第14話 プライスとダリアは王都を去る
「それじゃ、取り敢えずまた
エリーナ姉さん達が仕事に戻った後、農園で貰ったジュースやジャムなどといった加工品を鞄に詰めた。
これは、これからまた長い間お世話になる宿屋の母娘へのお土産だ。
それに、ジャムが美味ければパンと野菜だけでも美味しい朝食だと思えるだろ。
幸い、ダリアは王家の人間の割に味にそこまでうるさくないし。
「……全く、結構恥ずかしいのよ? これ?」
文句を言いつつも、すんなりダリアは俺を抱き締めてくる。
「今更だろ。それに今は二人きりだ。」
俺の言葉を聞いて、また顔を赤くするダリア。
だけど、間違いなく俺の方が絶対恥ずかしかったよ。
女王と自分のお袋の前で、ダリアを抱き締めるなんて。
変なテンションになってたのはあるだろうけど、良く良く冷静になって考えると凄い恥ずかしいことしたよ俺。
あんな恥ずかしいセリフ言いながらあんな振る舞いを良く王家同士の縁談の場でやれたと思うよ。
「瞬間移動」
色々思い返してみた結果、さっきの場面を見ていた人間とすぐに顔を合わせるのは、流石に恥ずかし過ぎると思った俺はすぐにダリアと一緒に王都を後にした。
◇
「よし、着いたよ。ダリア」
瞬間移動の魔法によって、王都から俺が賃貸のように借りて家にしてしまっている宿屋の部屋に着く。
元々寝不足だったのに、瞬間移動を三回も使ったから流石に疲れたな。
「ここは……どこ?」
ダリアは始めての場所なので当然分からない。
まあ、どこといっても一応イーグリット国内なんだけどな。
「ライオネルとの国境の街、ラウンドフォレストだよ」
「ラウンドフォレストって……農園がある所じゃないの」
「そうそう、俺はここを拠点にしていたんだ。近くの森で、心置き無く修行が出来る上に食糧調達やモンスター退治で金稼ぎも出来るからな」
疲れた俺はダリアに説明しながら、ベッドへとダイブする。
あっ、最高。
枕も布団もシーツも毛布も全て洗っておいてくれたんだな。
このまま眠りに……
「ちょっと? 何でラウンドフォレストに来たのか聞いてないんだけれど?」
寝ようとする俺をダリアは無理矢理起こす。
酷い、完全に寝れそうだったのに。
寝ないように首を回しながら俺は、ラウンドフォレストに来た目的と狙いをダリアへ話す。
「……実はここの宿屋には女勇者が泊まってるんだよね。俺と同じくらいの間」
俺の言葉を聞いたダリアは、女勇者の正体に気付く。
「女勇者って、私達と同い年のアレックス・アザレンカのこと?」
「ご名答。その通りだよ」
アレックス・アザレンカ。
イーグリット王国の現在の勇者だ。
古くから勇者とは、人間界に害を成す魔王という存在を討伐するのが定石なのだが、生憎と言うべきなのか平和で幸せと言うべきなのか魔王は今の所数百年前の勇者が倒して以来、復活していないし新たなる魔王も出てきていない。
……それでも、魔王だけが敵じゃない。
モンスターはそこら辺にうじゃうじゃいるし、いつ襲ってくるか分からん龍や神獣だっている。
時には人の道を外れてしまい魔人と化してしまった人間もいる。
そういった様々な外敵から国民を守るのも勇者の宿命だ。
何より、勇者の強さは他国との外交に置いても重要視される。
今のイーグリットが平和なのも先代のイーグリットの勇者が他国の勇者に比べて強く、何より他国でも功績を挙げていた為ネームバリューが大きいからだ。
王が年齢を重ねている国では未だに先代のイーグリットの勇者は英雄とまで称賛されているぐらいだからな。
しかし、今の勇者アザレンカは……。
「ここ二ヶ月ちょくちょくアイツのこと見掛けたけど、パーティーメンバーはコロコロ変わるし、なんなら最近では一人の事が多いんだよな。アイツ、俺を誘ってくる位マジで仲間に困ってるらしい。だから、手伝ってやろうかなと」
俺はラウンドフォレストへ来た目的をダリアへ話した。
勇者のパーティーメンバーとして龍や神獣を討伐したりすれば、ダリアが次の王になるためにかなり有利な実績になるだろうからな。
ダリアも納得した表情で話す。
「そういえば、もうアザレンカが勇者になって二ヶ月以上経っているのに全然音沙汰無かったわね。……でも何でラウンドフォレストなんかにずっといるのかしら?」
ダリアの抱いている疑問点に俺も同意だ。
そういや、良く良く考えてみればアザレンカの奴なんで、ラウンドフォレストなんかにいるんだ?
