第7話 二ヶ月ぶりの帰省
「……頭痛い、ああ頭痛い」
久し振りの王都、久し振りの自分の部屋のベッドだというのに、俺は魔力切れを起こしかけていたため頭痛に襲われていた。
農園と王都を
折角回復魔法が使えても魔力がなければ使えない。
こういう時、いつも魔法が出来る方の姉を思い出す。
……ここが俺とエリーナ姉さんの違いなんだろうな。
俺もエリーナ姉さんみたく莫大な魔力量があれば、魔法使いとして活躍出来たんだけどなあ…。
まあ、俺も魔法はそれなりに優秀という評価は受けているんだよ。
全属性の初級、中級魔法は使えるし。
というか全属性使えるなんて奴は俺は見たことない。(俺以外で)
だからお袋からも薦められたけどさ、魔法使い。
でも、魔力量が足りなすぎる。
役職などに付いていない魔法使いよりは魔力量が上だとは言われたけど、賢者クラスにはとてもじゃないがなれないと言われるレベルだ。
つまり、俺が王国に支える魔法使いになんてなったら一生下っ端確定なんですよ。
役職に就かないととてもじゃないが給料なんて安い。
それでも定職に就かないよりはマシだから、お袋とエリーナ姉さんに魔法使いに無理矢理させられそうになったから何も言わずに王都から逃げ出したんだよな。
でも、すぐに貴族経由でバレて、王都からいなくなった適当な理由として修業の旅に出たんだ!って言ったんだった。
だから一応修業の一環として魔力消費を抑えられる
ダリア様に土下座して、やっぱり教えてくださいって言おう。
「プライス様、エリーナ様がお呼びです」
「うわっ!」
いつの間にか入ってきていた魔法使いが不穏な事を言い出す。
「いや、ノックして下さいよ」
「したのですが、呻き声しか聞こえなかったので」
俺が気付かなかっただけだというのか。
というかこの家フリーパス過ぎんだろ。
騎士か魔法使いなら誰でも入れるようになってるよな。
「後、様って辞めて欲しいって言ってるじゃないですか。同い年でしょう?」
俺の部屋に入ってきた魔法使いの女の子は、黄色い腕章をしていた。
騎士も魔法使いも一年目は黄色い腕章を付けて、新人だと分かるようにしている。
目の前の魔法使いの子も新人だ。
ということは俺と同い年のはず。
「いえ、私はエリーナ様の部下です。エリーナ様の弟であるプライス様にも馴れ馴れしくする事は出来ません」
エリーナ姉さん、もう部下を持つようになったんですか。
おかしいよ。俺と三歳しか変わらないのに。
エリーナ姉さんより年上の部下とか絶対いそう。
「というか、エリーナ姉さんが呼んでるんですか? エリーナ姉さん今日仕事ですよね? 後で行きますよ」
魔力切れ寸前の状態なのに、行ってられるか。
「いえ、エリーナ様は今日、有給休暇です。もうお昼ですよ? プライス様? いい加減起きたらどうですか?」
「え?」
マジかよ。
昨日瞬間移動しまくった後、疲れてそのまま寝たのか。
そりゃ頭も痛くなるわ。
魔力切れ寸前のまま寝たんだし。
にしても、誰も起こさねえのな。
昨日の夕方には戻ってきていたはずだ。
土産だけ持っていって俺の事は夕食にも朝食にも呼ばないとか……
「……ポーション持ってませんか?俺色々あって魔力切れ寸前なんですよ」
頭痛を堪えながらベッドから出る。
魔法使いなら国から魔力回復用のポーションが支給されているから彼女も持っているはずだ。
「プライス様? このポーションは一般人の為の物じゃないことは分かってますよね?」
分かってるよ。
うちのお袋特製のポーションだろ。
経費削減の為にあんまり使うなって言われてるんだろ。
一般的に市販されているポーションより即効性が大分違うし、何よりポーションのクセに滅茶苦茶飲みやすい。
「銀貨十枚で」
「仕方ないですね」
うん。やっぱり給料安いんだろうな。
銀貨十枚でそんなに嬉しそうにするなんて。
まあ、宿屋なら二泊分だもんね……。
「じゃあ、プライス様は私の膝に寝てください」
ポーションの入った瓶から栓を抜いて貰い、何と膝枕をして貰いながら飲ませて貰う。
「口開けて下さ~い、プライス様」
ここまでして貰うつもりは無かったのだが。
魔力切れ寸前の今の俺に自力で飲む力はない。
ゆっくり瓶を傾けて貰い、少しずつポーションを飲ませて貰う。
……こんな所を今日休みだというエリーナ姉さんに見られたらロクな事にならんぞ……。
「ねえ?プライスを呼ぶのにいつまで時間掛かってるの?もう昼休み終わるわよ……ってあらやだ」
ノックもせずに入ってきた女。
間違いなく俺の姉エリーナ・ベッツであった。
最 悪 だ !
