第305話 休日と近寄る影
今日は、あの人が居ない。少しだけ、不安になるけど、ここに来て数日…竜の力は、とても大人しい。だけど、昔みたいな不穏さはなく、充実した日々を過ごしていた。というか、待遇が良すぎる…。
いや、嬉しいけど困惑してしまう。
目の前には、お菓子とジュースが置かれている。ちなみに、これは無料らしい。日々、頑張る従業員へのご褒美らしい。ちなみに、お菓子なんて食べた事はない。甘い物って、事くらいしか知らない。
「あら、とても美味しい。」
リリアは、嬉しそうに食べてる。指輪があるから、本心は分からないけど。目が、嬉しそうだ。
「甘い…。」
「カロは、甘いの苦手なのか?」
キリアは、キョトンとして聞いている。
「ごめん、違う。その…」
ここの人達は、とても優しくて気遣いができる。しっかりと、意思を伝えないと勘違いされてしまう。
「カロは、お菓子を食べた事がないのよ。正直に言えば、私も2回しか食べた事ないわ。ギルドで雇われる子供は、最大は金貨5枚しか貰えないのよ。」
この世界には、金貨しかない。受付のリリアが、金貨5枚なら雑用の俺は金貨2枚だけ。
「あー…、暗殺ギルドで凄腕の大人が金貨500枚だからな。過労レベルで、働かないと死ぬし。」
バロンが、ティーポット片手に苦笑する。
「まあ、それが普通だったからな。今は、少しだけ改善されたとはいえ。だから、俺はルイス様に拾われて幸運だった。ただでさえ、ポーション類が効かない薬無効体質で、暗殺者としては嫌がられる体質だからな。本当に、命を救われたんだ。」
キリアは、お菓子の追加を置きながら言う。
「ここの人は、全員あの人が?」
カロは、疑問に思って聞く。
「そうだ。殆ど、ルイス様に勧誘されて来た。ここには居ないが、お前達と同じ歳のメンバーもしっかり居る。楽師のガイア、剣士のメウロ、錬金術師のプロメアだな。プロメアは、ルイス様の娘だ。」
すると、素早くメモしだすカロ達2人。
夕ご飯の準備を手伝っていると、近くであの人の声がした。思わず反射的に振り向けば、いつもの明るくノホホーンとした笑顔でメンバーと話している。
小さな笑い声に、ゆっくり振り向けば肩を振るわせて笑うバロンさん。そして、優しく微笑むキリアさんが居る。リリアは、赤面させてお手伝いに戻る。きっと、俺の顔も赤くなっているんだろうな。けれど、誰も何も言う事なくスルーしてくれる。
「明日は、お仕事は休みでしたっけ?」
「そう…。」
カロは、頷いてからジュースを飲む。
「2人とも、私服とか買わないんですか?」
「私、服選びのセンスゼロだから。」
リリアは、苦笑しながら言う。
「明日から、数日は朝から夜まで居れるのです。なので、明日は買い物でもしましょうか。」
ノホホーンと、笑うルイスに僕達は固まる。
「その、手を煩わせたくないし大丈夫よ?」
「おや、別にそんな事は思ってませんよ。ですが、君達はお仕事以外は引き篭もっているでしょう?」
僕、ちゃんと知ってるんですよ?っと笑うルイス。
リリアは、驚いて固まる。僕もリリアも、訳ありだから。それに、ここは知らない土地でもある。
「たまには、気分転換に行きませんか?」
ルイスは、優しく笑っている。
「ルイスだけだと、緊張するだろうしグレン。」
トキヤは、2人を見てからグレンを見る。
「おう、俺も一緒に行くぜ。」
僕とリリアは、顔を見合わせて頷く。
「取り敢えず、明日はこれで我慢してください。」
そう言って、私服装備をくれた。ギルド服は、お仕事用でプライベート用ではないと笑われた。
「か、可愛い…。えっと、良いのかしら?」
「明らかに、待遇がおかしい…。」
リリアは、目を輝かせカロは遠い目になる。ルイスは、カリオストロに呼ばれて退席してしまう。
「カロ達は、不満か?」
