第381話 音の世界と転校
エノクが朝食を食べていると。親がこちらでの仕事が終わり、アメリカに帰ると言うのだ。勿論、親もエノクの日本へ行く目的は知っていた。目的が達成し、後は帰るだけだと思っていたのだが…微笑む。
どうやら、良い出会いに巡り会えた様である。
しかし、自分達はアメリカに帰らないといけない。エノクを、置き去りには出来ないし、滞在許可証の期限もある。残念だが、信頼できる相手も居ない。
「エノク、ごめんなさい。」
次に、エノクを襲ったのは恐怖の感情であった。
「また、虐められる…。」
怖さに震えて、涙を流すエノクに親は複雑な表情。
「大丈夫よ、エノク。だって、聞こえるもの。」
それは、虐められた事の無い人の言葉である。他人に傷つけられず、平和に生きてきた人の言葉。
エノクは、体調を崩してしまうのだった。
瑠衣達は、久しぶりに登校したエノクを見て驚く。
「エノク、おはよう。体調は、大丈夫なの?」
「エノク、おはようさん!体調、大丈夫か?」
エノクは、2人を見た瞬間に涙が出てしまう。瑠衣と春都は、驚いてから思わず慌てて駆け寄る。
「どうしよう。悲しさと怖さで、とても苦しい。」
すると、先生は察した雰囲気である。
「瑠衣、保健室に連れて行って落ち着くまで居てやってくれ。他の先生には、言っとくから。春都は、後で瑠衣にノートを見せてやってくれないか。」
「よく分からんが、了解だぜ!」
瑠衣も、困惑した表情で頷く。先生は、少しだけ寂しそうな表情で頷く。そして、瑠衣を見て言う。
「お前の優しさに、頼り過ぎてるが頼む。おそらくだが、先生や他の生徒じゃどうにも出来ない。」
先生は、申し訳ない雰囲気で真剣に言う。それは、しっかり先生として生徒達を見守っていた勘だ。そして、それは間違いじゃないとも思っていた。
教室から、出て行った2人を見送り気合いを入れ直す。そして、他の生徒と向き合うべく教室に戻った
瑠衣は、エノクを座らせる。
「アメリカに、帰らないと…」
それ以上は、泣き声に消えてしまう。瑠衣は、察してから無言で考える。さて、エノクの為に自分が出来る事は何だろうか。転校はどうにも出来ないのだから、何か別の視点で出来る事を探してみる。
「エノク、今日の夕方と土日の2日は時間ある?」
「だ、大丈夫だけど。」
ルイスの言葉に、エノクは涙を拭いながら言う。
「ありがとう。先生いないし、キャラ作るのやめますね。エノク、今日の放課後にお茶しましょう。」
「残り少ない時間に、思い出作りするの?」
瑠衣のキャラに、驚きながらも苦笑して言う。
「酷いですね。離れたら、僕達と友達じゃないんですか?繋がりは、消えないというのに…。」
少しだけ、苦笑してから暢気に笑う。
「あ…。その、ごめん。」
「取り敢えず、転校云々は隅に置いて、放課後にお茶する事を楽しみにしましょう。勿論、完全に掻き消さないのは理解してます。けど、そうしないとエノク…おそらく、君の心がもたないですから。」
優しく微笑む瑠衣に、エノクは放課後の事を楽しみにしてみる。少しだけ、胸の息苦しさが減った気がする。けど、やはり瑠衣の言った通りに悲しさと怖さは消えてくれない。エノクは、瑠衣を見て思う。
期待して良いのだろうか?
「僕だって、人ですから…申し訳ないですが、出来る事しかやりませんよ。変に、期待しては駄目なのです。だけど、全力でやれる事はやってみます。」
落ち着いた雰囲気で、暢気に言う瑠衣。
「ありがとう、瑠衣。少し、元気が出たよ。」
嘘をついて、下手に安心させない辺り、よく分かっていると思った。もしかして、瑠衣も虐められた過去があるのかもしれない。知られてないだけで。
「お茶って、何処に行くの?」
エノクの言葉に、いつものキャラに戻す瑠衣。
「うーん、何処にしようかな。僕も、3件しか知らないんだよね。昼休みに、一緒に調べようか。」
気を紛らわせる為の話題に、しっかり返事して尚且つ一緒に楽しみを探そうと言ってくれる。
「うん、楽しみだよ。」
「じゃあ、授業を受けに行こう。」
すると、保健の先生が入って来る。
「あら、エノク君は休まなくて良いの?」
「独りだと負の感情が膨らみやすいし、気を紛らわせる要素が全く無いので辛いかなと思ったんですけど。エノクは、どうしたい?好きにして良いよ。」
瑠衣は、優しく暢気に笑う。
「春都にも、心配かけたし戻ろうかな。」
その言葉に、保健の先生は優しく笑う。2人は、来た時とは違い笑いながら教室に戻るのだった。担任の先生は、それを見て良かったと微笑むのだった。
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