第25話 予想外の邂逅

「勇者殿、それでは頼んだぞ。エヴァも気を付けてな。危なくなったらすぐに逃げるのじゃぞ」


「ママ、頑張ってねぇ!」


 と言うことで、翌朝になり集落から送り出される。結局の所、パーティは俺とサクラとインドラの三人に加えて、龍種からはエヴァ一人。少数精鋭過ぎませんかね……。

 ただまぁ、実際のところ敵を奇襲するなら数は少ない方が良いのは確かだ。俺がいれば数の問題は気にしなくても良いのだし。役割としては、俺が敵の動きを止めつつ、魔物だったらそのまま殺す係。インドラは動けなくなった亜獣種を魔法で一気に殲滅。サクラは回復担当。エヴァは道案内。意外と悪くない。数が増えて怪我でもされたら、サクラが消耗するだけだしな。うーむ。龍種の長はやっぱり有能だ……。


 エヴァの先導に従って、洞窟内を下に進んでいく。最初の半日程度は守護獣が多かった。段々と守護獣が減り、それに伴って、守護獣でも獣神の魔物でもない魔物が増えていった。ただそういった魔物はこちらから仕掛けない分には襲ってくることもなかった。というか、多分エヴァにビビっていた。こちらとしては楽で良い。


 今日の進軍を終えようかと言うところで、獣神の魔物の少数の群れに出会った。多種多様な動物の顔に人型の体。4本の腕に2本の脚で四つん這い。相変わらずキモかったので速攻で圧殺して鉄板で蓋をしておいた。


「あなたの技、恐いわね。何がって、全く相手を殺した実感が残らないでしょ?勇者の力なんだろうけど、あの人とは全然違うわねぇ」


「いやですね、実感が残るようだったらこんなことできませんよ。僕の元いた世界では、誰の命も奪わないまま寿命を迎える人が大半でしたから」


「ほう。興味深いというか、羨ましい話だな」


「少なくとも平和ではありましたよ。一方で、僕も含めてただ生きてるだけの人間が大半でしたが。ところで、エヴァさんの知ってる勇者が持ってた能力って何だったんですか?」


 わざわざ龍の力を必要としたくらいだから、微妙な能力選んだんだろうなぁ。


「テレパスって言ってたわ。自分が話したい相手と、頭の中だけで会話できる能力ね。本人はそれで軍隊を効率的に動かして魔王を倒したかったみたいね。でも、人間の国って、魔王を討伐した勇者が次の王になるんでしょ?本人が倒せなきゃ駄目だったみたいで、一縷の望みを掛けてここに送られたみたい」

 

 この世界では通信手段がないからな。確かに、魔王討伐に軍隊が使えるんだったら強力なな能力だったのだと思うし、他にも色々便利だったろう。討伐後の事も考えてのことだとしたら中々の策士だな。まぁなんだ。ドンマイってやつだな。


 残念ながら近くに秘密の部屋はないようだったので、夕飯は保存食だし野宿になる。魔法で水は出せるから体を清潔に保つことはできるが、なんだ、こんな中で寝なきゃいけないのか……。ヘヴィだな……。目的地まではあと二日は掛かるようだから、慣れておかないと不味い。あるいは、少し遠回りになっても秘密の部屋を経由した方が良いかも知れない。

 俺はせめてもの抵抗として、鉄を生成して簡易的なコンテナを作る。布団、は良く分からなかったから、とりあえず綿の布を大量に生成して、それを重ねることにした。


「キヨスミ君、無限の魔力って、つくづくめっちゃ役に立つよね。普通はそんな量の鉄や布なんて魔法で作れないわ。すぐガス欠するもの。あ!なんならお風呂も作れるし、今日は保存食で済ませちゃったけど、調理器具だって作れるじゃない!うわぁ。損した気分……。非常に遺憾ですよ」


「いや、そろそろ敵地みたいだし、流石にそこまで隙だらけなのはいかがなものかと。無駄に魔物が寄ってくるのも嫌ですし」


「……この鉄の小屋をもう少し頑丈に作ったらいいんじゃない?閂で内側から鍵を掛けられるようにしてさ。そしたら夜の見張りも要らないでしょ?重くしておけば破られることもないし」


 おお。やっぱりなんやかんやサクラってキレるよな。


「分かりました。ちょっと練習しとくんで、明日はそうしましょうか」


 とりあえず寝床を確保。サクラの助言に従って、コンテナの内側から鍵を掛けられるように改造。その間、インドラとエヴァはコンテナの外に紐と鈴を使った簡易アラームの設置と落とし穴を作っていた。サクラはふて寝して干し肉を食べている。最近、俺はサクラの事をマスコット的な何かだと思うようにしている。





 翌日。幸いにも夜中に魔物に襲われるような事はなく、意外とグッスリ寝れた。他の三人も同様らしく、昨日に引き続き軽快に洞窟内を進んでいく。途中で現れた獣神の魔物はもちろん土の中だ。


「ここから少し先に、少数の亜獣種が住んでいる居住区があるわ。ある程度近付いたところで、キヨスミ君には例の技で居住区の亜獣種を丸ごと動けなくしてほしい。後は私がやるわ」


「私も手伝おうか?」


「いえ、インドラとサクラには居住区の反対側に回ってもらって、もし逃げる亜獣種がいたら討ってほしい。このルートで行けば、おそらく途中で鉢合わせすることはないから」


「了解した。それでは先に行っている」


「はぁーい」


 離れていくインドラとサクラ。残る俺とエヴァ。


「……全滅させるんですか?」


「まぁね。後顧の憂いを絶つためにも。私は今回の作戦で、この争いを完全に終わらせるつもりでいる。そうじゃなきゃ、あの人が浮かばれない」


 ふむ。話を聞いてる感じ、一定周期で異世界転生者が襲撃してくる問題に関して、確かに亜獣種を殲滅してしまえば転生者が現れることもないだろう。こんな洞窟にいきなり召喚されても死ぬだけだ。状況だけで言えば魔族と人間との問題に似ているが、龍種は自らを至高だと考えているようだから和解という選択はないだろうな。


