第47話 動き出す第一王子派
あの地獄のような戦いから十日。
俺とダリアは改めてボーンプラントの領主の家へ来ていた。
アザレンカとステフは、十日経ってもまだ俺の姉二人と戦った後遺症が残っていた為、宿屋で寝ている。
確かに俺の回復魔法で体の傷は回復した。
だが、問題はそっちじゃなかった。
二人とも魔力を死ぬ寸前まで抜かれていたせいで、体の動きに支障が出ていたのだ。
グリーンさんに頼んで呼んで貰った、ラウンドフォレストの腕利きの医者も二人を診て。
「これは……しばらく安静が必要です。戦うだなんてとんでもない」と言っていた。
……死ぬ寸前まで魔力を抜いて奪うか。
怪しいのはエリーナ姉さんだ。
現にエリーナ姉さんと戦ったステフは魔力切れを起こしていた。
恐らくだが、ステフやアザレンカを戦闘不能にして、魔力を奪って魔剣強化に使ったというのが可能性が高いだろう。
更に、アザレンカがかなりの重傷なのだ。
ダリアからポーションを貰っていた事で、魔力を限界まで抜かれて奪われ、魔力切れで死ぬ寸前でポーションを飲まされ、また魔力を限界まで抜かれて奪われるということをエリーナ姉さんに何度もやられたらしい。
お陰で、ポーションは飲みたくない! と言い出してしまった。
魔力量の多いアザレンカの魔力が自然に全回復するにはかなりの時間が掛かるだろう。
更に、アザレンカは暴行を加えられて殺されかけた事による精神的ダメージが残っているだろうと医者から俺に伝えられた。
エリーナ姉さんが魔力を奪う際に、抵抗するアザレンカを大人しくさせる為に、セリーナが拷問のように、アザレンカの身体を魔剣で刺したりなどの様々な暴行を加えたようだ。
アザレンカは、俺には笑って「大丈夫だよ! 僕はもう気にしてないから!」と言っていたのだが。
俺は見てしまった。
夜中、アザレンカが一人ベッドの中で震えながら泣いているのを。
……やったのは俺じゃない。
でも、俺の家族がやったんだ。
血の繋がった家族が。
本当に申し訳無かった。
どうすれば良いんだろうな。
守ってやるって簡単には言えない。
現に今回の戦いでは守ってやれなかった。
……本当、俺って弱いよな。
大切な人を守ってやる事すら出来ないんだから。
俺にもっと力があればこんな事にはならないのに。
「……あんな地獄絵図だったのがまるで昔の事のようだわ」
領主の家の正門前でダリアは呟く。
ラウンドフォレスト、そしてスパンズンの二つの街の様々な人間の協力により、ボーンプラントの街はいつもの景色を取り戻しつつあった。
そしてそれはこの家も。
十日前のあの日は庭に千体もの死霊騎士がいたんだよな。
それがたった十日で、普通の庭に戻るのだから人の力は偉大だ。
勿論、死霊騎士や領主の家の中で殺されていた人達は聖火で灰にして、供養した。
狡猾というべきなのか、はたまた第一王子派の計算通りなのか。
殺されていた人達は、身寄りの無い人達や身分の低い人達ばかりだった。
徹底的に調べ上げたらしい。
捕まえた第一王子派の魔法使いを脅したら、すぐに吐いた。
絶対に身分の高い奴や貴族の血が入った人間は殺すなと厳命されていたようだ。
要は、殺されても別に領民が反発しない身分の人達を見せしめに殺して、この街の領民に言うことを聞かせていたと言うのだから、救いようの無い連中だ。
洗いざらい聞いて流石に呆れた俺は、街の中心部である卸売市場の近くの広場に、死霊騎士を操っていた魔法使いと今回の事件の中心となった奴らや主に殺しをやっていた第一王子派の騎士、十数人ほどを身ぐるみを剥いだ状態で魔法で拘束して放置した。
そいつらはボーンプラントの人達からも相当な恨みを買っていたのだろう。
朝放置して、夕方に様子を見に行ったら誰一人生きていなかった。
数日ほどそいつらの死体は騎士達への戒めとして置かれたらしい。
俺とダリアにビビりながら、謝罪も兼ねて若い騎士が説明しに来た。
それから騎士達は心を入れ替えました! と領民達へ謝罪し、今までのお詫びを兼ねて、騎士達は無休で街の修復をした。
だからこんなにも早く街がいつも通りの光景になったのだろうが、一度失った信用は中々取り戻せない。
もう遅いかもしれないが、これからは領民の為の騎士でいてほしいものだ。
◇
俺とダリアは客間にいた。
いや、客間だったというべきなのだろう。
家具も何も無かった。
