第373話 冷たくて優しい人

瑠衣は、マスターの提案に苦笑する。


「どうでしょう、来てくれませんか?」


ここには、瑠衣しかいない。先輩達は、雪かきの為に外に放り出されている。瑠衣は、困った様に無言で笑う。マスターは、ただ優しい表情で待つ。


「マスター、僕の現状を知ってますよね?」


「勿論です。けれど、凍結は解除されてるはず。」


マスターは、少しだけ困惑した雰囲気。


「うーん…、やる気が失せました。」


すると、マスターは無言で驚く。


「と言うのは建前で、時間稼ぎと少しだけ意地悪しているだけです。同時進行で、駆け引きも。」


少しだけ、お茶目なルイスの雰囲気で言う。マスターは、優しく微笑み安心した雰囲気である。


「君という子は、悪い子ですね。罰として、売れ残りのケーキを持ち帰って貰いましょうか。」


そう言って、3個のケーキを渡して来る。


「いや、食べきれませんよ?」


クールキャラに戻り、少しだけオロオロする。


「君は、もう少し肉をつけるべきです。」


瑠衣は、くるりと方向転換。さっき、先輩達と余り物のケーキを食べたのだ。まだ、残っていたとは…


「皿洗いして来まーす。」


パタパタと、慌てて逃げて行くのだった。そして、木漏れ日メンバーと話し合う。それぞれの都合、それと信用問題を考えて瑠衣も出る事になった。


なお、ケーキは仕事前の大河に押し付けた。


そのまま、仕事の休憩時間に蒼夜と鬼崎に一つずつ渡す。瑠衣から、差し入れだと言って。




そして、イベント話し合い当日。瑠衣が入ると、全員の視線が向けられる。瑠衣は、無視して挨拶。


「マスター、おはようございます。」


マスターは、いつもの優しい微笑み。


「瑠衣、おはよう。急いで着替えて、こっち手伝ってくれないか?ちょっと、2人作業じゃないと…」


「先輩、おはようございます。分かりました。」


そう言うと、足早に奥へと消えて行った。


牧田とアーサーは、そんな瑠衣を微笑ましく見ている。シンとヴェインは、驚いて瑠衣を見ている。


暫くして、エノクが来る。


「兄さん、忘れ物を届けに来たよ。」


「おう、ありがとう!」


瑠衣が、奥から出て来ると目を輝かせるエノク。


「瑠衣ー!おはよう!」


「え?ぐふっ!」


いきなりハグされ、小さく呻く瑠衣。


「お、おはよう。」


瑠衣は、深いため息を吐き出して、さりげなく引き剥がす。エノクは、嬉しそうな笑顔である。


「エノク、LINEは確認した?」


瑠衣は、素っ気ない雰囲気で言う。


「ん?何かあったの?」


「明日の授業、ジャージだけじゃなく帽子いる。」


エノクは、キョトンとしている。


「え、そうなの?」


「たぶん、当たり前だから先生が言い忘れてる。」


瑠衣の言葉に、エノクは納得して笑う。


「ありがとう、ちゃんと準備するよ。」


瑠衣は、無言で頷くとまた奥へと消えてしまう。


「何か、素っ気ないし愛想が無いな。」


ベック(ブレイブ)は、少しだけ心配そうである。


「でも、僕はずっと守られてる。兄さんの件で、怖い思いした時も保健室登校を先生に提案したり。演劇部から、変装用の道具を借りて来てくれた。」


すると、その場の全員が驚く。牧田は、思わずニヤける。アーサーも、ニコニコが止まらない。


「クラスのいじめっ子が、僕に手を出せないのは彼が僕と居るから。難聴用VR機械の書類を、準備したのも説明を作ってくれたのも彼だと思う。聞きたくても、何故かタイミングよく邪魔が入るんだ。」


少しだけ、落ち込んだ雰囲気である。


「なら、聞けば良いだろ?」


ベックは、暢気に笑いながら言う。


「駄目、上手く回避される。それに、口数が少なくてとても賢い。そりゃ、クラスのいじめっ子も敵対したくないよね。成績もトップだし、文武両道で顔立ちも良いし。流石は、氷の王子様だよ。」


それを聞いて、牧田はケーキを喉に詰まらせる。アーサーも、珈琲を吹き出しかけて何とか堪える。


「でもね、冷たく見せてるだけなんだ。彼は、冷たくて優しい人なんだよ。何だかんだで、見捨てる事なく助けてくれる。良い友人に出会えたよ。」


その言葉に、その場の全員が思わず微笑む。


「そう、無愛想な猫だと思えば良いんだよ。」


想像して、思わず笑いを堪える牧田とアーサー。


「お前ら、さっきから大丈夫か?」


ベックは、振り向いてからキョトンと言う。よく見たら、シンは何とも言えない表情。ヴェインも、困惑した様に無言で固まっている。


「まだ、居たんだ。交通情報では、10時から渋滞予測されてるけど。電車も少し遅れるみたい。」


瑠衣は、スマホを見せて心配そうに言う。


「え、そうなの?本当だ!僕、帰らなきゃ。」


慌てた雰囲気で、兄を見るエノク。ベックは、優しく頷いて見送る。エノクは、瑠衣を見て言う。


「ありがとう、何とか回避が出来そう。」


「外はまだ、滑りやすいから気をつけて。」


瑠衣は、頷いてから言う。


「大丈夫だよ。」


エノクは、自信が有り気に笑う。


「この間、渡り廊下で滑って頭打ちかけたのに?」


「あはは、瑠衣が居て良かったよ。」


瑠衣の呆れた視線に、笑って逃げるエノクだった。

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