞こえる。
「……爺様!?」
「聖剣を貰いに来るまで大分時間が掛かったのう? ロイ達の後始末でもさせられていたか?」
「そんな事より何故爺様がここに!?」
「お前達がウェアホワイトに来ると聞いてのう。待っていたんじゃよ」
プライスが驚くのも無理はなかった。
消息不明だったプライスの祖父、バリー・ベッツが突然現れて待っていたというのだから。
「バリーさん……」
「あれ? プライスのお爺様じゃん?」
「……誰?」
バリーを見た、ダリアとステフとアザレンカの三人は三者三様の反応をする。
「第二王女様に、ステファニーに、アザレンカ殿。いつも、プライスが世話になっとるな」
バリーは、三人に軽く挨拶をする。
そして自身がウェアホワイトにいる目的を話し始めた。
「余計な世話かもしれんが、推薦状じゃ。イーグリット最北の街、ソルトクライブとイーグリット最東の街、ストーンロールの領主から推薦状を預かって来たのじゃ。頼んでおいて悪いのじゃが、のんびり推薦状集めをして貰うわけにはいかなくなったのじゃ」
バリーは険しい表情で、プライスに預かってきたという二つの街の推薦状を渡す。
「いや、助かるよ。これでウェアホワイトの領主から推薦状を貰えば過半数だ。ダリアが次の王になる為に王の剣の儀式を行えるよ」
「それもじゃが、プライス! 早く第一王子派を潰さなくてはならんのじゃ! 奴らの背後にはマリンズ王国がいるのじゃ!」
「……は?」
バリーの言葉に、プライスは戸惑うだけだった。
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