第32話 新たなる街、スパンズン
俺達三人は、スパンズン付近の人気の無い場所に
近くに誰もいないことを確認し、二人が俺から離れ、俺達三人はスパンズンの街へと進む。
……誰かいたら面倒だし、恥ずかしいというのが俺達三人の総意の為、こうして瞬間移動する時は、人に見られにくい場所を見つけてラウンドフォレストに戻ったり、こっちへ来たりしようということになったのだ。
お互いに抱きつくのも抱きつかれるのも慣れたが、人に見られるのは慣れていないから仕方ない。
「スパンズンってさこうして見てみると、意外と田舎じゃないね」
「そうね。それと海ってイメージあったけど、もっと先へ進まないと見えないのかしらね」
「やっぱり一度来てみないと分からないもんだな」
スパンズンには海の街というイメージがあったのだが、ラウンドフォレストからスパンズンへ来るまでの道中で海を見ることは無かった。
それとノバやダリア曰く、スパンズンは海だけじゃなく温暖な気候を利用したフルーツの栽培もしているらしい。
……とまあ、ここまで色々俺がスパンズンについて知っていることを、知識不足ながら並べてみたがやっぱりグリーンさんに俺達三人がスパンズンへ行くように言われた意味が分からない。
「取りあえずどうする?」
正直、何故スパンズンへ行かされているのか理解できない俺は決めるべきじゃない。
二人の意見を聞こう。
「一応僕は勇者だから、スパンズンの領主様へ挨拶しに行けるけど? ダリアさんもいるから断られる事は無いと思う」
「アザレンカ、ラウンドフォレストの件を反省しましょう。自分達の身分を悪用していきなり領主の家へ行くなんてよく考えれば無礼な事を私達はしていたわ」
「……あー、それもそうですね」
なんだなんだ二人とも。
悪いもんでも食ったのか?
最近賢くなってきたというか、ようやく常識ってやつを覚え始めたんだな。
俺達三人は、正直家にメイドや執事などがいて、普通の一般の人達からは色々と配慮を受けているような家だった。
だから、世間一般とズレている所がある。
俺も最初、王都から出た頃苦労したなあ……そういえば。
「そうそう、そういえばスパンズンも高級フルーツの栽培してるってノバが言っていたわよね?」
「苺だっけ? ダリアも一度現地で食べたいって言ってたよな?」
「実は、スパンズンの苺農園でも最近苺が荒らされているらしいのよ」
「……ええ? また?」
最近この国の王国騎士団の警備ちょっとガバガバ過ぎない?
つい先日までラウンドフォレストの農園がライオネル王国の山賊に襲われていたし。
……まさか、今度はマリンズ王国の連中なんて言うんじゃねえだろうな。
このまま東へ進んで海沿いへ行き、南下していけば小さな村がある。
更にその村から数十キロほど南下すればイーグリットの南東側にある隣国マリンズ王国へ着く。
まあ、わざわざ往復百キロ近くもあるのに荒らしになんて来ないか。
……来ないよな?
それにイーグリットは第一王女をマリンズ王国の王子に嫁がせている。
お互いの国の王家同士が仲良くしようとしているのに、まさかな。
「全く困った話よね。それとラウンドフォレストの農園の園長から聞いた話なんだけれど、スパンズンの苺農園を荒らしているのって、実はボーンプラントの人間みたい」
「嫌ですね、それ。だからグリーンさんはスパンズンに先に行って欲しいって言っていたのかもしれませんね」
アザレンカはダリアの発言に頷きながら、何故スパンズンに先に行って欲しいとグリーンさんがお願いしたのか納得している。
逆に俺はダリアの言葉に嫌な予感しかしていなかった。
まさか、ボーンプラントで悪い噂になっている氷の女勇者が関係しているんじゃ無いだろうな?
ボーンプラントで奪い尽くしたから、近くの街のスパンズンへって事も考えられなくはない。
ボーンプラントからラウンドフォレストへ行くには、山をいくつか超えなければならないので、わざわざラウンドフォレストには来ないだろう。
俺だって
「辞めて下さい! 離して下さい!」
「へへっ、上玉じゃねえか! こりゃあ離せねえな!」
「全くだ! 夜が楽しみだな!」
俺達三人が街の前で話し合っていると街の方から、女の人の嫌がる声と不愉快な男達の声が聞こえた。
「全く、物騒だなあ……ちょっと行ってみるか」
「そうね、行き先を決めるのは困っている人を助けてからでも遅くないわ」
「そうしましょうか」
俺達三人は街へと入っていく。
すると、騎士と思わしき男五人が金髪の女性を囲んで連れ去ろうとしていた。
おいおい、王国に仕える騎士がそんなことして良いとでも思ってるのか?
何なんだこの国の騎士は?
国も守れない上に国民に暴力を振るおうとしている連中が騎士を名乗っているのか?
