第108話 交差する思考

ルイスは、新年に向けてポーションの入れ替え、その準備に追われていた。そして、寝落ちしているルイス。カリオストロは、やれやれと笑う。


「パパ、寝ちゃった?」


「みたいだな。」


カリオストロは、そう言うとルイスに毛布を掛けあげる。プロメアは、ルイスに近づくがカリオストロに抱き上げられる。プロメアを、ソファーに座らせてからカリオストロは、悩む様にプロメアに言う。


「プロメア、実はお前には姉がいた。」


「そうなの?えっと、どんな人だったの?」


プロメアは、驚いてから真剣に言う。


「あれは、真面目すぎた……。真面目で、優しくて努力家でぽやっとした性格だったな。ただ、ルイスが錬成に失敗したせいで下半身が動かなかった。」


プロメアは、驚いてから手で口を押さえる。


「それでも、ルイスにとっては初めての娘だ。とても、親として愛情を与えた。けど、プロメテアは自分が役立たずな事を気にしていた。勿論、ポーションや薬品を作れる技術は持ってた。けど、戦闘では連れて行って貰えない。そこで、歯車が狂った。」


カリオストロは、悲しそうに呟く。


「お姉ちゃんは、何をしたの?」


プロメアは、緊張した表情でカリオストロを見る。


「それは……」


「カリオストロ、おはようございます。」


ルイスは、真剣な表情で遮る様に言う。


「お前は、言わないつもりか?」


「これは、僕が言わなきゃいけない事です。けれども、まだ僕の心の準備が出来てません。カリオストロが、何処まで話したかは知りませんが。もう少しだけ、待ってくれませんか?絶対に、話すので。」


ルイスは、優しげで泣きそうな悲しい表情をする。プロメアは、ソファーから降りるとルイスの膝に座り見上げる。カリオストロは、小さくため息。


「プロメアは、いつまででも待つよ!」


「……ごめんなさい、プロメア。」


ルイスは、プロメアに困った様な表情で笑う。


「プロメア、俺はルイスと話がある。だから、ルイスの部屋で寝ていてくれ。おやすみ。」


カリオストロは、頑張って笑顔で言っている。ルイスは、それが分かるのか口もとを押さえて笑う。 


「お前な…」


「あははっ。そうですね、もう子供は寝る時間ですからね。ゆっくり、休んでくださいね。」


ルイスは、カリオストロの何か言いたげな、ジト目な視線から逃げる様にプロメアに手を振る。


「パパ、お兄ぃさん!おやすみなさい!」


プロメアは、パタパタと部屋を出て行く。カリオストロはソファーに座り、ルイスも立ち上がりソファーに座る。遮るのは過去の残像…。


回想…

狂った様に叫び、醜い姿となったプロメテアだったもの。ルイスは、止める様に言うが…彼女には、もう理性は残っていなかった。ルイスは、無言でナイフをプロメテアだったものに突き刺した。


あの子の、最後の言葉は……


ルイスは、深いため息を吐き出す。そして、カリオストロをしっかりと見る。カリオストロは、真剣。


「何処まで、あの子に話したんですか?」


ルイスは、真剣な表情で言う。


「姉がいた事、そして姉は失敗作で下半身が動かなかった事だな。後は、性格を少しだけ。」


カリオストロは、珈琲を飲みながら言う。


「悲劇を除く、全てを話したんですね。」


ルイスは、苦々しく呟くとため息。


「何故、ここまでリアルな錬金術を運営は、綺麗に再現したのでしょうかね。息苦しくて、心が痛すぎます。だから、錬金術師も増えないのですよ。」


「お前には、確か弟子候補が居たな。」


カリオストロは、思い出した様にルイスを見る。


「彼には、真理を教えるつもりは有りません。」


「彼を、大切に思っているんだな。まあ、俺が辿り着けなかった領域だ。それこそ、俺の師匠であるホーエンハイムなら知ってそうだがな。」


ん?あの青年ですか?


一度だけ、ウキペディアで調べましたが…。確か、絵だとヨボヨボのお爺さんでしたよね。本名は、テオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム。あの、パラケルススの書の作者です。4大精霊や、錬金術の本の人ですね。本業は、医者であり錬金術師だったはずです。占星術とかも、出来たとかなんとか。


「カリオストロ、彼は人では無いですよね?」


「……最初は人だった。今は、知らない。」


カリオストロは、苦笑して珈琲を飲む。


「精霊は、神と人間の中間敵存在だとされていますが、あの人は精霊だとして神寄りなのでは。ゲレティー様程では、有りませんが神気を感じました。」


ルイスは、思い出したのか思わず震える。


「だとしたら、会えないのも納得だな。」


「また、会おうと言われたのですが。」


カリオストロは、珍しくニヤける。


「目をつけられたな…。」


ルイスは、ビクッとしてカリオストロを見る。


「えーと、どういう意味ですか?」


「師匠は、お前の技量をおそらく見抜いてる。たぶんだが、水場に飛び込む前から見てたんだろ。だとするなら、絶対にお前に試練を与えるだろう。」


カリオストロは、珈琲を飲み干して言う。


「そ、そんな…。」


「諦めろ、目をつけられたなら逃げられない。」


カリオストロは、真剣な表情で言う。ルイスは、深いため息を吐き出している。すると、ランコルが追加の珈琲を持ってくる。


「お聞きしたいのですが、ルイス様はカリオストロさんを師匠とは呼ばないのですね。」


ぶっ!


