第2話 王家御用達の農園の問題
話題を変えよう。
このままじゃ、サボっていただけなのがバレるからな。
「しかし、前に来た時も思ったのですが、ここの畑の野菜や果物は水魔法で生成した水は使ってないんですね」
一般的に広大な畑を持つ農家は水魔法を使って水を用意するんだが、ここではそんな気配が一切無い。
「やっぱり、人の手で作られた水より自然の水の方が、栄養もあるし美味しいからね。美味しい水を与えた方が美味しく育つのは当然だよ」
「聞き捨てならないですね」
園長の言葉に、俺は異論を唱える。
「優れた水魔法を使える人間ならば、自然の水を美味しさでも、栄養面でも上回る水を生成出来ますよ」
「……面白い冗談だね」
園長の顔から笑顔が消えた。
「折角ですし、お詫びも兼ねて修行の成果を見せますよ。新しい茶碗をお借りしても?」
「ああ、構わないよ」
許可を得たので、茶碗を受け取り俺は水を生成する。
「
詠唱によって出来た光から水がチョロチョロと出て、茶碗に注がれていく。
「どうぞ、味も栄養も保証しますよ」
園長に水の入った茶碗を差し出した。
何故か、驚いてるが。
「……今、どうやって水を?」
「どうやってって、ちゃんと魔法使ってたじゃないですか」
何故か、不思議そうにしながら水を飲む園長。
水を飲んでからまた一段階不思議そうにしだしたが。
「凄い……まるで雪解け水のような甘さだ。驚いたよ」
雪解け水なんて、俺飲んだことねえな。
まあ、味に納得してもらったようだ。
「大賢者の母みたいに水魔法で威力のある攻撃魔法を出すことは俺には出来ないですからね、なら味を極めようかと」
「どうしてそうなる!?」
「戦場でいつでも美味しい水にありつけるとは限らないですからね、不味い水を飲んで士気は上がらないでしょう?」
「……な、なるほど」
親から来た手紙の中に、園長が俺がただサボってるだけと疑っていると書いてあったからな。
それなりのスキルは見せなければ。
「それと園長が不思議だったのは、
「そうだ。私も水魔法を使えるが、水魔法の詠唱でそんなに短い詠唱は聞いたことなかったからな」
「詠唱短縮は、嫌われてますからね。杖なしで魔法が出来る事と早さ、魔力の消費を抑えられる事がメリットですが、威力は通常詠唱より落ちるし、杖を必要としないので杖の付随効果が意味を成さないなどのデメリットが大きすぎる」
「私もそれは聞いたことがある。詠唱短縮は、戦いにおいては不必要なのではないか?」
その質問を待ってたぜ。
「普通の人間ならばそうでしょうね。ただ、俺の場合は全属性の初級、中級魔法は使えるので、モンスターや相手の装備の弱点属性で攻められるので、多少威力が落ちても手数で勝てます」
「なんと、そうだったのか……。すまない、てっきり君は冒険とは名ばかりの自堕落な生活を送っているとばかり……」
……やっぱりな 。
絶対園長にそう思われてると思ったよ。
「森で上級魔法なんかぶっ放したら、森だけじゃなくて農園や農園で働く方々にも被害が出ないとは限らないですし、俺は杖を持ってなかったので、どうしても杖が必要の無い詠唱短縮の習得が必要だったんです。そのせいで時間が掛かってしまいました。本当に申し訳無い」
「杖ぐらい持たせて貰えなかったのかい?」
「杖どころか金すら持たせて貰えなかったですね」
「実に厳しいんだね……君の親は……いや、騎士王と大賢者は」
正確に言うと手紙だけ書き置きして何も持たずに王都から逃げ出しただけなんだけどな。
しかし、これでどうやら今度は本当に許して貰えたみたいだ。
許して貰えた所で、本題に入ろう。
「そういえば、森で冒険者達が駆除していたモンスターを見て、本当にあのモンスター達程度でここの従業員の方々が張っている魔法障壁を破れるのか疑問だったんですよね」
「障壁自体はそんな厚く無いからね。攻撃を受ければ破壊されてしまうのは仕方無いよ」
確かに農園の広さを考えたら分厚い障壁を張るのは難しいが。
ここは正直に思ってる事を言おう。
「俺はモンスターではなく、人の手によって障壁は壊されて、畑は荒らされたと思っています」
◇
「余計な事言わなければ良かったな……眠い」
すでに夜中だというのに、俺は宿に帰って寝ることもなく、依頼をサボった(恐らくバレてない)事のお詫びとして農園の見回りをしていた。
余計な事。
昼間に農園の畑を荒らしているのは、モンスターではなく人だと思っていると園長に言ってしまった事だろうな。
障壁を壊してるのも人の手でだと。
……だが、俺がここに居なければならなくなった原因はそれだけではない。
「ちょっと! 私の事を一人にしないでよ! 貴方の親に言いつけるわよ! プライス!」
畑の見回りというには不相応な黄色のネグリジェを着た偉そうな銀髪の女に俺の中では一番嫌なことを言われる。
というか一つ言って良い?
