第21話 タッグバトル本戦 二試合目(後編)
グレンは、目を丸くして驚いた。龍人特有の角、そして女にも見える中性的な姿は神秘的だ。
「グレン?」
「おっ、おまっ…………お前なぁ!」
驚き過ぎて、言葉が上手く言えなかった。何せ、祈祷師だって事だけでも驚きなのに………龍人かよ!
「あー……、グレンも初見ですからね。」
「何で、隠してたんだよ……?」
取り敢えず、これだけは聞いとかないとな。
「あー、それは。その、バレたら籠って生産が出来なくなるからです。まぁ、籠るんですけどね♪」
ルイスは、キョトンとしてからさも当然だと言わんばかりに言う。ぶれない!本当に、ぶれない!
「そこかよ!」
「そこです!寧ろ、そこしかありません!」
グレンは、呆れたようにルイスを見る。ルイスは、どやっとしてから暢気に笑う。
「お前って………、生産馬鹿だよな。」
「何を、今更ながら言っているんです?」
ルイスは、ケロッと笑うと双子を見る。グレンは、ため息を吐き出してから〔そうだなー。〕と言う。
さて、もう例えルイスでもカードは出し切ったか?
「んで、どーするよ。」
「取り敢えず、外に出たいですね。その前に、グレンのカードは何枚ですか?随分、温存しますね。」
こいつ、本当に怖いな。こっちが、温存しているのもカードを持っているのも理解してんのか。
「片手で、数えられるくらい。」
「そうですか。なら、予想外が起きなければ勝てますね。さて、反撃を開始しましょうかグレン。」
何だ、雰囲気が………。
ルイスの雰囲気が、いつもと違う。あの、穏やかな落ち着く雰囲気でも、冷たい凍てついた雰囲気とかでもない。何だ、安心感のある堂々とした雰囲気。
すると、双子の警戒レベルが急に上がる。
「それでも、僕達が勝つんだ!」
「そうだね、僕達が勝つんだ!」
ルイスは、無反応である。
「グレン、僕はこの世界を壊して固有スキルを発動させます。グレンは、気配を消して双子に魔法攻撃をしてください。物理は、駄目です。出来れば、異常状態にしてくれたら嬉しいですが。」
その口調は、世間話をするかのように穏やか。それでいて、その瞳は優しい安心感がある。
「了解……。」
「では、始めましょうか。【闘化】!」
すると、地面から半透明な7龍が現れて吼える。そして、霧になって消えてしまう。ルイスは、白く淡く光るオーラを纏っている。そして、拳を地面に叩きつける。すると、地面に亀裂が走り突然空にも亀裂が走る。そして、大きな音をたてて崩れる。
そして、バトルフィールドに戻って来る。グレンは、その瞬間に双子に攻撃する。
「【盲目の一撃】」
ルイスは、嬉しそうに笑っている。
「グレン、ナイスです。」
「あー、毒とか麻痺の方が良かったか?」
すると、ルイスはキョトンとして首を横に振る。
「いいえ、僕の固有スキルと相性が良いです。毒なら、動けてしまうし時間が稼げません。麻痺でも、同じく時間が稼げませんし対策を練られます。」
固有スキル:破壊の化身
リキャストタイム、固定時間を破壊・延長させる。ただし、スキル使用者が大ダメージを受けると強制解除される。だが、延長されたリキャストタイムは強制解除されても短くはならない。ただ、解除されればリキャストタイムが増える事もない。
要は、相手にどう認識させず混乱させるか。
そして、強制解除されないか。
まぁ、初見殺しのスキルらしい。けどさ、教えても良いのかよ?俺は、隠したままなんだが?
「あのさ、会話はログに残るんじゃないのか?」
「作戦とか、スキルに関しての会話は残らないですよ。運営さんが、ちゃんとログに残る前に消しているので。だから、安心してください。」
ルイスは、暢気に言っている。そうだ、ルイスは今は祈祷師だよな?種族と、相性が悪いんじゃ?
「ルイス、ジョブは祈祷師で良いのかよ?」
「はい。龍人は、防御力が高いので拳の戦闘向きなんですよ。ヒューマンだったら、祈祷師では戦えませんけど。ヒューマンは、平均型なので。」
なるほど、そう考えると俺の相性って?
