第23話 災厄級モンスター、現れる
「ヤバいな……暗くなってきやがった」
俺達が森の西側へと進み始めてから数十分。
太陽が沈みつつあるため、ただでさえ木が多くて暗い森の西側はほとんど夜並の暗さだった。
確かに光魔法の
けど、出来れば日が沈む前にホワイトウルフの討伐をしたかった。
「ねえダリアさん? そんなに厄介なんですか? ホワイトウルフって夜になると?」
「アザレンカの氷魔法で全滅させられるから大丈夫よ」
「もー照れるなーダリアさんったら」
二人は、ホワイトウルフが氷魔法耐性を持っているということをすっかり忘れ、気楽そうにゆっくり歩く。
大丈夫か? あの二人。
「ねえ、プライスー? 全然ホワイトウルフ見つからないじゃん? 視覚強化のお陰で大分先まで確認出来てるけど、このまま進んだら洞窟だよ?」
「まさか、このまま洞窟を抜けて雪山まで歩くつもり? いくら瞬間移動が使えるからって、無理に進もうとしなくても良いんじゃない?」
……本当、この二人は才能あるけどさ、昔からすぐ調子に乗るクセがあるよな。
いや、さっきのブラックウルフ討伐が簡単に上手く出来てしまったことで、二人に油断が生まれているのかもしれない。
……むしろ、俺には最悪のケースが見えている。
さっきのブラックウルフ討伐のせいで。
通常ウルフ系のモンスターは狼に近い習性なので、一つの群れにいるウルフの数は八匹から十五匹くらいが普通なんだ。
多くても四十匹は超えない。
せいぜい三十匹半ばだ。
それが百匹近い群れがあるということはだ。
ウルフ系モンスター達が習性を覆すほどの絶対なるボスがいるということが考えられる。
獣使いの人間が操っているのか、はたまた最大規模のウルフ系モンスターがこの森に降りてきてしまったのか。
どちらにせよ厄介な事には変わりはない。
とか、そんなことを考えていると。
「……お前らのお望み通り、ホワイトウルフの群れと会えるみたいだぞ? 洞窟から数匹出てきて、何やら警戒しているみたいだ」
俺の言葉に二人は喜び出す。
歩き疲れているのか、もう帰れると考えているのか。
「あ、本当だ。あそこの洞窟を自分達の巣にしていたんだね。今度は真っ白の毛だからホワイトウルフだね。さっきはよく確認もせずに氷漬けにしちゃったから」
「ねえ、挨拶代わりに氷漬けにしたらどうかしら? あのホワイトウルフ達?」
「良いですねそれ!
俺が止める間も無く、アザレンカは絶対零度を放ってしまい、洞窟の前にいたホワイトウルフ達を凍死させてしまう。
「おいおい」
「ねえ、プライス?氷魔法耐性あるんだよね? ホワイトウルフって? でも、倒せちゃった!」
……うん、アザレンカの奴分かりやすく調子に乗ってるな。
「やるじゃないアザレンカ! この調子でホワイトウルフの群れを一匹残らず凍死させて討伐を完了させるわよ!」
「いえいえ、ダリアさんの強化魔法のお陰ですよ!」
……前言撤回、調子に乗ってるのはアザレンカだけじゃないみたいだ。
ダリア、お前もか。
喜んでいる所悪いが、いきなりアザレンカが上級氷魔法をぶっ放した上に、二人がワイワイ騒ぎ出すから、異変に気付いたホワイトウルフ達が大量に洞窟から出てきたぞ。
二十匹は超える。
「あ、一杯出てきたね。んーでも面倒だから、洞窟の奥まで範囲が届くようにしようかな」
「おい、アザレンカ一体何を?」
「まあ、見ててよ!」
そう言うとアザレンカは一人で洞窟の方へ走っていった。
……あのバカ、一人で洞窟前まで行って至近距離で絶対零度をホワイトウルフや洞窟に向かって放つつもりだ。
「ふふっ、イーグリットの勇者として、頼もしくなってきたわねアザレンカも」
「ええ……?」
嘘だろ……ダリア?
