第4話 一日目、終了。俺は焦って考える。

「清澄殿、今日の所はここまでにしよう」


「……はい。お疲れ様です。あの……、僕はどれくらいで魔王討伐出来るでしょうか?」


 結局俺は、全くイザナギさんの相手にならず。組手は早々に終了して、まずは与えられたスキルを活かすために魔法の基礎を学んでいた。どうやら、剣士だからと言って魔法を使わない訳ではなく、寧ろ強い剣士は例外なく魔法が使える。使い方としては主に魔力を電気に変えて筋肉に流すことで、動作速度を早くしたり、無理矢理体を動かしたりするらしい。逆に、相手の動きの阻害に使う事もあるとのこと。だから、繊細な操作という意味では、魔術師よりも剣士に軍配が上がるようだ。


「お主に与えられた能力は、どちらも強力じゃ。【無限の魔力】は言わずもがな。【質量操作】も使い方次第で無数の戦法が考えられる。そうじゃな。もし儂がどちらか一方でも能力を与えられていれば、一週間もあれば魔王を倒せるかもしれん。しかし、今の清澄殿では、それはまだ無理な話。当たり前の事じゃが、基礎的な力が足りぬ。安心せい。それは時間の問題じゃ。一年もあれば、魔王を倒せる域に至れるじゃろう」


「そう、ですか……」


 ……一年か。岩石魔法を覚えるのと変わらん。どうだろう。向こうの世界の俺の環境は、一年程度では変わらないだろうか?いや、そんなことはないだろう。向こうの俺は、いわば植物人間状態だ。今時点で既に、医者の診断すら付かない原因不明の昏睡。早々に見切られてしまう可能性があり得る。家族はともかく、会社には。何とかしなくては。考えなくてはならない。打開策を。


「そう落ち込むでない。お主は勇者じゃ。儂もいる。今の見立ては、状況により簡単に変わるものじゃ。大事なのは、常に自分に出来る最善を尽くすこと。今の最善は、ゆっくり休んで明日に備えることじゃ」


「……はい。分かりました。お疲れ様です。明日もよろしくお願いします」


「うむ。それでは、明日の朝食後にここでまた」


 颯爽と去るイザナギさん。俺は、訓練の最後の方から後ろに控えていた従者に声を掛ける。夕食を食べて、風呂に入り、与えられた個室で横になる。普段そこまで強度の高い運動をしないから、疲れた。でもこのままじゃ駄目だ。今日の訓練を思い出し、色々考える。

 レベルだったり魔法の熟練度を上げなくても、強者に勝つための方法を編み出す必要がある。魔法は物質変換。俺は今日それで金属を出してみた。魔力は無限なのだから、出せば出すほど状況を有利に運べるものや、戦闘前に準備できる物は何かないだろうか。

 質量操作にしても考える余地はある。過去の勇者のイメージに引き摺られて武器を軽くしてみたが、あれは武器が業物であることと、それを使いこなす技術があることが前提だ。単純に相手へのダメージで言ったら、例えば武器を振り下ろす瞬間に質量を重くするような使い方が良いだろう。


 考えている内にウトウトして寝てしまう。気付いたら朝。従者に案内してもらい朝食を食べる。その後訓練所に行くと、既にイザナギさんが鍛練している。挨拶して、昨日の訓練の続きを行う。俺はイザナギさんに、まずは電気魔法を教えてくれないか頼んだ。電気も金属に劣らず魔力の変換効率が悪いので、通常はインパクトの瞬間のみに使う熟練の魔法だそうだが、僕には無限の魔力がある。電気を流す場所さえ分かっていれば、基本的には流しっぱなしにすれば良いと思ったのだ。


「なるほど、一理ある。分かった。ならばそこから始めよう。ただし、実際には長時間の使用はお勧めしない。あれは要するに、筋肉のリミッターを解除する技であるゆえ、使いすぎると反動で動けなくなる恐れがあるからじゃ」


「はい。分かりました」


「まずは、体内の任意の位置に魔力を集める練習を始めよう。集めたい部分に軽く力を入れてみたり、意識を集中するだけじゃが、慣れない内は以外と難しいぞ」


 イザナギさんのレクチャーの下、魔力操作の練習に入る。俺は健康オタクで、日頃から瞑想や気功を囓っていたので、好きな部分に魔力を集めるという操作は、すんなり上手くいった。


「ほう!筋が良いではないか!後は、集めた部分の魔力を電気に変えれば良いのじゃが、電気の強さの加減や、正確な場所については体で覚えるしかない。ちと痺れるが、儂が外から直接流す。その後、自分でその部分に電気を流してみる。それを繰り返して、感覚を自分のものにする。本来なら危険ゆえ、様子を見ながら徐々に自分だけで行うのじゃが、儂なら問題なくそれができる。この方法なら、早ければ今日中には、そこそこ動けるようになるじゃろう」


「それは本当ですか!?良かった。早速始めましょう!」


 始めてみたが、これが中々しんどい作業だった。イザナギさんが俺に流す電気は良いのだが、俺が自分で作る電気は中々加減が難しく、物凄く、痛い。俺は涙目になりながらも、我慢しながらこの苦行を続ける。


 我慢の甲斐もあり、丸々一日使って、俺は電気魔法によるリミッター解除の感覚を覚えることに成功する。レベルの差があるからイザナギさんには及ばないが、電気魔法を使うことによる効果は絶大だった。体は軽くなり、重力を感じなくなる。


「その辺で止めておきなさい。明日動けなくなるぞ。まぁ、明日は魔術師殿と合流した後、次の町への移動であるから、忘れない内に体に刻み込むのも一つの手ではある」


 師匠からの許しも出たので、俺は調子に乗って電気魔法を使い続ける。凄いなこれ。今なら空も飛べそうだ。良かった。これは確実に、魔王討伐への大きな一歩だ。


 しかし俺は、次の日後悔することになる。イザナギさんのいう通り、マジで動けない。俺は身体中の地獄のような筋肉痛に耐えつつ、魔術師との合流ポイント、王の間へと向かうのだった。へっぴり腰でよちよちと。

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