第61話 航海4日目 遭遇戦

4日目の早朝、ゲーム時間で2時の夜。


ルイスは、マッキーに揺さぶられ起こされる。


「マッキーさん?」


ルイスは、マッキーの表情を見てキョトンとする。皆んなは、まだ寝ているので静かに起き上がる。


「ルイス、集まってくれ。」


「分かりました、先に行ってください。」


マッキーは、無言で頷くと静かに出て行った。ルイスは、装備変更すると真剣な表情で歩き出す。


「トラブルか?」


トキヤさんが、小さく呟く。ルイスは、立ち止まり振り向いてから、少しだけ考えて呟くように言う。


「分かりません。ですが、おそらくそうかと。」


トキヤは、そうかと頷いて2度寝する。ルイスは、苦笑して足早にマッキーの所に向かう。すると、他のリーダー達も集まってくる。


ルイスは、海を見て驚いた表情をする。濃ゆい霧の中から、大きな船が一隻と小さな船が八隻が現れたのだ。とても、ボロボロで不気味な雰囲気。船が軋む音、ボロ布が靡く音そして怨嗟の声も聞こえる。


「これ、幽霊船……だよな?」


「幽霊船……ですね。」


マッキーは、苦々しくルイスに言う。ルイスは、険しい表情で頷く。リーダー達も、嫌そうな表情。


幽霊船って事は、相手はおそらくアンデット系(死者系)ですよね。僕、絶対に狙われます……。


ゴースト(幽霊)は、確定ですね。それと、船上にグール(喰人)とスケルトン(骸骨)も見えます。あらま、ゾンビもいるんですね。了解です。


ゴースト

物理攻撃無効、呪い、憑依、怨嗟、生命力吸収


グール

感染、混乱、狂化、気絶


スケルトン

特に有りません


ゾンビ

感染、狂化、発狂、気絶。


「回避札なら、全員所持してるし大丈夫か?」


「おそらく……。」


ルイスは、テンション低めに答える。


アンデット系は、厄介な割には素材を落とさない、言わば不人気な敵です。と言うか、プレイヤーだけでなくNPCからも不人気。勿論、上位種なら素材もドロップするでしょうけどね。居ますかね?


今の所、見つけられないですね。


動きからして、AIは搭載されてないBotだと思われます。少しだけ、ラッキーでした!


Botとは、ウェブサーバとのやりとりを自動的に行うプログラムの事。ゲームでは、自動で動く敵。プログラミングによって、物事を行う手順を決められた、中身の無い敵さんの事を言います。


「ルイスだけは、死守しないとな……。」


マッキーは、真剣に呟く。


やっぱり、視線を感じます。プログラムだって、分かってはいますが見ないで!聖職者は、真っ先に狙われるのは知ってましたが。ガン見は辛いです。


「ちなみに、ピューリファイは?」


「僕、囮役ですか?僕を、殺したいんですか?」


ルイスが、セロンに無表情で言う。


「ぎゃあ!ごめん、ルイス君!嘘だよ!」


「うん、救いを求めるアンデットにピューリファイは焼け石に水だぜ?寧ろ、余計にアンデットを引き付けてしまう。確実に、ルイスは死んじゃうな。」


マッキーは、困ったように笑いルイスを見る。他のリーダー達も、同じく頷く。ルイスは、ハッとして壁の船内通信機を見る。そして、マッキーに言う。


「あ…、マッキーさん。急いで、ドレイクさんに連絡を!現在、使用中の魔道具の停止!それと、光や火属性の魔法の禁止!そして、ランタン以外の明かりは消して船員は1カ所に集まって待機!戦闘終了まで、目を閉じて下を向いていてください!」


すると、マッキーは頷く。ドレイクは、素早く指示を出して待機状態に。ルイスは、聖結界でドレイク達を守る。これで、一安心って所ですか。


「くそぉー、何もこんな真夜中に来なくてもっ!」


思わず、最悪だと叫ぶマッキー。


「これぞまさに、『今夜は寝かせないぞ☆』ってヤツですね。分かります、分かります…(※殺意)」


思わず、殺意を纏うルイス。


「今回も、大量じゃの……ゴミが。(※白目)」


トンガは、明後日の方向を見て呟く。


「あれが、全部素材なら喜んでキルするのに。」


シャルムも、深いため息を吐き出す。


「まさに、骨折り損のくたびれもうけ…だね☆」


セロンは、明るい声音ではっちゃける。


「3時になったら、メンバーを叩き起こしに行くかな。ルイス、ごめんな。俺達の会話に、付き合わせたから10分寝たか寝てないかだよな。」


「大丈夫です。」


ルイスは、苦笑して小さくあくびをする。すると、カリオストロとドラコフが来る。カリオストロは、起きていたらしい。異変に気付き、中々に起きないドラコフに手を焼いていたと説明してくれました。


現在時刻、早朝3時ピッタリ


リーダー達は、直ぐに部屋に向かって走り出す。


*マッキー

「起きろ!敵だ!」


すると、慌てるように準備するメンバー達。



*シャルム

「ほら!起きて、敵だよ!戦闘準備!」


すると、ダラダラと寝ぼけつつ準備する。



*トンガ

「うぉーい、敵じゃ!起きろい!」


すると、暫く寝ぼけてたが急いで準備する。



*セロン

「皆んな、ドキドキの訪問者だ。歓迎しよう!」


すると、メンバーは外を見て青ざめセロンを殴る。



*ルイス


ルイスは、部屋を開ける。すると、トキヤ達は戦闘装備で待機していた。少し、グレンは眠そうだがはっきりと起きている。そして、トキヤはサムズアップ。ルイスは、思わず微笑みサムズアップする。


「さすが、トキヤさん。」


「いや、あれ見たら目が覚めた。」


窓の外を、指差しながら苦笑するトキヤ。


「なるほど。皆さん、起きてるようですね。」


「「おはよう御座います、ルイス様。」」


ランコルと、キリアが挨拶する。ルイスも、軽く挨拶して深呼吸。そして、気合を入れてから言う。


「では、皆さん行きましょうか!」


『おう!』


ルイス達は、走り出すのだった。


「ランコルさんは、船員の守護をお願いします。」


「かしこまりました。」


ランコルは、別の通路を進むために別れる。


さて、船が近づいて来ました。では、全力でゴミ掃除(アンデット狩り)しますか!


