第239話 運営サイド 世界崩壊の理由

大河は、昼食を食べる為に鬼崎と一緒に食堂へ来ていた。先程リアルイベント、その打ち合わせが終わった所だ。まあ、アーサーも牧田も知らない仲じゃない。だが、礼儀を忘れない様に対応していた。


打ち合わせも、スムーズに終わり2人の疑問にも答えて満足して貰った。だが、仕事は山積みである。


大河は、深い溜め息を吐き出す。


「どうしたの、大河君。」


鬼崎は、仕事とは違う口調でキョトンとする。


「このままだと、クリスマスは帰れんなと…」


大河は、落ち込んだ雰囲気で言う。


「あはは…、私もクリスマスは返上だよ。次のアプデの、調整やら修正の作業が終わらなくて。」


鬼崎は、乾いた笑いを浮かべて言う。大河は、ヤケ糞ぎみにオムライスを口いっぱいに頬張る。それを見て、鬼崎は思わず明るく笑ってパスタを食べる。


すると、蒼夜が食堂に来て深い溜め息を吐き出す。


「2人とも、お疲れ様。俺も、疲れた。」


「「お疲れ様です。」」


しっかりと飲み込み、挨拶をする大河と鬼崎。


「リアイベの打ち合わせは?」


「順調に終わったから、後でまとめて提出する。」


大河は、真剣に言えば頷く蒼夜。


「鬼崎は、人手は足りてるか?応援はいる?」


「正直なところ、足りないかな。最低でも、2〜3人は欲しい所だね。でも、他の所も回さないと。」


鬼崎の悩む仕草に、蒼夜は考える様に息をつく。


「2人までは、確定で回せるけど…」


そして、大河を見る。


「嫌だぞ。」


大河は、嫌そうに即答する。


「そこを、何とか。」


蒼夜は、お願いっ!と手を合わせる。(>人<;)


「俺の正月は渡さん…」キリッ(`・ω・´)☆


「大河君が、来るなら2人とも要らないね。」

( ´ ▽ ` )アハハ


すると、蒼夜は曲げずにお願いする。鬼崎も、満面の笑みでお願いするので溜め息を吐き出す大河。


「さらば、俺の正月!」(´;ω;`)グスンッ


瑠衣の顔を、思い浮かべながら言う。


「「ありがとうございます!」」


2人とも、大河のブラコンは知っている。だが、人手不足な現在は有能な人材に頼るしかなかった。


大河は、蒼夜と知り合いだし身内贔屓で雇われた。


最初、そう言われていた。周りの殆どが、傍観者と敵だったのだ。状況は、前運営の時と変わらない。


大河は、心は不動に表情は穏やかに立ち向かった。


自分への、悪口や妨害や評判被害。それも、仕事をする上で邪魔だからと、1ヶ月で全員を黙らせる程の有能さを示した。誰も、文句なんて無かった。


ブラコンさえ、無ければ時矢や牧田同様のハイスペック人なのだ。3人とも、ブラコンなのだが。


「まったく…」


大河は、小さく溜め息をつく。


「すまんな。」


蒼夜は、困った雰囲気で笑う。そして、考える。



鬼崎は、そんな2人を見て過去を思い返した…。前の運営は、生き甲斐を無くすほど辛かったのだ。


回想…


βテストが、無事に終了して鬼崎は安堵していた。しかしながら、追加で国を作りたいと上が言う。


鬼崎は、猛烈に反対した。


当時のVR技術では、データ許了量が少なく回線や技術力が安定していない環境だった。もしも、追加すればサーバー落ちするのは目に見えている。


そんな彼を、上は邪魔だと判断し…降格させた。


結論、サーバーは落ちてしまった。


復帰した時には、データ破損が酷く消失データもある様だった。飛んだだけ、消えただけなら良いが、セキュリティも壊れていたので恐怖しかない。


鬼崎は、頭を抱えてしまった。


「おい、誰が責任を取るんだ?」


すると、上は罪の擦りつけあい。そして、白羽の矢は鬼崎に刺さった。勿論、鬼崎は激怒した。


「私は、ちゃんと反対したじゃないですか!」


「上の要望を、可能な範囲で実行するのがお前の仕事だろ!負荷を減らし、落ちない様に調整が出来なかったお前の責任だな。だから、お前はクビな?」


降格させて、僕に指示ができない様にした癖に!僕はずっと、掲示板の監視だったんだぞ!そんな状況で、責任を問われるなんてパワハラじゃないか!


「なら、俺はこの会社を辞めようかな。」


大河は、そう言って立ち上がる。


「鬼崎先輩が、抜ける負担を俺は絶対に請け負いたくないので。先輩、辞表は一緒に出しましょう。」


「大河君、ありがとう。」


鬼崎は、嬉し泣きする。すると、慌てた雰囲気で有能な人材達が立ち上がる。彼らも、負担を背負いたくは無いのだ。何せ、引き継ぎもせずクビ宣言する無能な上司達だ。今までは、鬼崎らエリートが壁となっていたのに居なくなる。それすなわち、絶望。


これには、上も首を撤回するしか無かった。


「とにかく、魔界は放置する。」


その結果が、NPC英雄達が次々と死んだ原因となった。鬼崎は、魔物を削除して負担を減らした。だがしかし、既に手遅れ状態でどうにもならなかった。


VR技術が進化し、許了量が増えた事で魔界は放置されたまま正式リリース。上は、いつか来る魔界実装ギリギリまで居て辞める方針に切り替えた。しかし、アメリカの会社が買い取った事で上のクビは容赦なく切られた。そして、鬼崎は運営状況を説明する為に大河と2人で話し合いに参加した。


「あれ、大河じゃん。俺が、トップになったから。ふーん…、実績も知識豊富だし引き抜くか。」


「は?嫌だ、もうゲーム会社は懲り懲りだ。」


大河は、本当に嫌そうに言う。


「鬼崎さん、有能エリートだな。引き抜き確定で。後は、誰を引き抜くか…。まあ、やらせてみて斬れば良いかな。うんうん、て事でよろしくな。」


蒼夜は、慣れた雰囲気でスルーして爽やかに言う。


「人の話を聞けぇー!」


大河の叫びが響いた。鬼崎は、思わず面白くって笑ってしまう。ここまで、感情を表に出す大河は珍しかったし、蒼夜の性格も愉快だと思ったのだ。


「まあ、頑張ってはみるね。」


「よぉーし、後はコイツを丸め込むだけだな。」


大河を見て、元気よく蒼夜は言う。


「お手伝いは要る?」


鬼崎は、楽しそうに笑いながら言う。


「先輩、そんな裏切るんですか!?」


大河は、裏切り者ぉー!っと、騒いでいる。


「まあ、正直な話。君に抜けられたら、とても困るかな。ここは、先輩である僕の為にお願い。」


「その言い方は、卑怯だけど…ちくしょー!やってやんよ!もう、口調も基本は隠さないかんな!」


大河は、パソコンを置き覚悟を決める。


「好きにしろ、仕事さえ楽しく出来ればそれで良いからな。さてと、いろいろ話し合いするか。」


蒼夜は、笑って進めるのだった。




大河は、キョトンとして鬼崎を見る。


「どうした?」


「んー?えっと、お仕事が楽しいなって。」


すると、蒼夜は満面の笑みで言う。


「それは良かった、暫くは迷惑掛けるけどな。でも俺も、メンバーの疲労は感じてるし改善を急ぐ。」


「まあ、今は仕方ないから我慢する。」


大河は、深い溜め息を吐き出したのだった。

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