第110話 来客とホーエンハイムの依頼

お正月イベントも、無事に終わりました。暫くですが、イベントも無いですしゆっくり出来そうです。


ルイスは、小さくため息を吐き出す。


そして、ストレージと個人倉庫を確認する。そしてから、ストックで足りない物をメモする。


プロメアは、シャルムのクランに遊びに行ってる。


お正月イベントで、遊びながら鍛えたので、そこら辺のプレイヤーには負けないと判断したからだ。


プロメアは、ルイスが作った最高傑作と言っても良い、技術で造られたホムンクルスだ。学習能力も、普通のホムンクルスより上だし、保有MPはプレイヤー並みにある。戦闘技術も、親であるルイスから受け継いでいるし、基本ステータスが高いのだ。


そして、何より…プロメアは可愛い。


無邪気で、泣き虫でルイスの後ろに、よく隠れていたプロメア。今では、明るく笑顔を振り撒き、積極的に友好関係を築いたりしてる。


「子供の成長って、早いものですね。」


「いや、普通はあんな早く無いからな?」


ルイスの言葉に、カリオストロは苦笑する。


「何だ?親離れして、寂しくなったのか?」


トキヤは、冗談混じりに笑えば、ルイスは笑う。


「違いますよ。そろそろ、契約解除すべきかなと。ホムンクルスは、弱いですから錬金術師と契約をする事で、契約者が所有する技能継承が出来ます。解除しても、継承されたものは消えません。これを、この世界では独り立ちとも言います。」


ルイスは、道具を用意しながら言う。


「継承しても、使えるかはプロメアしだい。独り立ちさせて、本格的に巣立たせる気だな?」


カリオストロは、本に栞を挟み閉じて言う。


「巣立たせるかは、あの子の意志と技術しだいですかね。勿論、最大限のサポートはしますけど。」


ルイスは、薬品を錬成鍋に入れながら言う。


すると、ランコルがルイスにお客様が来ていると言う。ルイスは、キョトンとして手を止める。


「えっと、どちら様です?」


「確か、エレナ様と…」


すると、ルイスは驚き迷う仕草をする。カリオストロは、真剣な表情になる。トキヤは、知らない名前に2人を見る。そして、ルイスを見て許可を出す。


「お久しぶりです、師匠とルイスさ…ルイス君。今日は、お話があって来たのよ。時間は?」


ルイスは、無言で立ち上がる。


「ここは、メンバーが居るので場所を移しましょうか。カリオストロも、来てくれますか?」


「分かった…。」


そこで、暫く黙ってからルイスが言う。


「エレナさんも、カリオストロを師匠と呼ぶなら。僕も、初心に戻って師匠って呼んでも……」


「ルイス?それは、何の冗談だ?」


カリオストロが、表情を引き攣らせて言う。


「いいわね、何か懐かしいじゃない?」


エレナも、ノリノリに言う。


「お前ら、やめろ…」


笑いながら、ルイスとエレナはカリオストロと部屋を移動するが、メンバーは複雑だ。実は、トキヤも含めてルイスのゲーム始めたての頃を知らない。炎天神楽に、ルイスが入ったのは弟子を卒業してから。なので、ルーカスが不穏な人としか知らない。




部屋に入り、ルイスは紅茶と茶菓子を出して座る。


「まず、ルーカスの奴がおかしいの……。私のアトリエを、突然破壊して薬品を壊して。怖かった。」


「……いきなりですか?」


ルイスは、紅茶を飲みながら言う。


「いいえ、最初は普通だったの。でっ、戦ったけど手札を切らせる事も出来なかった。あれは、切り札を何枚か持ってる。それも、ヤバめな奴よ……。」


エレナは、震えた声で泣きそうである。カリオストロは、深刻な表情をして目を閉じてしまう。ルイスは、唇を噛むと考える。問題は、その切り札にありそうですね。流れ的に、僕にも接触するでしょう。


