第129話 受験結果
瑠衣は、素早くログアウトし次第、上着を羽織りスマホを片手に一階に走る。キョトンとした、大河を無視してポストを確認する。2枚の封筒…。
1つは、白い封筒で星秀冠高校と書かれている。もう一つは、白鷺山高校。第二希望の茶封筒。
瑠衣は座ると、茶封筒の方を開ける。合格…。そして、深呼吸をして白い封筒を開ける。大河は、瑠衣の表情に心配になり茶封筒の中身を確認。
「……っ!や、やりました!」
瑠衣は、嬉しさを滲ませた声で言う。
星秀冠高校、合格!
大河は、そんな瑠衣を優しい表情で見る。瑠衣は、スマホを取り出して少しだけ悩む表情をする。そして、少しだけ苦笑するとスリープモードにした。
大河は、それを見て複雑な表情になる。
「母さん達に、教えないのか?」
「お仕事、忙しいでしょうから。それに、ここに手紙を置いてれば、きっと見るでしょうし。」
少しだけ、俯いてから立ち上がると上に上がる。
父親は、転勤族でもう数年も帰って来ない。母さんも、残業続きでまともに顔を合わせない現状だ。いつしか瑠衣は、親に遠慮する様になった。本当ならば、褒めて一緒に喜んで欲しいだろうに。
大河は、深いため息を吐き出す。
「よし、今日は合格祝いだ!気合い入れて、美味しい料理を作ろうかね。お兄ちゃん、頑張っちゃうぞー!いや、ここは食べにでも行くか?」
鞄から、スマホを取り出して父親にLINEする。
『瑠衣、高校受験どっちも合格したぞ。』
すると、直ぐに電話がかかってくる。
「まったく、世話のかかる親だぜ。」
大河は、電話に出る。
『本当に、瑠衣は合格したのか!』
「おう、だから後で電話でもしとけよ?いままで、放置されて来たんだ。俺には、電話しても瑠衣にはしてないとか。瑠衣は、既に心が離れてるぞ。」
すると、電話越しに苦笑が聞こえる。
『えっと、転勤する前の瑠衣は幼かったからな。何て、電話して良いか分からなかったんだ。くそっ、笑ってるだろ?息子は、可愛いが…ずっと話さなかった弊害で、上手く喋れる自信がない。』
瑠衣の父親、竜平は苦笑しながらぐだる。
「ヘタレ。」
大河は、容赦なく言う。精神的ダメージに、竜平が呻き声を溢す。実は、両親とも息子達が大好きだ。
しかし、目をかける余裕がないのである。
瑠衣は、余り甘えられなかった事と、子供ながらに聡かった為に黙ってしまったのだ。忙しい親を、困らせない•我が儘言わない•良い子でいる。そう、自分に言い聞かせていた。家事や料理だって、もともとは親の負担を減らす為に始めたのだから。
大河は、電話を切ると考える。今から作れば、遅くなるし2人だけで食事はいつもしている。スマホを操作すると、何処かへ電話するのだった。
ルイスは、ログインして顔を上げる。
「どうだった。」
グレンは、暢気に笑って言う。
「はい、無事に合格してました!」
すると、周りからおめでとー!って声がする。イギリスサーバーで、お世話になった皆んなが気にかけて集まってくれた様です。赤面する、ルイス。
「じゃあ、2人プレゼントだぁ!」
そう言うと、合格祝いなるものを置いて解散してしまいました。どうしましょう?受け取りを、拒否したらその場に置いていくので、受け取らざるを得ないのです。ここ、冒険者ギルドですし。
どうや、慌ててログアウトした為スリープ状態になってたらしく。ビシャラさん達が、心配で声をかけて事情を説明したら、何か集まったみたいです。
待ってください、今の僕は女性姿なのですが。
「ルイス君、かなりの美女になったね。」
「服装も相まって、とてもエロ可愛いです。」
ルイスは、素早くローブを出すとフードを深く被っている。エレナは、慌てて止めている。
「ちょっ、髪型が崩れちゃうわ!」
「取り敢えず、今日は遅いので解散です!」
すると、グレンがログアウトしているのに気づく。
おのれ、グレン!僕に、押し付けましたね!取り敢えず、ログアウトしてご飯を食べなければ。
取り敢えず、伸びをしてからキョトンとする。
あれ?夕食の匂いが、全くしませんね?もしや、急用でも出来たのでしょうか?それなら、急いで作らないといけないですね。何を、作りましょう。
瑠衣は、立ち上がるとキッチンに向かう。
「あ、瑠衣。今日は、食べに行こうぜ。」
「でっ、でも…兄さんは明日も仕事ですよね?」
瑠衣は、いつもの雰囲気で断ろうとする。
「合格祝いに、食べに行こうぜ。明日は、家での仕事だから問題ない。だから、準備してこい。」
笑顔で、大河に言われ少しだけ悩んで頷く。
えっと、ファミレスとかだと思ってました。何か、お高そうなお店ですけど。その、良いんですか?
