第3話 イザナギ

 王様について自分が召喚された洞窟?から外に出る。洞窟の入り口から先は舗装されていて、すごい数の鳥居が道を作っている。何となく中世風なのかと思っていたので少し驚く。


「気になるか。この鳥居はな、勇者召喚がされる度に、数が増えるのだ。何故かは知らんが、おそらく、この鳥居があちら側の世界とこちら側の世界を一時的に繋げるゲートなのだろうな」


 え?じゃあ、もしかしたら、何らかの方法を使えば別に魔王を倒さなくても帰れるんじゃ……。俺は疑問をぶつけてみる。


「そうじゃな。確か余が魔王を倒したとき、頭の中で神様の声が聞こえた。もし元いた世界に帰りたければ、鳥居を潜れ、と。余は全く帰る気が無かったから気にもしてなかった。そんな方法を探したこともない」


 ちっ。最終的にここから帰れるってだけの話か……。ってことは、魔王討伐後の復路にも時間が掛かるってことじゃねぇか!なんかこう、テレポートみたいなもんないのか?


「そんな便利な魔法はないな。詳細は訓練時に聞けば良いが、魔法とは詰まる所、物質の変換である。右手を出して指先に力を込めるのである。指先から放出された魔力が、陽炎のように見えるであろう?」


 王様に言われた事を試しにやってみる。……本当だ。指先からなんか出てる。気持ち悪。


「あとは、その魔力の形態を思念でもって変えるのである。炎になれと思えば炎になるし、水になれと思えば水になるのである。魔法のランク別に名前が異なるが、魔力を出すスピードや量、形態変化の効率、形態変化先の物質に関する理解の深さを総合して段階分けしているだけで、本質は同じである」


 ……ホントだ。試しに水になれと思ったら、指先からチョロチョロ水が出た。っていうことは、この世界ではある意味最初から全ての魔法が使えるってこと?


「然り。ただし、岩石魔法の習得に一年掛かるように、攻撃目的で実用レベルに達するためにはそれなりの訓練と物質への理解が必要になるのである。従って、回復魔法のように変換先の物質が複雑であるほど難易度が高い。元の世界の医者レベルか、それ以上の知識が必要である。そも、まともに回復魔法が使えるようになったのも、元の世界の医学を魔法に応用して書に残した王が歴代の中に居たからである。そなたに付ける魔術師は心配ないが、下手なヒーラーに回復を施されると体が拒絶反応を示して死ぬので気を付けるのである」


 なんだそれ。逆に攻撃に使えそうだな。というか、俺はチート能力で魔力は無限な訳だが、これは実際どこから出ているのだろうか。


「魔力は、人体の中で作り出されているのである。魔力から物質への形態変化を行う際には、実際には魔力は触媒のような物で、周りの空間から物質を集めて形成する。だから燃費自体は非常に良いのだが、ゼロではない。変換する物質や練度によっても効率は様々であるが、例えば、魔法で500tonの水を生成すると、人体換算で1kg分体重が減るのである。従って、魔術師は皆太っておる」


 500tonっていうと、大体25mプール分か。まぁ、攻撃目的で考えるなら、量もそうだが、圧力も重要な気がする。ぞろぞろ歩いているフードの人達を見ると、確かに皆太っている。それに、女性の割合がやけに多い。


「気付いたようだな。この世界の魔術師は女性が大半だ。そして皆、巨乳である。要するにそこが、魔力の貯蔵庫として都合が良いからである」


 多分本人は大真面目に言っていて、実際理に叶っているのだろうが、まぁセクハラというか、一国の王様の台詞としてはいかがなものか……。




 魔法に関する軽いレクチャーを受けつつ、洞窟から先、暫く平野を馬車で揺られた。そこから城下町を抜けて城に辿り着く。城の一画には兵士の訓練所があり、馬車はそこで止まる。


「話していた最強の剣士は、既にここにおる。彼に指導を受けつつ、魔術師の到着を待つと良い。魔術師は二日後に来る手筈になっておる。そなた用の従者を付けておくので、訓練が終わった後の衣食住に関してはそちらに頼れば良い。それでは、余は執務に戻る。誰か、イザナギを呼んできてくれ」


