第376話 盟主帰還

瑠衣は、家に帰ると珈琲を用意して、いそいそと自室に向かう。宿題は、とっくに終わっている。机に珈琲のマグカップを置くとパソコンで動画サイトを開く。牧田から、教えてもらった安心なサイトだ。


あれから、ゲームワールドクラッシャーズの動画は更新されていない。視聴者からは、不満の声だ。


瑠衣は、無言でサイトを閉じて考える。


『予想通り、侵入して来た。捕縛してある。』


スマホから、トキヤの声が聞こえる。後ろで、プロメア達のソワソワした雰囲気を感じる。


「やはりですか。」


その声を聞いた瞬間、トキヤの周りの音が消える。瑠衣もトキヤも、気付いてはいたがスルーする。


『次は、仕掛けてくるんだよな?』


「もう、それしか選択肢が無いですからね。」


椅子に座り、珈琲を飲んでひと息つく。


「何せ情報戦は、うちに利がありますし。苦渋の決断で、戦闘要員を募集してから来るのでは?例の求人、追加されてましたし。とても、楽しい事になりそうですね。思わず、ニヤけてしまいそうです。」


瑠衣は、冷たい目で微笑んで戯けた口調で言う。


『ルイス…。もの凄く、怒ってるな…。』


トキヤは、思わず苦笑して呟く。


「さて、何の事でしょうか?」


瑠衣は、小さく咳き込み珈琲を飲む。


『まあ、分かった。交渉駆け引きはどうする?』


トキヤは、困ったように笑い続きを促す。


「それについては、あとでグループに貼り付けておきます。なので、個人で確認をお願いしますね。」


いつもの声音で、ノホホーンと言う瑠衣。


『了解だ。でっ、お前はいつ参戦する?』


トキヤは、思わずニヤけて言う。


「そうですね。戦闘前には、帰りたいですね。」


『まあ、良いんじゃないか?』


トキヤは、ランコルから紅茶を受け取る。


「あ、狡いです。僕も、ランコルさんの紅茶とキリアさんのお菓子が食べたいのです!」


瑠衣は、少しだけ柔らかな雰囲気で明るく笑う。


「そう思うなら、なるべく早く戻ってこい。」


トキヤは、思わず笑いながら答えるのだった。


「そうですね。僕も、早く帰りたいです。」


少しだけ、その声に寂しさが乗っかる。


「ここは、お前の家だ。お前の帰る場所だ。そろそろ、子供達を我慢させるのは可哀想だし。それに、お前が居ないと此処は静か過ぎて困るんだよ。」


トキヤは、困った雰囲気で言う。


「んー?そんな事は、無いと思いますが…でも、ありがとうございます。少しだけ、元気が出た気がします。さあ、もう少し考えをまとめましょう。」


「無理だけはするなよ?お疲れ様、ルイス。」


そう言うと、通話が切れてしまう。無意識に流れた涙は、気づかない振りをしてベッドに倒れた。



そして…、運営さんを含めた話し合いが終わる。



ルイスは、久しぶりのログインをしていた。アトリエの自室に、鎖で封印された氷柱が現れる。鎖が外れて氷が砕け散り、光となって消える。ふわりと浮いた、ルイスの龍人アバターはゆっくりと床に足をつける。そして、ルイスはゆっくり目を開けた。


「さ、寒いのです…。」


ルイスは、ベッドから毛布を取り被る。寒さに、小さく体を振るわせている。そして、初期装備から八雲に装備を変える。指輪も、素早く装備。


「取り敢えず、全員が外出中みたいですね。」


ルイスは、小さく息を吐き出して目を閉じてベッドに横になるのだった。寒さに震えながら…。

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