トキヤは、暢気に笑うと聞く。きっと、ルイスが居れば本音を言えないだろうと感じていたから。
「僕達は、今まで酷い扱いや待遇をされて来た。人の好意は、向けられるとどうしても…」
「うん、今はそれで良いと思う。けどいつか、心を許してくれると嬉しいかな。勿論、ゆっくりで良いさ。後、言いたい事ははっきり言う事だな。」
トキヤは、優しく頷いてから気にするなと笑う。
「ルイスの兄貴は、家族の様にメンバーを大切にしてるっす。今は、信じなくても良いっすよ。これから、一緒に過ごして決めて欲しいっす。」
ルーカスも、珈琲を飲みながら微笑み言う。
「取り敢えず、遠慮するな。俺達は、仲間で家族だから。それと、プロメア達とも仲良くしてくれたら嬉しいかな。個性的だけど、優しい子達だから。」
グレンは、この場に居ないルイスの代わりに言う。カロとリリアは、無言で頷いた。ルイスが戻る頃には、2人とも部屋に帰ってしまっていた。
ルイスは、無言で珈琲を飲む。その表情は、とても真剣で考え事をしているのは明らかだった。子供達の前では、見せない様にしていたリーダーらしい姿である。トキヤは、珈琲を置いて隣に座る。
「竜国の狙いは、カロか?」
最近、始まりの街をうろうろ彷徨う竜達。人に化けても、ルイスの目を誤魔化す事は不可能である。
「その様です。七龍に、相談して龍神様も動いてくれるそうです。それと、竜王様も動いてくださるそうです。友を殺さずに済んだ、お礼なのだとか。」
ルイスは、小さくため息を吐く。
「なら、何も問題はないだろ?」
「龍人は、竜人程では有りませんが、竜からしたら貶す対象ですよ。まあ、僕の立場的に彼らも面と向かって、何かをどうこうする事はしないはず。」
ルイスは、苦笑して珈琲を飲む。
「逆に言えば、絡めては使ってくると?」
トキヤは、頭が痛そうに深いため息。
「まあ、可愛い子供達の為です。僕も、頑張っちゃうのですよ。これからの、彼らの成長が楽しみでなりませんね。感情も、色づいてきましたし。」
いつもの、ノホホーンな雰囲気で笑う。トキヤは、周りを見ると全員が任せろと笑う。
「まあ、俺達の盟主様の頼み事だからな。お前が、頼み事なんて珍しくするから全員が集合したじゃんか。久々のフルメンバーだぜ、任せろ盟主様。」
マッキーは、笑いながらもノリノリである。
「拙者達は、情報集めと監視を…。」
「ありがとうございます、助かるのですよ!」
ルイスが、嬉しそうな雰囲気で言えば、更にやる気がます同盟メンバー達であった。
ルイスは、教会に来ていた。お供物をして、帰ろとして龍王とゲレティーに引き止められる。
「我にまで、供物をくれるとは有難い。加護を礼にあげよう。一応、竜国に釘を刺しておいた。」
「ありがとうございます。」
ルイスは、自分の事のように微笑む。
「私が言うのは、違うと思うが…カロを頼む。カロの父親は、我の最後の友だった。だから、お前が引き取ったと聞いて心から安心したのだ。」
龍王は、優しく目を細めて笑う。
「僕も、2人には幸せになって欲しいです。愛情を貰えなかったなら、今からでも遅くないはずですから。遅くても、やはり親の愛情は欲しい物です。」
何処か、寂しげに呟かれた言葉に二柱は驚く。次の瞬間には、いつもの雰囲気で別れを告げるルイス。
そして、ノホホーンと去って行った。
「知っていたのか、父親は虫の息だが辛うじて生きている事に。そうか、守護竜の伝説では死んだとは書かれてないからな。これは、聡い子だ。」
「僕達は、これ以上は干渉が出来ないからね。」
ゲレティーは、苦笑している。おそらく、ルイスもそこは理解している事だろう。ゲレティーは、深いため息を吐き出し、龍王は苦笑するのだった。
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