「エレナさんは、真理に辿り着きましたか?」


「いいえ、手が届かなかったわ。けど、ルーカスは全てじゃないけど見えたみたい。」


ルイスは、青ざめ持ってたティーカップを落とす。そして、真剣な表情で思考を巡らせる。カップの割れる音に、驚いたトキヤ達が入ってくる。


「ごめんなさい、取り乱しました。大丈夫です。」


ルイスは、ハッとしてオロオロと言う。そして、片付けようとする。しかし、ランコルが素早く片付ける。ルイスは、感謝の言葉をランコルに言う。


「ちょっ、大丈夫じゃないだろ!」


ルイスは、顔色が悪くふらふらしている。カリオストロも、険しい表情である。エレナも、無言だ。


「取り敢えず、皆んな撤退です。」


ルイスは、リルとソルとフィンを呼ぶとトキヤ達を部屋から追い出した。そして、3匹にドアも守って貰い、鍵を閉めると深いため息を吐き出す。


「真理って、どういうものなのかしら?」


「残酷かつ、外道かつイカレタものですよ。」


ルイスは、静かに苦々しい雰囲気で呟く。


「世の中には、知らなくても良い事がある。そもそもだが、運営だったか?そいつらは、真理に辿り着けない前提でこの世界を作っていたらしい。」


カリオストロは、紅茶を飲みながら言う。


「馬鹿ね!そもそも、オカルト過ぎるのよ!マニアックにするから、イカレタ行動する奴が出るの!」


エレナは、激怒を声に滲ませる。


「取り敢えず、心に留めておきます。エレナさん、わざわざ中国サーバーからここまで、急ぎで来てくれてありがとうございます。助かりました。」


ルイスは、疲れた様に笑って送り出す。エレナさんは、中国在住の日本人。ルーカス君は、イギリス人と日本人のハーフでイギリス在住です。つまり、イギリスサーバーからこっちに来ているはず。


「ルイス様、じゃない…ルイス君、頑張って!」


「はい、何とか解決します。それが、兄弟子としての責任です。さて、何処まで見たのやらです。」


ルイスは、考える様に呟く。




エレナが、帰ってルイスは部屋に戻る。


「さっきは、お騒がせしました。」


ルイスは、道具を片付けながら笑う。


「いや、気にしてないが。大丈夫なのか?」


トキヤは、心配そうにルイスを見る。


「はい。取り敢えず、今日はお茶しましょう。」


ルイスは、疲れたとばかりにソファーに腰を下ろすと、小さくため息を吐き出して笑みを浮かべる。


「そうだ、カリオストロ師しょ…あ痛っ!」


カリオストロに、チョップを入れられて、当たった場所を押さえるルイス。カリオストロは、腕を組んでから顔をプイッと逸らす。どうやら、嫌らしい。


「エレナさんは、良くて何故です?」


「一応、お前は俺の主人なんだが。俺が、お前の事を主と呼んだら嫌だろ?それと、同じだ。」


ご立腹な、カリオストロになるほどと頷くルイス。ドラコフは、ニヤニヤしていたがルイスに言う。


「breezeの主、ルイスにお願いがある。俺も、正式にbreezeに入れてくれ。ちなみに、カリオストロとグレンとトキヤの旦那には許可を貰ってる。」


「おや、そうなんですか?」


ルイスが、隣を見れば頷くカリオストロ。トキヤとグレンも、ルイスを見てから無言で頷く。


「では、お決まりの言葉を言います。ドラコフさん、良ければ僕のホームを、帰る場所にしませんか?僕達は、貴方を歓迎しますよ。」


ルイスは、嬉しそうに笑って言えば、ドラコフはニヤリと笑い、紳士的に礼をする。


「ルイス様、またお客様です。」


ランコルが、真剣に言えば入ってくる。


「やあ、お邪魔するよ。2人とも、元気にしてたかい?早速だけど、ルイス君に少しだけお願いがあるんだよね。とっ、言う訳で連れて行くよ。」


「へっ?」


次の瞬間、何処から現れたのかドールに抱えられるルイス。表情を青ざめ、身動きが取れなくなる。


いつ、ドールを…。見えなかった、反応が出来なかったです。しかも、ドールにしてはパワーも強いですしなにより……動きが、ドールの動きではない。


「あっ、あの?連れて行くとは?」


「少し、後片付けと修理を手伝ってほしくてね。僕一人だと、面倒…大変だからね☆それに、君の技量だったら出来ないと困る内容だし。」


ホーエンハイムは、笑顔で言う。


何を、考えて…。それに、さっきから嫌な予感が。


「取り敢えず、何を修理するんですか?」


「錬金術の古代遺跡、その瓦礫掃除と錬成回路の修理だよ。勿論、護衛は任せてよ。」


ルイスは、思わず悲鳴をあげる。


「いっ、嫌ですぅー!」


「まあ、だよね。だから、先に捕獲したんだけど。君に、拒否権は無いよ。壊したのは、ルーカス君。君の、弟弟子だからね。カリオストロでは、力不足だし出来ないなら…僕は、カリオストロを殺さないといけない。けど、僕は殺したく無いからね。」