ルイスは、思わず吹き出す。カリオストロは、ハテナマークを浮かべている。ルイスは、むせたのか咳をしている。慌てて、背中をさするランコル。


「技量的に、ルイスが現在だと上だしな。」


「カリオストロが、嫌がったのが理由ですね。最初は、師匠って呼んでいたのですよ?」


すると、ランコルはなるほどと頷く。


「最初、こいつを見た時…幼いと思った。だが、傷薬を見た時に弟子にすると決めた。たくさん、弟子にしてくれと言ってきた人は居た。だが、自分の調合した傷薬を持って来たのは、こいつが初めてだったんだ。だから、コイツと2人を弟子にした。」


カリオストロは、懐かしむ様に言う。


「ルイス様には、兄弟弟子が居たのですか?」


「はい、エレナさんとルーカス君ですね。」


ルイスは、当時を思い出したのか笑う。


「エレナは、調合が得意でな。良く、お前に絡んでたよな?調合法を、盗み取るんだってな。お前は、邪魔されるのが嫌で逃げ回ってたしな。俺にも、真面目に質問攻めしてくるし大変だった。」


カリオストロは、鼻で笑う。


「ルーカス君は、合成が得意です。鉱物の錬成が、好きでカリオストロにもべったりでしたね。」


すると、カリオストロは複雑な表情になる。


「俺は、あいつを弟子にした事を後悔してる。プロメテアの件、絶対にあいつの入れ知恵だ。」


「分かってます。今後、敵になりそうですね。」


ルイスは、深刻そうに呟く。何せ、今のルイスにはプロメアが居るのだ。錬金術で、合成と錬成を使うホムンクルスの。ランコルは、心配そうにルイスを見るのだった。カリオストロは、無言で頷くと深いため息を吐き出す。そして、真剣に言う。


「お前は、昔は錬成が得意だったな。2人から、良く絡まれてて大変そうな記憶がある。お前は、基本的に学者寄りだしな。それに、要領も良くて呑み込みも早かった。楽しむタイプだし、教えがいはあったが……そのせいで、真理を知ってしまった。」


カリオストロは、申し訳なさそうに言う。ランコルは、ルイスを真剣に見ている。


「……さて、眠くなっちゃいました。僕は、そろそろログアウトします。おやすみなさい。」


ルイスは、明るく笑うと部屋を出て行った。




街の酒場で、1人の少年が空を見上げる。フードのせいで、表情は良く見えないがニヤリと笑う。


「ルイスの兄貴、また昔みたいに遊びたいな。」


とある教会で、1人の少女が俯きながら涙を流す。そして、力強く空を見上げて外を歩く。


「ルーカスの奴、絶対に3回はぶっ殺す!このままだと、ルイス様が危ないわ。急がないと!」


ルイスは、部屋から空を見上げて、静かに目を閉じる。そして、深いため息を吐き出してから呟く。


「とても、胸騒ぎがしますね。気のせい?いえ…」


ルイスは、そこまで言うとログアウトした。




ホーエンハイムは、古代遺跡の錬成陣を見て困ったように怒る。ルーカスが、破壊したものだ。フードを外し、真紅の瞳で廃遺跡を見つめて、瓦礫の中をゆっくりと歩く。そして、不機嫌そうに呟く。


「やれやれ、滅茶苦茶じゃないか。まったく、これは僕1人だと面倒だね。そうだ、うんうん丁度良いね。ルイス君に、手伝って貰おうかな。」


お茶目な雰囲気で、後半を言っているが……その瞳は、笑っておらず表情も険しい。


「ついでに、囮になって貰おうかな。」


ホーエンハイムは、ルイスの動きを思い出して、大丈夫だろうと微笑みを浮かべるのだった。









あけまして、おめでとうございます!


今年も、よろしくお願いします!さて、カリオストロの弟子集合!となるのかな?その前に年越しイベントを書こうと思います。勿論、ルーカスもエレナもプレイヤーでβテスターです。


ホーエンハイムは、今回は人外設定です


錬金術師同士のバトルになりそうですな。お爺ちゃん(ホーエンハイム)、頑張ってね!


「本当に、年寄り使いが荒いなぁ……仕方ない。」

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