第17話 クラン
さて、拳闘術が進化して格闘術になったのですが。僕は、蹴り技を使った事が有りません。アトリエの庭で、トキヤさんと手合わせをする事に。
「ルイス、手加減しないから死ぬなよ?」
トキヤさんは、拳を構えてから向かってくる。実際の話、拳だけならギリギリだけど蹴りが………。拳を受け流して、殴ろうとすれば蹴りが来る。
「うわっ、危ない………」
「ふーん、ギリギリだけど反応は出来るか。でも、昔より余裕が無さそうだな。じゃあ、本格的に蹴り技も入れるから何度も死んでなれろよ?」
僕は、内心は悲鳴を上げながらも回避に専念する。相変わらずの、スパルタですね。
「よし、休憩しようぜ。」
「トキヤさん、相変わらずのスパルタですね。」
ルイスは、椅子に座ればキリアさんが冷たい麦茶をくれる。トキヤは、暢気に笑ってから言う。
「それで、少しは戻ったか?」
「はい。何か、とても懐かしかったです。」
場所を移動して、アトリエの作業部屋。
「さて、ステータスを見せてくれ。」
「はい。」
トキヤは、ステータスを見て凄く驚く。そして、真剣な表情をしてルイスを見る。ルイスは、困ったように笑ってトキヤの言葉を待っている。
「こりゃ、レンジにも内緒にすべきだな。お前が、レンジを頼らなかったのは正解だろう。」
「………やっぱりですよね。」
苦笑する、ルイスを見てトキヤは考える。
レンジは、優しいが戦闘が好きだ。戦闘特化、しかもシークレット種族で大規模戦闘で凄く歓迎される広範囲支援・回復職だなんて知ったら………。無理には、誘わないだろうが何度も戦闘に誘うだろう。
でも、俺にだけでも相談してくれて良かった。
もし、バレた場合にルイスを守る方法を考えないとな。恐らく、引く手あまたで勧誘地獄になる。
まぁ、ルイスが嫌がるなら全力で止めるけどな。
「なぁ、ルイス。その、クランを作らないか?」
「トキヤさんが、リーダーなら良いですよ。」
ルイスは、お茶の準備をしながら答える。
「それは、駄目なんだ。最悪、お前が引き抜かれてしまう。だから、引き抜かれる心配の無いリーダーの立場が良いんだ。勿論、俺も協力する。」
「………少し、考えさせてください。」
確かに、1度クランを創ってしまえばリーダーを引き抜くのは不可能に近い。トキヤさんは、真剣に僕の為に考えてくれてる。でも、簡単には………
「そうだな、焦らずちゃんと考えててくれ。」
「何か、即決が出来なくてすみません。」
ルイスは、苦笑して椅子に座る。そんなルイスを見て、トキヤは優しく笑う明るめの声音で言う。
「そうだ、深夜のアップデート、その内容の1つでクランにNPCを所属させられるようになるんだってさ。もし、創るのなら……。これで、キリアさん達を守る充分な理由になるだろ?」
そうですね………。後は、僕の覚悟とキリアさん達の意思しだい。はぁ……、悩みますね。
「……………。」
「それと、キリアさんの勧誘クエスト。2つしか、ルートが見つからなかっただろ?でもさ、図書館の達成ルート情報で3つ目が書かれてたぞ。」
僕は、驚いてトキヤさんを真剣に見る。
1つ目は、戦って勝ったらハッピーエンドです。2つ目は、負けてキリアさんが死ぬバッドエンド。そして、βプレイヤーが見つけられなかった3つ目が書かれていたと?もしかして、そんなっ!?
