第12話 当代の魔王は何かがおかしい
アヤカゼを肩に担いだ俺は、段々人通りのない道を進んでいく。
「こう言ったら素直になるか?今すぐ言えばお前は死なない。後で判明したら殺す」
「なっ、なんで!?こんなはずじゃ……」
「なんでだろうなぁ。俺にも分からないが、なんだか、急に面倒になってな。正直な話、俺はこの世界の奴らがどうなろうが、どうでもいい。元の世界に帰れなくてもどうでもいいし、俺の今後の人生についても、どうでもいい。どうでもいいんだ。……別にお前が死のうが生きようが」
俺がアグニを殺したときに受けたショックは、アグニを殺してしまった事に対してじゃない。殺しても、なんとも思わなかった事に対してだ。今まで頑張って作ってきた仮面に、いとも簡単にヒビが入った……。これから先も殺していたら、遠くない未来、完全に割れてしまうと思った。
俺には人の気持ちが分からない。だから、強く、正しくなる必要があった。例えそれが本当の自分でなかったとしても。それが、俺にとって生きるということだった。
アヤカゼが俺の肩の上で暴れる。周りにはもう人気はないし、面倒だから抵抗せずに落とす。アヤカゼは魔法を使って自分の手足を縛っている針金を外そうとする。
「なにこれ!?魔法が撃てない!?それに、重い……」
「なんだよ、やっぱり魔族なんじゃないか。なんで、言ってくれなかったんだ。面倒だなぁ」
バキバキ、……グシャ。
「……!?あ、あああぁぁぁぁ………!」
俺は、アヤカゼを覆っていた俺の魔力の重量を更に上げて両手両足を潰す。うるさいから口にも重量を増した魔力を詰め込んで黙らせる。
「ある種の幻覚剤や洗脳薬みたいなものを生成して俺に嗅がしていたのか?まぁ、どうでもいいか。なんなら、このまま俺一人で魔王城までの魔族を皆殺しにするのが、一番効率的だよなぁ。でも二人には反対されるだろうし。かと言って道も分からない。そうだ。お前、俺を魔王城まで案内しろよ」
喋れないアヤカゼは、せめてもの抵抗として俺を睨んでくる。
「……駄目か。じゃあ、死んどくか」
アヤカゼはガタガタ震えだす。目には涙が浮かんでいる。勇者を狙ってきた魔族側の人間だってバレてるんだぜ?どっちにしたってもう、お前にはマトモな人生はあり得ないんだから、どうでもいいだろ。
俺は、アヤカゼを覆っている魔力でもって圧殺することにする。面倒だ。早く終わらせて、一人で魔王城にいく方法を考えないと。
「キヨスミ君、何してるの!?」
振り向くとそこにはサクラがいる。そうか。俺の魔力が町中に漂ってるだろうから、気付いて追ってきたんだろうな。
「コイツ、俺を狙ってきた魔族側の人間だ。面倒だから、殺そうと思ってな。それが最善だ」
「え?一体どうしたの?」
「どうやら、魔法で何かされたらしい。まぁ、別にこのままで良い。さっさとコイツを始末して、すぐにでも魔族を殲滅しに行こうぜ。サクラは道案内だけしてくれれば良い。後は全部俺がやる」
「!?そう言うこと!キヨスミ君、じっとしてて!」
言いながらサクラ俺に近付く。そのまま俺に向けて回復魔法を使う。
徐々に、強烈な後悔の念が襲ってくる。やってしまった……。
「……あのですね」
「正気に戻った?まずは、この子を縛ってる魔力?を解放しましょうか」
俺は言われた通り、魔力に課していた重量をゼロにしてアヤカゼを解放する。
「ちょっと待ってなさい。すぐに回復するわ」
「いや、それは止めた方が良いんじゃ……」
「大丈夫、私は最強の魔術師よ。聞きたいこともある。それに、この子は既に戦えないわ。よほど怖い目にあったのね」
言いながら回復魔法を掛けるサクラ。俺に潰されたアヤカゼの両手両足は徐々に再生していく。いや、でも流石に自業自得じゃないか?俺のせい?
「あ、あああ、あありがとございいいいます……」
アヤカゼは依然、ガタガタと震えながらバグっている。
「アヤカゼ、なんかすまん」
「ヒィィッ!!!」
はぁ。普通に傷付くわ。
「私たちはもうあなたに危害を加えるつもりはないわ。でも、これからも魔族側に協力するなら、少なくとも魔族領で過ごした方が良い。道中だから送ってあげても良いわ。それと回復の見返りじゃないけど、一つだけ教えてほしい。あなたに今回の事を命令したのは誰?」
俺もそれは気になる。暗殺程でないにしろ、絡め手で勇者を無力化しようなんて、聞いていた話と大分違う気がする。というかこの子、俺の居場所を知っていたのか?魔王にも情報が筒抜けになっている?
