第113話 分かれ道

出て来たのは、ジャイアントゴーレムの変異種。ルイスとグレンは、距離を取り視線で会話する。


これ、火力的に無理じゃね?


ですね。正攻法では、まず勝てません。


うーん、どうすっかな?


幸い、あのホムンクルスは来ない様です。


ルイスは、ホムンクルスを見る。グレンも、横目で確認すると深呼吸する。そして、はっちゃける。


「黒い!デカい!何か、目が赤い!」


「本当ですね。さて、動きますよ?」


ジャイアントゴーレムが、三体同時に殴って来る。グレンとルイスは、同時に上に飛び跳ね回避。そのまま、グレンは即死攻撃である最後の業火。ルイスも、劣化材の試験管を投げて万物崩壊を発動。


「狂化って、即死無効出来たっけ?」


「いえ、出来ません。」


地面に着地して、グレンは真剣な表情で言う。ルイスも、軽やかに着地すると険しい表情で言う。


「核を探すにも、あのデカさじゃな。文字も、見つかんないし。目は、赤いままなんだよな。」


「おそらく、あれに核は入ってません。それと、目が赤いのは、賢者の石の影響下だからです。おそらく、即死攻撃で死んでます。しかし、狂化と賢者の石の魅了のせいで動いているんだと思います。」


すると、グレンは驚きルイスを見る。


「それ、不死身って事じゃん。」



「何事にも種があり、原理と限界が必ずあります。特に、錬金術の基本は等価交換。代償なしに、大きな影響を与える事は出来ないのですよ。」


ルイスは、冷静に答える。


グレンは、ホッとして魔法攻撃。すると、ルーカスは苦笑してから考えさせまいと亡霊を放つ。ルイスは、素早く聖水を撒いて追い払う。ちなみに、この聖水は天然のものではなく、聖石と霊水で作られたものである。勿論、錬金術で作られた聖水である。


「やっぱり、対策済みっすか。」


ルーカスは、悔しげに呟く。ルイスは、無視する。そして、邪竜討伐戦を生き残ったゴーレムを出す。


「ヴィル達、お久しぶりです。お願いです、ジャイアントゴーレムを押さえてください。」


すると、ヴィルは任せろといつものサムズアップ。仲間たちも、ルイスに手を振ったりアピールして、素早くジャイアントゴーレムに立ち向かう。


「ヴィル、懐かしいっすね。あれは、俺と一緒に初めて作ったゴーレムっす。だからこそ、その能力はだいたいは把握してるっす。無理っすよ。」


真剣な表情で、ルーカスはルイスを見る。それに、ルイスは微笑みを浮かべると楽しそうに言う。


「もう、ヴィルはゴーレムリーダーです。それに、彼はもう一人では無いんですよ。大丈夫、僕は僕の仲間を信じてます。まあ、これ言うと自分を過信してると思われがちなのですがね。ゴーレムじゃなく、信じているのは自分の腕前だろって。」


ルイスは、最後の方を悲しそうに呟く。ヴィルは、連係を取り岩の巨大牢獄を作り出す。そして、ジャイアントゴーレムを閉じ込めた。チラッと、ルイスに視線を向けて近づくと優しく笑い頭を撫でる。そしてから、元気出せと仲間達がジェスチャーする。


「ありがとうございます。取り敢えず、そのまま暴れ出すと思うので閉じ込めといてください。」


すると、全員でサムズアップする。ルイスは、クスクスと笑い感謝のジェスチャー。すると、イェーイのジェスチャーをして全員持ち場に戻って行った。


可愛いですねぇ…。


「ルイス、これからどうするんだ。」


「さあ、どうしましょうかね。」


ルイスは、真剣な表情でルーカスを見る。ルーカスは、苦笑するとホムンクルスキメラを呼び出す。グレンは、守りの構え守護聖火を発動させる。ルイスは、錬成壁でホムンクルスキメラの魔法を受け止める。ルーカスは、はっとして気づいた。


さっきから、錬金術しかルイスは使ってないのだ。


本業は、祈祷師で薬師なのにも関わらず、スキル化した錬金術しか使っていない。ルーカスは、苦々しい表情をしてルイスを見つめる。


「手加減してると、火傷するっすよ?」


「ご忠告、ありがとうございます。ですが、僕は火傷程度で止まる様な、心の弱さは持ち合わせていません。君こそ、真理を使うと痛い目を見ますよ?」


ルイスは、素晴らしい笑顔で言う。そして、最後に真理をそれ以上は使うなと、鋭い視線で注告する。ルーカスは、ホムンクルスキメラに指示を出す。


「手加減される程、俺は弱く無いっすよ。それと、痛い目なら既に見てるっす。舐めんなっす!」


ルーカスは、大鎌を持ってルイスに突っ込む。しかし、グレンに邪魔される。グレンは、吹き飛ばされるが、受け身スキルで転がる。そして、苦笑した。


「やっぱり、錬金術しか使う気無いのか…。」


グレンは、困った雰囲気でやれやれと笑う。


「これは、手加減ではなくけじめです。兄弟子として、同じ錬金術師として、僕は君にお説教をしなければなりません。だから、覚悟してくださいね?」


ルイスは、複雑な微笑みを浮かべて言う。ルーカスは、思わず動揺してしまう。大好きな、兄弟子がまだ自分を見捨てていない事実。昔のように、説教して許そうとしている事実。まだ、絶望されてない。まだ、やり直せると思われている。嬉しかった。


