第12話 王家同士の縁談を破談に

「これはこれは、流石ライオネル王国最強の兵士こと"将軍"様、詠唱短縮ショートキャスティングで魔法詠唱がわずかしか無かったにも関わらず良く気付かれましたね。いやいや、兵士の質も数も高く評価されているライオネル王国の中で最強と言われているのも頷けますよ」


縁談の行われているテーブルへ着いた俺は、素直に魔法を使おうとしていた事を認める。

それを聞いた将軍様はライオネルの王子を守りながら俺に対して敵意を向けてくる。

体や顔に無数の傷があるだけでなく、まるで鎧を纏ってるような肉体をしている人に敵意を向けられると威圧感を感じるな。

しかし、次に口を開いたのは将軍様では無かった。


「お前は何をしているんだ! 突然王都から居なくなって帰ってきたと思えば、王家同士の縁談という場で両王家に対する無礼な態度! それに行動! 今すぐ謝罪しろ!」

縁談の仲介人をしていた親父が激昂していた。

その親父を見て第一王子は何も言えなくなっている。


「騎士王よ? この者と知り合いなのですか?」

仲介人の親父のあまりの豹変に冷静さを取り戻したのか、それともただドン引きしているだけなのかは分からないが、将軍様の目が俺から親父に向けられる。


親父と将軍様のやり取りを聞いた上に説教を喰らうなんて事は面倒なので俺はライオネルの王子様に中身が見えるように持っていたかごを見せる。


「おお! そなたが手に持っているかごに入っているのはリンゴでは無いか! トニー! この者は私の好物であるリンゴを届けに来たのだ! な、そうだろう!?」

中身がリンゴだと分かるやいなや、ライオネルの王子様は滅茶苦茶テンションを上げていた。

チラッとオバハン(女王とお袋)二人の話を聞きながら縁談も見ていたけど、ダリア様とかと話していた時よりもかなりテンション高いんじゃないか?


「そうです。ライオネル王国の王子様がリンゴが大好きということで、イーグリット王家や多くの貴族達を虜にしている農園からの最高級品を産地直送の上に、魔法障壁で傷が付かないように厳重に扱わさせて頂きました。先程、私が魔法を使ったのはリンゴに傷を付けないように魔法障壁を消す為ですよ」

笑顔で若干嘘(大嘘)を交えながら、王子様へリンゴを献上する。


「何だこのリンゴは! まるで赤い宝石のようだ! トニー! 食べて良いか!? 食べて良いよな!?」

リンゴが入ったかごを俺から受け取った王子様は興奮していた。

……よっぽどリンゴ好きなんだな。

一国の王国の次期国王とは思えんほどはしゃいでるぞ。

まあ、あそこの農園の最高級品のリンゴは俺も食べたから分かるが、はしゃぎたくなるほど美味いのは認める。

リンゴ好きなら食べなくてももう美味いと分かってしまうんだろう。


「王太子様……嬉しいのは分かりますがこのような場で私のことをトニーと呼ぶのはお辞めください……しかし、それにしても見事なリンゴだ。そうでした王太子様、まず私が毒見を致しますのでお待ちください」

「お前も食べたいだけだろ! このまま丸かじりでいいんだよな!」


二人とももうリンゴを食べたそうにしていたので、俺は親父やダリア様に目配せをした。

イーグリット側の二人は構わんと言いたげだったので、何も言わず俺も頷く。


「はい。すぐに食べられるようにしてあります。やはりリンゴは丸かじりに限りますよ」

俺の言葉を聞いた二人は、かごからリンゴを取りかじりつく。


「美味い! これが噂のイーグリットのリンゴか!」

「わざわざイーグリットまで来た甲斐がありましたね! 王太子!」


……いや、リンゴを食べにイーグリットに来た訳じゃねえだろ。

ダリア様との縁談をしにきたんだろ。

ダリア様ちょっと引いちゃってるじゃん。

女王も、この人達のどこを見て素敵な人だと思ったんだ?


「そんなに美味しそうに食べて頂けるんでしたら、もっと沢山持ってこさせれば良かったですわ。これを機に海産物だけでなく、イーグリットの農作物もぜひライオネル王国に輸入して貰えると嬉しいのですが……」

おお、ダリア様がちゃんと第二王女っぽいこと言ってる。

確かに、イーグリットとライオネルの関係って海産物ぐらいしか無いもんな。


「……それはそうなのだが、イーグリットの農作物は高いからな……なあトニー? 私も食べたい食べたいと思っていたがライオネルの農作物に比べて高いのがな……」

「左様でございますね……。美味しいのは認めますが、あまりに高過ぎる。山が多いので輸送する費用が掛かってしまいますからね。海産物はライオネルに海が無いからイーグリットから買うしかありませんが、農作物はライオネルでも出来ますからね……味は落ちますが」


成程な。

やっぱりそれがネックになるよな。

だからといって、農作物を奪って良い訳じゃないんだがな?

