第21話 勇者の目覚めか、ただの保身

 洞窟内に設置された秘密の部屋?の居心地はとても良い。トイレ、風呂、ベッド等一通り揃っている。調理設備も整っていた。火や水は魔法で作れるので特に困ることもない。俺の能力を活かして本来なら痛みやすい食材を持ってきたのは正解で、サクラが作る料理も普通に美味かった。全然、危険な洞窟の中にいる気がしない。なんなら酒を飲んでるやつもいる。当然サクラだ。お前……。


「魔王討伐が上手くいった場合、そもそも戦争は起きなくなるわけです。そんなに無理して食べなくても良いのでは?」


「キヨスミ君、私ね、実は食べるのもお酒を飲むのも好きなのよ」


 いや、知ってますが。


「……醜い体が嫌だって言ってませんでした?」


「どっちも嘘じゃないの。醜い体は嫌だけど、食べるのも好きなの……」


「ヴァーユはふくよかな女性が好きだったと思う。だから特に問題はない」


 ……そうっすか。インドラによる謎のフォロー。どちらにせよ、もしもに備えて食べておいてもらうに越したことはないが。


 食事が終わった後、各自風呂に入る。寝る前にインドラが明日の予定を話す。今日の進行スピードから言って、明日の終わりには洞窟の半分を少し越えた辺りの秘密の部屋まで辿り着けるだろうとのこと。魔物の危険度は奥に進むほど大きくなってくるから、油断しないようにと注意喚起をしてくる。実際のところ俺の超重量の魔力は広範囲防御不能な訳で、不意打ちを食らわない限りはどんな魔物が相手だろうが関係ない気はした。



 翌日。初日同様、インドラに誘導されながら奥に進んでいく。道中に出会った魔物は、ダチョウ、カメレオン、ヒクイドリにそれぞれ似ていた。中でもカメレオンはヤバかった。壁に張り付いてる上に風景に同化していた。正直、インドラやサクラがいなければ危なかったと思う。戦闘初心者の俺は気配なんて言われても良く分からないのだ。とは言え、ここまで特に苦戦することもなかった。

 昼休憩を挟んで暫く進んだところで、また魔物に出くわす。魔物というか、恐竜か?いわゆるステゴザウルスにとても良く似ていた。と言って、俺も恐竜の実物なんて見たことないから、あくまで図鑑で見た記憶と比較してだ。ただまぁ、だからどうということもなく、今まで同様に殲滅していく。しかし、ふと嫌な予感に襲われる。これまで倒してきた魔物の特徴。爬虫類、鳥類と来て、極めつけは恐竜……。


「あの、インドラさん、今まで倒してきた魔物って、実は龍種の眷属とかそんなことないですよね」


「過去の記録の中にそのような記述を見たことはない。しかし、龍種に関する記録は、詰まるところ魔物を支配できた魔王様の時に作られた物だ。龍種が一部の魔物を操れたとしても、当時の魔王様の力によって掻き消されて分からなかったはず……。勇者よ、なぜそう思う?」


「僕のいた元の世界ではですね、今まで倒してきた魔物の種類と、恐竜、すなわち龍は親戚関係にあるんですよね……。もしかしたらと思って……」


「……もしそうなら非常に不味いな。勇者が居れば龍種に負けるとも思えんが、数が分からん。この人数で隙を付かれたらやられる可能性が高い。かといってここから先、魔物を倒さずに進むには時間が掛かりすぎる。どうしたものか」


「とりあえず今まで通り倒しながら進んで、龍種に遭遇したらすぐに逃げれば良いんじゃないかしら。キヨスミ君の力なら、後続を振り払うのは難しくないでしょ?」


 おお。相変わらず干し肉を食べながら同行していたサクラだが、中々どうして合理的な事を言う。


「ふむ。そうだな。奴等に異変を気付かれる前に洞窟を抜けてしまえばそれまでだ。後は魔王様の件を片付けた後で考えよう」




 一応の方針を立てた俺達は洞窟を進み続ける。途中でトリケラトプス的な魔物に遭遇しこれも倒したものの、いよいよ不味い気がしてくる。もう少しで今日の休憩ポイントに到着するかというところで、本日最後の魔物に出くわす。だが、様子がおかしい。第一に、今までと違い、龍を連想させるような見た目ではない。なんだあれは。顔は象。体は人型に見える。腕が四本、脚が二本で四つん這い。体長は、ざっと3m位だろうか。それらが集団で何かを囲んでいる……。いや、食べている?

