第16話 魔王討伐スケジュール打合わせ

 五大将軍の一人、インドラを仲間?に加えた俺たちは、ここから馬車で二時間ほどの所にある彼の統治する町で今後の予定を話し合う事にした。しかし、まずは休息が必要だ。特にサクラの魔力は殆ど残っていないはずだ。一応まだ動けているようだから、以前話していた一ヶ月間の戦力外状態にはギリギリ至ってはいないのだろう。まぁ、今後の計画が予定通り進んだ場合には、そもそも戦闘行為は魔王戦以外では起こらないはずなのだが。


 程なく町に到着した。インドラの統治する町とはいえ勇者一行が堂々と町中を歩く訳にも行かず、俺とサクラは化粧で肌を魔族っぽい日焼け状態にして、フードを被る。イザナギさんの遺体は氷魔法で凍らせた状態で馬車に保管している。彼の故郷に送り届けるまで、出来るだけ良い状態を保ちたい。それはサクラも同意見で、氷付けにする前に目に見える傷は全て回復魔法で綺麗にしてある。


 町の入り口には門番がいたが、インドラの顔を見るとノーチェックで門を通される。インドラの住む屋敷に着くまでの間適当に町の様子を見ていたが、正直、人間の町と何も変わらなかった。俺は、前に奴隷商に聞いた話の真偽をインドラに尋ねてみる。


「人間領で人間と交わった魔族は、徐々に見た目が人間になるという話を聞いたのですが、魔族の国では逆の現象が起きるのですか?」


「ここ数百年、魔族と人間の争いは常に人間側が優勢を保っている。しかし、魔族領に亡命してくる人間もゼロではない。はずなのだが、人間領に程近いこの町で私が人間を見たことがない、ということは、つまりはそういうことなのだろう」


 やはり、魔族と人間に根本的な違いはないんだな……。後は、魔族と人間を分ける物理的な境界がどこにあるかだが。


「あと、この町に人間の奴隷はいますか?」


「フフ、面白いことを言う。魔族は劣勢なのだ。わざわざ人間に交戦の理由を与えるようなリスキーな真似はできんよ。私は書類に目を通すだけだが、亡命してくる人間を追い出したこともない」


「なんだかあなたの話を聞いてると、人間側の方が悪い感じがするわね……」


「だがまぁ、実際のところ、攻めるのはいつもこちらからだからな。それで負けているのだ。仕方ないと言えば仕方ない」


「というか、そもそも魔族はなぜ人間と争おうとするんですか?」


 未だに俺が理解できていない、戦争の根幹となる疑問を投げ掛ける。


「私もそこまで深く知っている訳ではないが、歴代の魔王様方の目的は、あくまで勇者の抹殺だ。人間国を攻める理由は、そうしないと勇者が召喚されないからだ」


 は?いやいや。え?


「……なんで魔王は、勇者を抹殺しないといけないんですか?」


「私も噂で聞いただけだが、そうすることで、魔王様は己の願いを叶える事ができるらしい」


「……なんで魔族は、そんな理由で人間を殺す事ができるんですか?」


「魔王様の声には不思議な力があってな。逆らうことができん。それに今までの歴史から言って、人間に対して恨みを抱えている者も少なくないしな。深くは語らんが、私もその一人だ……。だが今回の作戦については、心から命に従っていた者は皆無であろうよ」


 ああでもしない限り、剣聖を倒す術などないことは誰もが理解していた事だがな……。


 インドラは呟いて、立ち止まる。どうやら屋敷に着いたらしい。


「ところで勇者よ。そろそろ魔力の放出を止めてくれないか?生きた心地がしないのだが……。少なくとも私や、私の息が掛かっている魔族は、今お前たちを殺すことにデメリットしか無いことは理解しているつもりだ」