あ、ルイスのオーラが消えた………。それにしても、7つの龍の幻影?なのかな。格好いいなぁー。
「さて、後は暴れるだけです。」
「なぁ、ルイスはどう思う?双子は、仕掛けて来ると思うか?それとも、自爆してくれるかな?」
「彼らだって、並のプレイヤーではありません。きっと、仕掛けて来ると思います。その前に、きっと混乱してくれると思いますけどね。」
ルイスは、暢気に笑ってから短刀を構える。
「お前、何で攻撃しないんだよ?」
「僕達を、馬鹿にしているのか!」
ルイスは、無視してグレンを見る。
「グレンは、前に出て魔法剣士スタイル。」
「はいよ!」
「僕は、回復支援スタイルで行きます。」
ルイスが、一歩下がったので斜め前に一歩出る。そして、ジョブをチェンジして固有を発動させる。
固有スキル:剣聖の聖剣
魔法剣撃スキル、剣撃スキルを使用したら2倍の攻撃力になる。防御力も、少しだけ上昇する。仲間が、多いほど攻撃力が上昇していく。
「ルイス、頼んだぜ。」
「はい、グレン。」
ルイスは、暢気に笑うと頷く。
「あれ、何これ!?リキャストタイムが、何で増えていってるのさ!!これじゃあ、【残酷な世界】が使えない。おい、何をしたんだよ!」
あー、混乱しているな。ルイスは、後ろでにこにことしている雰囲気がする。策が成功して、喜んでいる様子はなく双子を更に混乱させている。
「大丈夫です。種族スキルが、全てでは無いんですから。さあ、頑張って戦いましょうね。」
「確か、相手はシーフとアサシンだっけか?」
俺が聞けば、ルイスは頷いてから短刀を構える。
「そうです。なので、接近戦で一対一の勝負を仕掛けます。注意事項ですが、残酷な世界は彼らの十八番の1つに過ぎません。彼らの世界で、戦うよりは少しだけ影響力が弱いですが、まだ絶対に油断はしないでください。グレンは、アサシンをお願いします。僕は、シーフと戦うので。良いですか?」
「おう、作戦も担当も把握して了解した。」
そう、俺が言えばルイスは優しく頷く。お前、女にも見えるのに………。少しは、控えろっての………。
「ん?どうしました、グレン。」
「…………何でもない。」
ルイスは、首を傾げたが双子が動いた。なので、そちらに視線を向ける。俺も、剣を再び構える。
俺は、クラーと暗殺対決している。分は、俺が有利な感じだな。どうやら、種族スキルに頼り過ぎて暗殺術を育ててはいないようだ。これは、ラッキー♪
ルイスも、短刀を器用に使いロイヤの攻撃に対応している。狩衣とはいえ、動きにくそうなのに致命攻撃を素早く回避して通常攻撃を受け止めいなす。
まったく、無駄のない綺麗な動きだ。
俺も、少しずつカードを切りながら動く。そして、双子は危機感を感じたのかトリックスターのスキルを使う。勿論、ルイスには警戒するよう言われる。
「「【悪夢幻想(ナイトメア・イリュージョン)】」」
「その悪夢、祓わせて貰います。【消滅(バニッシュメント)】」
それって、悪魔祓いのスキルだよな?確か、魔祓師エクソシスト系のスキル………。まだ、魔祓師は解放されてないジョブだけどな……。
あー!良く考えたら、魔祓師も神様の力を借りて祓う奴もいる。祈祷師は、神様と交信する人の事だし魔祓師も一応は入るのかもな。
そういえば、高位の癒して神官も使えたっけか?うん、使えたな。つまり、高位神職が使えるスキル。
そう考えると、祈祷師って万能タイプの役職じゃないか?攻撃・遠距離攻撃・回復・範囲系スキル・支援バフ・デバフが出来るんだしさ。
「グレン、祈祷師は確かに多くの場面で多才ですが弱い所もあります。万能では、ありません。陰陽師だって、弱味があるように必ず弱い所があるんですよ。だから、余りそう考えないでください。」
それと、双子の種族は悪魔。なので、有効ダメージを受けてしまう。ルイスは、少しだけ悲しそうにグレンを見る。グレンは、ハッとしてから振り返りルイスに謝る。どうやら、無意識に呟いていたようだ。ルイスは、困ったように笑うと頷く。
「ルイス、ごめん。悪気は、無かったんだ。」
「知ってます。でも、1つだけ教えます。闇の弱点が、光であるように光の弱点もまた闇なんです。僕が、スキルレベルを上げて無かったら負けてる可能性が高かった。つまり、運が味方しただけです。」
うーん、運が味方したというより………
「そこは、努力が実を結んだ結果だと思うけど。」
