第6話 プライスは報酬として大金を得る
「……あー、何時だ? そろそろ起きないと」
俺はまた昼まで寝てしまったのか。
部屋の窓から外を見ると、農園で働いてる人達が畑仕事に勤しんでいる。
「あれ? ダリア様?」
一緒のベッドで寝ていたはずなのだが、先に起きていたのかダリア様の姿は既に部屋からも無かった。
まあ、それもそうか。
一緒に部屋から出てきた所を農園の人達に見られようもんなら、只でさえダリア様の行動で勘違いされている俺達の関係が本物の関係だと思われてしまうか。
……噂の火消しもしなくちゃな。
農園に用意してもらった寝間着を脱ぎ、自分の服に着替える。
どうやら洗濯してくれていたみたいだ。
着替えた俺は部屋を出て、階段を降りる。
すると、メイドに声を掛けられてまた客間に通された。
「プライス様、申し訳ありませんが園長はダリア様をお見送りした後そのままお得意先へ向かった為不在です。報酬はご朝……いえもうお昼ですので昼食の後でお渡しします」
どうやら園長は不在のようだ。
参ったな、ダリア様との誤解を解きたかったのに。
「……第二王女はとてもご立腹のご様子でしたよ?」
メイドは心配そうに俺の朝食(時間的には昼食)を並べながら、ダリア様の様子を色々と説明してきた。
あんな奴もう知らないわ! とか期待した私がバカだったわ! とか俺の両親に報告する! と色々園長に愚痴っていたみたいだ。
俺達の関係の噂については説明しなくても大丈夫みたいだな!
王都に帰った時が心配だけど。
「プライス様、失礼ではございますが私も食事を一緒にしても宜しいでしょうか? お時間的に昼休みであることと第二王女からお伝えするように言われた事がございますので」
「構いませんよ」
メイドの頼みを了承すると、メイドはテーブルを挟んで俺の向かい側の椅子に座った。
……そんなことより飯、またパンと野菜かよ。
並べられた食事に既視感を覚える。
俺が泊まっている(住んでいる)宿屋の飯かな?
おかしいな昨日の夜は肉とかあったはずなのに。
何これ、第二王女が居なくなった途端この対応ですか?
そうですか。
いや、果物もお茶もあるけどさ。
文句を言いたかったが、タダで用意してもらっているので文句は言えない。
あ、でも美味いな。
一応全部、この農園で育てられた高級品ばかりだから当然だが。
「それで、第二王女から伝えてくれと言われた事はどういった事なんですか?」
ダリア様がメイドに伝えた伝言を聞く。
「ベッドの中での無礼を許して欲しかったら、王国に仕える騎士か魔法使いになりなさい! と仰られていました。……プライス様、一体何をしたんですか?」
メイドがゴミを見る目で俺を見てくる。
言 い 方 考 え ろ よ 。
まるで俺がイヤらしい事を第二王女にしたみたいじゃねえか。
「何もしてないですよ! ダリア様とは昔からの知り合いとはいえ、一応第二王女なんですから!」
洒落にならん誤解だ。全力で否定させて貰う。
「本当に何もしてないんですか?」
「本当に何もしてないですよ!」
俺の必死の否定に、疑い顔だったメイドは段々呆れ顔へと変わっていった。
「……恐らくですけど、何もしなかったからなのでは?」
「えぇ……?」
何だよそれ。
据え膳食わぬは男の恥とでも言いたいのか。
「相手は第二王女ですよ? 仮にそんなことして責任取れなんて言われたら堪ったもんじゃない! 定職にすら就いてないのに」
現状は修行中(個人的な依頼をこなしてその日暮らし)だからな。
メイドは今度頭を抱え始めた。
「その体たらくじゃ、ロイ様とマリーナ様が悲しみますよ……」
おい辞めろ、そこで親を出すな。
その言葉は俺の心に一番刺さる。
頭を抱えながら言われるのも更に悲しくなってくる。
「そもそも何故、定職に就いて居ないのですか?」
まーた、俺の心に刺さるような事を言ってくるなこのメイドは。
何なのこの人?
