第45話 聖剣vs魔剣、プライスvsセリーナ

「ア……アザレンカ?」


俺は血まみれで倒れているの水色の髪の少女へ近付く。

信じたくなかったのだ。

アザレンカが自分の姉に殺されたのかもしれないという現実を。


ダリアはうずくまってしまった。

アザレンカの無残な姿を見ていられなかったのだろう。

そんなダリアを見て、ステフは優しくダリアの背中をさすっている。


そんな二人を俺は気にもせず。

恐る恐る。

アザレンカの体に触れる。


……!

大丈夫だ! まだ息はある!

これなら、アザレンカを救える。

聖剣の力で。


死んでいないのなら、何とかなるはずだ。

そう思った俺は、聖剣を抜きアザレンカへ向ける。


俺なら出来るはずだ。

先代の勇者、マルクですら出来なかった技だが、俺はマルクと違い回復魔法も使える。

だから、この技を使えるはずだ。


超えろ。

英雄と言われた先代の勇者マルク・アザレンカを。

大切な仲間である、アレックス・アザレンカを救うために。

そして、力を貸せ聖剣。


「聖剣よ、俺に力を与えろ! 聖なる火を以て、俺の大切な人を救え! 復燃治癒リラプス・ヒール!」


プライスの詠唱により、聖火が出始める。

聖剣の刃が聖火に包まれ、切先から出た聖火がアザレンカを包む。


聖火は確かに威力のある攻撃として、聖剣の所有者の敵を焼き尽くし、灰にしてしまう恐ろしい物ではあるが、時に癒しを与える物でもある。


その一つが聖火による復燃リラプス

勢いを失ってしまった生命の火を再び盛んにさせるという意味だ。

先代の勇者マルクが、この技を使えなかったのは、回復魔法を使えなかった為。

回復魔法を使えるプライスはそれに賭けたのだ。


そして、アザレンカを包んでいた火は消えていく。


「……プライス? あれ……? 僕は確か……魔剣で斬られて……魔力を抜かれ……うっ……頭が痛い」

「ア……アザレンカ……。やった……成功した……。アザレンカを助けられたんだ……」


嬉しさの余り、思わず俺はアザレンカを抱き締めてしまう。


「ど、どうしたのプライス……? うっ……あーもう……魔力切れで頭が回らないよ……」


アザレンカは魔力切れにより気を失ったのか、俺の胸へ顔を埋めた。

何はともあれアザレンカは無事だ。

戦う事は出来ないが、命に別状はない。


「おい、ダリア! いつまで泣いているんだよ! アザレンカは無事だ! 早くポーションを飲ませてやれ!」


うずくまっていたダリアへ声を掛ける。

ダリアは顔を上げて、アザレンカを見て。


「……よ、良かっ……良かった! 良かったわ!」

そう言って、俺達の元へ駆け寄ってきた。

涙でぐちゃぐちゃだが、嬉しさを隠せていない満面の笑顔で。


そんなダリアを見ていただからだろうか、完全に油断していた。

ここが、相手のフィールドだということを忘れて。















「死ぃねえええええ!!!!! プライスゥゥゥゥゥ!!!!!」


それは、突然だった。

突如どこからか現れたセリーナが魔剣を振り下ろし、俺を殺そうとしていた。


ヤバい、このままじゃ俺、首を刎ねられて殺される。

何故だかは分からないが、セリーナの動きがスローモーションになって見えているので、俺がこれからどうなるのか分かってしまう。

なのに俺の体は、全く動いていない。


紫電一閃ライティング・フラッシュ!」


バチィ!


セリーナの魔剣による攻撃は俺に届く寸前で、ステフの雷の聖剣によって防がれる。


ステフの存在に気付いたセリーナは俺からターゲットをステフに変えて金切り声で叫びながら、襲い掛かる。


「邪魔をするなァァァァァ!!!!! ステファニーィィィィィ!!!!!」

「何人人を殺せば済むの!? セリーナ!」


バチッ! バチィ!


聖剣と魔剣は激しくぶつかり合い、火花が飛ぶ。

だが、聖剣の方が上のようだ。


「甘い!」


バチィッ!


電気が弾けたような音と同時に、セリーナの魔剣は宙へ舞った。

だが、ステフはトドメを刺さなかった。

いや、刺せなかった。

俺にも分かる。

セリーナの後ろにいる、エリーナ姉さんの気配が。

……そうか、どうやら二対二でやり合いたいみたいだな。


「ダリア、少し離れろ。そして全力で魔法障壁を張れ。アザレンカの事は頼んだぞ」

「……あの二人と戦うのね。気を付けてプライス」


俺の考えに気付いたダリアはアザレンカを担ぎながら、すぐ近くの階段を降りていった。


そして、ゆっくりと近付いてくる。


エリーナ姉さんとステフに飛ばされた魔剣を拾って戻ってきたセリーナが。


「お姉ちゃん、私はステフちゃんと戦うから、プライスの事お願いね」

「ああ、その方が魔剣の特性上都合が良いからな。そうさせて貰おう」

「よし! それじゃステフちゃん! 強制移動フォースド・ムーブ!」

「えっ? うわっ!?」

「ステフ!?」

「じゃあね~プライス~」


エリーナ姉さんの魔法により、ステフとエリーナ姉さんが消えた。

強制移動って……上級転移魔法だろ?

