第7話

 午前五時。

 色褪せた洗いざらしの白いTシャツに、黒のロングパンツ姿、皺だらけのスニーカーを履き、一輝はいつもの川沿いの公園を通り走っていた。

 基礎体力をつけるため、毎朝欠かさず走り続け、もうすぐ一カ月が経過するころだった。

 季節は六月と朝からじりじりと暑さを感じ、トレーニングを始めて早々に汗が額に浮かびだした。

 初めは、一キロも走れば息が切れ、足が重くなり、その後の筋トレにも影響するほどの疲労が残り腕立て伏せすらままならず、すぐに帰宅していた。

 何とか一カ月が近づくにつれ、走る事が苦ではなくなり始めた。

 今では七キロは走っているであろうか、通り過ぎる公園に戻ると、必ず一輝は、公園の広場を何度も息が切れるまでダッシュする。

 それが終われば公園のベンチに足を乗せ腕立て伏せを100回。そしてベンチの上で腹筋を百回。 梅雨に入り雨の日も走る事はやめなかった。

 公園の地面は水たまりにぬかるんでいる為、雨の日は家に戻り、腕立てと腹筋を行った。

 そして、学校に通う。

学校が終われば、それから、家に戻り、再びジャージ姿になり、また同じコースを走った。

 雨が降りしきるある日の午後、いつもの様に腕立て伏せをしていた。腕立てふせが、ちょうど50回目に差し掛かろうとしていた頃だった。家の玄関に鍵が刺さる音がした。

 (親父が帰っていた)

 六畳と八畳の二部屋のアパート。かろうじて狭い風呂場があり、そこで汗を流せる程度の小さな空間。自分の部屋など無いものだから、扉が開けたとたん親父は眼を丸くして「何しとんねん?」と不思議そうな顔をしていた。

 少しばかり照れ臭い気がしたが、一輝はそのまま腕立て伏せの体勢のまま苦悶の表情を浮かべて親父に言った。

 「もっと鍛えなあかんねん」

 すると親父は「そうか頑張れよ・・・・」とだけ言って、何くわぬ顔で冷蔵庫の中の缶ビール取り出し、ちゃぶ台の前に腰掛けテレビをつけた。

 翌日も、その翌日も同じ様に走り、腕立てと腹筋運動をした。

 相変わらず親父は、家に帰ってきていてもテレビを見ながらビールを飲むばかりで大したアドバイスをしない。

 それでもがむしゃらに続けた。

 ある日、銭湯で自分の裸を鏡に映して見て、筋肉が付き始めていることに気付いた。

 腕は以前より引き締まり筋肉の線がくっきりと見え始めている。大胸筋も腹筋もしっかりとその姿を現し始めていた。

 

        




 

 

 

 




 

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