何 で こ こ に 第 二 王 女 が 居 る ん だ 。
イーグリット王国第二王女。
ダリア・イーグリット。
実は俺と同い年で、昔からの知り合いだったりする。
俺ぐらいの年になってれば、王族の人間は結婚しててもおかしくないのだが、第二王女はまだ結婚はしていない。
何でも、好きな人がいるらしく、縁談を尽く断っているみたいだ。
別に王族ならその好きな人とやらに女王が命令すれば簡単に結婚できるのに頑なに相手の名前は言わないらしい。
何でも自分の力で相手を振り向かせたいようだが、昔からの知り合いの俺から言わせれば、戦場で戦う兵士達のサポートが出来なくなるので結婚したくないだけでそんな相手はいないのだろう。
俺の
威力は詠唱短縮と同じように通常魔法より落ちるのは当然だし、杖が不要なので、杖の付随効果が意味が無くなる。
しかし、不意を突けるのでさして問題では無いだろう。
いずれは、俺も無詠唱を取得したいものだ。
彼女は攻撃魔法と回復魔法は使うことが出来ないが、詠唱無しで初級防御魔法と能力強化魔法が全て使える。
つまり、彼女が戦場にいれば相手国は知らない内に攻撃力や耐性の上がったイーグリットの兵士達と戦うようになるわけだ。
まあ、第二王女は一人じゃロクなモンスターも倒せないって噂で有名だけど。
「……うるせえな。森に置き去りにすりゃ黙るかな……」
「ちょっと!? 冗談でもそんなこと言わないでよ!」
もう夜中だぞ。何でそんな元気なんだよ。
そんで聞こえないように呟いたはずなのに何で聞こえてんだよ。
後、近くね?
というか、腕組んでね?
いつの間に。
あーこの人大して胸大きくないから気付かなかったのか。
「何か失礼な事考えてない?」
うわっ! バレてた!
「……いつものダリア様らしくないなと。噂通りマジで一人じゃモンスター倒せなかったりします?」
本当に失礼な事を考えていたので、それを誤魔化すついでに噂の真相を聞いてみる。
腕まで組んでるのは本当にモンスターが倒せないから、不安でしょうがなくてなんじゃないかと勘繰ってしまう。
「うるさいわね…本当に貴方の親に王女である私を見捨てて逃げようとしたって言うわよ」
「見捨てないから安心して下さいよ」
「……どうかしらね。私に何も言わずに王都から居なくなってしまった貴方が言えるセリフかしら?」
彼女はそう言って、さっきより力を入れて腕を組む。
「……言えば、止められるのは分かってましたからね。それに今の俺の実力じゃ国に仕えた所で、大して役に立ちませんよ」
「それでも……一言くらい何か言って欲しかったわ」
何か、言って欲しかった、か。
でも、それは無理だ。
俺は修行の為に王都を去ったんじゃない。
小さい時から勝手に王国に仕える事を希望していたし、周りも俺が両親や姉二人のように立派な騎士か魔法使いのようになるのだろうと期待していたはずだ。
だけど、皆が期待する理想の俺の実力と現実の俺との実力の差に気付いて、責任の重さや命懸けというリスクに見合わない報酬だと感じて、それでもやっぱり俺は両親達や姉二人のようになることを求められて。
だから、嫌になって家族にさえ何も告げることなく逃げ出した訳だしな。
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