けれど、それを表に出す事は出来ない。


その優しさに、すがるにはいささか遅すぎた。ルーカス自身、自分を許せないのだ。目的の為に、闇錬金術である真理に手を出した事実が。目的の為に、多くの犠牲者を出してしまった自分が。


何より、ルーカスのジョブは堕ちた錬金術師だ。


「相変わらず、身内に甘いっすね。甘過ぎて、反吐が出るっす。それと、回避しかしてないっすね。」


「聞いて良いですか。」


ルイスは、静かな口調で言う。


「……何っすか?」


「プロメテアは、一度でも歩けましたか?」


ルーカスは、驚いて大鎌を引く。


「君が、プロメテアの為に義足を友達と作ってたのは知ってました。そして、魔物のスキルを継承させて、何とか動ける様にしたいと思ってた事も。プロメテアは、継承が出来ないと嘘をついた。君が、惚れている事を知っていて、君を利用したんですよ。彼女の最後の言葉は、僕と君への謝罪でした。」


ルイスは、悲しそうな表情で言う。ルーカスは、苦しそうな表情をしてからルイスをしっかり見る。


「歩けたっす。俺は、全力でプロメテアを止めたっすよ。もう、これ以上の錬成は崩壊しか起きないって。でも、隠れて錬成を続けてたみたいっす。」


俯いて、苦々しく言う。


「分かってます。プロメテアは、僕の役に立ちたかった。だから、力を求めてしまった。歩けたのならば、良かったです。プロメテアの、最初の願いでしたからね。少しだけ、親として安心しました。プロメテアが、歩けた姿を見れなかったのは、少しだけ残念ですけどね。さあ、続きをしましょうか。」


ルイスは、深呼吸をして笑顔を作った。現状、ルーカスとは敵対状態だ。悲しんでいる場合では、無い状態なのだ。ルイスは、短刀を構えた。グレンは、ホムンクルスキメラと激闘を繰り返している。


どうやら、このホムンクルスキメラはホムンクルスのみで、出来ている様ですね。ふーむ…。


「話は、終わったか?ルイス、手伝ってくれ!」


「はい、了解です。グレン、逃げてくださいね。」


ルイスは、2本の試験管を投る。


強酸・劣化酸


ホムンクルスキメラは、激痛に悲鳴を上げて暴れ出す。グレンは、撤退済みである。


「かわいそうですが、これしか救いが無いんです。レノさん達、押さえ付けてください。」


ゴーレム5体が、ホムンクルスキメラを押さえ付けている。ちなみに、基本的にゴーレムに酸や毒は効きにくいです。中和剤と解毒剤を、素早くゴーレム5体に投げてホムンクルスが灰になったのを見る。


「ルーカス君、なぜホムンクルスだけなんですか?君ならば、他にも錬成や合成が出来たはず。」


そう、同じ物を錬成しても性質は違えど、耐久性や能力が弱体化してしまいます。力やスキルバリエーションは、豊富でも使える能力が無い状態です。


「……それは。」


口籠る…。ルイスは、なるほどと頷き笑う。


「苦しい思いを、しない・させない為ですね。つまりは、感情欠落したホムンクルスをワザと作り、合成させれば精神的な負担が減ります。暴走を抑えられ、なおかつ苦しむ姿を見ずにすみます。君は、プロメテアの二の舞を作りたくなかった。そして、ホムンクルスキメラに苦しい思いをして欲しくなかった。でも、ホムンクルスキメラはとても短命です。遺跡のは、封印状態だから長生きしてますが。」


「……。」


ルイスの言葉に、無言になるルーカス。


「ルーカス君、君の目的は察してます。ですが、手段は選ぶべきです。使いたく無い、苦しいのに真理に手を出して、自らを傷つけないでください。」


「分かった様な、口を聞かないで欲しいっす。そう言うの、迷惑だって分からないんっすか?」


ルーカスの表情を見て、ルイスは説得を諦めた。グレンは、深いため息を吐き出す。


「ザイン、全力で叩き潰すっすよ。」


「はい。」


ルーカスは、大鎌を構えてザインも剣を構える。


「ルイス、覚悟を決めろ。」


「出来れば、ザイン君は殺したく無いです。」


ルイスは、俯いて呟く。


「無理だ。それと、殺したく無い理由は?」


「彼は、彼は……


ルイスの言葉に、グレンは驚き固まるのだった。ルイスは、そんなグレンを見て覚悟するのだった。

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