第6話
その夜は夕方駅前で起きたビルの爆発事件のニュースの話題で持ちきりだった。報道によると爆発事件を起こした犯人は不明で、その直前に現れた謎の仮面人間のことも取り上げられていた。ネットでは仮面の人影がテロリストではないかと推測する声も多く、誰かが撮影したらしい仮面の人影が写った動画もSNSにアップされていた。爆発事件のこともあり、駅の周りでは夜までずっとパトカーのサイレンが鳴り響いていた。
いつもならば明日に備えて早々に寝てしまいたい所だが、宗也にはやることがあった。宗也はスマホを手に取り、電話をかけた。程なく着信音が鳴った後、相手が電話に出る音がした。
「やぁ茅野君。どうしたんだ?こんな時間に」
電話の相手である飯山柊人は、急な電話にも関わらず朗らかな口調で電話に出た。
「急に悪いな。明日とかでもいいんだが、放課後時間とれないか?」
「うーん、明日は陸上部の練習があるからなぁ……。その次の日なら練習ないから明後日でもいいかな?」
「ああ、いいよ。悪いな、手間取らせて」
「何言ってんだよ。友達だろ?」
その言葉を聞いて宗也は思わず吹き出してしまった。
「どうした?なんか変な音したけど」
それを聞いた飯山が驚いたような口調で尋ねた。
「ああ、いや何でも無い。まさかお前の口からそんな言葉が出るとは思わなくてな。岡谷みたいで少し気持ち悪かった」
「それ、岡谷には言うなよ。また怒るぞ、あいつ」
宗也と飯山は互いに苦笑した。宗也と岡谷と飯山は皆付き合いは一年だけだが、既に何年も一緒にいるかのように気兼ねなく接することができる。
仲良くなったきっかけは、一年のとき孤独だった宗也に岡谷と飯山が話しかけたのがきっかけだが、その当時は飯山も俺とそう変わらないクラスでも地味な存在だった。しかし俺や岡谷をはじめ一人、二人と仲良くなるうちに次第に人気者になっていった。
見た目は地味だが『話してみれば結構面白いやつだった』という人間はクラスに一人はいるのだろう、と宗也は飯山を見るたびに思っていた。まぁ宗也自身はそのような人間の類ではなかったのだが。
ひとしきり取り留めもない話しをした後、宗也は飯山との電話を切った。宗也はスマホをテーブルに置き、ベッドへ寝転がった。これで今日の宗也の今夜の予定は終わった。あとは明日のアンナとの待ち合わせがあるだけだ。
―――この後の宗也の携帯の着信音が鳴る前までは。
その日の朝は連日の快晴とは打って変わり、小雨が降っていた。午前六時の東京駅の前には多くの人が行きかっている。坂城アンナは駅の中から灰色の曇り空を見上げていた。
彼女が東京に来たのは昨日。まさに強行日程の中での状況だった。だが少なからずの成果は得ることができた。
グローケンらとの戦闘を経験し、アンナは一定の危機感を覚えていた。
あの日のグローケンは本気を出していなかった。諏訪という高校生もまだまだ強くなるだろう。このままだと間違いなく彼らには勝てない。こちらも力をつけなければいけない。少年の力は強力で、一緒に戦えば大いに私の助けになるだろう。だが少年を戦わせるわけにはいかない。少年にはそう宣言してしまった。何より私自身が望んでいない。もうアルヴァコアのせいで私の身近な人間を失いたくはない。この事件に巻き込んでしまった以上、彼はまだ子供であり私は彼を守らなければならないという責任がある。
そんなことを考えながら、アンナは駅のホームに着いた。アンナがホームに着くと程なく電車が到着した。アンナは周りの人々に押されるように電車に乗り、チケットに示された席に座った。朝の電車はいつも混雑しているが、アメリカで暮らしていたアンナにとっては驚くことではなかった。むしろ、きちんと列を作って電車を待っている日本人の姿に感動さえ覚えたほどだった。