エリーナ姉さんに見つかったよ!
てか、ノックしろよ!
俺のプライバシー無いのかよ!
「すいません、エリーナ様。プライス様が魔力切れ寸前だったものでポーションを飲ませていました」
「ふーん、魔力切れねえ?」
エリーナ姉さんはニヤニヤしながら俺を見る。
絶対この人ロクな事を考えてないよ。
「ありがとう。もう一人で飲めるよ」
ある程度魔力が回復したので、すぐに起き上がってポーションをがぶ飲みする。
流石、お袋特製のポーション。
さっきまで魔力切れ寸前状態だったのに魔力が有り余ってる。
「もういいわよ?そろそろ昼休みも終わるし、貴女は仕事に戻りなさい?」
「はい、分かりました。エリーナ様。あ、プライス様! ありがとうございました!」
新人の魔法使いの子は嬉しそうに仕事へと戻っていった。
「……ありがとうございました! ってプライスがお礼言うべきなんじゃないの? 何であの子が?」
言えない、言えないよ。
安月給の子に銀貨十枚渡してたなんて。
お金であんなプレイを頼んでしてたみたいじゃないか。
「ほら、俺が持ってきたお土産で、貴族や王家御用達の農園の果物や野菜をあげたからだろ。中々食べれるもんじゃねえだろ、アレ」
まさか、あの量を家族四人だけで食えるわけないし。
……配ったよな? まさか皆に?
「あー! あの子そういえば美味しそうに貴方のお土産のフルーツジュース確か飲んでたわ!
そういうことね!」
良かった。何とか金でプレイを頼んでいたみたいな疑惑を持たれずに済んだな。
「で? そのお礼にあんなことさせたの?」
エリーナ姉さんはニヤニヤしながら俺を見る。
「マジで魔力切れ寸前だったんだよ! で、何の用?」
「へえー黒髪ロングの清楚系が好みなのかあ……」
「瞬間移……」
「わー! 分かった! 分かったから!」
エリーナ姉さんがバカにしてくる気満々だった為瞬間移動で逃げようとするが止められる。
「で? 本当に何の用?」
「新しい魔法の実験をするの! 全属性の魔法が使えるプライスにしか頼めない事があるの!」
新しい魔法の実験?
そんなこと有給休暇を使ってまでやるなよ。
「断っても良いけど、さっきの事ママに言うから。新人の子に手を出したって」
「はいはい分かったよ。やりますよ。やらせて頂きますよ」
お袋にチクられるのも不味いが、ダリア様の耳に入るのも不味いからな。
ここは、大人しく従おう。
「じゃ、これに着替えて」
服を渡される。
「これ、王国魔導士団の服じゃん」
「流石に大賢者の息子とはいえ、職業不詳の一般人を新人魔法使いの見本になんかさせられないでしょ? アンタの事王国魔導士団の一員として臨時採用したから」
「ええ……?」
王国魔導士団。
まず、一年間は魔法使いとして新人教育を受けて、そこから王国魔導士団に入る試験を受けられるようになり合格したら入れる。
毎年合格率は二割程度あれば良い方で、一割に満たない年もある。
一生入れない魔法使いも普通にいるのにこんな特別扱いして良いのかよ。
そんなことを考えながら着替える。
「あれ? プライス、杖は?」
「詠唱短縮取得したから持ってない。というか実験なら威力が少ない方が良いだろ」
「へえ……ちゃんと修業してたのね。確かに詠唱短縮はプライスみたいに全属性の魔法を使える人と相性良いかもね」
「失礼な……」
まあ、修業なんかしてないけど。
詠唱短縮とか一日も掛からず覚えたし。
「でも、やっぱり詠唱短縮取得したならダリアちゃんみたいに無詠唱取得した方が良いわよねえ」
「はいはい、それはダリア様が帰ってきたら教えて貰うから。それより俺の飯は?」
「無いわよ?」
「……ああ、そう」
この家、俺に厳しすぎるだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます