第22話 女勇者、絶賛され泣く
「あ、あの! ありがとうございました!」
いかにも駆け出しの冒険者といった感じの少年がお礼を言いに来た。
「礼ならこいつに言ってくれ。イーグリットの勇者、アレックス・アザレンカだ。勇者としてだけでなく魔法も優秀という、イーグリット期待の新勇者だ」
俺は少年にアザレンカを紹介し、全部アザレンカがやったことだと説明する。
「ゆ、勇者様!? イーグリットの新しい勇者様は女性だったんですね! でも凄いなあ! 実は、百人ほどで討伐隊を組んでいたんですけど、ボクらじゃ二十匹程度がやっとで……それなのにボクらの三倍ものモンスターを一瞬に倒すなんて、流石です勇者様!」
少年はキラキラした目をしながら、アザレンカを絶賛する。
アザレンカも満更でもないようだ。
……てか、あれ?ちょっと泣いてない?
「……これだよ、これ。僕が求めていた勇者に掛けられる言葉は……」
少年の絶賛の言葉を噛み締めながら、感動の涙を流していた。
……まあ、ラウンドフォレストではキャロや街の人にボロクソ言われていたんだろうな。
報われて良かったな、アザレンカ。
俺もアザレンカが絶賛されているのが見れるのは嬉しいよ。
「それより、怪我は無いの?大分苦戦していたみたいだけど?」
「じ、実は……結構怪我人がいるんですよね……でも、ボクらまだ駆け出しの冒険者で誰も回復魔法使えないんです。そ、そうだ! 勇者様! 回復ま……」
「勇者は、さっき強力な魔法を使ったから、今は後遺症が残っているんだ。だから俺が回復魔法を掛けてやる。中級までなら全部の回復魔法使えるから連れていってくれ」
少年の言葉を遮り、俺が怪我人の回復を申し出る。
……だって、アザレンカ回復魔法使えないし。
普通、勇者ってバランス良く魔法を使えるはずなんだけどな?
どうしてアザレンカはあそこまでアンバランスなのか。
氷魔法に特化し過ぎだろ。
「あ……ごめんね。上級魔法使った後だから、魔力がね。でもこのお兄さんも魔法一杯使える人だから大丈夫! イーグリットの大賢者の息子なんだから!」
「だ、大賢者の息子!? 流石勇者様のパーティーメンバーだ! 凄い人が揃ってる」
……う、そんなキラキラした目で俺を見ないでくれ。
俺、そんな大した人間じゃないんだから。
「取りあえず、少年よ。俺を怪我してる冒険者達の所に連れていってくれ。アザレンカとダリアは群れから溢れたモンスターがまだ生き残ってるかもしれんから、ここで周囲の警戒を」
「分かった」
「分かったわ」
二人を残し、俺は怪我した駆け出しの冒険者達の元へと少年に連れられ向かった。
◇
「
怪我人だらけの駆け出し冒険者達の治療を申し出た俺は、三十人ほどの怪我を治した。
食い千切られたとか、重傷の奴がいなくてよかったな。
この程度の怪我なら、初級回復魔法で十分だ。
「あ、あの! お兄さん! リーダーからお話が!」
怪我人を全員回復し終えたので、何も言わず立ち去ろうかとしていた俺を少年が呼び止める。
隣には、この駆け出し冒険者達がリーダーと呼んでいる人物が立っていた。
「危ない所を助けて頂いただけでなく、怪我人の治療まで……本当にありがとうございます」
「お礼ならいらないですよ。俺達はイーグリットの勇者のパーティーなんですから、困っている人達を助けるのは当然です」
……実際マジで、お礼を言われる権利なんて俺らに無いぞ……。
二ヶ月もホワイトウルフを放置して、駆け出し冒険者達が怪我人続出とか、アザレンカは農園からの依頼を二ヶ月放置していた俺かな?
「それはお聞きしました。流石、勇者様のパーティーですね。ですが、お礼をしないとこちらの気が済みません」
「なら、イーグリットの勇者、アレックス・アザレンカは優秀な勇者だという噂を流してやってくれませんか?先代のイーグリットの勇者が、あまりにも優秀だったせいか過小評価されているんですよ」
「そんなことでよろしいのですか?頼まれなくてもベアーバレーでイーグリットの勇者は凄いって絶賛しますよ? ここにいる全員が」
「あ、そうだ。それならこのモンスターの凍死死体の処理を頼めますか? もしかしたら牙とかも素材になるかもしれないですし、百人いればあっという間に出来ますよね?」
「え? あのモンスター達も貰って良いんですか?」
「ええ、これから急いでラウンドフォレストへ戻らなきゃいけないですから」
「分かりました。では責任を持って処理させて頂きます。ブラックウルフの討伐協力感謝致します」
は?