縁談を壊すための良い切っ掛けになりそうだと感じた俺は、ライオネル王国の山賊集団の件に触れる。


「はっはっは、ご冗談を? 食べたことが無い? 自国の山賊の隣国からの略奪行為を黙認しているんですから、戦利品としてイーグリットの農作物を献上させてるでしょう?」


俺の言葉は縁談の和やかなムードを一気にぶっ壊すには十分だった。


「……美味いリンゴを献上してくれた事に銘じて、今の言葉を聞かなかったことにしてやるぞ? なあトニーよ?」

「王太子様は、心がお広い。騎士王、いい加減この無礼者が誰なのかを説明してくれませんか?」

二人ともさっきの親父みたいに激昂はしていないが、怒っているのは分かる。

将軍に聞かれた親父は喋ろうとはせず、俺を見てお前が何とかしろと訴えかけてきた。


「申し遅れました。ライオネル王太子様と将軍様、私の名前はプライス・ベッツと申します。そこにいる騎士王ロイ・ベッツと先程ご挨拶しているでしょう大賢者マリーナ・ベッツとの間に産まれた者です」


二人はとても驚いていた。

当然といえば当然だろう。

俺の二人の姉達が騎士と魔法使いとして王国に支えているのを見ているはずなんだから、騎士の格好も魔法使いとしての格好もしてない俺を見て、騎士王と大賢者の息子とは思わないだろう。


「それで、さっきの言葉の意味ですが、私とダリア様はライオネル王国の山賊集団に襲われているからこその言葉ですが?」

俺の言葉を聞いた二人は、更に驚く。

俺だけじゃなく、縁談相手のイーグリット第二王女が自分達の国民に襲われているという事実はライオネルにとってはまずい事だろうからな。


「それは、本当なのですか!? ダリア様!?」

俺に全てを投げたはずの親父が、口を開く。

「……ええ、本当よ。農園へライオネル王太子様へお渡しするリンゴを探しに行った日、偶然農園からの依頼を受けたプライスと会ったのよ。農園の作物がライオネル王国の山賊集団の被害に遭ってるのは前々から知っていたから、その日の夜にプライスと一緒に見回りをしていたら、武器を持った山賊達が来たわ」


ダリア様が全面的に認める。

そして、やはりダリア様はあそこの農園が山賊に襲われていたのは知っていたみたいだ。

「……そ、そんな……おい、プライス! そんなことは私の耳に入っていないぞ! どういう事だ! 説明しろ!」

ダリア様から衝撃の事実を知らされた親父は俺を怒鳴り出す。


お前に怒鳴る権利なんてねえよ、親父。


俺もいい加減に頭に来ていた。


どいつもこいつも、俺にあれだけ文句を言ってきていながら、全く役に立ちやしねえ。


批判や文句は受け入れるさ。


俺が実力無いのは自他共に認めることだし。


ただ、俺が想像していた以上にイーグリットは使えない奴らで溢れていた。


もう良いよ。


お前らになんか期待しねえよ。


だから、俺は言いたいことを言うことにする。


「ふざけんじゃねえ! ダリア様をライオネルの山賊の手から守ったのは、親父でもお袋でも王国騎士団でも王国魔導士団でもねえ! この俺だ! 少なくとも何も知らずにダリア様を危険な目に遭わせたお前らに怒鳴る資格も文句を言う資格もねえんだよ! 役立たず共が!」


俺は親父だけじゃなく、周りの騎士団や魔導士団の人間にも聞こえるような声で反論した。

親父は想定していなかったのかまた黙りだす。


「何でダリア様も俺も言わなかったか教えてやろうか? お前ら王国騎士団か魔導士団か両方かは知らねえけどライオネルとの内通者がいるんだよ! ライオネル王太子様との縁談があるから黙ってたけどな! お袋も親父もライオネルの内情を把握してねえ上に自分達の部下の行動も把握出来ねえと来た! それで良く俺に文句を言えたな!」


親父だけでなく第一王子も驚いている。

当然だろう、イーグリット側にそんな人間がいたなど想像もしていないだろうからな。


「……すみませんけど、この縁談無かった事にしてもらって良いですか? 申し訳ありませんが、ダリア様とあなた方じゃ価値観が違い過ぎるし、何よりダリア様はライオネルの国民に襲われているんです」

俺はライオネルの王太子と将軍に聞く。


「なっ……プライス! 勝手な事を!」

「うるせえ! クソ親父! この役立たずが! 魔法でぶっ飛ばすぞ!」

それを聞いた親父がまた余計なことを言い出しそうだったが、黙らせた。


「……ふむ、美味いリンゴを食わせて貰ったし何よりこちら側にも非はあるからな。なあトニーよ?」

「そうですなあ。それにプライス殿にも勘違いして頂きたくないが、私達の国でも如何なる事があっても人を傷付けていいなんて事は認められていません。その山賊達の特徴を教えてはくれませんか?私共で処罰致します」

