第5話 ヒロインはポッチャリ系美人

「よくぞ参った。剣士イザナギ、魔術師サクラ、そして勇者キヨスミ。これからそなたらには、魔王討伐という重要な任務が課される。もちろん、国からのバックアップは惜しまないのである。要望があれば言うといい。勇者殿?何をプルプルしておるのだ?」

 

「いえ。ただの筋肉痛ですので気にしないでください」


「ほう、早速異世界ハーレムかの。やりおる。懐かしいのである。儂もこの世界に来た当初は……」


「やってません」


 止めろ。魔術師からの視線が痛い。今後の連携に支障が出たらどうする。


 俺たち三人は予定通り王様の部屋の前で落ち合った。魔術師とは初対面だが、挨拶もそこそこに部屋に入って最初のやり取りがこれだ。マジで勘弁してくれ。


「ところで、最初にお願いしていた装備は届いていますか?」


 この装備のいかんによっても、今後のスケジュールは大分変わることになるだろう。


「うむ。この世界でも指折りの装備を揃えたつもりだ。好きなものを選ぶと良い」


 王様について別室へ向かう。そこには剣や鎧がずらっと並んでいる。出来れば全部持っていきたいが、馬車の運搬能力とスピードを考えると、メイン+予備が良い所だろう。いや、よく考えたら俺の場合、重さに関しては気にしなくて良いのだから持てるだけ持っていく方が良いな。とか思っていたら、雰囲気を察した王様から釘を刺される。


「勇者殿、申し訳ないのだが、護衛を二人しか付けられないのと同じ理由でな、そんなに持っていかれると困るのだ。イザナギとサクラ殿の分もあるのだし。悪いのだが、せいぜい予備までにしてもらえないんだろうか」


 それはまぁ、仕方ないか。各装備には説明が書いてある。親切だな……。結局のところ、この装備選びに関しても、俺の能力と相性の良い物を選ぶべきだ。すなわち、重くても良い。また、魔力を使うことで特殊な力を発揮するような物。燃費は悪くても良いのだ。

 そういう目線で各装備を見ていくと、ある武器が目に入る。


【魔術式散弾銃改】

⇒魔力を込めると弾丸と火薬が生成される散弾銃。


「散弾銃か。それは歴代の王がもたらした武器である。この世界では銃も弾丸も安定生産する技術はないのである。この世界に現存する銃は、その王が魔法で直接作った物が全てである。しかし、魔力による金属への変換は効率が悪いし、ある程度練度が高まれば普通の魔法の方が殺傷力が高くなるゆえ、誰も使わないのである。しかし、そうであるな、勇者殿の能力を考えると、悪い選択ではないのである」


 俺もそう思う。もちろん努力はするつもりだが、今から体術や剣術を始めて物にするのは、やはり相応の時間が掛かるだろう。それに、飛び道具の方が相手を攻撃することによる心理的な抵抗が少ないという。散弾銃なら腕も要らないし、重さに関しても俺の能力なら無視できる。

 とはいえ、近接戦闘もやはり視野に入れる必要があるだろう。俺は剣を物色する。なになに?


【レーヴァテイン】

⇒刀身から炎が出せる魔剣。

 意味あるかこれ。寧ろ、剣の硬度が下がるだけなんじゃ……。内側から焼くみたいな使い方だろうか。


【エクスカリバー】

⇒闇属性の魔物に強い聖剣。魔力を通すと光る。切れ味も良い。

 レーザーで切るみたいな意味なら強そうだが、どうだろうか……。ちょっと拝借。あ、これ本当に光るだけだ。まぁ、実際魔物には有効なんだろうから、悪くはないのかもしれないが。


【ヴァジュラ】

⇒雷を纏う剣。使用者の動きを底上げし、相手を鈍らせることもできる。

 それ、昨日習得した技じゃねぇか……。ああでも、剣による補助がある分、力加減とかのコントロールを考えなくても良いんだろうな。


 他にも色々あったが、この世界はファンタジーのようでいて何でも有りではなく、基本的には魔法の補助を行うような部類の剣が多い。あと、抜群の切れ味を誇る剣もあるようだが、おそらく素人の俺が使った所ですぐに折ってしまうだろうから止めておく。金属の基本だが、固いものは脆いし、切れ味を高くするために薄くしたら、どうしたって横からの力に弱くなる。

