第29話 独裁者

ルイスは、本部に近づくにつれて不愉快になる。まずは、生産職が売っている商品の値段。そして、掌握されたであろうクラン達の監視である。


そう、そういう事をするんですね?良いでしょう、その喧嘩………倍にして返してあげます。


「やぁ、待っていたよ。それで、同盟の事は?」


「お断りします。」


すると、数人のプレイヤーが怒鳴ってくる。


「黙れ。」


ルイスの一言に、怒鳴っていた人すら黙り込む。


「これは、正当な交渉なんですよね?なら、周りのプレイヤーは必要ないはず。席を、外してくれませんか?」


「もし、お前達が危害を加えたら……」


すると、ルイスの雰囲気が変わる。堂々として、安心感のある本気のルイスだ。周りは、黙り込む。


「それを、お前達が言うの?今現在、少人数を囲んでるのは誰かな。勿論、僕とノエルさんだけで会話するから大丈夫だよ。仮に、僕が彼を襲っても相性が悪くて僕には勝ち目が無いですし。」


マッキーは、表情を隠しつつも思う。


〔何か、息を吸うようにサラッと嘘ついたな。〕


トキヤは、ニコニコしながら思う。


〔さすが、分からない嘘を良く思いつくよな。〕


グレンは、暢気にルイスを見ながら思う。


〔え?嘘だよな?うん、嘘だ。ヤバいな……。〕


「………分かった。君達は、出て行ってくれる?」


〔〔〔やっぱり、騙された………。〕〕〕


ルイスも、暢気に笑うと言う。


「少しだけ、外で待っててくれます?」


ルイスは、普段の笑みでトキヤ達に言う。


〔そして、このポーカーフェイスよ。〕


〔何気に、腹芸が得意なんだろうか?〕


〔何か、学校と雰囲気が違いすぎる………。〕


3人は、部屋から出ていった。




さて、ここからは僕のお仕事ですね。


「同盟の件は、お断りしました。なので、イベントの話をしましょうか。まず、物資ですよね。」


「その件だが、値段を3分の1にして貰いたい。」


来た……。ここに、来たときに出店の商品を見て安過ぎだと思ったんですよ。これでは、デフレーションが起こり生産職が赤字になってしまいます。生産職は、利益がでない……つまり、今回のイベントに参加予定の生産職が利益を得られないとイベントに参加しなくってしまう。


「断る。」


「何故だい、安ければ皆が助かるだろ?」


あ、なるほど……。こいつは、生産職の事を考えて無いんですね。そう、そうですか……。カチンッ。


「貴方は、生産職の事を考えてますか?それで、利益を得るのは、戦闘職業だけですよ。それなら、僕は全生産職業にイベント参加を断るようにお願いしますけど。だって、僕達に旨みが無いですから。」


すると、ノエルは笑って言う。


「皆に、感謝される。利益は、あるだろ?」


「本当に、話にならない。やはり、団長のワーズさんが指揮を取るべきですね。貴方のやり方は、戦闘職と生産職に深い亀裂を作るだけなんですよ。」


すると、激怒して剣を抜くノエル。


「良いから、大人しく命令を聞けよ!」


「はぁ~……、剣を抜いたら終わりですよ?」


ルイスは、動画を然り気無く取る。運営に、通報したりする時に使う機能だ。しかも、掲示板やチャットなどにも載せられる便利な機能がある。


「ふん、貴様のような弱者……盾王ノエルに勝てるか。俺は、選ばれた人間なんだ。ふははははっ!」


あー、謎の強気はそれのせいですか。OK!ならば、早々に世代交代して貰いましょう。だって、盾王と名乗ったしね。僕も、錬金王として潰します。


「選ばれた人間にしては、グズですけどね。」


「何だと?ふざけるな!シールドスラッシュ!」


ルイスは、軽やかにヒラリ回避してから呟く。


「盾王ノエル、貴方の七王称号を剥奪します。貴方には、盾王の称号は相応しくない。早々に、世代交代して貰います。錬金王、薬屋ルイス盾王に七王の決闘を申し込みます。ちなみに、先に手を出したのは貴方ですから断れませんよ。ルールで、名乗りをあげて相手の名乗りを待たずに襲うのは、七王決闘のルール違反ですから。拒否権は、ありません。」