「まぁ、驚くよな?そう、つまりだ………β時代には無かった、追加クエストが有るはず。まだ、キリアさんは闇ギルドから逃げ切れていない。」
「はぁー……、本当にやる事が多すぎて頭が痛いですね。そうですか、追加クエストとは嫌らしい。」
「だな。そして、キリアさんに追加クエストが有るのならばランコルさんにも当然………」
「追加クエストが、発生する可能性が有ると?」
トキヤは、無言で頷いてからルイスを見る。
「3つ目のルートは、バロンから逃げ切り息切れしてバロンが倒れるルートだ。この場合は、戦闘にならないと思うだろ?残念だが、ボスが出てきてプレイヤーはいきなりボス戦だ。この場合、追加クエストは発生しない。だが、発生しないって事はそれだけ強い。つまり、ハズレルートだ。勿論、負ければバロンもキリアも死ぬ。勝っても、バロンは確実に死んでしまう胸糞悪い展開だ。おめでとう、二人が死なないラッキールートで達成してさ。」
「少し、運営の趣味が悪いのでは?」
ルイスは、真剣な表情で苦々しく呟く。
「まぁ、ハズレもハズレ………最悪ルートだからな。β時代に、当たりルートの方が見つかってて良かったよ。にしても、当たりルートでもバロンは死ぬ事になってたんだけどな。少し、驚いたよ。」
「………は?」
ルイスは、知らなかったので思わず聞く。
「キリアを、連れ戻せなかったバロンはボスに殺される。β前半では、それが当たりルートの最後。」
「つまり、ルートは固定ではなく………」
トキヤは、嬉しそうにニヤリと笑って頷く。
「プレイヤーの行動しだいで、シナリオを書きかえる事が可能だ。つまり、ハズレルートも行動しだいでは死亡回避が可能だ。まぁ、簡単ではないけどな。この事から、追加クエストもシナリオさえ書きかえてしまえば………3人とも助かる。」
「責任重大ですね。良いでしょう、シナリオを書きかえる一歩にクランを創ってしまいましょうか。」
トキヤは、驚いてから優しく笑ってルイスの頭を撫でる。ルイスは、真剣に冷たい紅茶を飲む。
「後は、キリアさんがクランに入ってくれれば良いのですが。あれ………?トキヤさん、追加クエストはもう有るんですよね?それって、バロンさんもですか?他の、NPCキャラにも追加されたんですか?」
「やっぱり、相変わらず鋭いな。そうだ、クエストが無かったキャラにもクエストが追加されてる。」
ルイスは、苦し気な表情をする。
「あのさ、この件はβプレイヤーの殆どが知っている。だから、仲間に出来るNPCが居てもプレイヤー達は面倒がって仲間にしないだろう。」
やっぱり………。仲間に、誘われなかったNPCは自然消滅します。これは、余り良くないですね。
「手の届く範囲で、助けてあげたいですね。」
「了解、そういう方針で行こうか。」
トキヤは、書類を書きながら言う。ルイスは、少しだけジト目で疲れたようにトキヤに言う。
「本当に、準備がよろしいようで。」
「俺も、クランを創るか悩んでたからな。」
なるほど………。さて、そろそろお店に戻りますか。
「さーて、リーダー宜しくな?」
「本当に、柄ではないのですが………。」
でも、動く理由には充分です。
そして、お店に行って全員を2階に集めます。2階には、まだお客様が居ますが重大な発表ですから。
「仕事中、呼び出してごめんなさい。でも、大切な話が有るんだよね。だから皆、座ってくれる?」
ルイスは、真剣な表情で言えばプレイヤー達は空気を読んで静かになる。とても、ありがたいです。
「それで、話とは何ですか?」
キリアさんは、キョトンとして首を傾げる。
「今日の深夜、アップデートが有るのは知ってるよね?その1つに、クランにNPCが加入する事が出来るようになる内容が有るんだけど。今回のイベントで、目立ち過ぎてね。勧誘が、怖いのでクランを作ろうかと思っているんだ。それで、NPCである3人に加入しない?ってお誘いをしようかなって。トキヤさんは、副リーダーをして貰うので。」
「は?」
トキヤさんは、キョトンとする。僕は、満面の笑顔で言う。逃がしませんよぉー。
「僕に、クランを創るように言ったのはトキヤさんですよね。それに、協力してくれるんでしょ?」
「お前なぁ……。仕方ない、了解だ。」
「レンジさん、どうしますか?」
暢気に、お茶を飲みながら言えばレンジは嬉しそうに笑う。そして、サムズアップして言う。
「2人が、クランを創るなら俺の居場所はそこだ。改めて、宜しくな!よっし、頑張るぞぉー。」
キリアさんは、嬉しそうに頷いて言う。
「勿論、加入します。」
ランコルさんは、暢気な雰囲気で言う。
「この老いぼれが、少しでも役に立つのなら喜んで加入します。ルイス様、頑張りましょう。」
