第302話 孤独な竜人に光を…
俺は、カロ。竜国で、竜と人の間に生まれた。だけど、竜国では竜人を仲間だと認めてくれない。幼い頃、父親は英雄達と共に死に、母は病気で亡くなった。それと同時に、俺は国を追い出されたんだ。
そして、そんな俺を拾ってくれたのが、冒険者ギルドウィーダン支部の初代ギルドマスターだった。
俺の目は、見た人の心を感じれる。
竜の力を暴走させ、怪我人を出してからは誰もが俺を怖がる。いつしか、顔を上げるのが怖くなっていた。だから、無言で雑用に取り組んだ。
いつしか、時は過ぎて今のギルドマスターに。
ギルドマスターは、俺の事が嫌いみたいだ。けど、俺には帰る場所もない。そんな中、ポストマンの仕事をしないかとルドカリムに言われた。いいや、今はベルトンだっけ?まあ、どちらでも良いや。
回想
「俺は、暴走するよ?」
俯いたまま、視線を合わせず呟く。
「うん、知ってる。」
ベルトンは、困った雰囲気で笑う。
「馬鹿なの?」
ため息混じりに、小さく言ってしまう。
「酷いなぁ…。ホーエンハイムといい、何で久々に会うとそう辛辣なのやら。まあ、30人くらいに声かけてある。だからさ、やってみない?」
「無理だよ。誰も、俺を止められない。」
死んだ様な目で、ベルトンを見つめるカロ。しかしながら、直ぐに驚いた。嘘を、ついてないから。
「取り敢えず、待ってて。じゃあ、またね。」
そう言って、ベルトンは去って行こうとする。
「駄目だ。竜国が、何を言ってくるか分からない。それに、いろいろと迷惑が…聞けよ!」
少しだけ、焦る雰囲気で言うカロを無視するベルトン。ベルトンは、苦笑からため息を吐き出す。
「竜国の奴ら、追い出したんだから放っておけばいいものを。まあ、釘は刺してあるし大丈夫だよ。」
そう言うと、ベルトンは去って行った。
絶対に、大丈夫な訳がない。どうしよう、どうするべきだ?俺は、どうしたらいいか分からない。
「こんばんは、これベルトンからです。」
その人は、何処か可愛い見た目の青年だった。
「breeze!?え、えっとカロじゃなくて別の人を用意します。少しだけ、お待ちください!」
ああ、お金持ちか何かか…。ギルドマスターの反応で、理解してしまった。心が痛い、荒ぶる…駄目だ暴走してしまう。早く、別の場所に移動しなきゃ。
「いいえ、彼で良いです。」
「しかし、始まりの街に彼は危な過ぎる!」
その通りだ、俺なら殺してしまいかねない。逃げながらも、しっかりと会話は聞こえてしまっていた。
「おや、全く信用なしですか。それはそれは、随分と舐められたものです。僕が、彼を押さえられないとでも?それとも、お金の問題でしょうか?」
心音が速くなり、息が荒くなる。
駄目だ、間に合わない…。また、また嫌われる!
すると、首に何かをかけられる。指輪?あれ、心が見えない。少しだけ、落ち着いて来たけど怖い。顔を上げたら、絶対に皆んな…怖がっている。
ああ…、終わった。皆んな、やっぱり怖がってる。
「全部、壊れてしまえば良いのに…」
身体の一部が、竜化して自然と動き出した。
「君の力は、壊すのに向いてないですよ。」
そう声がして、初めて暴走を止められた。
「君の力は、守護竜の力…。誰かを守ってこそ、本領を発揮させます。根本的に、誰かを傷つける事に向いてないのですよ。だから、怖がらないで。」
草花と太陽の匂い、とても優しくて温かい匂いだった。そして、自分が優しく抱きしめられている事に気付いた。顔を上げると、優しく微笑む龍人が。
全員が、驚いていた。そして、険しい視線を向けている。いけない、このままだとこの人が…。
「あのさ、ルイスに手を出したら許さんから。」
周りのプレイヤーさん達も、同意する様に頷く。流石に、プレイヤーさん達を敵に回すのを恐れて縮こまる人々。プレイヤーだけじゃない、住民達も混ざってる。この人は、いったい何者なんだろう?
「僕は、小さなクランのリーダーですよ。」
「嘘だ。」
本当は、どうだって良いのに声を返している。
「それは、心を見て言ってます?」
ニヤけた雰囲気で、その人は笑う。ムカつく…。
「見てない…。」
指輪を外すのが、とても怖い。
「それ、僕がこの世界に来てからずっと着けてる大事な物なんです。だから、大切にしてください。」
そう言って、俺から離れて新しい指輪の紐を首に掛けた。そしたら、その人は人間の姿になっていた。
「あ、自分で作れる様になったんだ?」
剣士のお兄さんが、その人に明るく笑って言う。
「そうなんですよ、グレン。」
そう言って、指輪を見せている。無言で、指輪を取ってあの人を見てみる。あれ?見えない!
「そう簡単に、心は見せませんよ。」
クスクスと、笑うその人にまた苛立った。
「本当に、俺で良いの?ポストマン。」
指輪を首に掛け、少しだけだ不機嫌な声が出た。自分でも、びっくりした。周りの人も、驚いていた。
「うーん、正式には冒険者ギルドと掛け持ちで、僕達のクランにも入って貰いますけど。」
「え?」
今度は、間抜けな声が出た。少しだけ恥ずかしい。
「あははっ、感情豊かで何よりですね。」
自分に、感情がまだあった事に驚きを隠せない。いつもは、俯いてた頭が見上げている事に気づかない程に。その人は、とても明るく輝いて見えた。
「うるさい…。」
雇い主に、失礼なのは分かってるけど。けど、この人は怒らないって感じていた。まだ、素直にはなれないけど、この人なら安心出来る気がした。
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