第24話 龍化の魔法は筋肉痛を伴う

 ふぅ。ようやく話が終わった。老人の昔話は長いものだ。サクラに至っては早々に寝ていた。流石だ。


 その後の話を要約すると以下になる。


 主犯を叩こうにも敵が住んでいる場所が分からない。調査隊を送りすぎると集落が手薄になる。調査能率を上げるために隊を分散させると獣神の魔物の一斉攻撃にやられる。と言うことで、少数精鋭の部隊で少しずつ調査を進めながら、集落に攻めてきた敵は長と兵士で撃退するという日々が続いていた。一年前、ついに敵の根城を発見したが、調査隊は一人を残して全滅。生き残りの隊員の存在は敵にバレずに退却できたが、それまでの消耗もあり、攻め込むにも敵を落としきるのに十分な数の兵が用意できない。したがって、来たる日に備えて、守護獣を増やしながらの兵の増強を行っていた。


 ……いや、俺めっちゃ戦犯じゃねぇか。龍種が温厚で良かったというか、流石にその話を聞いた後だと、何らかの罰を受けるにしても甘んじるしかなかっただろう。


 長の話が終わり、俺たちは寝泊まりする部屋に案内される。道中で俺は気になっていたことをエヴァに聞く。


「集落にあった明かりを作る道具って、誰が作ってるんですか?」


「ああ、あれ。元々龍種は暗闇でも目が効くから、なくても別に困らないのだけれどね。昔、人間の勇者がどこで聞いたのか、龍の力を得るためにここに来たの。その彼が暮らしにくいからって作っていったのよね。あるならあるで、中々に便利よ。龍種の魔力でも使えるしね」


「……龍の力って、習得できるものなんですか?」


「できるわよ?勇者に教えたの私だしね。少し時間は掛かるし、貴方には特に必要ないとは思うけれど。ただ、そうね。明日から本格的に亜獣種に攻め込むのだから、付け焼き刃でも良いから知っておいたら役立つこともあるかもね」


「ええ。是非、レクチャーお願いします」


 俺は使えるものは何でも使う主義だ。


「それにはまず、龍種がなぜ強くて、魔法が苦手なのかを説明する必要があるわ。いきなりだけど、私って結構重いのよ。身長はキヨスミ君と同じくらいだけど、体重はあなたの3倍はあると思う」


 いやいや、嘘だろ。尻尾があるとはいえ、全然そんな風に見えないんだが。


「前の勇者に教えていて分かったんだけど、要するに龍種が強いのって、筋肉の密度が高いからなのよね。魔法が苦手なのは、筋肉の密度が高過ぎて魔力が出しづらいからなの」


「なるほど。言わんとしていることは分かりますが、それって習得出来なくないですか?」


「龍種の中でも特に強い個体はね、元より高い密度の筋肉を、魔法で更に強くするの。私の教え方としては、最初に私があなたの筋肉の一部を龍化させる。あなたはその部分を実際に動かす事で、龍化した筋肉をイメージしていく。それを続けていくうちに、自分の魔力で龍化した肉体を造り出せるようになってくるわ。ただし、人間であるあなたが使う場合、気を付けなければならない点が三つある」


 一つ:龍化した肉体からは魔力が殆ど出せなくなる。

 一つ:回復魔法を使うと元に戻る。

 一つ:慣れない内は、めちゃくちゃ痛い。


「始めの一週間、私が教えた勇者は激痛でまともに寝られなかったみたいね。フフ、面白い人だったわ」


「……」


 ……三つ目だけおかしくないか?そんなの、今からじゃ無理だろ。はぁ。筋肉の生成で言ったら再生の軽鎧でいつもやってるから、いけるんじゃないかと期待したのだが。


「ああでも、あの勇者は欲張りだったら、いきなり全身でやったのよね。コツさえわかれば後は自分で好きな箇所に掛ければ良いのだから、とりあえず戦闘に支障のない腕の一部とか龍化すれば良いと思うわ。不都合なら回復魔法で戻せるし」


 なるほど。どうしたものか……。


「いや、勇者よ。それはお前の持ち味を殺すことにならんか?龍化した肉体に電気魔法が使えるか分からんし、魔力無限の恩恵が少なくなる気がするのだが」


 インドラが冷静に突っ込んでくる。


「別に良いんじゃない?微妙だったら私が直せば良いんでしょう?一部だったら魔法の扱いにも困らないだろうし」


 サクラは相変わらず適当だが、一理ある。 

 

「うーん。確かに微妙な所ですが。でも、電気魔法を使った僕より、エヴァさんの方が速かったんですよね……。とりあえず両脚の前ふとももの辺りだけ龍化してもらえないですか」


 大腿直筋。この辺りの筋肉が、走るときに重要だった気がする。


「了解よ。ちょっと待っててねぇ……。久し振りだから……。確かこんな感じでぇ……。大丈夫、ダイジョーブ」


 ……途中から大丈夫じゃなくなった気がするんだが。お?おお?確かに、痛い。だが、ちょっと酷い筋肉痛くらいだ。これくらいなら耐えられそうだ。再生の軽鎧を使う時はこの部分に回復掛けないように注意が必要だな。


「はい、出来た!試しにちょっと走ってみたら?一部だけだけど、いつもより軽いと思う」


 俺は言われた通りに走ってみる。おお!軽い。めっちゃ軽い!これ、電気魔法いらなくないか?


 龍化を掛けられてからすぐ、今日泊まる部屋に着く。エヴァが別れ際に言う。


「さて、じゃあ、部屋にも着いたし、明日も早いから今日はお休みなさい」


 俺たちも彼女に挨拶して部屋に入ろうとするが、そうする直前、彼女がポツリと言う。


「……最後にこんなことを言うのもあれなんだけど、あなたが来てくれて良かった。……敵のアジトを突き止めた調査隊の隊長って、私の夫だったのよ。私はずっと、亜獣種に復讐したかったし、娘が危険に晒される可能性のある世界を何とかしたかった。実際、今日は危ないところだった。明日の部隊も少数精鋭になると思う。そして、その中に私も参加するつもり。一緒に頑張りましょう」


「いや、エヴァさんは集落に残った方が良いんじゃないですか?もし貴方まで死んだら……」


「大丈夫。私は龍種の中でも、長に次いで強いから。それにあなたもいる。さっさと終わらせましょう。それじゃ、今度こそお休みなさい」


 そういうと、エヴァは踵を返して帰っていった。

 なるほど、インドラの話では龍種は好戦的でないと聞いていたが、エヴァはそうでも無さそうで不思議に思っていたが、そういうことか。集落のNo2というのも、獣神の魔物と相対したときの対応から言って本当だろう。もしもの時は俺がなんとかすれば良いから、特に問題もない。


 案内された部屋は何故か和風で、畳に布団だった。これも、過去に来たと言う勇者の置き土産だろうか。何となくノスタルジックな雰囲気に飲まれながら俺達三人は仲良く川の字で寝た。いや、言うほど仲良い訳でもないが。

 


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