 と言って、王様一行は城の中へ消えていく。それから少しして、四十半ばに見える屈強なおじさんがこっちに歩いてくる。いかにも達人な雰囲気を放っていて、おまけに無駄に渋くてイケメンである。


「初めまして、勇者として召喚された神風清澄です。これから魔王討伐までの間、よろしくお願い致します」


 僕は頭を下げる。


「ほほ、そう畏まらずとも良い。だが、まともに挨拶ができることは、とても良いことだ。現王が召喚された時は、常にオドオドしておってのう。どうなることやとヒヤヒヤしたものだ。いや、懐かしい」


 見た目に反して、好好爺のような反応を見せるイザナギさん。


「こちらこそ、初めまして。儂の名はイザナギ。かつて現王と共に魔王を討伐した、この国最強の剣士じゃ」


 え?ということは、この人見た目は若いけど、もう60過ぎてたりしないか?大丈夫なのか?


「ほほ、一緒に魔王討伐に行って大丈夫なのか心配しておるな?その慎重さは非常に大事じゃ」


「いえ、そんなことは……」


「良い良い。じゃが、案ずるでない。儂のレベルは74。肉体は全盛期にこそ劣るが、剣技や魔法はその限りではない。むしろ今こそが最強じゃと、胸を張って宣言できる」


 確かに。纏う雰囲気は完全に職人のそれだ。というかこれ、この人だけで魔王討伐できるんじゃないか?


「分かりました。それでは早速指導をお願いしたいのですが、その前にお伝えしたいことがあります。僕は、妻と息子を前の世界に残している。できるだけ早く帰りたい。外法でも何でも良いから、僕を最短の道に導いて欲しいのです」


「そうか……。不憫な。儂にも息子夫婦や孫がいてな。早く平和な世界にしたいという思いは一緒じゃ。分かった。魔術師との連携についても考える必要があるが、まずはお主のできることを確認せねば。現王の全知の魔眼が健在なら、簡単だったのじゃがのう。今となってはレベルすら分からん」


 ……魔法が物質変換だと聞いてどうやってレベルとか分かるのか不思議だったが、そうか、王様の能力で見ていたのか。王様の能力って対人戦でも強いけど、非常に強力な管理スキルだったんだろうなぁ。


「まずは、神様から授かったスキルを使ってみぃ。それを用いて、儂と模擬戦闘をするぞ。ほれ木刀じゃ。儂は無手で良いから、準備ができたら掛かってきなさい」


 僕の授かったスキル。【無限の魔力】と【質量操作】。今のところ、前者についてはあまり使い道がないように思う。何にしても魔力に関しての練度がゼロなのだから。木刀を拾い上げて考える。ただ、そうだな。魔法が物質変換なら、例えば武器を作る事も出来るんだろうか。物質に関しての理解で言えば、僕は仕事がら金属に関してはそこそこ自信がある。試しに、超硬合金の丸棒を作ってみる。右手の指先に集中して、魔力を出す。思念を送る。超硬合金の組織をイメージする。非常にゆっくり、金属の丸棒が出来ていく。おっそ。


「ほう。金属への変換は、変換効率が極端に悪い筈なんじゃが。それがお主に与えられたスキルというわけか」


 そうなのか?ああ、密度が大きいのと、このファンタジーな雰囲気だと中々組織や性質なんて調べられないからか。医学と違って、それに詳しい先達の王も居なかったのだろう。何にしても、変換効率の悪さは【無限の魔力】で無視できる。

 少しして、丸棒が完成する。直径40mm、長さ1mの丸棒。……めっちゃ重い。30kg位ないかこれ?こんなもの、とてもじゃないが振り回せないが、ここで【質量操作】を使ってみる。よく分からんが、思念で何とかなる世界なんだから念じれば行けるだろ。あ、軽くなった。試しにそれを振り回してみる。


「うん?ああ、金属への理解は元の世界の知識で、与えられたスキルはそちらか。怪力?それとも、重さじゃろうか。まぁ良い。掛かってまいれ」


「はい。胸をお借りします」


 と言っても、元々格闘技や剣道をやっていた訳ではない僕は無手のイザナギさんに手も足も出ない。せっかく軽くした丸棒を振り回しても、全く当たる気がしない。というかよく考えると、質量をゼロにしているのだから、切れ味のない丸棒では当たった所で殆どダメージないんじゃないだろうかと、後で気付いた。

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