アンナが乗車してから数分後に電車が発車した。このペースだとお昼には阿神町には着くだろう。アンナは東京からの電車の中で頬杖をついていた。車窓からの景色は、灰色の曇り空がどこまでも広がっていた。
阿神町で起きた爆破事件のニュースは東京でも大々的に取り上げられていた。幸い軽傷者が少し出た程度だという報道だったが、彼女が気になるのはあの仮面の人影が写った画像だった。SNSによると、爆破事件の現場の近くにいたらしく一部によるとあの仮面が引き起こしたという噂もある。まさかあの男がやったのか、と彼女は一瞬考えた。
「考えすぎか……」
アンナはふぅと息を吐いてからこめかみを押さえた。思えば一昨日の夜からグローケンのことばかり考えていた。もちろんあの男を追ってこの町まで来たのだから当然といえば当然だが、阿神町に来た当初は、宗也との出会いも含めて色々な発見があった。初めて日本という国を楽しむことができた。思わずグローケンのことを忘れるほどに。
そのような思いが芽生えたせいか、阿神町はアンナにとって大切な場所になっていた。滞在しているのはまだ数日だが、その数日間はとても充実していた。いつまでもこの町にいたいと思った。しかしいつまでもこの町にいることはできない。グローケンがこの町を去るようなことがあれば、奴を追ってまた次の場所に行かなければならない。それが彼女の使命であり、生きる全てだった。
そんなことを考えているうちにアンナは電車の中で、次第に深い眠りに落ちていった。
雨の日の峰城高校は、宗也にとって一段と憂鬱だった。校内はじめじめとしており、お昼も雨で屋上に行けないため仕方なく教室で食べた。学校内では昨日の爆発事件の話題で持ちきりだった。飯山と岡谷は宗也の教室に来てご飯を食べていた。岡谷はいつも通りどうでもいい話を真面目な顔で二人に話していた。
「だから俺は将来は動画配信者になりたいって親にいったら大喧嘩したんじゃ」
「そりゃ怒るよ、お前の両親に同情するよ」
飯山は思わずため息をついた。
「だから俺は結果出すって親に言ったんじゃ!一カ月以内にフォロワー千人超えてやるってな」
岡谷は飯を食べながら両手を横に大きく広げた。
「目標が現実的すぎる……もっと夢はでっかくいこうぜ」
「何言ってるんじゃ。もちろん将来は日本一の動画配信者になるのが夢じゃが、今の俺にはいかんせん知名度が足らん。地道に力をつけていくことこそが賢明なんじゃ」
「その地に足をつけた考え方をしながらどうして将来の夢が動画配信者なんだ……」
得意げな岡谷を横目に見ながら宗也は携帯を取り出した。教室の中では多くの生徒が幾つかのグループに分かれてご飯を食べている。教室内では生徒の話し声に混じり、キュッキュッという上履きの擦れた音が聴こえている。
アンナとの待ち合わせは放課後、場所は駅前の喫茶店になった。アンナには事前に喫茶店の場所をメールで送っておいた。彼女からは、お昼ごろ東京から帰ってくるという旨のメールが送られてきた。彼女は何しに東京へ行ったのだろうか。宗也はそのことを昨日アンナに聞こうとしたが、爆発事件のこともありそれどころではなかった。
「まぁ今日直接聞けばいいか……」
宗也は携帯をしまい、ふと前を見やると飯山と岡谷が喋っていた。
「おい宗也、お前はどう思う?俺は動画配信者になれると思うか?」
「岡谷、なれるかどうかじゃなく絶対なるっていう気持ちが大事なんだぞ」
「おい茅野君、岡谷を無駄に煽るなよ。また本気にするだろ」
飯山は宗也に説得されている岡谷の様子を見て思わず慌てた。
「よせ飯山、俺だって宗也にそそのかされたわけじゃない。実は前々から準備は始めてたんじゃ」
岡谷はそう言って、スマホを取り出して動画配信サイト『QUBE』を開いた。QUBEは世界で最も有名な大手配信サイトで、日本でも知らない人はいないほどの人気を誇っている。QUBEで活躍している動画配信者も多く、日本では芸能人と同等の人気を集める動画配信者も多く存在している。近年ではそうした動画配信者に感化される若者も多く、岡谷もその一人だった。