この人、次の王にするの考え直そうかな。
あれを見て、どこが頼もしいって言うんだ?
「絶対零度ォ! 絶対零度ォ! 絶対零度ォ!」
イーグリットの
◇
「どう? プライス? これが勇者の実力だよ!」
ドヤ顔をするアザレンカの見ている先には、大量のホワイトウルフの凍死した死体しか無かった。
……ホワイトウルフによっぽど恨みあったんだろうな、アザレンカ。
「凄いじゃない! やっぱり貴女を勇者に選んだイーグリットは正解だったわアザレンカ!」
「ありがとうございます! ダリアさん!」
アザレンカとダリアは手を取り合って喜んでいる。
……この二人、俺だけ瞬間移動で帰って、ここに置いていこうかな。
そうしたら、少しは反省するかな?
こんな夜の森であんだけ騒ぐことのリスクを全く分かってないよこいつら。
「取りあえず、一応溢れて生き残ってるホワイトウルフがいないか、洞窟の中に入って確認するぞ」
「オッケー! これで報酬が貰える!」
「今日はご馳走ね!」
「ホワイトウルフの毛皮と牙剥ぎ取り、罰としてお前らにやらせるからな? 調子乗りすぎだ」
「「え」」
俺の言葉に二人は露骨にテンションが下がっていた。
洞窟内に入って俺達三人は進んでいく。
洞窟と言っても確かここの洞窟は一本道だ。
冬になると雪が沢山積もる雪山へと繋がっている。
しかし、凄いな。
もうそろそろ洞窟が終わるのにほとんどのホワイトウルフが凍死しているじゃないか。
恐ろしいな、アザレンカ。
ほとんどというか目の前にいる最後の一匹以外は討伐したんだから。
最 後 の 一 匹 以 外 は 。
ウーッ……ウーッ……。
唸り声を上げ周囲を警戒する、一匹の巨大なウルフ系モンスター。
ははっ、でかすぎて狼と呼んで良いのかねコイツ。
クラウンウルフ。
通常のウルフ系モンスターが、一メートルぐらいで、大きいタイプのウルフ系モンスターでも二メートルぐらいだ。
だが、クラウンウルフは五メートルを超える大きさだ。
そのクラウンという名に相応しく、全てのウルフ系モンスターを従えてしまう絶対的存在。
クラウンウルフなんて、本来国の精鋭達が集まって討伐しなきゃいけない言わば災厄級モンスターだぞ。
しかも、目の前にいるクラウンウルフは十メートル近くある。
クラウンウルフの中でも大物クラスだ。
しかも、最悪なことに。
「残念なお知らせだ、ダリア、アザレンカ。あれはクラウンウルフの中でも最強クラスのクラウンホワイトだ。ははっ、まさか希少種の上に大物クラスに遭遇するなんてな」
俺は何故かヘラヘラ笑っていた。
人間、死ぬかもしれないぐらい追い込まれるとこうなるのかね。
「……まさか、大量のホワイトウルフやブラックウルフの群れが出たのって」
「間違いなく、アイツが原因だろうな」
「アザレンカ! 絶対零度! 絶対零度を使いましょう!」
「無駄だ、クラウンホワイトだって言ったろ? アイツには一切氷魔法なんて効かねえよ。雑魚と災厄級モンスターを一緒にするな。後、ダリアは聴覚強化を解除しろ」
「え? 何で?」
「一生耳が聞こえなくなっても良いと言うのなら好きにしろ」
「……分かったわ」
ダリアは俺の言う通り聴覚強化を解除する。
これで準備は整った。
「ダリア、アザレンカ。クラウンホワイトは俺一人でやる」
「何で! 一人じゃ無理だよ! いくらプライスでも!」
「そうよ! 一緒に逃げましょう? そして、ちゃんと準備してから挑みましょう?」
ダリアもアザレンカもさっきまでとはうって変わって涙目になりながら逃げようと訴えてくる。
ははっ、コイツら何も分かってねえ。
何も分かってねえクセに突っ込んでいったのかよ。
本当、呆れるぜ。
呆れるけど……
絶対に死なせたくない二人なんだ。
家族よりも俺にとっては大事な二人。
この二人が俺をどう思っていようが知らない。
