第369話 紅のヒールポイズン

ルイスは、紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。そして、そわそわしているブレイブを見る。


「弟が心配で、落ち着けねぇー!」


ずっと、エノクから返事が来ているのに言う。


「ルイス様、最近ですがお店にお客さんが余り来なくなりました。どうやら、流れてきたプレイヤー達のポーションが売れているそうです。」


キリアは、落ち込んだ雰囲気で言う。


「らしいですね。僕のポーションより、効果が良いのだとか。少しだけ、嫌な気がしますが…。」


すると、マッキーが聞いてたのか現れる。


「ルイス、これが今話題のポーションだ。」


すると、ルイスから殺意が放たれる。


「どうやら、そんな良いものじゃなさそうだな。」


トキヤは、ルイスの険しい雰囲気に呟く。


「悪魔の微笑み…。または、悪魔の誘惑という名がつけられた薬です。β時代に、これを使って先輩錬金術師達はこの世界を去りました。ジャンルは、回復薬ですが。錬金術師は、ヒールポイズンと呼びます。まさか、これを飲んでないですよね?」


説明しながら、焦った雰囲気のルイス。


「それほど、やばい薬なのか?」


「飲めば、世界を壊しかねない代物ですよ。」


その言葉に、全員が驚いて固まる。


「あのやり過ぎな、昔の運営が危険だと判断して、この世界じゃ作れない様にした危険物ですから。」


ルイスは、心配そうにマッキーを見る。


「試しに、一本だけメンバーが。」


「一本だけならば、問題はありません。しかし、中毒性のある厄介な薬です。また、飲みたくなるかもしれません。絶対に、全力で止めてくださいね?」


マッキーの言葉に、ルイスは真剣に言う。


「止めなかったら、この世界を永遠に去る事になるのか?β時代の錬金術師達の様に…。」


マッキーは、複雑な雰囲気で言う。


「いえ、昔は運営がデータを保存してませんでしたからね。今は、データ保存してあるので、時間がかかりますが修復が出来るでしょう。しかし、保存されたデータの更新を怠っていれば弱くなります。」


ルイスは、落ち着いた雰囲気である。


「データ更新は、週に一度する様に言ってある。」


マッキーは、ホッとした様に言う。


「それと、この薬にはアバターを崩壊させてしまう効果があります。これは、死に戻りしても特殊アイテムやスキルでも治すことは出来ません。もし、住民が飲んでしまったら。かなり、最悪案件です。」


想像したのか、青ざめるプレイヤー達。


「値段は安く、回復の効果が良いしプレイヤーハンドですが…。実際には、飲み過ぎると徐々に体が重くなり、動きがカクカクになる。そして、最終的にはアバターが少しずつ崩壊してしまいます。また、この崩壊はサーバーを圧迫するので…。」


ルイスの言葉に、何かに気づくアメリカメンバー。


「サーバーダウンするのか?」


「はい。データ崩壊も同時に起きてしまいます。」


その言葉に、トキヤとマッキーは気づいてしまう。


「それって、今の海外サーバーと同じ状況じゃ!」


マッキーの叫びに、ルイスは無言で頷く。


「僕も、ノーマークでした。まさか、無かった事にされて消された物を掘り出されるとは…」


ルイスは、苦々しい雰囲気で呟く。


「こりゃ、アメリカ運営のデータ保管庫は食い荒らされてるだろうな。じゃなきゃ、ロストデータがある理由が分からん。個人情報も、アメリカ運営から盗まれた可能性があるって事だ。最悪だな…。」


ブレイブが、怒りを滲ませて言う。


「いや、セキュリティーは問題ないはずだ。あるとすれば、裏切り者が手引きした可能性かな。」


フレドは、深刻な雰囲気で呟く。


「なおさら悪いわ!」


「ルイス、情報ありがとう。同盟メンバーに、伝えておく。まっちゃんは、有力クランに行け。」


トキヤは、素早く立ち上がりチャットを開く。


「俺達も、知らせなきゃ…」


ブレイブの言葉に、マッシュが素早く動く。


「なら、俺は海外掲示板っすね。」


ルーカスも、急いで動く。


「なら、日本サーバー掲示板だな。」


グレンも、真剣に頷いて座る。




運営は、掲示板を見て固まった。ルイスから、明かされた紅ポーションの正体。一部では、ルイスに嘘つきというレッテルが貼られている。


「蒼夜さん、調べたら出てきました。ヒールポイズンと、当時の錬金術師が呼んでいた毒薬です。」


これで、ルイスが嘘つきでは無いことは分かった。結果、多数者のプレイヤーが使用を踏み止まったので感謝しかない。しかし、ヘイトを受けるルイス。


「誰か、誘導者がいるばず…。探すぞ。」


『はい!』


大河は、心配そうに画面を見つめる。


「すまん大河、敵を炙り出す為に…すぐには、ルイスが本当の事を言っている事を運営として告げられない。おそらく、ルイスもそれは理解しているはずだ。その証拠に、姿を表に出してないからな。」


蒼夜は、悔しそうに頭を下げて謝る。


「おう、兄としても運営としても分かってる。」


そう言うと、パソコンに向かって仕事したのだ。


「それと、ヘルプ要員に裏切り者が混じってる。」


大河は、一瞬だけ手を止めるが無言で頷く。サーバー復帰が不可能な国の運営がヘルプとして来ているのだ。そして、来たその日にサーバーデータへのアタックが数回。運営サイドから、見つかっている。


「厄介だな。かと言って、本社の命令には逆らえないし。データ会社とか、話は通してあんのか?」


小さく呟く様に、蒼夜を見ないで言う大河。


「あちらも、全力で守ると言ってる。」


大河は、頷くと無言で仕事を進める。蒼夜も、素早く離れて仕事に戻って行く。鬼崎も忙しそうだ。

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