話が分かる人達で助かった。

しかも、山賊達の処罰まで約束してくれるとは。


「ダリア様を襲おうとした山賊達は、私の光魔法を喰らって目にダメージを受けていたみたいなので、目に異常がある者達は怪しいかもしれませんね」

「成程、了解いたしました。私も将軍としてライオネルの名前に泥を塗るような奴らは厳罰に処す方針なのでね」

「ありがとうございます。じゃ、ダリア様行きましょうか」

「え?」


ライオネル側から破談の了解が取れたので、俺はダリア様の座ってる席まで行く。

そして、俺の考えを伝える。


「もう、王都に頼れる人間はいません。親父もお袋もそして、王国騎士団も魔導士団も今回の一件でダリア様を守ることが出来ない連中と分かりましたし俺の方がマシだと気づきました。だから、俺に付いてきて下さい」

「……プライス? 本気なの? 何かあった時に貴方一人で私を守れるの?」

割とダメ元で言ったんだけどな。

意外と悪くない答えが返ってきた。


「責任は持てませんよ? けど、一人じゃないでしょ。ダリア様の援護魔法があるなら、王都にいる誰よりもダリア様を……いや、ダリアを守る自信はあるよ。その為に俺は魔法や剣技を周りに色々言われながらも磨いてきたんだから」


何故だろうか。


俺は昔のようなダリアへの接し方になっていた。


いや、そうすべきだと思ったんだろう。


「……そう、分かったわ。もう私も今までみたいに王国騎士団や魔導士団のサポートは出来ないと考えていたから丁度良いわ」


ダリアはライオネル側の二人へ一礼し、縁談が行われていたテーブルを離れ、王女と俺のお袋がいるテーブルへ行く。

勿論、俺も付いていく。


「……後は親父達で何とかしろよ。それぐらいの事はやれよ? 親父?」

散々バカにしていたはずの俺に言いたい放題言われて悔しいのは分かるが、口だけじゃないところを見せてみろという感じで俺は捨てセリフを吐いてしまった。

まあ、親父なら何とかするだろ。


「……話は全部、プライスに聞いていたわ、ダリア。ごめんなさい私にも責任はあるわ」

「お母様……」

女王は涙を浮かべながらダリアへ謝っていた。


「プライス? あんたあんな大口叩いてたけど本当に大丈夫なの? 多くの人間が聞いていたわよ?」

お袋は俺に疑いの視線を向ける。

「その言葉、そっくりそのままお袋に返すよ。もうちょっと王国魔導士団がマシになったら王都に戻ってくるかもな?」

「……分かってるわよ。必ず裏切り者は見つけるわ」


その言葉が聞けただけでも安心だよ、お袋。

なんやかんや王都は俺にとってもダリアにとっても大切な故郷なんだからな。

この言葉が聞けなければ、里帰りも出来ん。


「もうちょっと王国魔導士がマシになったと思える時が来たその時は、王国に仕える魔法使いにでもなってやるよ。エリーナ姉さんに全部聞いたよ。ちゃんと考えてくれてたんだな」

「あらプライス?融合フュージョン覚えたのね?」

「だから、エリーナ姉さんを責めるのは、勘弁してやってくれ。口では色々言ってるけどエリーナ姉さんの事、俺は尊敬してるから」

「えっ、セリーナは……?」

「こんな時でも出てこねえ時点で察しろ」

最後の最後まで俺とお袋はいつも通りだった。


そして、俺は女王にある決意を伝える。


「女王様、次の王に俺はダリアが相応しいと思ってます」

「「「……!」」」

俺の言葉を聞いた周りの人間は騒ぎ出す。

勿論、ダリアも女王もお袋も驚いている。


「だから、俺とダリアで女王様がダリアを次の王に選びたくなるような実績を作ります。ダリア、来てくれ」


ダリアを俺の側に来させる。

そして、抱き締めた。


「ちょちょちょっと!? プライス!? いきなり何!?」

「こうでもしないと一緒に王都から移動出来ないから仕方ない」

ダリアは顔を真っ赤にしていたが、そんなことを俺は構いもせずに魔法の詠唱を準備していた。


「じゃあ、お袋。そして、女王様。近いうちに俺が言ってたこと分かると思うから」

「一体、何をするつもりなの……?」

「はあ……あのバカ息子」

またしてもお袋と女王様は頭を抱えていた。


「プライス……?これからどうするつもりなの?」

ダリアは不安そうに俺を見る。

「大丈夫だよ、当てはあるからさ。それよりしっかり捕まってろよ?」

「う、うん」

顔を真っ赤にしながらダリアも俺を抱き締める。


瞬間移動テレポーテーション!」


この日を境に俺の人生は大きく変わるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る