勝手に俺がそう思っているだけだから。
だから、ここは俺一人で良い。
「クラウンホワイトには、咆哮っていう普通のウルフ系モンスターを集める特殊能力みたいな物がある。全員で逃げれば咆哮によって集められたウルフ系モンスターの群れとクラウンホワイトに挟み撃ちにされる危険がある。だから、俺は残るんだ」
「でも、それじゃプライスが!プライスが……」
あーあ、普段はあんな偉そうにしているのにさ。
本当、泣き出したら止まらなくなるよなダリアって。
……また、ダリアを泣かせてしまったな、俺。
「いくら聖剣があるからって勝算はあるのか?」
涙目ながらもアザレンカは意外と冷静だった。
……その冷静さ、もう少し早く取り戻して欲しかったし、失って欲しく無かったな。
勇者なんだから。
「ハッキリ言おう。今のお前達二人じゃ俺の足手まといにしかならねえ。むしろお前らを守りつつ戦うなんて逆に勝算が下がる。だから、逃げろって言ってるんだ」
「で、でも……」
「アザレンカ」
悪い。今から俺は酷いことをするだろう。
でも、二人を死なせない為なんだ。
アザレンカの胸ぐらを掴み、俺は言い放つ。
「うっ……プ……プライス?」
「良いからダリアを連れて行けって言ってるだろ?アザレンカ?それとだ、もしダリアが死ぬような事があれば、俺はお前を殺すぞ?」
「……っ」
「……良いから行けって」
「バカ…知らないからな、行きますよ! ダリアさん!」
「嫌! 嫌よ! またプライスが私の前から居なくなるなんて嫌!」
ダリアがまだ、洞窟から出ようとはしない。
仕方ない、使いたくなかったが。
「
拘束魔法で暴れるダリアを拘束し、アザレンカに託す。
「……死ぬなよ、プライス」
「それはこっちのセリフだ」
「嫌! 嫌よ! プライス! この拘束を放して!せめてここにいさせてよ!」
「行け! アザレンカ!」
「ああ! ダリアさんは任せろ!」
「……ああ、そんなプライス! プライスー!」
何とか二人を洞窟から出させる事に成功した。
まあ、アザレンカがいるんだからダリアが死ぬような事は無いだろう。
さて、俺はこの災厄級モンスターを一人で相手しなきゃいけない訳だが。
ご丁寧に、俺達のやり取りを待っててくれたようだ。
クラウンホワイトは、俺みたいな人間風情に負ける気などさらさら無い。
負けるはずが無いと、思っているからこそ敢えてあの二人を見逃したんだろうな。
目の前のモンスターにナメられてるのが手に取るように分かるよ。
すると、大きく口を開け始めた。
咆哮か? 違う、氷のブレスか。
そんな大口開けてんじゃねーよ。
「
ダリアの強化魔法のお陰で上級魔法並の威力を持っているだけでなく、クラウンホワイトが苦手な火属性魔法を開かれた大口の中に叩き込む。
「ガァ!? グァ!? ガァ!?」
想像以上の威力でクラウンホワイトは面食らったみたいだ。
苦しそうに悶え苦しんでいる。
そりゃそうだ。
強化前ですら、集落が一つ灰になる威力の火属性魔法なのに、強化後は街一つが灰になるレベルの威力だぜ?
いくら、災厄級とはいえ上級魔法並の威力かつ弱点属性の魔法を、思い切り体内へ喰らって無事なはずが無い。
「……ガァ……グァ……ガァ……アォー……ア……ガァ……グァ」
どうやら今度は咆哮を出そうとしていたみたいだが、喉に大火災をモロに喰らったせいか声が出なくなったみたいだ。
これだけでも大分楽になる。
後、大火災が右手だけだなんて誰が言ったよ。
左手にもあるんだよな。
「中だけ焼いてもしょうがねえよな! 外もしっかり焼いてやるよ!」
「グァ!? ガァ!?」
「……さて、俺は格下だからな。手は抜かねえよ」
災厄級モンスターを討伐するため、俺は聖剣を抜いた。
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