第21話 選ばれし者の力を見せる二人

ギルドの前で瞬間移動テレポーテーションを使った俺達は、ホワイトウルフが出るという森へと着いていた。


「悪いな、ダリア。そしてアザレンカもう離れても大丈夫だぞ」

そう言って俺はダリアとアザレンカから手を離す。

ダリアとアザレンカも離れていく。

アザレンカは顔が真っ赤だ。

それは理解できる。

異性に抱き締められたり、抱きついたりって結構恥ずかしいし。

しかも、今回は人が少なかったとはいえ街中だ。

俺だって、結構な勇気を出した。


なのに何故、ダリアは名残惜しそうに俺から離れていくのか?

数回この行為を繰り返してようやく俺も気付いた。

俺が先にダリアから離れると露骨に不満そうな顔もするし。

王家という高貴な身分の人間達の考える事は分からないな。

いや、俺もそこそこの身分だけどさ。


「瞬間移動、プライスが使えるのは知っていたけど、一人しか移動出来ないからパーティーで行動する時は使えないって言ってたのは、こういう事だったんだね……」


顔を真っ赤にしたまま納得するアザレンカ。

そりゃ、俺に突然抱き寄せられたんだ納得もするだろう。

何故、俺があまり瞬間移動を使ってこなかったか。

アザレンカやダリアはまだ良いさ、抱き締めたりしても理由を説明すれば、怒られる事はない。


けど、パーティーメンバーになったばかりのほとんど面識の無い女性にそんなことしたら、俺即通報されて投獄されちゃうよ。

まあ、男性のパーティーメンバーなら理由を話せば多分通報されないと思う。

……ほとんど面識が無かったら間違いなくパーティー追放されるわ。

でも、仮に通報されないとしても男同士で熱い抱擁をして、同じ目的地行くとか変な誤解されるだろうし。


だから、ソロでパーティーも組まずにやっていたんだよな。

瞬間移動は便利でもあるが、使いづらい魔法でもある。

人数制限無しで、目的地へ移動できる上級移動魔法なんて俺には会得は無理だろうしな。

そういう面では、ダリアやアザレンカと組むというのは俺にとっても得だったのかもしれない。


そんなことを考えながら俺達は、この森のホワイトウルフが出るという場所へ向かう。

しかし、まずは行く方角を決めなくては。

かなり広い森だから、骨が折れそうだ。


ただ、園長からホワイトウルフの件は、聞いたこともなかったから、農園がある森の東側には行かなくて良い。

森の北側は、ラウンドフォレストへ向かう道なので、引き返す事になるから行く必要が無い。


ということは森の南側か西側にホワイトウルフの群れがいることになる。

困ったことに色んな場所で目撃情報があるので、どっちにすればいいか分からない。


「どうする? 森の西側と南側、どちらから探す?」

俺は二人へ行く方角を委ねる。

「まずは、南側じゃないかな? 南側はベアーバレーへ続く道だし、そうなるとライオネル王国の駆け出しの冒険者達が心配だし、それに僕が討伐しに行った時は森の南側にいたし」

「私もそう思うわ。何より最初にこの依頼を受けたのはイーグリットの勇者なのに、ライオネル王国の街に被害が出たなんてなったら、アザレンカの勇者としての評価はガタ落ちよ」