「皆の者、これを見よ!」
岡谷は得意げにスマホをスワイプしていき、飯山と宗也に画面を見せた。そこには『シンノスケチャンネル』と書かれたタイトルがあり、その下にはいくつもの動画がアップロードされていた。
「お前これ自分で撮ったのか?」
宗也は驚いてその動画に目を見張った。
「凄いな、岡谷。感動したよ。まさかお前がここまで本気だとは思わなかった。俺は応援するよ」
飯山は岡谷の肩をポンと叩いて言った。飯山の目はキラキラと輝いていた。
「これを見せるのはちょっと恥ずかしかったんじゃがな……でもこうでもしないと俺の覚悟が決まらんと思ってな」
「凄い、これはいつもの岡谷とは一味違う……」
宗也と飯山には岡谷の後ろに後光が差しているように見えた。
「……でもこれどの動画も再生数一桁だな……」
岡谷の動画を見ながら宗也がポツリと呟いた。それを聞いた岡谷はすぅーっと顔から生気が消えたようになった。
「……本当だ」
「……まぁ結果は出とらんがな。伸びしろだと思ってくれ」
宗也は続けて岡谷にQUBEのサイトを見せて苦笑した。
「あとこの動画の内容、なんだこれは。ゲーム配信にしても、クリアする前に別のゲームに移行してるじゃないか」
岡谷の個人チャンネルには一番上に『○○クエスト実況プレイ パート1』というタイトルの動画があり、その下には『××ファンタジー実況プレイ パート1』というタイトルの動画がアップされていた。またその下には『□□パズル実況プレイ パート1』というタイトルの動画がアップされていた……。
「これはじゃな……ほら、俺って飽きっぽいから……」
岡谷は次第に声が小さくなっていった。そのときに「ああ、いつもの岡谷だ」と飯山と宗也は思った。
「何見てるの?」
宗也たちが岡谷の動画を見ていると、急に後ろから女子の声がした。見ると、明科がお弁当箱を持って立っていた。どうやら別の教室で友達とご飯を食べていたらしく、それが終わって戻ってきたところらしい。
「げ、明科瑞穂」
思わず岡谷の心の声が漏れてしまったらしく、小さく呟いた。それを明科が聞き逃すはずもなかった。
「げ、とは何よ、岡谷君。そんなに見られて困るものでも見てるわけ?」
「そ、そんなわけないじゃろ!」
明科にジトっとした目で見られた岡谷は手を横に振りながら、否定した。それを見ていた宗也は悪い顔をして言った。
「明科、男子が女子に見られて困るものと言えば一つしかないだろう?」
「お、おい宗也!話をこじらせるな!」
それを聞いた明科は、次第に顔を赤くして急に弱弱しい声になった。
「そ、そうだよね……一つしかないよね。ごめんね、軽々しく訊いちゃって」
「ち、ちがうんじゃ!学校でそんなもの見るわけないじゃろ!おい宗也、お前のせいで変な誤解を生んでしまったじゃろうが!」
必死に明科に弁解した岡谷は、宗也の頭を軽くはたいた。すると飯山が岡谷を諭すようにして言った。
「せっかくだから明科さんにも見てもらったらどうだ?岡谷の動画」
「え、岡谷君動画作ってるの?凄いね!」
「い、いやそんな大したことじゃ……」
今まで誰にも褒められなかった岡谷は初めて尊敬の眼差しを向けられたことで、少し照れ臭い表情になった。考えてみれば何千何万もの人が見る動画サイトに自作の動画を上げること自体、結構凄いことなのかもしれない、と宗也と飯山は思った。
「ねぇ、ちょっと見せてよ」
「じゃ、じゃあちょっとだけ……」
岡谷はアップされている動画の中の一つを明科に見せた。最初は期待に満ちた目で動画を見ていた明科だったが、次第にその目から光が失われていく様が宗也にも見てとれた。動画を見終わった明科に岡谷は感想を求めた。
