第10話 超重量の魔力

 あの後結局、俺は魔族の奴隷を買うことなく町中をふらふら歩いて宿に向かった。夜は三人集まって食べることになっていたから、それまでの間に昼寝でもすることにした。

 魔族の奴隷。お金の面は気にする必要はないわけだから、何人か買っておいても悪くないのでは、と思った。俺は、出来れば戦いたくない。例えば魔族の子供を人質にすれば、魔族領に入ってからあるという三つの関門を簡単に突破できたりしないだろうか……。流石にそんなに甘くはないか。

 だが、考え方としては悪くないと思う。戦わないで通過する方法。そうだな、戦闘開始直後に、敵に当たらない範囲で重い雨を見せつける、とかどうだろう。見るだけで、多くの敵は戦意喪失するんじゃないだろうか。それでも向かってくる相手はいるだろうが、その少数に関してはイザナギさんやサクラが相手をしてくれれば良い。そうだな。明日は、またどこかで水魔法の鍛練をしよう。それがいい……。



「キヨスミくーん、夕飯の時間だぞ?」


「……ああ、はい。行きましょうか」


 俺はいつの間にか寝ていたらしく、サクラに起こされる。俺が疲れているのを察してか、夕食は遠くにいかず、宿で取ることになった。夕食の途中、俺は昼に考えていた奴隷の件と重い雨の話をする。


「うーむ。奴隷の使用はなぁ。悪くはない、というか出来ないことはないと思うのじゃが、そうじゃなぁ」


「キヨスミ君、ぶっちゃけ駄目よ、それ。もし、そんなことをして魔王を討伐したとしましょう。魔族の誰も、戦争の敗けを納得しない。そして、同じ事をやり返される。憎しみが際限なく広がる。どちらかが滅亡するまで、戦争が終わらなくなるわ」


「……なるほど。安易な考えでした。すみません」


 そうか。奴隷商の話が本当だとしたら、そもそも魔族と人間に差はないのだ。誰も戦争などしたくないのだ。


「まぁ、戦いたくない気持ちは分かるし、それは大事な事よ。重い雨で戦意喪失を狙うのは良いんじゃないかしら。それにしても誰も殺さないってのは難しいけど。だって、使ってこないって分かったら、誰もビビらないでしょ?」


「ですかねぇ……」


 そうか……。だが、事前に話しておいて良かった。俺は戦争に関してもこの世界に関しても素人だ。適当に行動すべきじゃないだろう。はぁ、異世界転生しても、仕事してるみたいだな。


「ところで皆さん、今日は何してました?いや、暇の潰し方の参考にと思いまして」


「この町の自衛兵団は儂の古巣でのう。挨拶がてら、若者たちに稽古を付けておったわ。最近の若者は真剣でのう。早く、余裕のある世界にしてやりたいものじゃ」


 おお、なんというか流石だ。全然休日になってない気がするが、イザナギさんからすれば若者への鍛練はちょうど良いリフレッシュなんだろうな。


「サクラさんは……」


「私は美食の旅に出ていたわ。この町ってほら、モンスターの肉とか頻繁に入ってくるから。飽きが来なくて良いのよね。この調子なら、すぐに魔力も元通りね!今日もいっぱい飲むわよ!そうだ!明日もまだ休みなんだから、皆も飲もうよ!大丈夫、私の魔法があれば二日酔いも恐るるに足らずだから!」


 知ってる知ってる。っていうか、この人毎日飲んでないか?回復魔法って超高等技術なんだよな。完全に使い方間違ってないか?


