第3話 吸い殻のベッド
彼女は死んでいた。綺麗な姿はそのままに、動かなくなっていた。僅かに細い足が動いたと思ったのは、悪気のない風のせいだろう。
誰が見ても、もう死んでいる事は明らかだった。生きていられるはずがない。吸い殻の溜まった缶の中で、蓋をされたのだから。
どうして、こんな所に入り込んでしまったのか。蓋の裏側にでも羽休めの為に留まったのだろうか。さぞ無念だったろう。まさか、ほんの一瞬の判断を誤った彼女の、これは報いだとでも言うのだろうか。
留まる場所を間違えた。ただそれだけの事。
広げることも出来なくなった羽を閉じ、吸い殻のベッドに横たわり、それでも尚、彼女は絶望の中で希望を産み落としていた。
彼女の傍らには、小さな小さな希望の粒が。場違いな鮮やかさは彼女の無念を晴らしてはくれない。この子らもまた、産まれる場所を間違えた。否、間違った場所に産み落とされてしまった、というべきか。
なんてことのない日常。台風は過ぎ去り、雲ひとつない青すぎる空の下。爽やかな風は、すぐ側の茂みの木々を揺らしている。この風に乗って、もう少し、もう少し先まで飛べていたなら……
木々に笑われて、後悔だけが風に運ばれていく。たぶんもうすぐ秋になる。
きっと、彼女を殺したのは、わたし。
そして吸い殻のベッドで横たわっているのも、わたし。
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