「ええ!? それは困るよ! プライス! 南! 南側行こう! 間違っていてもすぐに瞬間移動でここに戻ってこれるしさ! さあすぐ行こう!」


二人の意見は森の南側から探すで一致したため、俺もそれに従う。

……しかし、怖いこと言うなあダリアも。

アザレンカの勇者としての評価がガタ落ちするだなんて。

その国の勇者の評価が落ちるってことは、その国の評価が落ちるってのと同じ意味だ。

そうなったら、その勇者とパーティーを組んでいる俺とダリアも王家や貴族から責任を追及されかねんぞ。


「よし、すぐに森の南側へ行くぞ、ダリア視覚と聴覚強化を……」

「もう森に着いた時点で、三人全員の全ての能力を限界まで引き上げてるわよ」

「「流石です、ダリアさん」」


準備万端だったみたいなので、俺達はベアーバレー方面の南側へ向かう事にした。

俺とアザレンカはダリアがいつの間に俺らに強化魔法を掛けていたのか恐怖していたが。



視覚・聴覚強化のお陰か森の南側へ進んで十分ほどで、手掛かりが見つかった。

血の匂いがする。

しかも数人どころじゃない。

獣の血の匂いと混じっているが、はっきり分かる。

その獣がホワイトウルフかは分からないが、冒険者達が戦っていることは分かる。


冒険者達が苦戦していることも。


「……どうやらこの先にいるみたいだな。しかも駆け出しとはいえ冒険者数十人位が少なくとも出血するレベルには強いモンスターがいるぞ」

「ダリアさんのお陰で、戦う準備は出来ているよ。いや、一掃するつもりだ。勇者として」

「二人とも頼もしいわね。私全然見えないし匂いも感じないから何も分からないわ」

「「ええ……?」」


何だろう、このやり取り何か前にもあったような。

まあ、あくまでも強化だからな……元々の能力が低いと強化してもさほど変わらないのかもしれん。


「プライス! 僕らに気付いたみたいだよ! 向こうにいるモンスターが匂いを嗅ぎ付けたのか、僕らへ向かってくる!」

「……何匹だ? 分かるだけで三十匹以上いるのは分かるが」

「あ! 狼だよ! もしかしてホワイトウルフ!? 一人十匹だね? 討伐する準備はできている? プライスもダリアさんも?」

「いや、一人十五匹だ! ダリアはモンスター倒せねえ!」

「ええ!? 嘘でしょ!?」


アザレンカが悪い意味で驚いてダリアの方へ向く。


「……ごめんなさい、私はやることはやったから二人に任せるわ」

ダリアは、申し訳なさそうに顔を背け、俺達から距離を取る。


や っ ぱ り な 。


「……まあ、大丈夫だろ。ただ、今は限界まで能力を引き上げている状態だから、俺の場合は初級魔法でも上級魔法並の威力が出ちまう。しかも、俺の得意魔法は火属性だ。森が全て灰になるのは避けたい。アザレンカ、お前の氷魔法であの狼どもを氷漬けにしろ」

「……ホワイトウルフに効くかな?」

「大丈夫だろ、お前が思うよりもダリアの強化魔法は一級品だ。ちなみに俺は信用せずに閃光フラッシュを全力でぶっ放したら人殺し扱いされたから」

「……まずなんで、閃光を人に向かって全力で放ったの?」

「色々あんだよ、ほら喋ってたら来たぞ。冒険者達は追ってきていないからある程度強力な魔法を放っても大丈夫だ」

「はー……分かった。僕に任せて」


そう言うとアザレンカは俺の前に進み、詠唱を始めた。

そういや、アザレンカも詠唱短縮ショートキャスティング出来るんだよな。

さて、女勇者の魔法お手並み拝見だな……って、おいおい狼五十匹以上いるんじゃねえか?


絶対零度アブソリュート・ゼロ


アザレンカが放った魔法に驚いた。

絶対零度。

氷属性の上級魔法だ。

俺のお袋(大賢者)も使える。

凄まじい威力であっという間に凍死状態にする技だ。

体の外側だけを凍らすだけじゃない、血液、呼吸器、消化器、脳、そして心臓。

体の内側まで一瞬で凍てつかせる。

しかも、攻撃対象に集中して攻撃出来るから、森や周囲の動物への被害も最小限に抑えられる。

何よりこの魔法を詠唱短縮で使えること自体が凄い。

通常詠唱より威力が低いのは当然だが、絶対零度を連続で使える魔法使いなんて、そうそういねえぞ。


あれ? アザレンカ? 聖剣いらないんじゃね?


そんな事を考えている間に狼の集団は白い煙に包まれてしまった。

あれ、なんかしかも寒い。

おかしいな夏が近いんだけどな。


「終わったよ、多分。凄いね……ダリアさんの強化魔法……僕、全然魔力消費してないよ。今の状態なら後数十発は絶対零度を放つ事が出来る気がするよ」

「……流石、魔力量と氷魔法の天才。つくづくお前は勇者だよ、アザレンカ」

「聖剣に選ばれた人に褒められると何か照れるなあ……」

謙遜しながらもアザレンカは嬉しそうにする。


「……凄いわね。でもどうしてこの威力の魔法が使えるのに、ホワイトウルフ討伐に手間取っていたの?」

ダリアは感心しつつも、アザレンカの現状に腑に落ちない所があるのか不思議がっている。


「いや……ちゃんと理由があるんです。絶対零度は、使った後自分の体にもダメージが来ます。あまりにも魔力を消費するので、出来れば使いたくないんです。それなのにダリアさんの強化魔法一つでこんなにも体に負担を掛けず絶対零度を放てるなんて」

「そう? 自分ではそんな自覚無いのだけど?役に立てて良かったわ。王女として足を引っ張る訳にはいかないもの」


アザレンカもアザレンカでダリアの魔法能力の高さにドン引きしたみたいだ。

分かるぞ、アザレンカ。

俺もその感覚。


「……ねえ、プライス。ダリアさんモンスターが倒せないとかそんなことが問題にならないくらい凄い人だよ」

「だろ? マジで凄いわ。次のイーグリットの国王に俺がダリアを推すのも分かるだろ?」

「うん、僕もダリアさんに女王になって貰いたいよ」


俺とアザレンカはヒソヒソひたすらダリアの凄さを語り合っていた。

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