いつの間にそんな魔法を……。

相変わらず、エリーナ姉さんは天才だな。

ステフは勝てるだろうか。


……ま、人の心配をしている場合じゃないんだけどな。


……いや、目の前のセリーナを見て、一筋縄ではいかないとはいかないと考えを変える羽目になったと言った方が正解か。


さっきまでセリーナは、本気を出していなかったのだろう。


魔剣から、先程とは比べ物にならないほどの威圧感と絶望感を感じる。

それはさながら聖剣のようだった。


「まさか、瀕死のアザレンカをいとも簡単に命に別状はないレベルにまで回復させるとはな。だが、お前も運が悪い。それを私達に見られていた事で、アザレンカだけが私達に殺されるはずだったのが、お前も私の手によって殺されることになってしまったのだからな」

「最初から狙いはアザレンカだったのか」

「ああ。だが、お前も殺さなくてはならないとの結論に至ってしまった。調子に乗って聖剣の更なる力を私達に見せてしまったのが運の尽きだな、プライス?」

「奇遇だな。俺も丁度お前を殺さなきゃならねえと思っていた所だったよ。セリーナ」


合図は無かった。

ただ、お互い既に戦闘へ身を投じていた。

もう姉と弟ではない。

目の前の殺すべき敵という認識だった。


聖剣と魔剣はぶつかり合う度に不愉快な音を奏で、家の廊下で戦っていた為、窓は割れ壁にはヒビが入っていた。


「お前は気楽で良いよな!跡取りじゃないから逃げる事が出来て良いよな! それなのに父上と母上の言うことを聞いて手を汚している私より強くなっているだと? あり得ない! そんな話があるか!」

「お前も跡取りなら、二人の暴走を止めろよ! どうしてただ言うことを聞いて、沢山の罪の無い人達を殺したんだ!」

「うるさい! 黙れ! 使命も果たさず、ただ王都から逃げただけのお前に何が分かる! 私はお前と違ってずっと期待されていたんだ! 失敗を許されなかったんだ!」

「罪の無い人を殺すのがお前の使命だったのかよ! それなら俺の使命は、今ここでお前を殺し、これ以上罪の無い人達がお前の手で殺されないようにしてやる!」

「綺麗言を言うなァ! 耳が腐る!」


また、セリーナは金切り声を出し始めた。

するとセリーナの目が突然ドス黒く染まりだす。


「……コロス。カナラズオマエヲコロス!」

「っ!?」


セリーナの様子を見て、俺はすぐに気付いた。


セリーナの奴、魔剣に自我を乗っ取られていやがる!

おかしいと思っていたんだ。

いくら親の言うことを聞くセリーナとはいえ、罪も無い人達を殺すなんて事をして、平気でいられるはずがない。


ああ、そういうことかよ。

既に、魔剣に自我を乗っ取られていた事で、人を殺すことに対しての罪悪感が消えて無くなっていやがったのか。


「ニクイ! オマエガニクイ! オマエコロス! シネ!」


互角だったはずの俺達。

しかし、セリーナの力に徐々に押され始めていた。


恐らく魔剣の特性だ。


魔剣は、持ち主の負の感情の強さに比例して強くなる。

更に、戦う敵は魔剣の持ち主に強い負の感情を抱かれていれば抱かれているほど、魔剣の攻撃を喰らった時に大ダメージを受ける。


恐らく、エリーナ姉さんがステフを引き受けたのはそういう訳だろう。

セリーナの俺に対する憎しみの強さは半端じゃない。

聖剣で何とか防いでいるが、威力で分かる。

本当に憎くてしょうがないんだな。


だとすれば本当に呆れるぜ。

むしろ俺がお前を恨む立場だろうと。

周りや親には常にお前と比較されて貶され、お前には暴言や訓練と称して剣技でボコボコにされ続け、挙句の果てには大切な人を殺されかける。


お前が俺を恨む理由って何だ?

俺が聖剣に選ばれたからか?

だとしたら、本当に呆れるし失望する。


そんな事で恨み、魔剣に自我を乗っ取られてしまったなんて哀れな奴だ。


「シネ! ワタシノカチダ!」

セリーナは魔剣を思いっきり振りかぶり、俺をたたっ斬ろうとした。


……ああ、本当にお前は魔剣に自我を乗っ取られてたんだな。


聖火トーチ

俺はセリーナが振りかぶった右腕に聖火を放った。


当たり前だ。

隙が多すぎる。

正気のセリーナだったら、こんな事はしていなかっただろう。

自分から負けに行くような事は。

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