第13話 姉の部屋からローブを持ち出そう

「すまん、ダリア。王都を去る前に準備をしなきゃだった」

高らかにダリアを次のイーグリット女王にする! 次の王に相応しいのはダリアだ! と言ったのに(言ってない)、全く準備をせずに、ダリアを次の王にするための実績なんか作れるわけない事に気付いた俺は、ダリアと一緒に一旦自分の部屋に戻っていた。


「全く……準備も何もしてないのによくあんな事を大勢の人の前で言えたわね? 貴方の事をよく知っているとはいえ、一応女王と第一王子の前で宣言したのよ?」

ダリアは呆れたような口振りをしているものの、どこか嬉しそうに笑顔を浮かべていた。


「ま、準備も何も後はダリアの格好だけなんだよな。流石に縁談の場に行く為のドレスでなんて、外に出るわけにはいかねえよ。取り敢えず、エリーナ姉さんの部屋に行くぞ」

自分の部屋からダリアを連れ、衣装を入れる用のカバンを持って出る。


「何故、エリーナの部屋に?」

「魔力増強や魔法効果が長持ちするローブが大量にあるんだよ。着てないのが百着くらいあるから、数着くらい持っていってもバレないだろ。体のサイズも丁度ダリアとエリーナ姉さんは同じくらいだし。それに、要らないから捨てようかなって言ってたし」

「……勝手にローブを持っていくのもどうかと思うけど、まず勝手に部屋に入って良いのかしら?」

「俺は入らないさ、入るのはダリアと……おっ、丁度良い所に!」


エリーナ姉さんの部屋の前で、エリーナ姉さんの部下の新人魔法使いの子を見つけたので声を掛けた。


「あ、プライス様お帰りなさい。何かご用ですか……って第二王女!? どうしてここにいらっしゃるのですか!?」

ダリアを見つけた新人魔法使いは慌てて跪く。


「ダリアもこれから俺と一緒に修行の旅に出るので、エリーナ姉さんの部屋にダリアと一緒に入ってダリアに似合うローブを数着ほど見繕ってくれますか? 詳しいことは聞かずに、早急にお願いします」

