騎士王と大賢者の間に産まれた男だけど、姉二人と違って必要とされていないので国には仕えません!

石藤 真悟

第一部 名家の暴走と傀儡となった女王

第一章 騎士王と大賢者の間に産まれた男

第1話 騎士王と大賢者の間に産まれた男

「……うーん、腹減ったな……」

男は眠そうにベッドから出る。

しかし、とっくに朝どころかもう昼だ。

街は活気に溢れているというのに、よくもまあこんな時間までぐっすりと寝れたもんだ。


ま、何時だか分からないんだけどな!


男は自嘲的に笑いながら、生活に必要な最低限の物しか置いていない部屋から出て、宿屋の食堂へ向かう。


「腹減った、何か食わせてくれ、贅沢言わないから安くて旨くて腹持ちが良いなら我慢するから」

「十分贅沢よ……。それよりもプライス、貴方いつまで寝てるの?」

俺が宿泊しているというか、もはや賃貸のように部屋を借りて家にしてしまってる宿屋の娘の彼女に寝起きに嫌味を言われる。


「うげっ、パンと野菜だけかよ……」

悲しいなあ……自分が起きるのが遅かったせいとはいえ、これじゃすぐに腹減るぞ……。

まあ、ここは飯は売りにしてないからな、宿代の安さと部屋のキレイさが売りなだけだし。


「何か私、一品作る?」

「いや、俺が起きるのが遅かったのが悪いから。それよりも部屋の掃除を頼む、食べたら宿代を稼ぎに行くから軽めの方が良い」

「それなら、食べ終わったら食器は洗い場に置いといてね」

そう言って彼女は俺の部屋もある上の階へと向かっていった。


彼女の好意を無駄にした?

いや、一品作られても俺が困る。

何故なら俺は今、金欠だ。

すぐに食べ終わった俺は、食器を洗い場に置いて、大分前に個人的に頼まれていた依頼と食料調達をする為に森へと向かった。



宿屋を出て街から外れた森へ向かう。

個人的に頼まれていた依頼というのは畑を荒らすモンスターの駆除だ。

依頼主は森の近くで野菜や果物を作っている農園の園長なのだが、といってもただの農園ではない。


貴族御用達の高級品を栽培しているため、貴族から一目置かれているらしい。

ただ、高級品ということは少し荒らされただけで莫大な被害になってしまうし、少しでも傷がついたり汚れたりしただけで貴族には売ることが出来ない。

だから、頼まれたというわけだ。


……二ヶ月前にな。


忘れてた訳では無い。

ただモンスターの駆除をする為に必要なスキル習得の時間と金が……。

だが、これ以上待たせたら報酬どころか刺客を送られてしまう。


時間が掛かる為後回しにしていた(面倒だった)が、流石に貴族経由で王都にいる親から連絡が来るなんて……。

貴族の中でも上位の方かな?

