第2話 王様は異世界転生者のその後

 目を開けると、薄暗い天井が見える。洞窟、か?肌寒いし、ゴツゴツしていて背中が痛い。体を起こして胡座をかくと、目の前にはフードを被った人間が複数名と、その後ろにいかにもな王様が佇んでいる。王様が前に出てくる。


「おお、そなたが召喚されし勇者か。早速で悪いが、現在我が国は窮地に立たされておる。その力でもって、魔王討伐に力を貸して頂けぬだろうか。もちろん褒美は用意する。討伐の暁にはこの国の次代の国王となる権利と、わが娘をやろう」


 王様の後ろ隠れて、めっちゃ美人で小柄な女性がチラチラこちらを見ている。

 

 いや、俺、妻子いるし。早く帰りたいし。


「分かりました。それでは、褒美は要らないのでこの国で最強の装備をすぐに揃えてくれませんか?ああ、もちろん、魔王を討伐した後には返すから安心してください」


「なっ!?そなた、何を申しておる!この国では、代々勇者が国王になる決まりである。それでは困るのだ。それに、魔王を倒したその後、そなたはどうするつもりなのだ!?」


「もちろん、自分の家に帰ります。神様と約束済みなので。妻と子供が待っているし、無職になったら困ります。僕は、さっさと終わらせて帰りたいんだ」


 というか、【代々勇者が】って言った?もしかして、この人も転生者か?


「信じられぬ!あんな世界に帰ってどうすると言うのだ!この世界は素晴らしいぞ。魔王を倒した勇者とあらばなおのこと!考え直すのだ」


 やっぱりか。下手に逆らうと面倒だ。適当に流すか。


「いやまぁ確かに、王様の娘は美人だ。僕も、長くいるうちに考えが変わるかもしれない。褒美の件は保留にしておいて、取り敢えず、装備の方は頼みました。……ところで一つ確認したい事があるんですが、隕石を降らすような魔法ってありますか?そしてそれは、どれくらいで覚えられますか?」


 これで、大体の魔王討伐の目安が分かる。それによってスケジューリングが変わる。まずは情報収集だ。


「……岩石魔法の事であるなら、勇者のそなたなら、そうだな、魔法に専念したとして、ざっと一年であろう」


 ……はぁぁぁあああ!?

 マジか?つまり、過去最速で魔王攻略した勇者で、最低でも一年だと!?ふざけんな!そんなにちんたらやってられるか!


「……ちなみに王様は、魔王をどれくらいで倒せました?」


「ほほほ、余は至近の歴代の中ではかなり早いぞ。聴いて驚くが良い。その偉業たるや、時にして僅か三年だ。聴きたいか?余の英雄譚を!」

 

 クソが!会社クビになるわ!何の役にも立たん!


「それはまたの機会に取っておくとして、現状の魔王について色々聞きたいです。具体的には、魔王の居場所や、そこに至るまでの関門等の情報を」


「……そうか。非常に残念だ……。魔王の居場所であったな……。距離だけで言えば、ここから馬車で十日ほどである」


 遠い!少人数で、荷物最低限で途中で馬を乗り継いで飛ばしたとして、五日あれば行けるか?


「ここから魔王城まで7割ほど進んだ所に、人間領と魔族領を隔てる大きな川がある。魔族領に入ってから魔王の居場所まで最短で行く場合には、三つの関所を通る必要がある。いずれも魔王軍の中でも指折りの将軍達が守っている。容易くはないぞ」


 ……各関所の突破、魔王戦に一日ずつ掛かるとして、移動含めトータルで9日。後は、魔王を倒せるようになるまでどれだけ時間が掛かるかだが……。いかにも剣と魔法のファンタジーな世界観だから、レベルとかいう概念があるんだろうな、多分。


「王様、質問ばかりで悪いんですけど、王様が魔王を倒した時点でのレベルはいくつでしたか?」


「おお、よくぞ聞いてくれた!驚くなかれ、余はレベル47でこの国を救い、そして王を継承したのだ」


 分からん。レベル47のスゴさが全くイメージできないんだが。しかし、一ヶ月やそこらで上がるレベルはたかが知れているだろう事は分かった。


「……王様がまた魔王を倒すという選択肢はないのですか?」


「残念ながら、この世界では戦わなくなると徐々にレベルが落ちてしまうのだ。それに、歳を取ると上がりにくくもなる。余のレベルは、今では僅か12しかない。レベルはな、さしずめ筋肉みたいなものじゃ」


 ……レベルってそういうもんなの?みたいなもん、っていうか、完全に筋肉じゃねぇか。


「でも、神様に貰った特殊能力があるでしょう?それを用いれば、十分に戦えるのではないですか?」


「よくぞ聞いてくれた!余の特殊能力はな、【全知の魔眼】である。相手を見ただけで、弱点や、攻撃パターン、思考までもが分かる、真にチート能力である」


 おお?それなら例え戦闘能力が下がっていたとしても、大いに役に立つじゃねぇか!やるな、王様!


「ただ、な。お主の召喚と引き換えに、その能力は失っているのである」


「……」


 前言撤回。マジ使えねぇ……。


「……分かりました。じゃあ、後は道中の資金と馬、道案内役兼護衛の手配を頼みます。急いでいるから少数精鋭で良いです。王国最強の人間を雇って頂ければと思います」


「うむ、元より、こちらも国の防衛が有るゆえ、多くの人材を貸し出す訳にはいかん。剣士と魔術師、それぞれ一名ずつ手配しよう。はじめの内は彼らに従ってレベル上げに勤しむ事をお奨めする」


 そうだな。それに三人だけなら、関所の将軍とやらを上手く無視して先に進める可能性もある。要は、魔王だけを暗殺出来れば良いのだ。それに、不要な戦闘は避けたい。俺は死ぬわけには行かないし、もう一つ重要な事もある。


「それともう一つ大事な確認があります。魔族というのは、意思疏通ができる存在ですか?」


「そうであるな。モンスターはできぬが、魔族はできる。だが、変な気を起こすでないぞ。あやつらは敵である。そも、人間ではないのだ。気にせず殲滅すれば良い」


 最悪だな……。出来れば、会話など一切できない化け物相手が良かった。俺は絶対に帰る。だが果たして俺は、何の恨みもない相手を殺せるか?戦闘は護衛に任せて、補助役に回るという手で行くか?与えられた能力からすれば可能だろう。


「……そうですか。分かりました。ひとまず装備と人の手配が整うまで、レベル上げや戦う方法についてレクチャーを頼みます」


「もちろんである。ついてきなさい。して、質問ばかりで失念しておったが、お主の名前はなんという?」


「ああ、すみません。申し遅れましたが、僕の名前は神風清澄と言います。今後ともよろしくお願い致します」

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