跪いてる彼女へお願いする。


が、当然驚かれる。


「ええ!? 第二王女とプライス様が一緒に修行の旅!? 一体何故ですか!?」

驚くのも無理はない。

定職にも就かずプラプラしているだけの俺に付いていって、第二王女が修業の旅に出るなんて信じがたい事だし、止めなければいけないことだろうからな。

だが、正直説明している時間はない。

「……ダリア、時間がない。命令してくれ」

ダリアにだけ聞こえるように小声でお願いする。

やれやれと呆れながらも了承してくれた。


「説明している時間なんて無いわ。これは第二王女命令です! 今すぐ私に似合うローブを身繕いなさい!」

「はっ、はい! 仰せのままに! それではこちらです!」

「お願いします。俺はここで見張りをしているので」


二人はエリーナ姉さんの部屋に入っていったので、俺はエリーナ姉さんの部屋の前で見張りをしている。


まあ、といっても俺以外の家族は、破談になった縁談の後始末でてんてこ舞いだろうから家になんて戻って来ないだろう。


「ふぅ……」

たった数日の間に色々ありすぎた俺は、取り敢えず一息ついてこれからの事を考える。


しかし、俺も大胆な事をしたもんだ。


まさか第二王女であるダリアを連れ出すとはな。


今更だが、自分のやったことの重大さに気付く。


……けどなあ、思っていたよりイーグリットの騎士や魔法使いの連中が無能とは言わないけど平和ボケしている感があるんだよな。


それにライオネル王国との内通者もいるし。


いつ、ダリアが襲われるか分からんしな。


第一王子? 襲われても殆どの人間が悲しまないだろ。


幸い、金はある。


それなりに使ったとはいえ、マリア金貨一枚と金貨七枚に銀貨が二十枚ほどある。


それにこれから俺達がやることは王国から金が貰えることだ。


取り敢えず、一刻も早く王都を離れるだけだ。


俺の荷物はいつも泊まっている宿屋にあるため、ダリアの準備さえ出来れば、すぐに瞬間移動テレポーテーションで王都を離れることが出来るのだが……。


「そうは、上手くいかねえよな……」


俺は、苦笑いを浮かべていた。


対照的に笑顔で、俺の方に向かって来るエリーナ姉さんがいたからだ。


拘束リストレイント

「マジかよ……」


家の中にも関わらず、エリーナ姉さんは魔法を使ってきた。

苦笑いが止まらねえよ。


これは、訓練所の時に俺を逃がさないために使った拘束魔法か。


エリーナ姉さんは本気で俺を捕まえるつもりだ。


なら、俺も本気でいくしかない。


破壊ブレイク

「なっ……」


自分の拘束魔法を破壊されたのが、意外だったのか。

あるいは俺がイーグリットで忌み嫌われているとされている魔法を使った事に驚いたのかは分からない。

少なくともあんなエリーナ姉さんは見たことなかったからだ。


「"破壊"だなんてそんな魔法使っちゃうんだ?プライス?」

「知ってるだろ? 俺は中級までの魔法なら全属性の魔法が使えるんだよ。例えそれが使うこと自体を推奨されていない魔法だとしてもな」

「……ちゃんと修行していたのね、プライス。でもますますプライスの事を王都から逃がすわけにはいかなくなったわね。お灸を据えなくちゃいけないみたい」


俺が成長していて嬉しいのか、はたまた自分に対して王国魔導士団内で禁忌とされている魔法を使われて悲しいのかは分からない。


取り敢えず、分かることは一つ。


エリーナ姉さんを食い止めなければならない。


「プライス! 痛い思いしたくないなら、大人しくしなさい!」

エリーナ姉さんが賢者の杖を構えて魔法の詠唱を始めた。


だけど、遅いよ。


雑音ノイズ


「!?」


俺の魔法によって、魔法詠唱が不発に終わり、また驚くエリーナ姉さん。


「エリーナ姉さん、ごめんね。確かにエリーナ姉さんは強いよ。でも、"破壊"や"雑音"っていった禁忌魔法を使えるんなら、俺は負けないし、エリーナ姉さんは俺には勝てない」


……こんなやり方でしか勝てないのは卑怯だってのは分かっている。

ただ、家や街に被害が出ることは避けたいからな。

しかし、エリーナ姉さんは構えていた杖を下ろした。


「……成る程、そうみたいね。降参、降参。プライス、強くなったわねえ。で、私の部屋で何をしているの?私、部屋に侵入者を検知する魔法を掛けているから。それだけ聞かせて欲しいわ」


だから、エリーナ姉さんが仕事中にも関わらずすぐに来たのか。


「エリーナ姉さんが着ないローブ沢山あったからさ、ダリア用に数着ほど貰ってこうかなと」

正直に目的を話した。

すると、いつものようににこやかなエリーナ姉さんに戻った。


「なーんだそんなことか! もう! プライスってば言ってくれれば一杯送ったのに! それでダリアちゃんが中で着替えているのね? だから部屋に侵入者が入った事になっているのか!いやー勘違いしちゃった」

そう言って、エリーナ姉さんはいつの間にか張っていた魔法障壁を消す。


……オイオイ、抵抗されていたらマジで魔法でやり合うつもりだったのかよ。


「ちゃんとお金は払うつもりだったよ。キャッチしてね」

エリーナ姉さんに金貨を二枚ほど投げる。

「うわっと……ちょっとお金投げないでよ。常識無いわねーって金貨二枚も良いの?」

「金貨一枚は勝手に部屋へ入ったお詫び」

「全く……」

こんなやり取りをしているとダリアと新人魔法使いの子がエリーナ姉さんの部屋から出てきた。


「似、似合うかしら……」

ピンク色のローブを着て、ダリアは恥ずかしそうに聞いてくる。

「いや、ローブに似合うも何もねえよ。それより、ちゃんと性能の良いローブ貰ってきたんだろうな?エリーナ姉さんに金貨二枚も払ったんだから」

「えっ……? エリーナ?」


俺が指を指す方にいるエリーナ姉さんを見て驚くダリア。


「全く……ダリアちゃんったら、プライスに唆されてライオネルの王太子との縁談を破談にして、プライスと一緒に次の王になる為の実績作りの旅に出るんだって? 大騒ぎしてたよ?みんな」

そんなダリアを見てやれやれと呆れるエリーナ姉さん。


「騒がせてごめんなさい……エリーナ。最初プライスに言われた時は戸惑ったわ。だけど、後悔はしていない。でも、あれだけの言葉をプライスに言われたら、付いて行きたくもなるわ」

顔を赤くしてダリアは俺を見てくる。


「……へープライス、ダリアちゃんに告白したんだ。まあダリアちゃんも明らかにプライスの告白待ちだったし。だから、あれだけ縁談を破談にしてきた訳だしね」

「なっ……エリーナ!」

何だか知らないけど二人で訳の分からん事で盛り上がっている。


俺、付いてこいっては言ったけど、告白なんかしてないぞ?


コイツら……一体何を勘違いしているんだ……。


まあ、バカ正直に王都の連中が思ったより大した実力がなさそうだから任せられないと言うのだけは辞めよう。


エリーナ姉さんは実力があるし尊敬してるけども、俺が大したことないと評価している王都の連中の中の一人な訳だしな。


「それより、貴女! 勝手に私の部屋に通しちゃダメでしょ! 話は後で聞くから! ほら! さっさと仕事へ戻る!」

「す、すいません! エリーナ様!」

ダリアの後ろでビクビクしながら隠れていた新人魔法使いの子は急いで仕事へと戻っていった。

……頼んどいてアレだけど、可哀想だな。


「それじゃ、プライス。ダリアちゃん。頑張ってね!私個人もだけど、私達王国魔導士団も次の王に相応しいのは第一王子よりもダリアちゃんだと思ってるから!」

そう言って、エリーナ姉さんも新人魔法使いの子を追うようにして仕事へと戻っていった。


「……兄さんって、やっぱり人望無いのね」

「まあ、そうだろうな。残念だけど」


エリーナ姉さんの言葉に、俺達は苦笑いするしか無かった。

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