 いつもならすぐに超重量の魔力で殲滅するのだが、何故か手が止まる。そして聞こえてくる悲鳴。子供の声か?


「キヨスミ君、待って!」


 瞬間、勝手に動き出す体。悲鳴を上げたのは十中八九龍種の子供。そして、今まで食べられていたのはその親だろう。庇っていた親が死んで、子供に狙いが定められたのか。いずれにせよ、今のままで広範囲攻撃をした場合には子供も巻き込む。まずは接近して最低限の敵を倒しながら子供の位置を把握。全滅させるのは子供を助けた後で良い。


 敵までの距離がある程度詰まったところで、俺はアメノオハバリを横薙ぎに降る。超重量の魔力を近場の敵の頭上に落とす。潰された敵の分だけ道が拓ける。何事かとこちらを振り向く敵。子供まではまだありそうだから、今度はもう少しアメノオハバリの魔力部を長く形成する。そして先ほど同様に横薙ぎ&魔力落とし。今度は大分道が空く。未知の敵の未知の攻撃を警戒し、下がっていく魔物たち。いいぞ。もう少しで届くだろう。ん?敵の隙間から小さな人影が見える。敵の大きさと子供の小ささを考えれば、抜けられるのでは?


「おい!そこの子供!こっちまで逃げて来い!」


「は……、はい!」


 俺は更に敵を下げるため、明らかに子供に当たらないであろう位置の魔物に対して、漂わせた魔力の超重量化によって圧殺する。魔物からすれば、敵である俺が何もしていないのに仲間が死んだように見えたことだろう。敵は恐れ、前線は更に下がる。敵の隙間から子供が走ってくる。良し。後はまとめて始末すれば終わりだ。


 俺は子供に向かって走り、剣を持ってない方の腕で子供を抱き抱えて後ろに跳ぶ。同時に、敵の周囲を覆っていた魔力を一気に超重量化する。目に写る範囲の敵をまとめて圧殺する。いや緊急事態だから麻痺していたが、冷静に考えてお前らキモいんだよ!


 敵は十分に下がっていたから、助けた子供の親が横たわっている周辺は攻撃範囲から外せた。さっきまで食べられてたわけだが、何とかならないものか。


「サクラさん、あの人、治せませんか!?」


「任せて頂戴!必ず助けて見せるわ!今度は死なせない!」


 俺は子供を下ろす。子供はまだ幼い。未だ状況が掴めてないのだろう。治療しに向かったサクラの後を付いていく。


「面倒な事になった。あれらは龍種だが、助けた以上捨て置く訳にも行くまい。龍種の里まで送り届ける必要があるが、果たして歓迎されるだろうか……」


「ええ……。僕の嫌な予感が正しければ、やっぱり今までの魔物は龍種の支配下にあって、あの親子が襲われてたのって、多分僕が魔物を殺しまくった事が原因ですよね……」


「……そうだな。私もその可能性が高いように思う」


「これ……。魔王城に行く前に龍種の眷属以外の洞窟の魔物倒さないとまずいですよね……」


「ああ。龍種が魔物にやられるとは思えん。その場合、洞窟の魔物の方が付いた後で、魔族が報復されるだろうな……。考えたくはないが、あの親が助からなかった場合には即、戦争もあり得るだろう……」


 サクラ。頼む。お前だけが頼りだ。

 俺は柄にもなく神に祈る。治療開始から数分、サクラから嬉しい報告が上がる。


「キヨスミ君!もう大丈夫よ!流石私ね!あと一歩遅ければ間に合わなかったわ!キヨスミ君、ナイス判断よ!」


「本当ですか!?はぁ~。良かった。本当に……」


「おにいちゃん、助けてくれてありがとう!」


 おにいちゃんって年でもないけどな……。


 怪我が治って、母親だということが分かった。命は助かったが、まだ気を失ったままだ。今日はこの親子を連れて、予定通り次の休憩ポイントで泊まりだろう。それにしても、回復魔法半端ないな。実のところ、俺はもう無理なんじゃないかと思っていた。内蔵とか普通に食われてたし……。おえっ。気持ち悪くなってきた。


 でも良かった。あの子供の親を間接的に殺したとなれば、とてもじゃないが耐えられない。全てがどうでも良くなってしまうだろう。だが、逆に言えば洞窟の魔物退治が必須になってしまった。それをしなければ、またこの親子と同じ目に会う龍種が出てきてしまう。そしてその時、今回と同様に助けられるとは限らない。はぁ。元の世界に帰るまでが、また遠くなった。だがまぁ、とにかく助かって良かった……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る