「……はい。魔王様の命令です。これ以上は、勘弁してください……」
「分かったわ。もう行って良いわよ。それとも送りましょうか?」
「いえ、一人で大丈夫です……。すみませんでした……。私はもう、戦いません……」
「俺も、それが良いと思……」
「ヒィィッ!!!」
……勘弁してくれ。
アヤカゼを見逃した俺たちは、俺が元いた河原に向かう。水魔法と魔力の質量操作の練習を再開するためだ。サクラが俺に話し掛けてくる。
「それにしてもキヨスミ君、魔力そのものの重さも変えられるのね。便利そう」
「僕も気付いたの今日ですけどね。敵の自由を奪うために考えました。所で、先程の彼女の目的は、結局なんだったんでしょう」
「多分だけど、あなたを誘惑して、骨抜きにする作戦だったんでしょうね。殺すどころか、魔族側に寝返らせる気だったのだと思うわ。人の自制心を奪う魔法があるのよ。なぜだか、あなたには逆効果だったみたいだけど」
……いや。確かに自制心は奪われていた。自分で嫌になるが、アレが素の俺だ。クソが。いや、前向きに考えろ。もしもの時、俺が躊躇せずに動けたら状況を打開できることがあるかもしれない。そのためには。
「あの魔法って、サクラさんも使えますか?」
「私は最強の魔術師だからね。もちろん使えるわ。え!まさかそういうこと!?あわわわわ、どうしましょう!いやでも、今は三人同じ部屋だから流石に……」
「いや、僕、妻子いるんで」
その後、俺たちは河原で別れた。この日、俺は鍛練で時間を潰した。
三日目。この町に滞在する最終日。俺たちは当面の兵糧等の物資を手分けして手に入れた。一度魔族領に入ったら、物資は入手する術がない。何故なら、イザナギさんもサクラも現地調達をする気がないからだ。そんな盗賊みたいな真似はできませんと。補給するためには一度この町に戻る必要がある。最悪はモンスターを食べる。ガッツリ一週間分の物資を調達して、俺たちは明日に臨むことにした。
翌日。俺たちは魔族領に向かって出発する。出発してから昼頃には、魔族領と人間領の境にある川を渡す大橋に辿り着く。俺たちはそこで休憩を挟んで今後の計画について話す。
「橋を渡ってから魔王城までには三つの関所がある。関所周辺は山岳地帯が続いていて、それを迂回して進むのは非常に時間が掛かるのじゃ。まず兵糧が持たん。したがって、基本的には正面突破になる。そうでなければ魔族も納得せんしな。関所には魔王軍の将軍が配備されておる。一対一の勝負を望む将軍がおったら儲けものじゃが、それは望み薄じゃな。なぜなら、単体で儂に勝てる将軍など、存在せん」
「私もいるわよ!」
いや、もうお前らだけで攻略しろよ。
「第一の関所は、川を渡って一刻程の所にある。そこを制圧し、今日の寝食の場としよう」
「それ、寝首掻かれないんですか?」
「ほほ、それは大丈夫じゃ。敗けを認めた後で襲ってくる魔族はいない。それは、戦場におけるマナーなのじゃ。だからこそ、人間側もそれを破ってはいかん。どちらかが一度人道を踏み外してしまえば、お互いが地獄を見るだけなのじゃ」
多くの雑兵は俺とサクラで黙らせて、将軍をイザナギさんが討ち取る、というのが今後の基本的な作戦になる。非常にシンプルだ。関所における敵の兵力は、1000程度らしい。戦力差半端ないのだが、それでもイザナギさんもサクラもどこか余裕そうだ。最強とは、そういうものなのかも知れない。
昼休憩後、俺は大船に乗ったつもりで先へ進む。程なく、第一の関所に辿り着く。イザナギさんとサクラから余裕が消えている事に気付く。関所前の兵力は、1000なんてものじゃない。ざっとその5倍はいる。敵の将軍格も三人。そして何より異常なのが、兵士の中に、魔族の子供が混じっている……。これでは、大規模な魔法が使えない……。
「馬鹿な……!主たちの矜持はどこへ行った!幼子を戦地へ向かわせるとは……!」
「剣聖……。悪く思うな。これも、魔王様の命令なのだ。だが、うぬらを討った後、我々三人の将軍は、決して必要以上に人間を害さない事を誓おう!すまない……。皆のもの、総員かかれ!」
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