そこに領主が入ってくる。
「この家は取り壊す事になったんだ。もう家具も全部処分したから、君達の座る所すら用意出来なくてすまないな」
「……俺の姉二人が取り返しのつかないことをしてしまい、申し訳ありませんでした」
俺は入ってきた領主に向けて土下座で謝罪した。
こんな事をしたって、姉二人がやった事は消えない。
ただ、俺にはこうする事しか出来なかった。
そんな俺を見た領主は慌てながら、顔を上げてくれと言ってくれた。
「君が謝る必要なんて無いよ。我々を助けてくれたのは君だ。それに、怪我人の手当てもしてくれた。更には殺された人達の供養も……」
「で、でも!」
「プライス、貴方だけが謝る必要は無いわ。ボーンプラント領主、バゼル・ウィリアムズ殿、第二王女として王家の横暴を謝罪します。本当に申し訳こざいませんでした」
ダリアも床にひざまずき、額を床に付けて謝罪した。
この家での惨状を見て、心を痛めていたとはいえ、まさかダリアにも土下座されると思わなかったのだろう。
バゼルさんが俺の時とは比べ物にならない程、慌てていた。
「王女様、いけません! 領主程度の人間に王女が土下座するという事があっては!」
「いえ、これはけじめです。そして、必ず誓わせて頂きます。必ず、王家や貴族達の横暴を止めてみせます」
「……そうですか。それなら宜しくお願いします。我々は前々から言っていたんです。第一王子が次の王になるのは反対だと。だから、第二王女様。次の王に必ずなって下さい。プライス君もサポートお願いだよ? ……決して流れた血を……死んでいった人達の命を無駄にしないでくれ」
そう言ってバゼルさんは、ある物を渡してきた。
「推薦状です。次の王になってこの国を変えて下さい、第二王女」
「……はい。必ず」
「それと第二王女様には、もう一本の聖剣がある場所を教えましょう。このままじゃ第一王子派に勝てないですから」
「「……」」
バゼルさんはハッキリと言った。
このままじゃ第一王子派に俺達は勝てないと。
「あ、気を悪くしないでくれ。プライス君。決して君が弱いという訳じゃない。だが、君の姉は……エリーナさんは……失礼だが……化物だ。マリンズ王国の女勇者と我々の前で戦っていたんだが……」
「戦っていたんだが……?」
バゼルさんは口ごもり、覚悟を決めたように話し始める。
「……プライス君は、大賢者が魔剣も扱える事は知っているよね?」
「ええ、まあ。お袋が昔、マリンズ王国の勇者と戦って勝ったって話は嫌というほど周りに聞かされましたからね」
「実は若い時の大賢者が魔剣を使った所を見たことがあってね……正直戦慄したよ……エリーナさんは……若い時の大賢者なんかより全然強い」
「……」
薄々気付いていた。
エリーナ姉さんは、本気を出していないんじゃないかと。
別に手を抜いている訳じゃない。
なんて言えば良いんだろう。
底知れぬ実力があるというか。
「プライス君の聖剣の力を見ていないから分からないが……何と言うか見せ付けられたね。お前らが逆らおうとしているのは私達なんだぞ? みたいな感じで」
「もう一人の姉セリーナとはどれぐらい強さとして差がありましたか?」
「そうか、君はセリーナさんを倒したんだったね。凄いと思うよ! 魔剣使いを倒せるなんて! ……だけど」
「だけど?」
「正直比べ物にならないよ。どうしてベッツ家はエリーナさんを後継者に選ばなかったのか不思議なくらいだ」
比べ物にならないか。
これは参ったな。
こんな事を聞かされると不安になってくる。
「大丈夫よ、プライス。貴方には私が……私達がいるから。だから、必ず勝ちましょう」
「……そうだな。勝とう」
俺とダリアのやり取りを見て、バゼルさんは笑顔を見せた。
そうだ。
俺に期待してくれる人達がいるんだ。
その人達の為にも頑張らなくては。
「覚悟を決めたようだね。それなら、もう一本の聖剣の在処を……」
バーン!
バゼルさんが喋ろうとした途中でメイドが突然客間へ入ってきた。
「王女様の前で……みっともな……」
「大変です! ダリア様、プライス様! 王家が勇者アザレンカから勇者の地位を剥奪しました! 領民達も騒いでいます!」
……何だと?
アザレンカが、勇者の地位を剥奪された?
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