「良いのぉ。お言葉に甘えて、呑むことにしようかの。勇者殿も如何か。ストレス解消には持ってこいじゃ」


「ですかねぇ。じゃあ、僕もお願いします」


「そうこなくっちゃ!ヒャッハー!……ウハァァァアアアア!」


 ……なんで言い直したんだろう。ハジケ度が足りないという判断だろうか。っていうかお前、絶対昼も飲んでただろ……。




 翌朝。

 回復魔法すげぇ……。昨日はメチャクチャ飲んだんだが。全然体調悪くないっていうか、むしろ絶好調だ。あれ?これ、別に休息要らないんじゃ……。サクラの腹さえ満たしておけば、不眠不休で動けるぞ。魔族領に入る前の兵糧集め、最重要だな……。


 ということで二日目、俺は水魔法の練度を高めることにした。移動中と異なり町ではどこでも水が出せる訳じゃない。地図を見たところ、この町の入口から入ってそのまま直進する方向に町中を河が横断している。河は町の中に入ったところで三つに分断され、町を抜けるところでまた一つに合流するようにできていた。

 俺は宿から一番近い河原に足を運ぶ。ここでなら、いくらでも水魔法の練習ができる。

 

 河原に座って、ボーッと水魔法を使う。昨日、サクラに言われた事を思い出す。重い雨で敵の戦意を奪うにしても、誰も殺さないことは難しいと。なら、また別の方法を考えなきゃな……。ああ、めんどくせぇ。大体、よく考えたら俺は魔王討伐後には元の世界に戻るんだから、この世界のその後のことなんか、どうでも良くないか?まぁそれを言ったら人として終わりというか、現実的な話、今の俺では一人だけで魔王城に辿り着くのは無理だろうから、いずれにせよ無茶はできないわけだが……。

 余計な思考はこれくらいにして切り換えなければ。敵を害することなく突破する方法。他には?意識を奪うとか。いわゆる吸入麻酔薬?ジエチルエーテルだったか。……組成が分からん。物を見たこともない。あとは……、空気と同じ重さにした二酸化炭素を大量に作っておいて、戦闘開始と共に少し重くして敵から酸素を奪うとか。……いやダメだ。作った二酸化炭素が風でどこにいくか分からないし、意識を失った敵を放っておいたら普通に死ぬ。


 考えに没入していたからか、気付くと水魔法は途切れていて、魔力だけが駄々漏れしていた。この魔力、一体どういう性質なのか分からないが、光の屈折を変えるためか陽炎みたいに見えるためどこにあるか分かる。行き先を目で追っていくと徐々に上に昇っていくのが見える。……そうか、空気より軽いんだろうな。だから魔法を使う際には魔力が近くにある内に、また、勢いを失う前にすぐ別の物質に変換するわけだ。……これ、もしかして能力で重くできないか?


 漏れていた俺の魔力は結構な量だ。急に重くしたら重い雨と同じことが起きると思ったから、俺は徐々に重くしてみる。俺の予想は的中し、空に上がっていた魔力は少しずつ地上に降りてきた。降りてきた魔力を水に変えようとしたが、それはできなかった。どうやら、物質変換するためには俺と繋がっている必要があるらしい。逆に言えば、常に放出している状態であれば、任意の部分の魔力を魔法に変えられるということだ。

 いや、だが、そもそも物質変換をする必要すらない。空気より少しだけ重くした魔力を常に放出しておく。俺の周囲を、足首程度まで俺の魔力で溢れさせる。後は、任意の部分の重量を一気に重くする。すると何が起きるか。おそらく、敵の足だけが超重量と化した俺の魔力に潰される。

 問題は死なないまでも足首から先を失う事だが、敵側にもサクラのような魔術師がいるだろうから、それは後で治して貰えば良いだろう。これは……、これなら、上手くいきそうじゃないか?


 俺はその後、魔力を自分の周囲に漂わせるのにちょうど良い重さのコツを掴むため、水魔法を放ちながら水の重量を変えて、質量変化の具合を体に覚えさせることにした。


 途中、昼休憩を挟んでから、午後も練習を続ける。大分慣れてきたところで不意に声を掛けられる。


「あなた、ひょっとして勇者様?」




【オマケ 主人公 神風清澄の能力一覧】

・無限の魔力(チートスキル①)

・質量操作(チートスキル②)

・電気魔法(自己強化のみ)

・回復魔法(再生の軽鎧による)

・水魔法(10話時点で消防車の放水5台分くらい)

・重い雨(水魔法で作った雨を重くする。グロ中尉)

・超重量の魔力(魔力そのもので敵の動きを封じる)←New

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