第22話 龍種で美人で強くて子持ちで王女
「先程は助けていただきありがとうございます。娘と食料散策に来ていたところ囲まれて、二~三匹ならともかく娘を守りながらだとあの数はどうにもなりませんでした」
ママさん、見かけによらず強いんだな……。龍種の戦闘力はインドラが言っていた通りらしい。
「ところで、あなた方は人間と魔族ですよね?ここは洞窟の中ですか?だとすれば何故こんなところに?いや、すみません。自己紹介が先ですね。私はエヴァ。そして娘の」
「ディナだよ!」
「ああ、ご丁寧にどうも。私はインドラ。見ての通り魔族だ。それと、勇者のキヨスミ、魔術師のサクラだ。貴方が疑問に思うのも当然と思う。私たちは今、魔王を倒すため、他の魔族に気付かれぬように洞窟の中から魔王城に向かっている途中だ。私は魔王軍の将軍であり、かつてこの洞窟内にあった魔族の居住スペースの鍵の管理もしている」
さらっと説明しているが、ますます不思議がられないだろうか……。
あのあと結局、予定通り秘密の部屋に辿り着き、母親をベッドに寝かせた。俺達が夕食を食べている途中に母親が起きたので状況を説明したところ、お礼と先程の問答が始まったわけだ。
「そうですか……。あの、さっきの魔物なんですけど、普通はあんな所に現れるような魔物じゃないんです。なにか知っていたら教えてください。集落の者にも早く教えないと、皆も危ない」
ここは戦犯の俺が説明するところだろうな……。
「あのですね、わざとじゃないと言うかなんというか、ここまで道中の魔物を全て殲滅してます」
「たった三人で、そんなバカな話……。いえ、でもそれなら納得できる……。そう、守護獣達の数が減ったのね。それで……」
もう完全に黒だ。守護獣って言ったよ。
「あの……、守護獣というのは、一体何から守護してるんですか」
「あなた達も見てると思うけど、獣神の手下よ。守護獣はそれらから龍種を守ると同時に、それらが洞窟から出ないようにする役割があるわ。外で数が増えでもしたら厄介だから。でもこうなった以上、元から叩いて数を減らさないとまずいわね……」
ほらな。予想通りの展開だ。
「大丈夫だよ!おにいちゃん、凄く強いんだから!あいつら一人で全部倒してたよ!」
うん。そうだね。俺、強いんだ。でも急いでるんだ。
「もちろん、手伝う気はありますが、先を急いでいる身でもあります。どこまで協力すれば良いですか?もし敵の本拠地みたいな場所が分かっていれば、それが一番速いんですが」
「ごめんなさい。会ってすぐのあなた達に、ここですぐ話す訳にはいかないわ。先ずは一緒に里に来てもらって、そこで長老に意見を伺いましょう。ここからそんなに遠くない。悪いのだけれど、この夕食が終わり次第同行してもらえないかしら」
とのことで、仕方ないので夕食後にエヴァの後を付いて洞窟内を進む。正直疲れていたが、今日の内に明日の予定を立てた方が良いのは俺も同意見だ。それにしても、インドラの話から、てっきり龍種は洞窟内の昔の魔王城に居住していると思っていたが、そうでもないらしい。余程魔族と関わりたくないのだろうか。
道中何体か恐竜に似た魔物に出くわしたが、エヴァの姿を見るや皆おとなしくなった。守護獣という話は本当らしい。
「おかしい……。もう少しで集落なのですが、周辺にいるはずの守護獣がいません。行くときはいたのに……。どうしましょう……」
「……それじゃあ、僕とエヴァさんだけ先を急ぎましょうか。僕なら多分エヴァさんに付いていけると思うし、有事の際にも役立てると思います」
「……分かりました。お二方はディナをよろしくお願いします。では、急ぎましょう!」
嘘だろ。常時電気魔法掛けっぱなしの俺で、ギリギリ付いていけてるくらい。なんなら、こちらの様子を伺いながらの8割走行ってところだろうか。カッコつけたは良いが、ディナを守る必要のない今なら、別に俺がいなくても問題無いんじゃ……。仮に集落が獣神の魔物とやらに襲われていたとしても返り討ちだろこれ。
時間にして20分くらいだろうか。エヴァに付き合って走った所で、目の前で彼女が止まる。