一応、俺客人だろ。
「ダリア様にも説明しましたけど、王国に仕える為に修行してるんですよ。今の俺の実力じゃ王国に仕える騎士や魔法使い、どちらかになるとしても力不足ですからね」
何度俺はこの嘘をつかなければならないのだろうか。
親の事を聞かれる度に一々この嘘つくの面倒なんだけど。
それに惨めにもなってくる。
騎士王と大賢者の子供にしては…と思われている気がして。
「別に私はプライス様が王国に仕える者として実力不足だなんて思いませんけどね? それに魔法が全属性使えるのに、同い年の中では五本の指に入るくらいの剣技も持っているって第二王女も仰られてましたし、私もライオネル人の山賊を追い払った光属性の魔法を拝見させて貰いましたけど、物凄い威力だったじゃないですか!」
全く困るなあ……ダリア様は。
ハードルを上げるなっての。
メイドが流石騎士王と大賢者のハイブリッド!だなんても言ってるじゃないか。(言ってない)
メイドにまで過大評価した俺の実力を話さないで欲しいね。
「あれは、ダリア様の強化魔法が凄いだけです。俺の能力を限界まで上げるなんて事をしたから、光属性の初級魔法なのに上級魔法並の威力が出てしまっただけですよ」
「それを抜きにしても園長も凄いって言ってましたし、夜勤の人達も凄いって言ってましたよ? やっぱり大賢者の血引いてるんですね」
なるほど、あの時の園長や夜勤の人達の笑顔は俺とダリア様の情事を想像してただけじゃなかったんだな。
「……でも、あれで良かったんですかね?大変なのはこれからですよ?ライオネルの山賊達が報復に来るかもしれないですし」
この農園はライオネル王国との国境にある。
略奪行為を平気でする奴らだ逆恨みしていてもおかしくない。
「それは問題ないです。その場合は第二王女が責任を持ってプライス様を派遣させるからと仰られてました」
「……何でだよ」
大問題だろ。
あいつらが来る度に俺はここの農園に来なきゃいけないのかよ。
「大丈夫ですよ。プライス様は
何で知ってるんだよ……。
あ、全属性の魔法使えるの知られてたんだった。
瞬間移動は魔力の消費が激しいからあんまり使いたくないんだよな……それに俺一人しか移動は出来ない。
つまり、俺一人で対応しろってことかよ。
「ダリア様の強化魔法が無いなら厳しいなあ……ちょっと」
「中級魔法も全属性使えるんですから問題無いのでは?」
「あっはい……そうですね」
もういいや、諦めよう。
大人しく受け入れようじゃないか。
「園長もタダで頼むつもりはありませんよ。うちの果物や野菜で作った高級ジャムやジュースを来て頂ける度にお渡ししますから」
「しょうがないな! やってやろうじゃないか!」
ここのジャムやジュースは市場で買えばかなりの値段になる。
それをタダで貰って売れば良い金になる。
毎日依頼なんかこなす必要も無くなるな。
これは、良い金づる……じゃなくて良い稼ぎ場だな!
◇
「それでは今回の報酬です。中身をご確認下さい」
昼食を食べ終わった俺は硬貨の入った袋を渡される。
さてさておいくらかな?
金貨が1枚ぐらい入っててくれれば、最低でも一ヶ月は働かなくて済むんだかな。
中身を確認する。
「おいおい! 嘘だろ!?」
袋の中身を見た俺は思わず驚いてしまう。
「どうしました!? 少なかったですか!?」
俺の反応に焦るメイド。
逆だ逆。
金貨九枚とマリア金貨一枚だと!?
そりゃ、園長が俺の事をこれからもライオネル人の山賊退治の為にここの農園に来させるつもりでいる訳だよ。
この国の通貨は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、そしてイーグリット王国女王マリア・イーグリットの顔が刻まれているマリア金貨がある。
銅貨が鉄貨十枚分、銀貨が銅貨十枚分、金貨が銀貨百枚分、マリア金貨が金貨十枚分だ。
ちなみに俺が泊まっている宿屋が朝食と夕食付きで一日銀貨五枚だ。
ということは……?
おいおい、この袋の中に入ってるだけで銀貨千九百枚分かよ。
毎日宿屋に籠ってりゃ一年間は働かなくても良くなるじゃねえか。
あーあ、益々俺がダメになるぜ!
「それとこちらは、私達従業員からです。この農園の野菜や果物の最高級品を厳選させて頂きました。ぜひ、騎士王ロイ様や大賢者マリーナ様だけでなく、セリーナ様やエリーナ様にも味わって頂ければ、私達にとっても幸いです。ワインやジュース、ジャムもぜひお持ち下さい」
おいおい、ここの農園の最高級品だと?
この果物や野菜だけで金貨数十枚ぐらいの価値はあるだろ?
そこにここで作られた加工品?
俺は確信した。
今 な ら 王 都 へ 戻 っ て も 怒 ら れ な い 。
これを持ってダリア様より早く王都へ着けばな。
「すぐに王都へ帰ります。色々ありがとうございましたと園長にお伝え下さい。ベッツ家の名に掛けていつでもここの農園をお守りします!とも!」
「え? か、畏まりました。……でも、この量の野菜や果物を一人で運ぶんですか?」
メイドは困惑している。
「
余裕だ。これぐらい!
その後、調子に乗って王都と農園の瞬間移動を十数回繰り返し、魔力切れを起こしそうになった事は言うまでもなかった。
加工品は、別な日に持って帰れば良かった。
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