 俺とエヴァは小陰に身を潜めながら居住区を伺う。居住区の光源は松明のみで見えにくいが、ここからでも何人かの亜獣種が歩いているのが見える。初めて見たが、亜獣種の見た目は各々が多種に渡る動物の尻尾を生やしていること以外は、人間と見分けが付かない。俺は魔力を充満させていく。居住区の広さは地図で確認していたから、大体必要だと思われる量を放出したところで、エヴァに声を掛ける。


「こっちの準備は整いました。ところで、動きは止めるとして、敵の魔法についてはどうします?」


「大丈夫。龍種ほどじゃないけど、亜獣種も魔法は苦手だから。殺傷力のあるレベルの魔法はまず撃てないわ」


 ……龍種と人間の中間くらいな感じなのだろうか。 


「それなら大丈夫そうですね。そろそろ、インドラ達も持ち場についた頃でしょうか」


「そうね。それじゃあ、始めましょうか。あ、そうだ。敵の動きを封じるときなんだけど、最初に魔力だけで動きを止めた後で、その魔力を鉄に変えてくれないかしら。それなら鉄の生成に時間が掛かっても問題ないし、その方が動きやすいから」


「なるほど。良いアイディアですね。分かりました」


 確かに、前に守護獣と獣神に魔物の動きを止めた後、足場を作るのは面倒だった。足首位まで鉄で埋まっていればまず抜け出せないだろう。念のためふくらはぎ辺りまでいっとくか。


 俺はまず、充満させた魔力を重量化させる。先ほど歩いていた亜獣種が前につんのめって動けなくなる。訳が分からずあちこちでガヤガヤし始める。続いて、その魔力を鉄に変えていく。それに比例して、ざわめきは悲鳴に変わっていく。


「私は行くけど、キヨスミ君はどうする?終わるまで待ってても良いよ。多分、気持ちの良い光景じゃないから」


「いえ。行きますよ。何があるか分かりませんし、エヴァさんといた方が安全だ」


「それ、女性に言うセリフじゃないわよ?」




 亜獣種の殲滅を始めるエヴァ。……凄いな。動けないとはいえ、腕の一振りで次々と亜獣種の首が飛んでいく。女子供関係なく。いっそ芸術的ですらある。もし敵が逃げないなら、動きを止めるまでもないだろう。


!?


 しかし、居住区の半分ほど行ったところで、エヴァが突然吹き飛ばされる。エヴァが居た場所には、獅子を思わせる尻尾の生えた亜獣種が一人。バカな。俺の魔力拘束は完全に不意討ちだったはずだ。周囲には高台もない。何故動ける!?


「人間か?何故人間が龍種の味方をしているか知らないが、この金属はお前の仕業だろう。生きて変えれると思うなよ」


 ……エヴァは生きているが、相当なダメージを負ったようだ。すぐに起き上がれない。こいつが獣神か?なんにせよ、龍種に深手を負わせられる相手だ。躊躇したら殺される。やるしかない。


 俺は敵の足元に漂わせた魔力を超重量化する。その瞬間、敵はジャンプして、超重量化した魔力の上に着地する。


 は?避けた……?


 今度は頭上から魔力で圧殺するべく魔力を放出する。敵はこちらに接近しながら風の魔法を使い俺の魔力を吹き飛ばす。次の瞬間には目の前まで迫っていた。凍り付く背筋。

 俺はアメノオハバリ横薙ぎに振り、剣に纏わせた魔力の超重量化で圧殺しようとする。剣を振ろうとする右腕は、敵の左手に掴まれ止められる。腹に響く鈍い衝撃。


「がっ!?」


 千変万化の鎧を無視する打撃の連打。俺は左腕で散弾銃を引き抜こうとする。手刀で左腕の肘を破壊される。散弾銃は使えなくなったが、俺は痛みを無視して左手を敵に向ける。水魔法での攻撃を選択。少量でも当てることが出来れば、超重量化で殺せる。


 だが水魔法を放った時、既に敵は背面に回っていた。背中から衝撃。吹き飛ばされる。

 受け身を取りつつ起き上がるも、既に敵は目前。アメノオハバリで直接攻撃を試みるも、当たらない。連打をくらい続ける。意識が遠退く。不味い。やられる……。


 不意に敵が飛び退く。戦線復帰したエヴァが戦闘を始める。


「ごめん、キヨスミ君!あとは任せて!」


 助かった。俺は膝を折る。少しすれば再生の軽鎧によって回復するはずだが、全くその兆しがない。体の内側だけをやられてる……?なんなんだ、こいつは。強すぎる。

 援護しようにも二人の動きが速すぎる。エヴァごと敵の動きを封じる手もあるが、さっきみたいに敵にだけ避けられた場合、エヴァがやられる。


「龍種とやるのは久し振りだ。お前、強いな。前に戦った龍種の名はなんと言ったか。タナカだったか。そいつよりもずっと。だが、いいぞ。私も大分強くなっているようだ。お前を倒せれば、龍の長もやれるだろう」


 敵の言葉で、エヴァの殺気が一気に膨れ上がる。


「…………きさまかぁぁぁぁああああ!!!!」


 こいつが、エヴァの夫の仇なのか……。


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