「なっ!?ルール違反……だと!?」


ルイスは、試験管を片手に薄く笑う。


「お前、俺を引っ掛けたな!」


「ん?何がですか?あ、そう言えば聖紳士騎士団にはルールが有りましたね。ルール違反は、除名対象でペナルティーあり……でしたっけ?でも、相手を暴力で従わせたり生産職だけ不利な状況にしたり。これも、運営が禁止している事ですよ?つまり、立派なルール違反です。おやおや、これは除名まっしぐらですね。それに、それだけの事をしているなら1つ増えても変わらないでしょ?うん、大変ですね。本当に、ワーズさん激怒するかもですね。」


ルイスは、挑発するように楽しげに語りかける。


「お前さえ、潰せば………ふん、相性が悪い相手に強気だな。お前には、消えて貰う!」


「仮に、死んでも僕が喋れば終わりですよ。」


ルイスは、素っ気なく言う。


「寧ろ、それは僕を逃がす事になりますし。」


「ふん、メンバーを捕まえれば……」


僕は、メンバーチャットを開いてノエルに見せる。


ルイス:先に、帰っててくれません?

トキヤ:万が一でも、突破できるぞ?

ルイス:知ってます。ですが、絶望させたいので♪

グレン:ルイス、凄い怖いけど何かあった?

ルイス:(ノエルとの会話を短く書く。)

トキヤ:なるほど、ルイスの逆鱗に触れたか……

グレン:あははっ、やっちまえー!

マッキー:ここまでとは、腐ってるな……

ルイス:なので、先に帰っててください。

トキヤ:了解

グレン:ほーい♪

マッキー:分かった。


「とっ、言うわけで……ここに、メンバーは居ませんし人質は無理ですね。まぁ、そもそも人質にされるほど柔な人達では無いので、こんな事をしなくても大丈夫なんですが。つまり、僕を殺したら全員が逃げられる事になります。さて、どうします?」


ルイスは、煽るように挑発している。ノエルは、イライラを隠さずに剣を抜いて言う。


「それなら、ホームを攻めるだけだ。」


「良いですよ。運営と全生産プレイヤー、それと僕のお店の常連客を敵に回す覚悟があるのならば……ですが。それより、七王決闘をしましょうか。」


ルイスは、全然怖くないと鼻で笑って素っ気なく言う。ノエルは、ここの言葉で後に悲惨な事になる。


「常連客といっても、どうせ底辺の雑魚ばかりなんだろ?俺のクランは、戦績20位の上級プレイヤーの集まりだ。そして、買っているポーションはあの炎天神楽の双子の高級ポーションなんだぞ。」