辞めてくれよ……親に告げ口するなんて。

連れ戻されるな、こんな生活してるのバレたら王都に。


とっとと終わらせるかと考えながら森の中を進んでいると目的地に着いた。

しかし、多くの冒険者と思わしき人々がモンスターを駆除していた。

話を聞いてみると一週間程前に、国境の森でのモンスターの駆除依頼がギルドへ入った為らしい。


……遅かったか。


モンスターの駆除は依頼を受注していた冒険者達に任せて、俺は個人的に頼んできた人物の元へと行くことにした。



来た道を少し引き返して、森近くの農園に俺は着いていた。


「森が近いのに虫も野生動物もモンスターもいないな」


依頼内容を聞く為に呼ばれた時も一度来たことがあるが、そこら辺の市場で売ってる野菜や果物とは違うことが、素人目に見ても畑を見れば一目で分かる。

傷があったり、汚れていたり、形が悪かったり……。

普通はそういった規格外の品も少なからずありそうだが、ここの農園には一切無い。

まあ、貴族様が食べる高級品だから当たり前なのかもしれないが。


しかし今、俺が見ている光景が異常だと思える一番の原因は、この農園の従業員がわざわざ魔法を使って畑を障壁で守ってるせいだろうな。


聞いた話だと、交代制で絶えず広大な畑を魔法を使った障壁で守っているみたいだ。

百を超える従業員が連携して障壁を作っているのは壮観だ。

だが、障壁のような防御魔法とモンスターを退治できる程の威力を持つ攻撃魔法を兼ね備えている人間はここの農園にはほとんどいないらしい。


まあ、それは当然と言えば当然なのだが。


なぜなら、防御魔法の方が攻撃魔法よりも簡単だからだ。

防御魔法は、詠唱こそ長いものの、一回成功すれば長い時間持つし、何より自分や味方に掛けるので、標的は動かない。


攻撃魔法は、威力も求められれば、命中率も求められるし、モンスターへの相性もある。

他にもモンスターによって当てる場所を変えなければいけないなどのセンスを求められる。

……というか、攻撃魔法の難しさを上げたらキリがないな。


まあ、そんな人材はそこら辺にゴロゴロいないし、そんな人材がいたらいたで奪い合いになる。

いくらこの農園が金持ち相手の商売してるからって、人件費は抑えたいはずだ。

そんな人材は一割もいたら上出来だろうな。


「……俺もこの農園に産まれていればそんな人材になれたんだけどな」


誰にも聞こえないように、小声でボソッと独り言を言った。


こんな事を言ってはいけないし、思ってはいけないのは分かってる。


ただ、俺より下の魔法しか使えない人達が、褒められたり必要とされていることに違和感を感じてしまうのだ。


……俺は、必要とされて来なかったから。


俺が何かしようとしても、王都の人達は俺じゃなくて親父やお袋や姉貴二人に頼むので、俺を頼ってくれないから。


俺が何か出来るようになっても、王都の人達は親父やお袋や姉貴二人がそれ以上の偉業を成し遂げるので、俺を見てくれないから。


それでも俺が失敗した時は、皆俺を見るんだ。


そして決まって皆言うんだ。


「立派な親御さんを見習いなさい」


「お姉さん達みたいにすれば良いんだよ」


「君は才能はあるはずなんだ、ただ努力が足りないだけだ」


……はあ、思い出したくない。


大分前に言われたはずの言葉なのに、誰がどんな表情をして、どんな口調で、どんな場で言われたかが鮮明に思い浮かぶ。


それが嫌だったから、王都から逃げてこうやってギルドにも登録せずに個人的な依頼だけこなして、定職にも就かず生きているのに。


勝手に思い出して、勝手に傷付いて、勝手に泣きたくなってる。


そして、自分よりも下の実力の人間を見て、この人達でも上手くやれてるから俺も大丈夫なんて安心する自分が本当に嫌いだ。


ここにいる人達は、俺の事なんて知らないし、気にも止めず美味しいものを作ろうと頑張ってるんだ。


なら、俺もやるべき事をやらねば。


……まずは、説教受けて謝罪だろうけど。








「プライス様ですね、すぐ園長をお呼びしますので少々お待ち下さい」

農園の奥にある園長の家に着いた俺は、この家のメイドに声を掛ける。

するといつものように客間へと案内された。


「相変わらず、ここのお茶は美味しいな」

出されたお茶を飲みながら、依頼主である園長を待つ。


「ここで栽培された茶葉ですからな。来客者様に出すお茶が不味い訳はありません」


農園で働く人とは違い、紳士服を来た初老の男性が来た。

この農園の園長で、今回のモンスターの駆除の依頼者。


「駆除の為の準備に手間取ってしまい、依頼を遂行させる事が出来なかった事をお詫びしに参りました」

直ぐに俺は、頭を下げる。


しかし、園長は笑いながら

「君が王国に仕える騎士か魔法使いになる為の修行の冒険中だと君のご両親から聞いたからね。私の方こそ申し訳ない」

とあっさり許してくれた。


……この二か月修行(宿代稼ぎ)しかしてないなんて言えねえ。


「ああ、親父達から聞いていたんですか、それでギルドに依頼したんですね」

「そうだよ。流石に王国に仕える為の修行の邪魔なんて出来ないさ。王家も私達のお得意様だからね」


こういう時だけは、つくづく良い両親の元に産まれたな、と思う。

俺の行動は激怒されてもおかしくない。


「だから、ここの畑を荒らすモンスターの駆除は冒険者達がやってくれるさ。君に迷惑は掛けないよ。心置きなく修行して、立派な王国に仕える人間になってくれ」


前言撤回。マジで怒ってるわ。

お前になんかもう頼まねーよってしか聞こえない。

園長の笑顔が恐いよ。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る