第374話 始まる会議
蒼夜は、瑠衣達にこの部屋で待機するようにお願いする。時間的に、お昼も食べるのでその為だ。
「大人はともかく、子供は話さないか心配だ。」
そういう意見もある。しかし、先程のエノクとの会話で殆どの人が信用できると確信していた。言った本人も、一応は子供だからと言っただけなのだ。
「なら、僕は席を外しましょうか。また、雪が降って来ましたし。外で、除雪作業でもします。」
落ち着いた雰囲気だが、気温は一桁である。
「待て、流石にそれはかわいそう過ぎる。」
「部屋にいて良い。」
素早く大人達から、やめるように言われる。
「そうですか。」
そう言うと、ちょこんと座っている。マスターが、優しくウィンクして少しだけ熱めのココアを置く。
しかしながら、瑠衣は猫舌なのだ。
先輩には、珈琲を渡している。瑠衣は、無言でイベントの内容を聞き流している。そして、イベントの話が終わってしまう。食事の準備は、出来ている。
瑠衣は、淡々と仕事をこなす。
そして、話題はルイス凍結の話になる。
「あの、理不尽な凍結だけど。どう、償う?」
ベックは、ハンバーグを飲み込んでから聞く。
「ルイスは、あれからログインしてないとか?」
シンも、少しだけ不機嫌そうに運営を見る。
「残念だが、本人との連絡が取れない。」
蒼夜は、深いため息を吐き出す。その言葉に、何人かのプレイヤーが心配の声を上げる。牧田は、真剣な雰囲気で鋭い視線を蒼夜に向けている。
「本題から、話を逸らさないで欲しいっす。俺たちが聞きたいのは、どう償いをするかであって、本人との連絡が取れないとか全然関係ないっすよ。」
アーサーは、落ち着いた雰囲気で冷たく言う。
「現に、盟主が不在で名も無き同盟は不安定だ。そして、breezeでもリーダー不在でパニックが起こってるし。フレンド連中が、荒れてしまっている。」
牧田は、飲み物を飲んでから素っ気なく言う。
「まあ、そうだな。炎上に薪を焚べているプレイヤー達に、数名だが居るのを確認してる。だが、此方が悪いのは事実だから何も言えない現状だ。」
蒼夜は、苦笑しながら申し訳ない雰囲気。
「一応は、考えてある。後は、本人と連絡を取るだけだ。しかし、今回の件で運営は嫌われてしまっただろうな。せっかく好印象で、技術者2人の勧誘にもおそらくだが協力してくれてたのに。」
すると、牧田だけでは無く全員が驚いている。
「どういう事だ?」
牧田は、少しだけ困惑した雰囲気である。
「詳しくは、分からないが。運営の現状、雰囲気とかの情報をリゼアに流した奴がいる。赤猫とも、何かしらの関係がありそうだ。それしか知らない。」
「じゃあ、何でルイスだって分かるんだ。」
ベックは、キョトンとしている。
「リゼアから、誰から聞いたか話してもらった。その情報から、おそらくはルイスだと判断した。」
そして、食事が終わり運営の4人が合流する。リゼアは、瑠衣を見て表情を緩めている。それを、呆れた視線で見ている赤猫。そして、苦笑する白兎。案内役で、入って来た大河の4人であった。
「さてと、ここからは現状の話だ。」
赤猫から、現在のサーバーの状態。敵対者のチート使用回数など、ゲームサーバーの現状を報告。リゼアから、セキュリティー情報とNPC AIの報告。そして、白兎から敵対者の監視体制と行動情報報告。
そして、大河からルイスが無事だと言う報告。
まあ、本人がここに居るのだから、当たり前ではあるのだが。瑠衣は、帰ろうかとスマホを確認する。
どうやら、雪の影響で運行を見合わせるようだ。
つまり、今から駅に行っても電車はない。そして、作戦会議が続く。瑠衣は、無言で立ち上がり静かに更衣室へ。そして、いそいそと着替える。
出て来ると、どうやら会議も終盤らしい。
「あのさ、質問良い?」
白兎は、暢気に蒼夜を見ている。
「ん?」
蒼夜は、キョトンとしている。
「どうして、アメリカ本社に日本プレイヤーの個人情報を預けなかったのかなって。まあ、それで今回は助かった訳なんだけど。不思議に思ってさ。」
すると、納得した雰囲気で頷く蒼夜。
「理由は、プレイヤーを守るためだよ。だって、あいつらに個人情報を渡したら、俺達を通さず直接プレイヤーに交渉しに行くだろ?押し負けたり、流されたりで不本意な交渉をされない為。日本運営が、緩衝材として入る事でプレイヤーの意思を尊重しつつ、有意義な話し合いに持ち込むためだな。」
すると、全員が驚いている。瑠衣は、小さく微笑む
「それと、通訳も兼ねているな。」
最後に、付け足すように言って笑う蒼夜。
「現に、アーサーもイギリスにいた頃に被害を受けてるはずだが?他にも、クレームが数十件だな。」
アーサーは、苦笑して無言で頷く。当時は、配信者として注目されたばかりの頃だった。かなり、苦労した覚えがある。まあ、一人暮らしだったので引っ越たり、電話番号を変えたり何とか逃げたのだ。
「なるほど、その表情からしてかなり酷い目にあってたのな。身内には、受けて欲しくない待遇だ。」
牧田は、アーサーを見て深刻そうに言う。
「そうっすね。しかも、奴ら配信にまで入り込んで来て。裁判したら、そこからは静かになったす。」
ため息を吐き出し、珈琲を飲むアーサー。
「なるほど、納得だよ。」
白兎は、優しく笑うと満足そうに言う。
「まあ、今は日本サーバーに登録済みで、滞在許可証のおかげで日本運営の管轄なので安心っすね。」
アーサーは、嬉しそうに追加の珈琲を受け取りながら言う。すると、牧田は『良かったな。』っと笑っている。アーサーは、上機嫌でうんうんと頷く。
こうして、運営と数人を残してプレイヤー達は帰って行った。瑠衣も、帰ろうかと立ち上がる。
しかし、牧田とアーサーに呼ばれるのだった。
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