 全部見たところで、俺は決断する。装備選びばかりに時間を使う訳にもいかないのだ。


【千変万化の剣】

⇒折れても魔力を込めれば再生できる。形を変えることもできる。

 試しにイザナギさんに折ってもらい魔力を込めてみたところ、剣自体の補助があるためか超硬合金の丸棒の時とは比較にならないほど生成が早い。それに、何も考えずに魔力を込めれば元々の切れ味の良い剣が再生するし、長くなれと念じながら行えば、イメージ通りに長くなる。


「うむ。中々合理的な選択であるな。他の者も選び終わったようであるし、早速であるが、魔王討伐に向けて出発するのである。諸君らの検討を祈る」


 ちなみに鎧についても、剣と同じシリーズっぽい【千変万化の鎧】を選択した。それともう一つ【再生の軽鎧】も貰っておいた。こちらは、魔力を込めれば自動的に弱い回復魔法が掛かるというものだ。臓器は無理だが、皮膚や筋肉程度なら回復できるとのこと。鎧と言っても革のような感じだ。切られた肉は後で再生すれば良いのだから、軽さを重視しているのだろう。前者の鎧の形状を上手いこと変えれば、後者の上から装備することができる。重さは能力で無視できる。俺なりに、生存率を高めるために真剣に考えた結果なのだが、魔術師の機嫌が若干悪い気がする。止めてくれ。俺は仲良くやりたいんだ。


 ということで、俺たちは馬車で移動を始める。俺は未だに筋肉痛が取れず、非常に辛い思いをしていると、魔術師がポツリと言ってくる。


「魔力無限なんでしょ?再生の軽鎧、使えば良いじゃない」


「そうなんですか?」


 え?回復魔法って筋肉痛にも効くのか?試しに魔力を流してみる。あ、本当だ。ちょっとずつ楽になっていく。


「イザナギさん、これ、凄いです。これなら、後の事を気にしないで電気魔法を常時使えます。この移動中にも練度が上げられる!サクラさん、ありがとうございます!」


「!? 別に、そんな。大したこと言ってないと思うけど……」


「いや。確かに良い発見じゃ。やはり仲間は多い方が良いのう」


「そうですね。いや、本当に。これから長い付き合いだ。改めて、よろしくお願いします。それで、早速なんですが、サクラさん、僕に対して何か不満を感じてませんか?改善するので言ってください。僕らはチームです。個人間の不和は、チームとしての能力を著しく低下させます。遠慮せず言ってください」


 特に魔術師は回復の要だ。仕事とはいえ、良く思ってない相手に対してだとやはり作業効率は落ちるだろう。もしかしたらそれが、生死を分けるかもしれない。早急に解決すべき問題だ。


「……いえ。ごめんなさい。あなたに対して悪い感情があるわけじゃないの。ただの嫉妬よ。無限の魔力に対してのね」


 確かに、魔術師からすれば垂涎の能力だろう。ただそればっかりはなぁ。俺にもどうしようもできないし……。


「もし私にその力があれば、この醜い体ともオサラバできると思うと、ついね」


 ……やべぇ。超どうでも良い。うーん、魔術師だからか、体はポッチャリしている。そして何より、胸がめっちゃでかい。


「その若さで魔王討伐に選ばれておるのじゃ。お主のその体は才能じゃよ。むしろ誇るべきじゃ」


 そんな、太れるのも才能、みたいな。関取じゃねぇんだから。確かに女なら嫌がるだろうなぁ。歳は聞いてないが、30くらいか?多分魔術師って、ある程度練度があれば後は出力勝負なんだろうな……。要するに、胸が大きい方が強い。馬鹿みたいな世界観だな。……しょうがねぇ。


「僕もそう思います。それに全然、醜くないですよ。この世界ではどうか分かりませんが、僕のいた世界ではそれくらいが一番モテていました。とても魅力的だと思います」


「……そうかな」


「そうです。それに美人ですし。完璧と言っても良いでしょう」


「そうかな!」


 喜んで貰えて何より。まぁ、これは嘘じゃない。この世界の住人、基本的に美男美女だし。とりあえず、一安心か?

 っていうか、彼女のルックスに気付いてしまったがゆえ、俺も情欲を抑えるのが大変だ。クソが。めんどくせぇな。嫁も子供もいるっつーの!惑わすんじゃねぇよ!


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