「いや、一応敵地ですし。もう少しインドラさんの事を理解してからで良いですか?」


「ふむ……。仕方あるまい。出来るだけ早く、信頼関係を勝ち取りたいものだ」


「そんなことより、ご飯よご飯!今日は死ぬほど食べるわよ!」


 いや、あんたずっと干し肉食べてたし。あんまり油断しないで欲しいんだが……。




 インドラ亭に着いて速攻で食べ始めるサクラ。めっちゃ集中してるところ悪いんだが、一応聞くだけ聞いておいて欲しい。


「インドラさん。早速ですが、今後の予定についての話を始めましょう。第一に、今後の魔族の事を考えると、五大将軍の最後の一人も味方に加える必要があると思っています。魔王を倒しても、その後で内乱が起きたら意味がないですから。第二に、魔王だけを討伐する事。さっきの話だと魔族は魔王の命令に背けないようですから、秘密裏に城に潜入して、誰にも気付かれないまま魔王を倒す必要があります。出来るだけ、魔王城下の町中を通りたくないです」


 俺は一息入れて、出された紅茶を飲む。サクラがバクバク食べてるし、毒入りってことはないだろう。


「つまり勇者が私に望むことは、五大将軍の懐柔と、魔族と交戦する事なく魔王様の元へ辿り着くための道案内か」


 フム。インドラも紅茶を啜る。


「ところで、この料理どれも凄い美味しいわね。人間の町で食べるのとはまた別の味。有能なシェフがいるのね」


 いや、話の腰を折らないで欲しいんだが。


「それは、家内が作っている。口に合うなら何よりだ。家内も喜ぶだろう」


 ……当たり前だが、魔族だって結婚するし、家庭もある。皆同じなんだということを、イザナギさんは理解していたのだろう。


「へぇー。良いお嫁さんをゲットしたのね。子供はいるの?」


「……私の愚息は、五年前に人間との争いで死んだよ。せめてもの救いは、相手が剣聖だったことだな。おそらくは、痛みもなく逝ったことだろう。いや、相手が剣聖でなければ、死ぬこともなかったのかも知れんが……」


「……ごめんなさい。余計なことを聞いたわ」


「……剣聖は私にとって、息子の仇だった。だが、いざ対面すればその神業や生き方には畏敬の念を覚え、自らの死を覚悟した。結果的に私が生き残り、仇の死を目の当たりにしても、気が晴れるようなこともなかった。そうだな……。剣聖の思惑通り、私は争いの虚しさを実感してしまった」


 話が逸れたな……。


 インドラは話題を戻す。


「勇者の提案した案だが、結論から言えばどちらも可能だと思う。五大将軍の最後の一人ヴァーユは脳筋だ。至近の魔王様のやり方にはどれも納得がいってないようだったし、私が魔王になると言っても特に反対はしないだろう。だが、こちらの主張を通すには力を示す必要がある。話はするが、戦闘になる可能性が高い。そうなったら場合、それは勇者に頼む。殺すなよ」


「はい。分かりました。それは僕としてもそんなに難しくはないです。こちらにはサクラさんがいますから、多少痛め付けても問題ないですし」


 インドラの話を聞いて俺は安心する。最後の一人がインドラと同じようなタイプの魔族だった場合、最悪は殺すことも考えていた。


「そして、魔王様の元への道案内だが、これも城下を通らずに城に潜入する方法はある。だがそのルートは複雑で時間が掛かるし、魔物が大量に潜んでいる。龍種の棲家でもある」


「……時間が掛かるという点は嫌ですが、仕方ないでしょう。ちなみにどれくらい掛かりますか?」


「城下町の手前から迂回して、洞窟を通るルートだ。距離自体は大したことはないが、移動手段が徒歩しかない。魔物にも邪魔されるから、四日といった所だろうか」


 四日か……。それくらいなら、耐えるしかないだろう。


「……本当にお前は、魔族の事も考えているんだな」


「僕はそもそもこの世界の人間じゃないですから。インドラさんともこうして意思疏通できているし、どちらか片方だけに加担する理由がないだけです。それにこれは剣聖の遺志でもある」


 


 そのあと、俺たちは夕食を食べながらもう少し話を詰めた。これからの大まかなルートは次のようになった。


・ヴァーユの懐柔

・先の戦に関する魔王への報告(インドラ)

・インドラと合流し、魔王城への迂回ルートを進む

・魔王を討伐する


 今日はもう遅いので、俺とサクラはインドラ亭に泊まることになった。サクラは酔っ払っていて急襲があった時に頼りになる気がしなかったから、俺はサクラと同室に泊まり、要所に鉄によるバリケードを生成して就寝することにした。インドラには明日謝ることにしよう。


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