「それを言うなら、貴方が雑魚と言ったプレイヤー達は錬金術師として最高の称号と技術を持つ、錬金王のポーションを買っている解釈になりますけど。」


そう、素っ気なくルイスが言えば固まるノエル。そして、みるみる顔が赤くなっている。


「この、言わせておけば!」


「おやおや、随分と荒々しく単純な攻撃ですね。」


ルイスは、試験管を投げる。すると、盾が溶ける。


「なっ!?」


盾王は、唖然として自分の盾をみている。


「さて、盾は壊れましたし覚悟してくださいね。盾王……。盾のない今の貴方は、デカイだけの恰好の的です。では、さようなら盾王だった人………。」


「弱いとか、嘘だったのか!?騙された!」


ルイスは、龍人になり拳を構える。勿論、防御力が高いのでクリティカル狙い。すると、一撃で倒される。


「さて、録音と画像をイベント掲示板に上げますかね。後は、反対派がどうにかするでしょう。」


すると、通話が入る。ルイスは、キョトンとする。


『いやな、神殿にノエルが死んで来たから騒ぎになってるぞ。しかも、お前に殺されたってわめいてるんだが。知らん奴は、お前を殺すとか言ってる。』


ふーん、馬鹿な人ですね。


ルイスは、ため息を吐き出すと掲示板に録音と動画を流す。そして、真剣な表情で神殿に向かった。


「3人とも、お待たせしました。」


「お前な、録音と画像してたのかよ。」


マッキーは、腹を抱えて笑っている。すると、生産職業のプレイヤーが集まってくる。


「あの、ルイスさんありがとうございました!」


ルイスは、キョトンとして優しく笑う。


「さすが、ルイスだね。はい、2人の装備。」


シャルムは、明るい笑顔で装備を2人に渡す。


「さて、僕達はクエストに戻ります。出来れば、ホームを潰そうと思いましたが………。」


ワーズは、申し訳なさそうな表情で頭を下げる。


「ワーズさんが、戻って来たので見逃します。」


すると、マッキーも頷いている。ワードは、驚いてから感謝するように頭を深く下げる。


「え、指揮は誰が取るんですか?」


「マッキーさん、お願い出来ますか?」


すると、マッキーは頷いてから言う。


「その代わり、条件があるんだけど?」


「ん?」


ルイスは、キョトンとする。


「ワールドクエスト、発見者はルイスだ。」


すると、シーンとしてから全員のテンションが上がる。ルイスは、青ざめてからマッキーに言う。


「まっ、マッキーさん!」


「いやな、皆のやる気が低下してたし。ここは、良い情報を暴露した方が簡単にやる気が上がるだろ?ワールドクエスト発見者で、更に錬金王そしてお前は龍人だし祈祷師が参戦だからなぁ~。」


くっ!マッキーさん、僕を生け贄にしましたね!


「よし、これで指揮をしやすくなった。それと、イベント終了したら全力で始まりの街に逃げろよ。」


マッキーは、素敵な笑顔で言っている。


「あー、もう!何で、こうなるんですか!」


「大丈夫、これで籠る理由が出来たぞ♪」


ルイスが、悲鳴じみた声で言えばマッキーは言う。


「そう言う問題じゃない!」


「あはははは~♪」


ルイスは、疲れた表情でリルに乗る。ちなみに、レンジさんも合流しました。さぁ、麒麟の場所に急がなければ。ルイスは、深いため息を吐き出した。


ちなみに、麒麟は素直に預けてくれました。


「ルイス、後3週間イベントまであるけど?」


「……そうですね。疲れたので、ホームに戻りたいのですが……駄目ですか、マッキーさん。」


すると、マッキーはニッコリ笑い書類の束を渡す。


「これは、出し合った物資リストだ。今回、参加予定の生産クランや個人参加希望の名簿だ。確認、よろしくな生産職担当の〔微笑みの聖人〕ルイス。」


「「「ぶっ!」」」


思わず、トキヤ・グレン・レンジは咳き込む。


「それ、なんですか?」


ルイスは、心底嫌そうに呟く。


「何って、お前の新しい通り名候補の1つ。」


「ちなみに、他の候補は?」


ルイスは、ため息を吐き出し言う。


「〔トラウマ製造マシーン〕〔やれば出来る人〕〔ミステリアスボーイ〕〔俺達の天使〕〔結婚希望者多数〕〔聡明な人?〕………どうした?」


「いいえ、別に……。通り名は、そのままでお願いしますね。さて、リストに目を通しますか。」


ちなみに、イベント全報酬から物資を出したプレイヤーのみだがお金で還元する。これは、運営がしてくれます。それが終わると、イベント報酬と貢献度報酬が貰えます。そして、イベント発見者には特別報酬としてアイテムが贈られるそうです。


アベルが、嬉しそうに走って来る。


「ルイスさん、通り名が〔聖人様〕ルイスに決まりました。その、おめでとうございます。」


ルイスは、まともな通り名で良かったと頷く。


「だから、過大評価は駄目なのに………」


ルイスは、ため息を吐き出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る