「どうじゃった?俺の動画は」
「え……お、面白い動画だったよ?ちょうどいい再生時間だし……」
どうやら明科は岡谷の動画の『再生時間がちょうどいい』という点しか評価すべき点が見つからなかったらしい。しかし岡谷はその感想に確かな手ごたえを感じていた。
「流石じゃな。そこに気付くとは。実はそこはこだわっている部分の一つなんじゃ」
自信満々に力説している岡谷に。明科は苦笑するしかなかった。それを横目に岡谷の動画をしばらく見ていた宗也は、あることに気付いた。
「おいこの動画、今日アップされたばかりなのに周りの動画に比べて再生数飛び抜けて多くないか?」
「あ、ほんとだ」
「なになに……タイトルは『プリモ・アジェンダ』……?変わった名前だな」
「でも今日だけで凄い再生されてるよ、この動画。ちょっと見てみようよ」
明科は宗也に動画の再生を促した。宗也は動画の再生ボタンを押すと、しばらく真っ黒な画面がスマホに映った。
「なんだ?この動画……真っ黒のままだぞ?」
一同はしばらく真っ黒な画面を見続けていると、急に画面が切り替わった。
「おい、こいつは……」
宗也はそこに映る人物を見て驚愕した。画面には黒いマントを羽織っている二人の仮面をつけた人間が映っており、並んで廃ビルの前に立っていた。その場所は阿神町の駅近く、昨日爆発事件のあった場所に似ていた。そして二人の人間がつけていた仮面は昨日宗也が駅前で見た仮面と、同じものだった。しばらくその動画を見ていた一同だったが、何かに気付いた明科がおもむろに呟いた。
「思い出した、ここって昨日爆発事件が起きたところだ」
そう言われて、宗也は慌てて動画の一時停止ボタンを押した。
「本当じゃ!言われてみればそうじゃな」
「え、そんな恐ろしい事件があったのか?俺初めて知ったよ。最近テレビとか見てないからなー」
「あんなにでかい事件だったのに知らないとか、疎すぎじゃろ飯山」
岡谷は飯山に驚いたような表情で軽くツッコミを入れた。
「悪い悪い、最近部活忙しいからさ」
「もうすぐ大会だもんね、陸上部」
「それにしてもよく気付いたな、明科」
宗也は再び再生ボタンを押すと、動画は続きから動き始めた。するとしばらく立っていた仮面の二人のうちの一人が喋り出した。
「私たちは皆さんを導くために生まれた神の使徒です。突然こんなことを言われても信じる人はいないでしょう。ですが今からお見せする力を目の当たりにすれば、きっと皆さんも考えを改めるでしょう」
そう言った仮面の人間は、もう一人の仮面に向かって後ろの廃ビルを指さした。声は昨日と同様加工されていた。もう一人の仮面は黒いマントの中から木製の杖を取り出し、杖の先を廃ビルに向けた。すると杖の先から光の球体が徐々に出現し、直径一メートルほどの大きさになった。その直後、球体は廃ビルへもの凄い速さで直進していきビルに直撃した。ビルは大きな爆発音とともに破壊され、その一部が音をたてて崩れた。先ほど喋っていた仮面はその様子を見届けると、再び喋り出した。
「我々の力がお分かりいただけたでしょうか。この力はあなたが望めば手に入れることができるのです。是非あなたも神の力を手に入れてみてはいかがでしょうか」
実際には仮面をしていて表情は分からないが、その仮面の内側では笑っているように宗也には見えた。
「四月の二十六日、私たちは日本を発ちます。もし皆さんが神の力を望むのならば、二十六日の十九時に阿神町の神賀ドームにお集まりください」
仮面の人間がそう言い終えると、動画は終わった。宗也たちは動画が終わると互いに顔を見合わせた。
「……これ阿神町って私たちの町のことだよね?」
「他にこんな名前の町は聞いたこと無いしな」
この動画で宗也は確信していた。昨日の仮面の人影と動画に映っていた仮面の人間はおそらく仲間なのだろう、そしてビルを破壊したあの力はアルヴァコアによるもので間違いない、と。そしておそらくこのことを知っているのはこの場には宗也しかいない。