まさかの…、最悪な事態です。錬金術の古代遺跡、その文字は英文を読み難く並び替えたもの。英訳機能で、日本語にしてから文章を並び替え、それをまた英語に直さなければいけません。


そして、消えかけた錬成陣を結び直し……


さてさて、ルーカス君?やって、くれましたね。錬金術の古代遺跡、その最深部には真理を除ける鏡があります。技術によって、見える範囲が限られますがね。もしや、鏡を壊しに行ったのでしょうか?


「ホーエンハイムさん、修理するという事は…僕は無防備になるという事です。貴方の腕は、疑って居ませんが時間もかかりますよ。解読からですし。」


「勿論、分かってる。それと、鏡の件だけど。」


ホーエンハイムは、険しい表情でルイスを見る。


「やっぱり……。」


ルイスが、そう呟けばカリオストロは首を傾げる。ドールは、ゆっくりルイスをソファーに降ろす。


「鏡?そんな物が、あの遺跡にあるのか?」


「正確には、全ての遺跡にあります。唯一、真理を除ける窓であり、その技術を継承する祭壇への入り口でもあります。だとすれば、最悪な事態です。」


ルイスが、俯いてから険しい表情になる。


「話が早くて、とても助かるね。じゃあ…」


「行きます。その方が、貴方にとっては都合が良いでしょうし。何より、仕事がしやすいでしょう?」


その言葉に、思わずホーエンハイムは驚き困った様に笑う。そしてから、ルイスの頭を撫でて言う。


「ごめんね。」


ルイスは、話の中で自分の裏の役割も理解した。すなわち、囮であるという事だ。ルイスは、死んでもプレイヤーだから何度でも生き返るから。


「非常に不愉快ですが、理解しました。」


ルイスは、真剣な表情で言う。


「困ったな、予想より聡明だった。」


ホーエンハイムは、罪悪感から苦笑する。


「これくらい、察せない程まで子供じゃないです。それと、出る前に打ち合わせしましょうか。」


ルイスは、冷静な雰囲気で真剣に言う。


それは、まるで囮の事なんて気にしてない。さっさと、この案件を終わらせてしまおう。という雰囲気にも見える。一応、ホーエンハイムはルイスを脅して死んでも構わないと、冷酷な事を言ったのに。


全く、脅しが効いてないのだ。


ドールには、驚いたのに。脅しに対して、遺跡の事を考えた。何故か…。カリオストロを、ホーエンハイムが殺さない事を理解しているから。冷静に、ホーエンハイムの心理を読み取っているのだ。


死んでも、遺跡には蘇生場が隣接している。


ホーエンハイムは、少しだけ表情を硬らせる。そして、内心は恐ろしさに動揺する。ルイスは、そんなホーエンハイムの内心など知らんとばかりに言う。


「ホーエンハイムさん、打ち合わせは部屋を移しますか?さっさと、終わらせてログアウトしたいのですが。そろそろ、夕食どきなのですよ。」


ルイスは、時計を確認する。グレンは、慌ててログアウトする。トキヤも、時計をチラッと確認する。


「君って子は、緊張感とかないの?」


「ん?今から、緊張感なんて持ってたら、身が持ちませんよ。本番だけで、充分だと思いますが。」


ルイスは、素っ気なく言うと紅茶を飲んでほっこりする。ホーエンハイムは、深いため息を吐き出す。


「僕、本能的に君が怖いかも。敵にしたくない。」


ホーエンハイムが、そう呟けばカリオストロも無言で頷く。それは、この部屋の全ての人が思う事だ。


ルイスは、キョトンとしてホーエンハイムを見た。


「何故に?僕より、お強いのに。」


「強さって、人それぞれ違うと思うんだ。君の強さは、人を無意識に動かしてしまう。その上に、君には歪みがありながらも、自分を制してしまう。それもまた、僕が君を怖がる理由なのかもね。」


ホーエンハイムは、真剣に言うと座る。


「なるほど…、良く分かりません。」


ルイスは、敢えて分からないと笑う。その、ポーカーフェイスにホーエンハイムは苦笑するのだった。

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