第295話 暴走の引き金

ルイスは、息を吐いて無言で振り向く。


「相変わらずの腕前だね?」


ホーエンハイムは、腕を組んで優しく微笑み言う。


「こんにちは。プロメアは、元気にしてます?」


ルイスは、いつもの口調で聞く。


「勿論だよ。孫から、預けられたんだし。」


「孫って…。まだ、その設定はあるんですか?」


嬉しそうな、ホーエンハイムと苦笑するルイス。


「カリオストロは、僕の息子の様なものだからね。だから、君は孫みたいなものさ。それと、設定って言わないでおくれよ。悲しくなるだろう?」


少しだけ、戯けた雰囲気で微笑む。ルイスも、思わず明るく笑う。ほのぼのとした雰囲気である。


「それで、何か?」


「君は、加護を失ってないの?」


ルイスは、キョトンとして首を傾げている。ホーエンハイムは、考えてから苦笑すると呟く。


「教会や神殿の人は、全員加護を失っているよ。」


ルイスは、目を丸くして固まる。


「実は、神託のスキルが使えないんです。」


そう言って、心配そうな不安な雰囲気。


「きっと、忙しいだけだよ。それと…」


ホーエンハイムは、何か言おうとして固まる。ルイスが、心配そうに見れば苦笑して言う。


「いや、何でもないよ。取り敢えず、急いでお帰りよ。君の仲間たちが、困っているだろうし。」


ルイスは、追求しようとしてやめた。ホーエンハイムの表情が、強張り顔色が悪い事に気づいたから。




ルイスが去り、ホーエンハイムは振り向いて睨む。


「ごめんね、言わせる訳には行かなかったんだ。」


「お前達の喧嘩に、彼らを巻き込ないでくれ。」


ホーエンハイムの、怒りの声に少年は無言になる。


「どうせ、結果は平行線なんだ。光が輝けば、輝く程に影はより濃くはっきりとなる。ぶつかり合っても、君達の力は必ず均衡する。そうでしょう?」


ホーエンハイムは、真剣な雰囲気で言う


「分かってはいるよ。けどね、攻撃をされている以上は抗わないと。とんでもない、犠牲がでてしまうよ。彼らは、本当の意味で死なないでしょう?」


申し訳なさそうに、俯き苦し気に言う少年。


「彼らは、自由を求めてやってきた異界の旅人。だから、君にあれこれ言う権利はないはずだ。」


ホーエンハイムの言葉に、困った雰囲気で無言で頷く少年。本当ならば、ホーエンハイムの態度や言葉は失礼に当たるが、誰も止めなかった。


「そうなんだよね…。」


そう言って、少年は消えてしまった。神聖者も呪いをばら撒く邪の化身も、全ては2人の喧嘩の副産物でしかない。巻き込まれた、民達にはたまったものではなかった。そして、その災厄は終わらない。


英雄達は、悲惨にも死に。


生き残りし聖者は、呪いに蝕まれ狂気に抗う。


民達は、恐怖に怯えて神に祈り。


精霊達は、世界の悲鳴に影響され苦しむ。


龍達は、癒えぬ傷に深く眠る。


神々は、己を殺せる存在に戦慄し引きこもった。


そんな中、狂気に抗っている聖人の引き金が引かれようとしていた。まだ、本人も気づいてはない。


最古の錬金術師は、目を閉じて怒りを押さえる。


「僕は、僕の出来る事をしよう…。」


そう言って、ゆっくりと歩き出すのだった。




ルイスは、何とかトキヤ達と合流した。


「トキヤさん、お待たせ。」


「お待たせじゃねぇ…」


トキヤは、呆れた雰囲気である。


「教会には、貴重な書物があるはずだけど。」


ベルトンは、キョトンと言う。


「本当に大切な物は、地下室にあるから大丈夫。」


ルイスは、素っ気ない口調でキリッと言う。


「ならば良し!」


ベルトンは、満面の笑顔でサムズアップで頷く。トキヤは、キレッキレの突っ込みをいれる。


「良くねぇーよ!更地は、最終手段だって言っただろーが…。まったく、お前は…後で覚えてろ?」


「もう、忘れた。」


「そうかよ。ん、あれは…」


ベルトンの奥さんが、目の前で刺されたのだ。ベルトンは、絶望感に狂いそうになる。


「良いですよ、狂っても。狂わないと、その呪いを弱らせられないですから。だから後は、僕に任せてください…先輩。勿論、奥さんの事もね。」


ベルトンは、正体がバレたのだと察した。


「僕は、踏み込むなと忠告したはずだけど。」


「踏み込まなきゃ、貴方を助けられないでしょ?」


ルイスは、少しだけ怒った雰囲気で言う。そして、覚悟を決めて狂気に身を委ねた。


「う…うあぁぁぁぁ!」


最後の戦いが、始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る