「よっ、瑠衣!リアルだと、お久しぶり!」
牧田は、暢気に笑いながら言う。
「高校受験、無事に合格おめでとう瑠衣。」
時矢も、挨拶してから微笑む。
「お2人とも、ありがとうございます。」
暫くすると、神崎が入ってくる。明日、家族内では祝う事になったらしく参加したのだ。
「でも、余り会えなくなるな。少し緊張するし。」
神崎は、苦笑してから言う。
「まあ、敷地が広いですし。教室のある場所も、離れていますからね。かなり、正直なところ寂しいです。上手く、他人と会話できるか不安ですし。」
瑠衣は、不安そうに苦笑する。
「2人なら、きっと大丈夫だ。」
時矢は、優しく微笑む。
「誰かしら、声をかけてくれるだろうしな。」
牧田も、にししっと笑う。料理を注文し、高校の話やゲームの話をしつつゆっくり過ごす。
「なるほど、難航してんのか。」
「はい、このままでは開店はお任せする事に…。」
すると、時矢は拒否する。
「駄目だ。breezeは、お前のお店だろ?」
瑠衣は、苦笑すると言う。
「頑張りますね。そうだ、プロメアは?」
「……プロメアは、そのだな。」
時矢は、視線を逸らす。
「ん?」
瑠衣は、キョトンとする。
「パパさんよ、早く戻って娘を構ってやれ。」
ボソッと、呟かれた言葉に固まる瑠衣。
「いや、リルとソルとフィンもだろ!?」
牧田は、思わず突っ込む。
んー?い、いったい何が?プロメアさーん?反抗期か、何かでしょうか?やんちゃなリルは、まだ解りますがソル?ソルさんもですか?というか、フィンが何かするとは思えないのですが。えっと、全員で反抗期的な何かが起こっているとかですかね?
すると、神崎は苦笑する。
「緩衝剤が、無くなったせいかな。お前が居ると、荒んだ心も癒されて絆されるからな。」
頷く、時矢さんと牧田さん。兄さんも、笑う。
「むー…、一度日本サーバーに戻って…いえ、駄目です!今は、帰れません。どうしましょう?」
瑠衣は、今の自分の性別が女性なのを思い出す。
「ん?何で、駄目なんだ?」
時矢は、キョトンとする。神崎は、プルプルと笑いを堪えている。牧田は、それを見てニヤニヤ。
「瑠衣、もしかして性変換薬を使ってるな?」
「ぐはっ、その通りなのです…。」
ルイスは、迷う雰囲気である。
「でもさ、どの道イベント限定アイテムだろ?期限を過ぎれば、消滅するし使い切ってるだろ?」
時矢は、暢気に言えば深いため息を吐き出す瑠衣。
「うん、察した。でっ、何本使った?」
「一本です。」
時矢は、思わず笑ってしまう。
「お、おま…www」
「イギリスサーバーでも、逃げてたかな?」
牧田が、ふざけた声で言えばアーサーから、聞いたサキュバスエピソードを神崎が言う。
「僕は、漢ですもん!」
不貞腐れた声で、瑠衣は言うと頷く大河。
「そうだな。」
やはり、筋肉が無いからですかね?この際ですし、筋トレやランニングでもしてみましょうか?
「駄目です。」
素早く、大河から却下。
「ん?」
「瑠衣、お前さ…。見え難いだけで、ちゃんと筋肉がついてるぞ。家事って、意外と重労働だしな。だから、食べる割に肥らないだろ?瑠衣は。」
瑠衣は、うーん。っと考える仕草。
けど、もう少し体力や筋肉がついた方が…
「俺は、ムキムキなお前を見たく無いです。」
大河は、必死に止めている。3人は、笑っている。
「ですが、運動は良い事だと思うのです。」
「あー…、基本的に家の家事はお前がやってるんだろ?なら、わざわざ動かなくても大丈夫だと…」
瑠衣の本気度に、時矢も流石に止めに入る。こうして、楽しい時間は終わってしまったのだった。神崎を家まで送り、家に帰ると瑠衣は微笑む。
「とても、楽しかったです。兄さん、ありがとうございました。これでまた、明日から頑張れます!」
「そうか、それなら良かった。おやすみ、瑠衣。」
大河も、優しく笑う。瑠衣が、去ったの見て呟く。
「ヘタレかよ?」
「瑠衣君、楽しそうね。ごめんなさい、任せきりになって。明日は、お母さんも頑張るわ。」
母親である、美波はそう言うと気合を入れていた。
「もっと、早めにして欲しかった。そうすれば、瑠衣にストレスなんて溜まらなかったのに。フリー•ライフ•リベレイションだって、ストレスを発散させる為にもとは瑠衣を誘ったんだ。親である、母さん達が何もしないから。ついでに、俺も暫く放置してたから、自分にも腹が立ってるけどな。」
そう言うと、自室に戻るのであった。
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