第54話 新たなイーグリット王国の始まり、ベッツ家の終焉

マリーナがイーグリットを去って半月、俺は女王様に呼ばれ王宮内に来ていた。

女王様は玉座に座りながら、俺を出迎える。


「ごめんなさいね、プライス。急に呼び出しちゃって。あら? ダリア達は?」

「ラウンドフォレストで特訓してます。マリーナに一人じゃ戦えないって言われた事を大分気にしているみたいで……別にサポート役として立派な戦力なのに……」

「成る程ね……。ステファニーさんとアザレンカに攻撃魔法を教わっている訳ね」


女王様は納得したように頷く。

ダリアはマリーナにあそこまで言われたのが相当ショックだったみたいで、必死で攻撃魔法を覚えている。

教えるのが上手いアザレンカとステフのお陰か、水、氷、雷属性の初級攻撃魔法はもう覚えてしまったそうだ。


火と風属性の攻撃魔法も俺が一応ダリアに教えたのだが、残念ながら適性が無かった為、ダリアの特訓は二人に任せて、俺一人で女王様の元に来たという訳だ。


「……まあ、都合が良いわね。ダリア達もプライスが人を殺す姿なんて好んで見たい訳が無いわよね」

「何回か見てるから平気だと思いますよ? まあ、今回は相手が相手なんで俺も力が入っちゃいますけど」

「最初は断られると思ったけど、まさか快諾されると思わなかったわ。一応、貴方の祖母だった人でしょ? カトリーヌさんは?」


女王様は少し呆れながら笑う。


女王様が俺に頼んだ事。


それは、俺の祖母だった人間で、王家傀儡化計画を考えた大罪人、カトリーヌ・ベッツの処刑の執行人を頼まれたのだ。


女王や側近の貴族達は、カトリーヌを確実に殺さなければならないと判断したらしい。


そこで聖剣の力で、魔剣使いのロイやセリーナを倒した俺に白羽の矢が立ったのだ。


更に、俺をカトリーヌの処刑の執行人に任命したのはもう一つ意味があるらしい。


確かに俺はもうベッツ家の人間では無くなったが、ベッツ家の血を引いているのは紛れもない事実だ。


そこで、貴族や女王様の側近達に女王への忠誠心を見せろと言われた訳だ。

同じベッツ家だったカトリーヌを容赦なく殺す事により、俺の手でベッツ家を完全に終わらせろ、と。


ベッツ家の人間では無くなったのなら、それくらい出来るだろう? と新たな大賢者になったアリスの父親、マット・バーゲンハークに言われてしまった。


まあ、二つ返事で快諾してしまった為、逆に驚かれたが。


「そういえば、爺様は?」

「バリーさんは……私達もどこにいるか分かっていないのよ。一応、了承を得たかったわ」

「まあ、大丈夫でしょう。爺様はカトリーヌの計画に反対していましたし、何よりベッツ家の人間に辟易してましたから」


結局、爺様は俺に全てを話した後、ずっと姿を見せないままだ。

生きていると良いんだけどな。


「バリーさんの消息もだけど、マリーナとエリーナがライオネル王国の内通者だったのがねえ……。とんでもない問題を置き土産にしてくれたものだわ」

「マリンズ王国がライオネル王国にちょっかいを出しているというのも気になりますね。……だからって、私達がライオネル王国を助けましょう! みたいな感じでマリーナ達が、ライオネルの王家に仕えていたとは思いもしませんでしたが」