ブラックウルフ?
「え? ベアーバレーで討伐隊組んで、討伐しようとしていたのってホワイトウルフじゃないんですか?」
「まさか、駆け出しの冒険者がホワイトウルフになんて挑むわけありませんよ。ベアーバレーで、ブラックウルフ百匹近くの討伐依頼があったので、駆け出しの冒険者達で集まったんです」
嘘 だ ろ 。
ホワイトウルフじゃなくてブラックウルフ?
ブラックウルフは、普通の野生の狼に近い。
普通の狼よりも性格が凶暴で牙が鋭いだけなので、氷のブレスを吐く上に、ブラックウルフよりも速く頭の良いホワイトウルフより討伐は簡単だ。
つまり、ホワイトウルフは森の西側にいるってことか。
しかも、もう少しで夕方だ。
だが、ホワイトウルフを討伐せずにラウンドフォレストには戻れないぞ。
「すいません! ちょっと急いでラウンドフォレストへ戻らなければ! それじゃ後はよろしくお願いします!」
そう言ってベアーバレーの駆け出し冒険者達の元から急いでダリアとアザレンカの元へ戻る。
何か言っていたみたいだが、聞いてる暇は無かった。
「ダリア! アザレンカ! 今俺達が討伐したのはホワイトウルフじゃなくてブラックウルフだ! ホワイトウルフは森の西側にいる! 急いで戻るぞ!」
血相を変えて戻ってきた俺にも驚いていたが、俺が言ったことにももちろんアザレンカは驚いていた。
ダリアは平然としていたが。
「ええ!? それ本当!?」
「まあ、何となくだけどそんな感じはしていたのよね。ここの森の西側の先って雪山あるから」
「知ってたんなら早く言えよ! ダリア!」
色々ダリアに文句を言いたい所だが、今はそんな場合じゃねえ。
ダリアとアザレンカを俺は何も言わず抱き寄せた。
「ちょっとどこ触ってるのよ!」
「プライス! そこはダメ!」
「早くしろ! 時間が無い! 夜のホワイトウルフは更に討伐が難しくなるんだ! 流石に今日も討伐出来ませんでしたなんて言ったら、ラウンドフォレスト内での勇者の評判はガタ落ちだろうが!」
「……後で覚えてなさいよ、プライス」
「ううっ……もう僕お嫁に行けない……」
何やら文句を言ってるが、それどころじゃないので俺は二人の言葉を無視した。
文句を言いつつもしっかり二人は俺に抱きついている。
「
◇
俺達は、また瞬間移動で先程行く方角を決めた場所へ戻ってきた。
しかし、流石ダリアの強化魔法。
瞬間移動を今日はもう三回使っているのに全然魔力が減ってる気がしねえ。
目的地へ着いたので急いで二人を放す。
本当に時間がない。
夜のホワイトウルフとか厄介以外の言葉で言い表せる気がしない。
「……プライス、何をそんなに急いでいるの?どさくさに紛れて触ったみたいじゃないみたいね」
ダリアはお尻をさすりながら聞いてくる。
何してるんだ……第二王女が。
「ま、まあわざとじゃないなら許そうかな?それより何でそんなに急いでいるの?」
アザレンカも胸をさすりながら聞いてくる。
何なんだよ、お前まで。
「いや、夜のホワイトウルフとか昼に比べて討伐する難易度は俺の体感だと倍はある。それに活発になるから大量に出てくる危険があるぞ…だから急いでるんだ。ほら、早く行くぞ」
「ちょっと待って、お尻が……」
「ぼ……僕は胸が……」
二人は何やら痛そうにさすっている。
「
「……無意識なのね、プライス」
「……誰のせいだと思ってるんだよ」
「?」
二人が何故怒っているのか俺は分からない。
痛そうにしてるから回復魔法を掛けてやったのに。
「取りあえず進むぞ、
そろそろ暗くなって来るので光魔法で照らしながら、俺達は森の西側へと進む。
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