「どうしました?」
「待って。集落の入口で恐らく魔物と兵士、守護獣が戦ってる。静かに近付いて後ろから不意討ちして、魔物を挟撃しましょう」
いや、全然聞こえないんだが。だがまぁ、実際戦っているんだろう。
俺は魔力の放出を始め、戦いに備える。
そこから少し進み、岩陰から様子を伺う。いるわいるわ。顔こそ象ではないが、四本の腕、二本の脚で四つん這い。虎やら麒麟やら猿やら色々いるが、とりあえずキモいし数が多い。手前の方では守護獣との乱戦になっている。よく見えないが、奥の方では兵士が戦っているのだろう。正直、守護獣ごとやって良いなら簡単なのだが、そう言うわけにもいかないだろう。
「エヴァさん。今から僕が敵の動きを止めます。一体ずつ潰していきましょう」
「……あなた、そんなことができるの?」
そんなに難しい話じゃない。充満させた魔力の重さを、動けなくなる程度に重くすれば良いのだ。それならば守護獣を殺すこともない。そのあとで、表面の魔力をある程度鉄に変えて足場を作る。俺は鉄の棒を生成する。エヴァさんの分も作って渡す。後はこれで動けなくなった敵を撲殺するだけだ。
「じゃあ、行きますよ」
俺は周囲に展開した魔力に質量操作を加える。大部分の魔物の動きが止まる。あの巨体を動けなくする重量だと、下手をすると奥で戦っているであろう龍種を圧殺しかねないので一先ず手前の魔物に対して行った。
「凄い……。これなら一方的にやれるわ」
……なんだろう。とても一児の母の言葉とは思えない。龍種って戦闘民族なのか?
後はもう、ただの作業だった。適当に手分けして、魔物を撲殺して回る。途中で兵士の具体的な位置が分かったので、兵士を除く兵士周辺の魔物の動きも止め、撲殺に兵士も加わる。数はざっと100はいただろうか。敵は動けないとはいえ、俺とエヴァ以外は一撃で殺す事が出来ないようで、少々時間が掛かった。それでも、インドラ達が到着した頃にはあらかた片付いていた。
俺とエヴァが到着するまでの間に負傷した兵士が何人かいたが、幸い死に至っている龍種はいなかったし、彼らもサクラの回復魔法で元通りだ。結果として被害はゼロに収まった。さすがに守護獣はいくらかやられていたが。
付いていくという判断は間違いじゃなかったようだ。守護獣がいるとはいえ、多勢に無勢だった。時間が掛かれば死者が出ていたかもしれない。
殺した魔物はどうやら肥料だったり食べたりするらしいから、いつものように地面に押し潰すのは止めた。というか食べるのか……。この気持ち悪いやつらを……。本当かよ。
なんにせよ大事には至らなかったわけで、俺達はそのまま龍種の長の元へ向かう。何故だか、集落内を進む途中で出会う龍種は皆エヴァの姿を見ると頭を下げていたし、明らかに物珍しい俺達に対して特に拘束とかそういった処置がないのもエヴァのお陰なのかもしれない。
集落内は洞窟の中とは思えないほど拓かれており、かつ明るかった。この世界において明かりを取ろうと思ったら光か火の魔法のどちらかだが、通常はいずれも術者が使い続けないといけない。だが、この光源に人はいない。あるのは電球だ。そう、いわゆる電球。ここに来て初めて電化製品を見た。
不思議に思った俺がエヴァに質問しようとしたところで長の家に付いたようで、中に入るよう促される。
「お父様、只今戻りました。ご心配お掛けして申し訳ありません」
「おお、エヴァよ。ディナも。無事に戻ってこれたようで何よりじゃ。急に獣神の魔物が増えてな。主らにもしもの事があったらと、気が気でなかった。して、その者たちは?」
「はい。今回の件に関する重要参考人であり、かつ亜獣種との長年に渡る戦いに終止符を打てる可能性のある存在、勇者です」
いや、亜獣種とか初めて聞いたんだが。インドラの方を見るも、インドラも首を振っている。獣神の魔物の駆除だけならともかく、種族同士の戦いに首を突っ込むのはちょっとなぁ……。というか、あんた王女なのかよ。
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