「本当よねえ……」


俺達二人は、お互いにため息を吐く。

課題は山積みだ。

イーグリット国内でも、国外でも。


「ベッツ家の計画であんな悲劇が起きたというのに、まだジョーを次の王にって、派閥がまだいるのも困るし、貴族達が魔剣を返そうとしないのも困ってるのよねえ……」


女王様の言葉に俺は深く頷く。

ベッツ家憎しの一心で、俺がダリアを次の王にと推薦しているから、第一王子を次の王にと推薦している連中もいれば、まだ計画を続けようと試みている連中もいるらしい。


しかも、厄介な事にそいつらは魔剣を盾に、自分達の発言力を強めているのだ。

もし、我々の意見を封殺するのなら、魔剣を使って一矢報いる覚悟だと。


これもマリーナの計画なのでは? と疑いたくなってしまう。

敢えて、魔剣を貴族達に与えていたのは、イーグリットで内乱を起こして欲しいと考えていたんじゃないかと。


現にこうして、魔剣を使おうとしている連中がいるのは事実だし、魔剣の存在のせいで裁かれるべき人間が、生き延びているのもまた事実だ。


本当にマリーナは、とんでもない置き土産をしてくれたもんだ。


「じゃ、魔剣を使って貴族達が女王様に歯向かう事が無いように、女王様には、聖剣使いが味方しているんだぞと見せつけて来ますかね」

「……そうね。プライス、お願いするわ。王家の恥を……いえ、イーグリット王国の恥を葬ってやりなさい」

「かしこまりました。女王の仰せのままに」


イーグリット王国の恥か。

優しくて温和な女王様にここまで言われるなんて、あのクソババアよっぽど女王様に嫌われていたんだな。

まあ、あの性格や言動に加えて、自分達の為に、多くの人間を殺すような計画を立てるような奴だ。

イーグリット王国の恥で間違っていないな。


そんな事を考えながら、カトリーヌの処刑の執行の場へ俺は行く。












「放しなさい! 放しなさいって言ってるのよ! 私を誰だと思っているの! こんな事許されないわ!」

「おい、静かにしろ」

「ムキー! たかが騎士程度の存在が私にそんな口を利くなんて! ロイに言ってクビにしてやるわ! セリーナに命令して、アンタ達を殺してやることだって出来るのよ!」

「……」

「ほら! 怖いんでしょ! でも、許してあげないわ! アンタ達は必ず殺してやる!」


騎士達は、暴れ回る老婆に暴言やら脅しやらを受けながら、黙って俺が待つ処刑台まで連れてくる。


カトリーヌはボロボロの服を着て、化粧もしていない。

地下牢に投獄されていたのは聞いていたが、まさかここまでボロボロだとはな。

今の姿からは、女王の遠い親戚だったということも貴族の名家の人間だったということも想像出来ないな。


「ちょっと! 早く放しなさいよ! 何故、私の手足を縛っているのよ!? グハッ!?」


カトリーヌは、騎士達に手足を縛られた後、騎士に蹴られて俺が待っていた処刑台の所まで転がって来る。


「ううっ……こんな……屈辱始めてよ……殺す……足りないわ……奴らだけじゃ……奴らの家族も、セリーナに頼んで殺して貰いましょう!」

「反省って言葉、お前には全く無いんだな」

「プ、プライス!? ど、どうしてアンタが!? って、ここ処刑台じゃない!」


俺の顔を見るなり、青ざめるカトリーヌ。

しかも、自分が処刑台に連行されている事に気付いていなかったのか。


「立場を悪用し、自分の目的の為に多くの人間を殺したお前が何故助かると思ったんだ?」

「あ……あ……そんな……。殺される……私は殺されてしまう……」


あまりの恐怖のせいか、カトリーヌは失禁してしまったようだ。

水溜まりのような物が出来ている。


そんなカトリーヌの姿を嘲笑う騎士達。

騎士達だけではない。

カトリーヌの哀れな最期を一目見ようとこの場に来ていた、計画によって殺された人々の遺族達も、カトリーヌの無様な姿を嘲笑う。


「お前の為に、多くの人間が時間を割いているんだ。さっさと死んでもらうぞ」

「ま、待ちなさい! プ、プライス! そんな事をすれば、ロイとセリーナがアンタを許さないわよ!」

「言ってる意味が分からないな? 既に死んだ人間が俺に何をするっていうんだ?」

「嘘!? ロイとセリーナが死んだ!? そんな訳無いわ! だってあの二人は魔剣を使えるのよ!?」


カトリーヌのロイやセリーナへの信頼の高さは魔剣を使えたからだったんだな。

力も地位もあって、自分の言いなりって最高の手駒だもんな。


「その二人なら、無様に俺に負けたよ。悔しいか? バカにしていた俺に計画を潰され、こうして多くの人間に無様な姿を晒されて」

「キィィィィィッッッッッ!!!!! 放せ! 放しなさいよォォォォォ!!!!! マリーナさんでもエリーナでも誰でも良いから、私を助けなさいよ!」

「マリーナとエリーナなら、とっくにイーグリットからいなくなったぞ。残念だったな」

「私を裏切ったのね! あのクソ嫁! 本当に使えないわ! 誰でも良いから助けて! お礼ならするから!」


ダメだな、こいつ。

命乞いはするが、全く反省の弁は述べる気無いな。

俺もそろそろ頭に来ていたので、騎士達や集まった遺族達へ、殺して良いか? と目配せをする。


全員が深く頷いた。


「火炙りで殺されるのと首を刎ねて殺されるのどっちが良いですか? ああ、どっちも? 仕方ないなあ……」


カトリーヌにわざと質問し、勝手にカトリーヌが答えたかのように、俺が答えを出す。

聖剣は、既に聖火で刃が包まれていた。


「や、辞めて……! お願い! 何でもするから!」

「じゃあ、俺の願いは一つだけだ」

「な、何!? 何でもするわ!」

「あの世で、ロイとセリーナと一緒に自分が殺した人達に土下座する謝罪行脚の旅をしろ」


そう言って、俺は聖火を纏った聖剣でカトリーヌの首を刎ねた。

カトリーヌは絶命し、数分も経たず聖火で灰になった。


後日、バリーが消息不明、マリーナとエリーナはライオネル王国へ、プライスがミューレン家へ婿入りした事で、ベッツ家を公に名乗る者はカトリーヌの死により、イーグリット王国内にいなくなった為、ベッツ家の土地や家などを含んだ財産は没収され、現金化された。

その金はベッツ家によって殺された人々の遺族達へ王家からの見舞金として配られたのだった。


そして、プライスは三人が待つラウンドフォレストへ戻り、今度は四人で推薦状集めの旅を続けることになる。

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