第11話
2ラウンド目のゴングが鳴る。
一輝は親父に背中を叩かれコーナーから前進した。
「よっしゃ!!」
低い姿勢高めのガード、足はべた足。1ラウンドの時と同じスタイルだ。
浅倉の鋭いジャブが飛ぶ。
ぴしりっ、という音が聞こえる。
『痛っ!』
(何ちゅうジャブや!!)
先のラウンドで感じたジャブの感覚とは違う気がした。
ぴしりっ。
また、ジャブが飛んできた。
先までのジャブは硬い石が当たるかのようであったが、今度はその石のような塊が軽くなり、パンチが当たった皮膚に痛みが生じた。
浅倉は左の拳を腹部の辺りまでさげリズムをとっている。
脱力した腕を鞭のように柔らかくしならせてジャブを撃ち始めた。
ビシッビシッ・・・・・と当たったガードした腕すらも跳ねのける早いジャブ腕自体も腫れ当たりそうな痛いジャブだった。
「フリッカージャブか!」
驚愕した親父がリングの外で言った声が、リングの仲間で聞こえた。
リーチの差は十センチ以上である。
遠い距離なら浅倉が圧倒的有利である。
ガードを固めている一輝がパンチを繰り出そうとガードがわずかに開くその瞬間を狙いフリッカージャブが一輝の顔を弾いた。
一輝の動きが止まれば連続でジャブが飛んでくる。
一輝は意外に思っていた。浅倉は1ラウンドで一輝を倒し損ねてイラついていたように感じていた。
故に、2ラウンド目は必ず早めに止めを刺しに来るだろうと思っていたが、その予想は外れた。
熱くなっている表情は2ラウンドに入るなり、一変して冷静沈着になっていた。
そしてこのフリッカージャブだ。
浅倉はこのまま、いたぶり殺すつもりのようだと一輝は思った。
みるみる、一輝の顔の皮膚は減れ上がり始めた。
両目、頬、首筋にも、左の二の腕にも赤く痛々しいミミズ腫れが徐々に浮かび上がりだした。
一輝は心が折れそうであった。
尚も浅倉は手を止めない。
素人の一輝に非常ともいえるパンチを撃ち続けた。
そして、一輝がガードで顔ばかりをかばっていると、腹部に又もや重い衝撃が走った。
「ぐえぇえ!」
一輝は前のめりになり腹を抑えた。
膝の力が抜ていくように感じた。
それでも何とかこらえた。容赦なく、左の拳が一輝の右のわき腹に打ち込まれる。
「ぐふぅ!!」
それでも倒れなかった。くちから
一輝は頭を落としたまま、走ってコーナーへと戻った。
浅倉が前に向かい一輝にパンチを撃ち込もうとすると、また、頭を下げて、どたどたと走りながら浅倉の背後のにある反対側のコーナーへ逃げて行った。
浅倉が振り向き、一輝に接近しようとすると。
今度はリングを回るように走り出した。
リングの外では笑いがおきた。
「この!!」
浅倉はかっとなり、一輝を撃捕まえようとパンチを撃つも、それを躱して、また反対方向へはしりだした。
「お前、俺をバカにしてんのか!!!」
と、浅倉は怒りの声を上げた。
「ふん」
一輝は聞く耳を持たず、リングを回り続けた。
すると、2ラウンド終了のゴングが鳴った。
浅倉の眼は本気で怒っているような眼であった。
そんな浅倉に一輝はあれ上がった顔を浅倉に向け舌を出して挑発した。
(ふぅ・・・・ヤバかった・・・・)
心の中でそう思った。
一輝はかろうじて倒れずに済んだのだ。
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