第292話 少しだけ…

ベルトンは、怪我をしていた。どうやら、冒険者ギルドの極秘情報を書き出したかったらしい。それとだが、ベルトンの正体をやたらと気にしていた。


「やれやれ、一般人なら死んでたよ…。」


深いため息を吐き出し、少しでも痛みを感じない体勢を見つけて、ゆっくりと目を閉じた。暫くして、足音で反射的に目を開ける。教会の人間じゃない。


「えっと、痛々しいね。」


「取り敢えず、どうしようか?」


「治療しないと、酷い怪我だよ…。」


3人の子供達に、困惑しながらベルトンは聞く。


「君達は、何者だい?」


「取り敢えず、お邪魔しますっと。」


一瞬だけ、消えたと思うと目の前に現れる少年。


「マスターの知り合いなら、助けないとね。」


そう言って、ベルトンの怪我を一瞬で完治させた。


「凄い、ガイア回復が使えるんだ?」


白髪に、赤い瞳の少女が目をキラキラさせて言う。


「プロメアが、良く爆破の余波で怪我してたから。それに、メウロは前衛で回復を取るのなら僕かなって思って。マスター、褒めてくれるかな?」


ガイアと呼ばれた、少年は考える雰囲気である。ベルトンは、プロメアとガイアの名前を聞いた事があった。breezeの最年少組で、現在は修行中なはず。


「私、そんなミスはしないもん!」


少しだけ、不貞腐れた雰囲気のプロメア。


「本当に?」


ちょと、不信感を漂わせてガイアは言う。


「た、多分…。」


目を逸らしながら、呟かれた言葉にガックリとリアクションするガイア。獣人の子が、困った様に笑っている。どうやら、見慣れたいつもの光景の様だ。


「まあまあ、2人とも…。それで、これからどうするの?師匠達の、約束を守りながらだけど。」


「メウロは、プロメアに甘過ぎるよ。」


ガイアの言葉に、メウロは明るく笑う。


「だって、プロメアが何かやらかしても、後で何かしないと行けないのはルイスさんだし。」


「まあ、そうなんだよね…。」


思わず、遠い目をしてガイアは深いため息をつく。


「今のパパに、迷惑はかけられないもんね。」


プロメアは、頑張るぞと気合を入れる。


「プロメア、爆弾は禁止ね?」


「なんでぇー!」


釘を刺され、落ち込むプロメア。メウロも、流石に庇いきれない。なので、困った様に笑うのだった。


これだけ、大声を出しても誰も来ない。


ガイアは、何が言いたいのか理解して頷く。


「皆んな、眠ってるよ。僕の精霊魔法と…」


そう言って、振り返りプロメアを見る。


「私の、睡眠薬で。」


プロメアは、薬を取り出して微笑む。どうやら、3人ともしっかりと成長している様である。


「取り敢えず、どうしよう。このまま、助ける?」


「いや、処刑日が明日なんだ。下手に、刺激するのはまずい。治療ありがとう、後は大丈夫だよ。」


ベルトンは、優しく微笑むと言う。


「あらま、誰か来たみたい。」


「これは、ルイス殿の…」


烏丸は、驚いている。その言葉のニュアンスで、敵では無いと判断する3人。烏丸は、考えている。ベルトンは、烏丸に情報を教える。そして、怪我したスコルとハティに烏丸は表情を引き攣らせる。


ガイアは、驚いて素早く回復。スコルは、無言で涙を流しハティもぐったりして動かない。傷は癒せても、心の傷だけは簡単には癒せないのだ。


「これは、ルイス殿の地雷を踏み抜いたでござるなぁ。取り敢えず、2匹は回収するでござるよ。」


そう言うと、優しく2匹を抱える烏丸。


「忍者さん、マスターには僕達が帰ってる事は内緒でお願い。バレたら、帰る約束なんだ。」


ガイアが言えば、お願いのポーズの2人。


「うむ、承知した。3人とも、無理無茶は駄目でござるよ?時には、逃げる事も大事でござる。」


大人として、しっかりと注意もして姿を消した。


「勿論、心得てるよ。」


ガイアが言えば、2人もうんうんと頷く。ガイア達は、取り敢えず姿を隠して待機した。




処刑当日、時間よりも早く処刑を始めようとしていた。3人は、ベルトンを庇う様に立つ。メウロは、剣に手を掛けて待機。プロメアは、短剣をに手を掛けている。ガイアも、長杖を手に持ち微笑む。


勿論、全力装備である。


「武器に宿りし、精霊達よ。我が声に答え、姿を顕現せよ。精霊王子、ガイアの名の元に集え!」


武器の精霊が、武装して現れる。


「お願い、お友達。」


プロメアが、試験管を地面に叩き付ける。すると、地面から武装したホムンクルス達が現れる。


メウロが、遠吠えを使った狼の魔物達が現れる。


「これで、簡単には来れないよね?」


ガイアは、冷たい声音で言う。


「別に、来たって構わないけど。」


メウロも、真剣な表情で剣を抜きながら呟く。


「けど、来たら容赦はしないの。」


プロメアは、冷たい微笑みで短剣を構えた。


誰一人、ベルトンに辿り着けなかった。そして、ガイアが顔を上げるとトキヤが苦笑していた。


「お疲れ様だけど、やり過ぎだ。」


「そろそろ、ルイスが来るぞ。」


グレンも、困った雰囲気で言う。


「え、パパ来ちゃうの?まずい、メウロぉー!」


いつもの、プロメアの雰囲気であった。先程の冷たい微笑みで、敵をボコボコにしていたプロメアは居ない。3人とも、ONとOFFがキッチリしていた。


3人は、慌てた様に帰るのだった。

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