「それよりもなんだよ、あの見たこともない力は」
飯山はスマホを操作して、ビルを破壊した球体が出現したときまで動画を巻き戻した。「これ本当に本物なんか?CGかなんかじゃないんか?」
「で、でも現実として昨日このビル、爆発が起こったし……」
明科や岡谷、飯山は皆驚きを隠せないというような表情で繰り返し動画を見ていた。気付くと、続々と他の生徒も周りに集まってきていた。
「なんだなんだ、何見てるんだ?」
「なんだこれ、魔法じゃん!」
「あれこの動画、うちらの町じゃね?」
「うそ、こわーい」
周りの生徒は、動画を見て思い思いの反応を示している。話によると既に何人かの生徒はこの動画を知っていたらしく、朝から結構話題になっていたらしい。
「動画って撮られたものをすぐアップするとは限らないんだよね?だったらこの動画は昨日撮られたもので、爆破事件の話題で騒がれている今日を見計らってアップしたんだろうな」
「でも何のために……?ビルの爆破も含めて、この仮面の人達は何が目的なんだろう」
「ごめん、そこまでは分からないな……」
飯山は動画を見ながら腕組みをした。宗也も飯山の考えに概ね同意していた。確かに昨日の夜にニュースで取り上げられたことで、今では阿神町中で話題の事件になっている。動画の注目を集めるならばこれ以上のタイミングはないだろう。ニュースによると、爆破事件の犯人はまだ判明していないらしく今も捜査を続けている。
「動画には二十六日に集まれって言ってるな……」
「二十六日って阿神祭がある日だよ?」
「そうじゃ!なんかあると思ったらそれじゃ!」
岡谷は指をパチンと鳴らして、スマホを操作した。そして阿神祭の公式サイトを宗也たちに見せた。
阿神祭は阿神町で最も大きい祭りで、毎年春に開催している。町のランドマークである阿神タワーを中心に、町の至る所で出店が開かれていたりイベントを開催している。町をあげての大々的な祭りで、毎年阿神町外からも多くの人が詰めかけている。町全体が祭りの一ヶ月前から入念な準備を始めており、毎年峰城高校の剣道部も演武を披露する場となっている。剣道部の他にもいくつかの部活が参画予定であり、各部活が阿神祭に向けて準備を進めている。
「動画によると阿神祭の日に神賀ドームに行けば、神の力が手に入るらしいな」
「ちょっとにわかには信じがたいな……」
飯山は頭をポリポリと掻いた。神賀ドームは阿神町唯一のドーム会場で、アイドルのライブ等数々のイベントが行われている。
「だけど野次馬目的で行く人は多そうだな」
確かに飯山の言う通り、この動画の言うことを完全に信じる人は少ないだろう。しかしこの日は阿神祭が開かれるということもあり、町には多くの人が賑わう。そのため多くの人が神賀ドームに集まるだろうということは宗也にも予想できた。
「まぁなんにせよ、この動画はこれだけ拡散してるなら警察も把握してるだろうね。俺らには何もできないよ」
「……俺も行ってみよっかなー、神賀ドーム。神の力で勉強できるようになるんじゃろうか」
岡谷は口を尖らせてぼそっと呟いた。
「ほらここにも行こうとしてる人が……」
宗也たちは冷めた目で岡谷を見た。その視線にはっと気づいた岡谷は慌てて首を横に振った。
「じょ、冗談じゃ!信じるわけないじゃろ、こんな胡散臭い話。勉強は自分の力でやるもんじゃ」
「本当かな……?」
「怪しいな、こいつ……」
その場の全員が岡谷に疑いの目を向けていると、昼休み終了の笛が鳴った。まもなく午後の授業が始まる。午後の授業では小テストが行われたが、岡谷が赤点だったことは想像に難くなかった。
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