俺も知らねえよ。
……とは言えないからな。
適当に誤魔化そう。
「まあ、勇者の依頼された任務なんて普通パーティーメンバーでもない一般人になんて話さないだろ。いくら俺がイーグリットの騎士王と大賢者の息子で、知り合いだとは言っても一応王女様とか、ある程度の地位を持った人間からの依頼をペラペラ喋るような奴に勇者は務まらねえだろ」
「え? プライスも知らないの? 私も何でアザレンカがラウンドフォレストにずっといるか知らないけど」
「「……」」
お互いしばらく考えてみたが、アザレンカ本人に会った時に確認しようということになった。
◇
夕方。
俺は部屋で少し眠った後、部屋を出て階段を降り、一階にある宿屋の受付へと向かった。
ダリアは、俺が起きたすぐ後に眠いと言って寝てしまった。
今日は縁談もあった上に俺に連れ回されたからな。
一応部屋には魔法を掛けておいたので、部屋に一人にしても問題は無いだろう。
「おう、キャロ。ただいま、戻ってきたぞ」
受付で雑務をしていた宿屋の娘に声を掛ける。
数日分ツケて置いた宿賃を払わなくてはならんからな。
すると、手を止めて俺の方を向く。
「あら、プライス。お帰りなさい。数日間部屋を空けてたみたいだけどどうしたの?」
「依頼をこなしたり、王都に行ったりと色々あったんだ。ほれ、これお土産だ」
宿賃をツケ払いにしていたお詫びも兼ねて、俺は農園で貰ってきたフルーツジュースなどの加工品を渡す。
どうやら、正解だったみたいだ。
中々見ない笑顔を見た気がする。
「これ、王家や貴族ぐらいしか買えない農園の物じゃない! 高かったでしょ?」
「いや? 依頼をこなしたお礼だからな。それと宿賃だが、これから同じ部屋に一緒に住む奴が増えたんだが、二人分払った方が良いか?」
後々、一部屋に二人で住んでるのがバレて色々言われるのが嫌だった為、一応聞いておく。
「別に良いわよ。あそこ一人部屋だし。でも、一人部屋に男二人とか何か気持ち悪いわね」
キャロは勝手に男だと思っているみたいだが、実は第二王女でーす! って言うとパニックになりそうなので黙っておく。
まあ、宿賃の節約が出来るのは嬉しいことだ。
「じゃ、宿賃な。一ヶ月の場合だと金貨一枚で良かったよな?」
毎日銀貨五枚ずつ払うより、まとめて一ヶ月で金貨一枚払った方がお得なので金貨一枚を渡す。
悲しいことに、この二ヶ月は一日で銀貨十枚程度を稼ぐのがやっとだった為、毎日銀貨五枚ずつ払ってたんだよな。
「よっぽど報酬の良い依頼だったのね。アザレンカも見習って欲しいわ本当。勇者のクセに二ヶ月の間宿賃もご飯代も未だに払えてないなんて本当情けないわ。でも勇者だから、追い出すわけにはいかないのよね」
マジかよ。
勇者じゃなかったら、それ絶対追い出されてるだろ。
何だったら騎士団辺りに通報されて投獄行きもあり得るぞ。
流石に二ヶ月以上も未払いなんて。
「アザレンカはもう、食堂にいるのか?」
「ええ、居るわよ。……ねえ? プライスからも何か言ってやってよ。あの子またパーティーメンバーに愛想尽かされて一人ぼっちになったみたいよ?」
「えぇ……?」
マジかよ。
いや、俺達にとっては好都合だけどさ。
「ね? 夕食サービスするからさ、お願い」
「分かった」
丁度アザレンカに用事があるし、了解する。
ダリアも連れてくるか……とも考えたが、流石に今のアザレンカをダリアになんか会わせられんな。
間違いなく、激怒するよね。
勇者のクセに! って。
ダリアも疲れているだろうし、起こして今のアザレンカに会わせて機嫌を悪くされるのも困るし寝かせて置こう。
受付を後にし、俺は夕食を食べるついでに、女勇者のいる食堂へと向かった。
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