「………そうですかね?」
そう言って、俺は攻撃を再開する。ルイスは、キョトンとして呟くと攻撃を再開した。
『おー、激戦ですね。お、何ですかあれ?』
『ダメージからして、キラースキルですかね。』
『おー、見ごたえ有りますね。』
『はい、とても見ていて楽しいです。』
「この!称号【狂人化】………」
クラーは、狂気を纏い荒々しく猛攻する。思わず、驚いて離れようとするが離れられない。
「【聖なる障壁】」
ルイスは、グレンの前に障壁を出してカバーする。グレンは、素早く距離を取るとダメージの大きさに驚く。ルイスは、ロイヤと戦いながらグレンに遠距離回復をする。グレンは、感謝して構える。
「グレン、称号効果です。察するに、ユニーク称号の【狂人化】かと。距離を稼いで、時間を稼いでください。【狂人化】は、長くは続きませんから。そして、効果が切れるとHPが一桁まで削られます。僕も、カバーとサポートをするので。グレンは、回避と距離を稼ぐ事に専念してください。」
「すまん、ルイス。了解だ!」
ルイスは、落ち着いており冷静に指示を出す。
「やっぱり、予想外は起きますよね。」
そう、ルイスが呟いたのがグレンには聞こえた。
その声音は、あっさりしていて雰囲気的に〔まぁ、こんな事もあるよね。うん、仕方ない。〕って雰囲気である。何ていう、メンタルの強さだよ。
思わず、驚いてから笑ってしまった。
『おー、クラーさんの猛攻!それを、グレンさんは逃げている。これは、グレンさんピンチか!?』
『いいえ。ルイスさんが、的確な指示とカバーとサポートをしているので逃げ切れるのでは?』
『確かに。それに、グレンさんには焦りが感じられますが。何か、ルイスさんは落ち着いてますね。』
そろそろ、逃げるのも辛い………。すると、クラーの動きが鈍くなって動かなくなる。
「グレン、とどめです!」
「うぉおおおおっ!【業火聖剣】!」
『決まったぁ~!見事な、剣撃でした!』
『いやぁ~、面白いでした!応援席からも、割れんばかりの拍手や歓声が聞こえて来ますね。』
ルイスは、ロイヤのナイフを弾いて短刀をしまう。
「はぁー、疲れました。」
「おう、お疲れルイス。」
「グレンも、お疲れ様でした。」
こうして、2試合目は終わったのだった。
「お疲れの所、本当に悪いんだけどさ。ちょっと、ルイスに話があるんだが?借りるぞ、グレン。」
マッキーの、低い声に苦笑して指輪を出すルイス。すると、後ろでシャルムが残念そうな表情。
「トキヤさん、ヘルプです!」
「んー、まぁそうだな。取り敢えず、場所を移そうか。ルイス、フォローはするが頑張れ。」
トキヤは、困ったように笑って言う。グレンは、いつもの穏やかで優しいルイスを見て少しだけ考えてしまう。さっきのは、何だったんだ?
すると、気づいたトキヤは小さな声で言う。
「懐かしいな、最前戦の頃を思い出す雰囲気だったし。あれは、ルイスが本気になったって事だ。グレン、あれが本来のルイスだ。伊達に、生産頭をしていた訳じゃないからな。俺達のクランは、生産職すら戦力が足りなければ戦力に数えた。だから、戦闘に疎いなんてデタラメで嘘だからな。クランでは、極秘案件だったから知られていないけどな。」
トキヤは、ニヤニヤしてグレンを見ている。グレンは、驚いてから思わず笑ってしまった。
そして、ルイスを見ればちょうどマッキーさんに首根っこ捕まれて連行途中だった。俺は、思わず声を出して笑ってそれを追いかけるのだった。
そして、決勝戦………俺達は負けてイベントは終わった。ルイスが、狙われて俺がフォローしようとしたが歯が立たなかった。レベル100以上、とても辛すぎるし無理だ。それでも、ルイスは暫くは保ってたのでルイスもレベル100以上なんだろうな。
相手が、113と120レベルだったし。
いったい、ルイスは何レベルなんだろうか?本人いわく、相性も悪すぎたと苦笑していたが。
まぁ、何でも良いか。俺は、隣でクッキーを食べているルイスに視線を向ける。ルイスは、首を傾げキョトンとしている。何か、楽しくなりそうだ。
俺は、例えクランが解散してもルイスについて行こうと決意した。そして、俺もレベル100以上を目指ために種族クエストをする事を決意した。
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