憑依は、冥府の回避札で何とかなります。


呪いは、ディスペル(解呪)で大丈夫。


精神汚染系の怨嗟、そして狂化や発狂や気絶そして混乱。これらも、キュア(異常回復)で対応可能。


物理無効は、魔法をバンバン撃てば良いですしね。


問題なのは、感染と生命力吸収ですね。感染は、聖職者のスキルで無効化出来ます。と言っても、戦闘中ずっと発動させるのは……無理です。


生命力吸収(ドレイン)は、ヒール(回復)で対応するしかないです。よーし、頑張ります!


つまり、今回も回復兼支援ですよね?


あ、ルールが表示されました。クリア条件は、敵の全滅か夜明けの日が昇るまで。そして、半数以上が生き残る事。NPCの被害、それを最小限にする事。


ちなみに、もしメンバーが死んでもイベントクリア時に、この船に戻ってくるらしいです。


「今回は、どうします?」


「ルイス、考えがあるから指示を出したんだろ?」


すると、他のリーダーもルイスをみる。


「だって、お前『あ…、マッキーさん。急いで、ドレイクさんに連絡を!現在、使用中の魔道具の停止!それと、光や火属性の魔法の禁止!そして、ランタン以外の明かりは消して船員は1カ所に集まって待機!戦闘終了まで、目を閉じて下を向いていてください!』って言ってただろ?説明よろしく。」


「えーと、魔道具の停止はアンデットの上位種が持つ、マナドレイン(魔力吸収)が怖かったので。実は、NPCやプレイヤーだけでなく魔道具からもMPを吸収するみたいなので。ちなみに、魔道具はアンデットにマナドレインされると壊れます。」


公式に、データが追加されてて念のためと説明するルイス。マッキーは、驚きそして苦笑する。


「まあ、光や火属性の魔法は引き寄せられるからって理解できるわね。アンデット退治の、基本だし。まあ、ルイスとグレン君はそれこそ獲物よね。」


シャルムが、そう言えばグレンは青ざめる。


「何か、凄く嫌だ……」


「ですが、火と光はアンデットの弱点属性です。なので、戦闘では必須でもあります。囲まれないように、上手く立ち回って倒す必要がありますね。」


ルイスが、真剣に言えばマッキーは笑う。


「まあ、そこは皆んなで協力しよう。ルイスやグレンは、火力はあるが他のメンバーは普通だし。寧ろだ、他のメンバーを優先的にカバーするべきか?」


すると、トンガが苦笑して言う。


「しかし、ルイスを殺されても難儀じゃぞ?」


「まあ、どうにでもします!」


ルイスは、疲れたように言い続きを説明する。


「ランタン以外の、明かりを消すのは大きな幽霊船を船に近づけない為です。実際、大きな幽霊船は動かず小船が向かって来ていますしね。」


「なるほど、沢山の光に向かって来てるのか!」


マッキーの声に、ルイスは無言で頷く。


「じゃあ、『船員は1カ所に集まって待機。戦闘終了まで、目を閉じて下を向いていてください。』の意味は何だ?もしかして、ターゲットか?」


「はい、視線が合うとターゲットにさらる機能がついてたら困るので。いくら、弱いとはいえNPCである船員には脅威でしかないかと。それだけです。」


この世界の敵は、警戒範囲に入ったり攻撃を1度受けると襲って来ます。しかし、意地悪な事に視線が合ったり足音を察知して襲ってくるヤツも居ます。


「まず、小船幽霊船沈める為に遠距離攻撃です。そして、すり抜けた敵の戦滅がいいですか?」


「そうだな。」


パーン!パーン!


周囲で、信号銃の音が多く聞こえます。しかし、濃ゆい霧のせいで何も見えません。これでは、救援をするに出来ないでしょうね。そして、僕達の後ろの船は別の大きな幽霊船と接触。アンデット達が、船に雪崩れ込んでますね。凄く、ホラーです。


これは、多くのプレイヤーが間引かれましたね。


「じゃあ、お掃除だ!」


ルイスは、素早く遠距離魔法の詠唱。そして、全員で一斉射撃する。後ろから、船が軋む音がしたと思い振り向けば、海に沈む後ろの船。それを見て、幽霊船も満足?したのか霧の中に消えました。


ターゲットは、固定で倒すと撤退するんですね。こっちに、襲いに来なくって良かったです。


さて、小船は全滅させました。


すると、ゆっくり幽霊船が向かって来ます。しかし、霧が薄くなって来ました。朝日が昇ります!


幽霊船は、ピタッと止まると霧の中に消えました。


「いっ、よっしゃあー!」


「やったー、乗り切った!」


「わーい、終わった!」


現在時刻、早朝5時過ぎ


幽霊船の、遭遇戦が幕を閉じました。いやはや、とてもバタバタして疲れました。そして、眠いです。


その後、昼過ぎまで寝てしまったのは笑い話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る