第20話 初めての俺TUEEE

 魔王城からインドラが戻ってきた。俺は一応身構えていたが、インドラからの攻撃はなくホッとした。よし。あとは魔の洞窟と魔王討伐だけだ。この旅にもようやく終わりが見えてきた。


「必ず戻ってくるから、待っててよね!」


「ああ。いつまでも待ってるからよ。絶対帰ってこいよ!」


「私、この戦いが終わったらあなたと……!」


「言うな。俺も同じ思いだ!」


 ……いや、お前ら会ったの昨日が初めてだろ。勝手に死亡フラグ立てんなって言うか、昨日既に婚約してただろうが。


「準備は良いな?それでは、魔の洞窟へ出発するぞ」


 二人のやり取りを無視して行軍を開始するインドラ。洞窟まではヴァーユの用意してくれた従者と馬車で向かう。魔の洞窟の入口までは二時間程度で到着した。馬車から降りた俺たちは兵糧が大量に入ったリュックをそれぞれ背負う。正直、質量操作があって本当に良かったと思う。二人はともかく、この世界に来てまだ日が浅い俺がこんな物を運んでいたら、掛かる時間は二倍じゃ効かないだろう。


 洞窟の中は広く、明かりはない。俺は光魔法(本当にただ光るだけ)を使って周囲を照らしながら進む。サクラはまだ本調子ではない。できるだけ温存するべきだ。なんか干し肉をクチャクチャ食べながら進む姿には腹が立つが。また、いざと言うときにいつでも圧殺出来るように、常に魔力を垂れ流しにして先へ進む。洞窟の中は入り組んでいる。インドラの持つ地図には色々書き込まれていて、中には近道になる代わりに魔物の巣が近くにあるようなルートもあった。

 俺は先を急いでいたし、インドラもできるだけ魔物を駆除したいという狙いがあったので、基本的に魔物を避けることはせずにひたすら最短ルートを進む経路の選択を頼んだ。


「勇者よ、少し進んだところにヴリトラの棲家がある。奴等は目が悪いから光魔法を消す必要はないが、慎重に進むぞ。奇襲で一気に片を付ける」


 洞窟を進んで小一時間ほどたったところで、インドラから声が掛かる。


「具体的にはどういう魔物ですか?」


「でかい蛇だ。魔物の癖に炎系の魔法を使う。通常なら、一体に付き兵士十人程度で対応するな」


「蛇なら食べたことあるわよ。あっさりしていて結構美味しいわ」


 いや、別に食べる気はないというか、超重量の魔力で片付けると肉片も残らないから無理だろうな。流石にまだ食料の心配をするタイミングでもない。

 助言に従ってゆっくり進んでいくと、何かが蠢く気配や、地面擦れる音が聞こえてくる……。一体、どれだけの数がいるんだ?俺は前方に向けて魔力を放ち続ける。こんな洞窟で魔力を超重量化したら崩れるかもしれないから手加減が必要だ。上から落とす訳じゃないから、そこそこの重さでも大丈夫だろうが。少なくとも動けなくはなるだろうから、後はインドラにでも任せれば良い。

 良し。十分に魔力は空間を満たしただろう。じゃあ、行くか。


 俺は更に進んでいく。角を曲がった先は広い空間になっていて、そこで丸太みたいな太さのある二つ首の蛇がこちらの様子を伺っている。……多いなんて量じゃないんだが。キモすぎ。なにこれ、数え切れない。


 キモすぎて俺は目に見える範囲の敵に対して魔力を一気に重量化する。


 バキバキボキボキ。シャーシャーシャーとなんとも不快な音を立てながら、蛇達は見えない魔力に潰されていく。逃がすと後で襲われそうで嫌だったから、目視できない奧の方の魔力も重量化する。そこからも先程と同様の不快な音が聞こえてきてマジでどんだけいるんだよという感じだった。


「勇者よ。先へ進もうか。……それにしても、えげつない力だな。これなら、この先の魔物に関しても全く問題にならんだろう」


「いや、やってる身としては、気持ち悪い物がありますね。ほら、においとかヤバくないですか?あ、やば、吐きそう。サクラさん、回復魔法お願いします」


「しょうがないわねぇ……」


 駄目だな。やっぱり頭上から落とさないと、口から内蔵とか色々飛び出して来て地獄絵図だ。今からでも遅くない上から潰そう。こんな所歩けないし。


「サクラさん、ありがとうございます。インドラさん、ちょっと掃除するんで待っててください」


 敵を押し潰していた魔力を一度軽くして、遺骸よりも高く漂ったところで再び重量化する。蛇は既に死んでいて高さと言っても大したことなかったから、前みたいに地響きがするとかいうことはなく、目の前から突然蛇が消えた感じだ。そうそうこの感じ。