バロンは、キョトンとしてから笑う。
「まぁ、ルイス様のクランなら良いかな。」
ルイスは、嬉しそうに笑うと言う。
「と言う訳で、6人で頑張りましょう。」
すると、待ったの声がして振り向く。
「グレン?」
「なら、俺も加入する!」
キョトンとして、グレンを見るルイス。
「俺を、仲間にしてくれ。まったく、仲間外れにすんなよ。俺達、友達だろ。入れてくれ!」
すると、5人組が入ってくる。
「なっ、なら俺達も!」
「その、図々しいですけど……でも!」
すると、マッキーは暢気に言う。
「なら、同盟を結ぶかルイス。」
シャルムさんが、マッキーさんを殴ってから言いトンガさんは嬉しそうに笑って言う。
「こらっ、抜け駆けしないでよ。あたいもする!」
「勿論、ワシも手伝おう。ギルドにも、話をしてみるしな。まぁ、奴はルイス殿のファン故に大丈夫だろうがのう。だから、期待していてくれ。」
えっと、前線のギルドが同盟相手?しかも、何か加入希望者が増えてるし。他のプレイヤーも、そわそわしている人も居る。これは、不味いのでは?ここら辺で、話を終わらせてしまいましょうか。
「取り敢えず、グレンと5人組の加入は認めます。それと、同盟の件はありがとうございます。ですが、マッキーさん僕のクランは新米ですよ?」
良いの?っと、マッキーを見れば鼻で笑われる。
「それ、本気で言ってんのか?あのな、今名乗り出たメンバーは5人組以外は知ってるんだぞ?お前の本性は、落ち着いてて優しいが間抜けじゃない。言わば、可愛い小動物の皮を被った化け物だって。」
ルイスは、思わず明るく笑って言う。
「酷い、言い様ですね。そして、買い被り過ぎですよ。僕は、生産職で戦闘は専門外ですしね。」
「予選を、余裕で通過した奴が言う台詞かよ。」
マッキーは、苦笑してから言う。
「あれは、グレンが強かったからですよ。」
「ふーん、ならそう言う事にしといてやるよ。でもさ、お前を除いてもメンバーが強すぎるしな。元炎天のリーダーで、四柱の指揮柱にして剣神の通り名を持つトキヤ。同じく、四柱の切り込み頭にして鉄壁の通り名を持つレンジ。そして現在、攻撃職最強にして業火の通り名を持つグレン。5人組だって、俺達が鍛えてるしそこらの奴より強いんだぜ?しかも、NPCは全員Sランクだしな。」
あー、聞こえません!聞こえませんよぉー!
「…………。」
うん、無理です。現実逃避、出来ませんでした。
「さて、現実逃避は終わったかルイス。」
「一応、生産クランなのですが……。確かに、過剰戦力ですね。あっはー、もう無理です。現実逃避すればするほど、現状が見えてきて無理ぃー。」
ルイスは、机に突っ伏して泣き言を溢す。それを見て、その場に居た全員が思わず思った。
《可愛い………。》
「まぁ、何だ……。メンバーは、豪華だし敵対の意思が無いって意味も込めて同盟を希望したんだ。」
「別に、こちらも敵対する気は無いですけど。」
ルイスは、顔を上げて頬杖をついて言う。
「俺とお前じゃ、敵対しないの意味が違う。お前の場合、親しい人だから敵対しない。俺達の場合、強い相手を敵に回したくないから敵対しないだ。確かに、親しいし戦いたくないのも有るけどな。」
「そう言われると、少しだけ寂しいですね。昔は、2人でトキヤさんに悪戯したりしてたのに。」
ルイスは、暢気に笑って紅茶を飲む。
「それは、お願いだから忘れてくれ。」
「あははははっ、そうですね。」
マッキーは、ため息をついて笑う。ルイスは、のんきに笑って頷く。トキヤは、暢気に言う。
「そう言われると、何か思い出すよな。」
「思い出すな!」
こうして、クランを創る事になりました。
さて、暫くはトキヤさんに鍛えて貰って七龍の試練を終わらせましょうか。クランは、潰しが終わってから本格的に活動しましょう。うん、そうしましょう。基本、活動は変えませんが………。
ですが、色々と動くべきでしょうね。
追加クエスト、そしてNPC消滅の危機。それに、クランを創ったからには戦闘職が多いですし、レイドやダンジョンに行って戦績集めもですよね。
ルイスは、真剣な表情でこれからの事を冷静に考える。トキヤとレンジは、そんなルイスを見て笑う。
「取り敢えず、話は終わりです。クランは、例の作戦が終わり次第に本格的な活動を開始します。クラン名は、お店の名前と同じですからね。それでは、breezeのメンバーと同盟を結ぶ3つのクランさん。これから、よろしくお願いいたしますね。それでは、解散です。お店も閉店ですよ。」
ルイスは、立ち上がり自分の部屋に向かった。
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