……しかも何だそのエロい事をする気満々のスケベそうな顔は……。
同じ男として、確信した。
アイツら、連れ去ってあんなことやこんなことするつもりだと。
「ダリア、少々痛い目に遭わせても問題ないよな?」
「ええ、プライス。勿論貴方の能力を全部限界まで引き上げておいてあるわ」
流石、ダリア。
話も早ければサポートも早い。
「アザレンカはダリアを頼んだぞ。流石に
「分かっているよ。気を付けてね」
アザレンカはダリアを周囲の人間から守るようにして、警戒を強める。
騎士達が女性を囲んで連れ去ろうという横暴を働いているのに誰も助けようとしない辺り他にも仲間がいるかもしれないと考えているのだろう。
「な、何で誰も助けてくれないのよ! あ! そこの赤っぽい髪の人! 助けて!」
襲われている女性が、俺に気付いて助けを求めてくる。
やっぱ赤い髪って目立つよな。
聖剣に選ばれてから、何故かは知らないけど日に日に髪が赤っぽくなってるんだよな。
今朝もダリアとアザレンカに笑われたし。
「へへっ、俺達は騎士だ! 冒険者ごときが俺達に逆らおうとする訳ねえだろ!」
「そうそう、大人しく俺達に付いてきな! ボーンプラントで可愛がってやるよ!」
ボーンプラントだと?
何でボーンプラントの騎士がここに?
まあ、いいや。
完全に私怨が入っているが、俺はこの国の騎士って奴らが大嫌いだからな。
容赦はしない。
「
「うわっ! 鎧と剣が急に!」
「は、離せ! 誰だ!」
「俺は王国騎士団の人間だぞ! そこら辺の騎士とは違う! こんなことして許されると思っているのか!」
破壊魔法で、
……許されると思っているのかって、明らかにお前らがやっている事の方が許されねえよ。
仮にもし、あの女性が悪い事をしていて、連行するんだったら、周囲にいるスパンズンの住民達がお前らの事をゴミみたいな目で見てるかよ。
「……ねえ?
「ま、まあ……緊急事態ですから」
後ろでダリアとアザレンカはヒソヒソと話しているが、全ての能力、つまり聴力も何故かダリアに限界まで引き上げられているので聞こえてしまう。
あれ? もしかして俺が逆に捕まっちゃう?
と心配していたがそれは杞憂だった。
「あ! あの! ありがとうございます! 」
連れ去られ掛けていた女性が普通に俺の元へお礼を言いに来る。
……ん? 女性?
あれ? 近くで見ると意外と身長小さいな?
もしかして少女の間違……
「あの! 本当にありがとうございます! 命の恩人です! 貴方は!」
バイン、バイン。
うん、この頭を下げる度に揺れて今にも音が聞こえてきそうなおっきいおっぱい。
これは大人の女性ですわ。
「あ、あの? どうかしました? そ、そんなに胸を見られるのは恥ずかしいです……」
「!?」
しまった、俺はなんて事を。
折角人助けをしたというのにこれでは俺が変態扱いされてしまう。
……ここは聞こえていないフリをするか。
「おい! そこのお前! 王国に仕える騎士にこんなことをしても良いと思っているのか!」
「そうだ! さっさとこの魔法を解除しろ!」
おお、ナイスタイミングだ。
誤魔化そうとしていた所に、丁度騎士達が悪あがきをしようとしてくれている。
これは国民を守る騎士だわ。
お陰で俺が守られた。
「すいません、ちょっと黙らせてきますね」
「は、はい! お願いします!」
お礼を言いに来た女性の元を離れ、拘束魔法で俺が拘束した騎士達の元へ行く。
「どうも。鎧も剣も壊された上に拘束もされている状況で、よくそんな強気で居られますね貴方達二人。 他の事に役立ててくださいよ」
王国騎士団の人間であると自称する二人へ俺は話し掛ける。
そもそも、騎士も普通の街などへ派遣されている騎士と王国騎士団に所属している騎士とでは待遇も違えば、給料も違うし、身に付ける鎧も違う。
さっきから偉そうに騒ぐ二人は間違いなく王国騎士団の人間だ。
……ライオネルの内通者が居るかもしれなかったり、こうやって女性を連れ去ろうとしたり、セリーナが所属していたり……。
本当、ロクでもない奴らだ。
リーダーの顔が見たいよ。
あ、俺の親父だった。
「貴様! 王国騎士団の人間に逆らうとは言語道断だ!」
「これは王家への反逆と同義だぞ!」
コイツら……マジで反省してねえ。
後、俺が騎士王の息子だって事に気付いてねえなこりゃ。
まあ、髪色が赤く変わってきちゃったから仕方ないね。
「げえっ! プライスだ!」
「ん?」
さっきからずっと偉そうにしている二人とは別の騎士が俺の名前を呼ぶ。
その騎士を見ると何と俺と同い年の奴だった。
名前は……忘れたけど。
「おう、俺の事を知っているって事は俺の親父が誰だか分かってるよな?」
「……た、頼む……」
「お前の親父が誰かなんて知らない! さっさと離せ!」
「そうだ! それと鎧も弁償して貰おう!」
同い年の騎士は許しを請うつもりだったのに、この王国騎士団の二人は全く気付く素振りが無い。
「おい、お前だけは同い年のよしみで許してやる。新人で入ってきて先輩達や上の立場の人間に逆らえるわけねえもんな。その代わり、このバカ二人に俺の親父が誰なのか伝えておけ」
「す、すまない! 恩に着るよ!」
俺は説明する気も失せたので、助けた女性とダリアとアザレンカの元へと戻る。
後ろでは、バカ二人がギャーギャー言っているが無視だ。
が、すぐにバカ二人を含めた、拘束された五人の騎士達が許しを請う事になったのは言うまでも無かった。
勿論、その五人の騎士達は許される事はなくスパンズンの住民達にボコボコにされた挙げ句スパンズンに派遣されている騎士達に連行されてどこかへ行った。
……あ、助けるって言ったのに結局同い年の新人騎士助けるの忘れてたな。
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