「うーん。綺麗になったけどまだ歩きたくないわね。その量の魔力を土に変えると私たちが埋もれるだろうから、そうだ、鉄に変えてみたら?」


 サクラに言われて、俺はなるほどと思った。それなら歩くのに抵抗はなくなるし、もし殺し損なった魔物がいても鉄に拘束されて動けなくなるだろう。

 早速、蛇を潰した魔力を鉄に変えていく。おお。俺も大分魔法の扱いが上手くなってきたのか、結構な速さで鉄が生成されていき、蛇の死骸は完全に見えなくなる。


「もしかしたらまだ奥に潜んでるかもしれない。体が大きいから見逃すことはないだろうが、一応気を付けて行こう」


 インドラに促されて、俺達は先へ進む。その後も何度か魔物に遭遇した。大きいトカゲ、大きいワニ、大きい亀。とりあえずデカイ。亀に関しては非常に頑丈そうだったが、超重量の魔力の前ではそれも意味を成さない。大きな力の前では、等しく潰されるだけだ。ここに来て、初めてチートスキルの恩恵に預かれて感動している俺。そうだよ。こんな感じでサクッと魔王討伐して、早く帰りたかったんだよなぁ……。


 洞窟内だから時間の感覚は分かりづらいが、腹の減り具合からいってもう夜だろう。そろそろここらで寝食の準備が必要かなと思い始めたところでインドラが言う。


「地図ではこの辺りのはずなんだが……。あった。よし、中に入るぞ」


 適当に壁を探っていたインドラ。ガチャっと音がして、突然壁が開く。良く見ると、壁に見える偽装された扉だ。中に入ると、人が最低限生活できるだけの家具が揃っている。長年使われていなかったからかホコリは付いているが、保存状態はとても良くいずれも問題なく使えるだろう。何より、荒らされていないということは魔物から見つからないということだ。扉には鍵が付いていて、最後に中に入ったサクラはそれを閉める。


「何ですか?ここ」


「歴代の中には、魔物を操る能力持った魔王様がいた。魔の洞窟そのものが魔王城だったことがあるのだ。したがって、中で魔族が生活できるようなスペースが随所に設けられている。魔の洞窟の出口付近はスゴいぞ。洞窟というか、普通に城の内装のはずだ。今は龍種が使っているだろうからどうなっているか分からんが、大きくは変わっていないだろう」


 龍種が使っている?え?龍種っていわゆるドラゴンじゃないのか?俺は疑問を投げ掛ける。


「いや、今まで見てきたような大きな怪物ではない。人型だな。言葉も通じる。我ら魔族には角があるが、奴等には尻尾が生えている。下手な剣よりも強力な爪と、強靭な肉体を持っている。魔法は得意ではないようだが、そもそも種として強すぎる。龍種の一般兵を一人倒すのに、人間の兵が100必要だったと伝えられている」


 人間の兵で換算されているということは、龍種は魔族側じゃないのか?


「そうではない。魔物を操れた魔王様だけが特別だった。かの魔王は、現魔王が我らに命令を下すように、龍種を言葉で縛ることができたらしい。歴史上数少ない、勇者を打ち破った偉大な魔王でもある」


「あんたら、居場所も近いじゃない。何で今は仲良くやってないわけ?」


「ふむ。龍種は強いが、好戦的ではないのだ。奴等は長寿であるがゆえなのか個体数は多くない。生命を維持するのに必要な食料も少ない。自らが強いため外敵もいない。多種と争う必要性がそもそもない。言ってしまえば、件の魔王様に操られていただけだ。人間と戦うこと自体が本意ではなかったらしく、その魔王様の死後、子孫や今でいう五大将軍は皆殺しにされたようだな。龍種と魔族の関わりはそれっきりだ」


 遥か昔の話だから遺恨はないが、すぐ近くに自分を脅かすかもしれない強力な存在がいるというのは、安心できる話ではない。

 と、インドラは締めくくる。


「話は分かりますが、穏便にすませましょうよ。会話できる相手なら、僕は殺しませんよ。イザナギさんでもそうするはずだ。それに、人間との争いがなくなったら、もう少し龍種と距離を取った所に住めば良いじゃないですか」


「うーむ。現魔王城はあれはあれで歴史もあるし、城下町をまるごと動かすというのも現実的ではないな。ただ話は分かった。殺さぬと言うなら、強要はしない。現時点では被害もないしな」


「話は終わったわね!じゃあご飯にしましょ!」


 サクラに言われて俺もインドラも夕食の準備に取り掛かる。いや、お前道中ずっとなんか食べてただろ、というツッコミは飲み込んでおくことにする。

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